27.立天野の会談(1)
秋庭軍の兵たちの案内により祐藤と貞勝は無事に立天野城へ到着。
そのまま城の中へ案内され、会見の間へ通された。
立天野城は、先日の夜襲戦において秋庭軍による攻撃を受けた事によって損傷した箇所があちらこちらに生々しく残っていた。
しかし、その損傷はさほど激しい物では無かったようであり、秋庭軍が制圧した当日に軍の拠点として定めるなどしていた事からいかに秋庭軍が速やかに攻城戦を進めて落城を成し得たかが窺える。
会見の間では既に家春と晴正が座っており、二人を待っていた。
その様子を見た祐藤は、すかさず腰を落として家春に向かって軽く頭を下げた。
祐藤
「お初にお目にかかります。拙者、志太家 大名 志太祐藤にございます。」
祐藤に続いて貞勝も言葉を発した。
貞勝
「拙者は志太家 家老 吉江貞勝にございます。」
すると次は家春が口を開いた。
家春
「余が秋庭家 大名 秋庭家春にござる。」
晴正
「拙者、秋庭家 家老 今村晴正にございます。」
こうして会見が開かれる事となり、早速議題について家春が祐藤たちに対して問いかけの言葉を発する。
家春
「して、志太家の大名ともある祐藤殿が危険を冒してまで何故に敵地である我が領地を訪れられたのでござるか。」
家春は不思議そうな表情を浮かべていた。
つい先日に攻め込んだ敵国の大名が直々に領地を訪れているのだから無理は無い。
祐藤
「どうしても家春殿と直接にお会いして話をしたかったのでございます。」
祐藤は冷静な表情で答えた。
家春
「ほう、してそれはどのような内容でございますかな。」
家春は少し祐藤に身を乗り出すような姿勢であった。
祐藤
「では、単刀直入に申す。家春殿よ、先の立天野においての戦は本意な物でござったのでありますかな。」
祐藤は、のっけから今回の会談の目的である何故に志太家を攻めたのかというその理由を知りたいと家春に問いかけた。
これには家春も予想外の内容であったのか、内心は困惑していた。
やがて家春は少し間を置いて平静さを装って口を開いた。
家春
「祐藤殿よ、戦を行うのに不本意はござらぬであろう。我らは立天野の地を領地にしたかった。ただそれだけにござる。」
主家である柳家の策略に利用された事が発覚すれば柳家に預けられた人質の命の保証が無い。
この脅しによって家春は本意では無いという理由を祐藤に返すしか無かったのである。
しかし、祐藤は家春の返答に対して食い下がるように家春に目を合わせて口を開いた。
祐藤
「家春殿、本当の事を教えて下さらぬか。我ら志太家とて秋庭家との無益な戦いは避けたく存じます。我ら領地に住まう民たちの事を思えばなおさらにござる。」
祐藤の目は訴えかけるように家春を見つめていた。
その様子には家春も動揺の色を隠せなかったようである。
やがてしばらくの間を置いて家春が肩を落とし、強張った表情から一転して落ち着いた表情を見せた。
家春
「民たち、か…。祐藤殿、分かり申した。では、本当の事をお話し致そう。じゃが、その前にここからは余と祐藤殿の二人で話がしたい故に他の者は席を外してはくれまいか。」
祐藤の民を思ってこそという言葉が家春の心に響いたようである。
晴正
「御意にございます。」
貞勝
「ははっ、それでは拙者たちは失礼致しましょう。」
晴正と貞勝らはそう言うと会見の間を後にした。





