66.村上城攻め(6)
村上城への侵入を果たした崇数と貞道の軍勢は、村上軍の罠によって甚大な被害を受けた。
崇数と貞道は、間一髪のところで罠による難を逃れていた。
貞道
「お前たち、すまぬ。俺の、俺のせいじゃ。」
貞道は涙を流しながら大きく空いた穴に向かって叫んだ。
城内の侵入を果たした後に、城門前へ軍勢を進めるように命令を下した貞道は負い目を感じていたのである。
そんな貞道の様子を見た崇数は貞道の肩を掴み、口を開いた。
崇数
「貞道殿、残された者たちを守ることを今は考えよ。兵たちを束ねたる者、戦が終わるまで心を乱してはならぬぞ。」
敵と味方が入り乱れて戦闘状態にある今のこの状況で指揮官として心の乱れを兵たちに見せるべきではない。
崇数はそう貞道に諭していた。
貞道
「そうじゃな、取り乱してすまなかった。よし、ここは一旦退くぞ。お前たち、遅れをとるでないぞ。」
軍勢は陣形を立て直すべく一斉に動き出した。
そして軍勢は、城壁の隅へ固まるように集まった。
城内から出てきた村上軍の追手から逃れる為にはやむを得ないことであった。
崇数
「まさしくこれぞ背水の陣。いや、背壁の陣とでも言うべきであろうかな。」
戦が終わるまでは平常心を保つように心掛けている崇数は、冷静な表情でそう言った。
この状況下でありながらも冗談じみた言葉が出るとは流石といったところであろうか。
貞道
「我が軍は見ての通り、袋の鼠である。じゃが決して諦めるでない。俺はお前たちの力を信じておる。村上軍を返り討ちにしてやるのじゃ。」
貞道は軍勢を鼓舞すべく、叱咤激励の言葉を大声で投げていた。





