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戦闘は難しそうなので……

キャラメイク画面の流麗でゆったりとした音楽がフェードアウトし。途端、異国の市場にでも放り出されたような喧騒がワッと体に押し寄せて、思わず耳の後ろがゾワット引きつるのを感じる。

 瞼を開くと、そこには見たことのなも町並みが広がっていた。

「なんてこった……」



 色、音は言うに及ばず、匂いから感覚、空気の振動までもが再現されている。

ふと癖でポリゴンやテクスチャの使い回しを探してしまうが、街も空も、地面さえも瑞々しさに目をこするほどの圧倒的なリアリティを持ってそこに在る。

 ナギは光あふれる世界に感動のあまりしばし呆然と立ち尽くしその空気を感じた。



「……おっと、いけないいけない。えーっと、まずは何をするんだっけ?」

 往来の激しい広場の真ん中で初心者丸出しに立ち尽くしてたせいか視線が痛い。

「そにしてもんなに注目しなくても……今頃から始める新参者は珍しいのかな?」

ぶつぶつと呟きながら無遠慮な視線に肩をすくめる。


 シンプルなシャツにインナーのような短パン、装備は革の胸当てに革の篭手。見ると身につけているのはあからさまな初期装備。

 新人が出てきたんだから一時の注目はやむなしか。

 ナギはとりあえずその場を離れることにした。



 やりたいことがありすぎて何をしていいやらわからず、無目的に物見遊山でたどり着いたのは街の端にある広場だった。

 どうやらこれから整備される区画らしく、木が切り倒されて一部では資材が積まれている。

 やっと喧騒を外れて一息ついたナギは切り株の1つに腰掛けてステータスウィンドウを開いた。



 ステータスはさっき設定した通りDEXに10ポイント。他にHPやMP、装備スロットなどが表示されているが今はとくになにかできるわけではない。スキルウインドウも同じで初期スキルが表示されるだけだ。


「お、アビリティウィンドウは設定できる」

 どうやらはじめに選んだクラスのスキルとは別にアビリティというのが設定できるらしい。

 今選べるのは3つらしい。


「……。いやまてよ。これは今やるべきじゃないんんじゃないか?まだ戦闘もしてないしショップも見てない。まずは一度戦ってみてどんなスキルが必要か考えないと」



 というわけでやってきたのはダンジョンフィールド。街を出てすぐのエリア”旅立ちの平原”だ。

「街を出ると自動的にセーフティエリア以外は戦闘エリアってわけか」

 ここで狩りをするプレーヤーは少ないのか、周りにそれらしい人影はない。正直初心者丸出しの戦闘を見られるのは赤の他人と言えどなんとなく恥ずかしいのでナギにしてみればこれはありがたい。


 初期装備の武器はライトソードのみ。

 パーソナルウィンドウで装備スロットにセットすると自動的に手に持った状態になる。


「よし、標的は……アレか!」

 前方に小型の獣がいる。

 焦点を合わせると敵のステータスがAR表示されるようだ。



 ラージラットLv.3

 HP 27

 MP  8



「プレイヤーの初期HPが30だから妥当な相手かな。……はじめての戦闘か……うー、やっぱりドキドキするなぁ……!」

剣の柄を持つ手に力が入るのがわかる。

敵に近づいてクリックで殴るハクスラやエンカウントで戦闘シーンに突入する既存のRPGとはわけが違う。どんなスピードで近づけば良いのか、身を低く構えたほうが良いのか。全身で戦闘を行うという感覚が新鮮で緊張する。


 ナギが近づくと、視界の端のラージラットの名前表示が赤色になってアクティブ状態になったことを知らせる。横目で確認している間にすでに相手は戦闘態勢に入っている。


 敵の攻撃は単純な体当たりだった。

「少し早いけど、躱せる!」

 半歩分右に体を避けて回避――

「え、なっ、なんだこれ!?」

 腹部に重い衝撃を受けてナギは片膝をつく。


 見るとHPが3割削られている。

「おいおい、嘘だろ……一撃でこれって。それに何だ今の、まるで身体を押さえつけられるような……まさかバーチャル酔い?」


 気を取り直して武器を構える。

 相手も未だ殺る気満々だ。

「よーし、今度はこっちから!」

 ナギはライトソードを振りかぶってモンスターに突っ込んだ。

「――え、あ!ちょ、ちょっと、待って!あ、ダメッ!」

 攻撃は軽くかわされ、あれよあれよというまに袋叩きにされてしまう。



 【メッセージ:EXPを30%失いました】



 気がつくとナギの身体ははじめの広場に戻っていた。

 どうやら負けてしまったらしい。


「ひぇ~、びびった……あんなに強いのかあ。痛覚はないみたいだけどあの重い衝撃みたいな感覚はヤだなあ。これじゃとてもじゃないけど今すぐ狩りってのは無理そうだ。あの感じだとスキルどうこうって話でもなさそうだし、まずは装備を揃えないと……。となると金策か……?うーん、みんなどうしてるんだろうな、普通のゲームなら装備なしでもある程度の敵には勝てるバランスなんだけど……」

 再び切り株に腰掛けてアビリティを吟味する。

「あ、そもそも戦闘系アビリティがないな。初期では取れないのかな?」

 試しに武器を装備して確認してみても戦闘系のスキルは表示されない。

「わからん。何かしら条件を満たしてないんだろうけど……とりあえず後回しにして金策に使えそうなアビリティを取っておこう」

 アビリティポイントは5ポイントだった。


「やっぱりまずはオーソドックスに調合かな」

 頭の中で操作すると、所持ポイント5の表示が4に変わり、調合Lv.1の文字が淡く発光する。

「とくに何も起きないな……アビリティ獲得でポーションが作れるようになるとかそういうことではないのかな?ということは材料集め……、えぇ~……またダンジョンフィールドかぁ」



 仕方なく再び草原地帯へやってきたナギは今度はモンスターに見つからないように茂みに腹ばいになって薬草を探した――が、どれが薬草なのかがわからない。

「マジか……いくらなんでもシビアすぎじゃないか?普通鑑定くらいできるもんなんじゃ……なんかほんとにサバイバルやってる気分になってきたよ」

 やむを得ず採集に1ポイント配分して見ると、使えるものがあるところがぼんやり光って教えてくれるようになった。


「とは言えこれで薬草が判別できるわけではないのか……。仕方ない、何かしら使い道があることはわかってるんだから手当たり次第採集だ!」



「これは、どう見ても石だけど光ってるから他と何か違うのか??うーむ、わからん。とりあえず拾っておくか、NPCに売ればいくらかお金になるかもしれないしね」

 それから数時間でアイテムボックス半分くらいまで採集活動を行った。


 そこで発見したのが、同じアイテムはアイテムボックス内では重ねて表示されるということだ。だから少なくとも同じものかそうじゃないかは現段階でも判別できる。

 今は「?」表示だが、鑑定できれば薬草×5みたいに表示されるのだろう。



 切り株に戻ってきたナギはアイテムウインドウとにらめっこをしている。

「これを使ってポーションを作りたいわけだけど、そもそもどうやって作るんだ?アイテムがわからない以上とりあえず持ってるのを手当たり次第試すとして、調合と言うからには何かと合わせないといけないはずだよね」

 何もかも手探り状態。しかたがないのでとりあえず水と混ぜてみることにした。

「ポーションていうのは普通液状だよなぁ……でもこれでいいのか?」

 近くの川で汲んできた水を飲用するものに使うのは抵抗がある。

 とは言えそもそも成功するとも限らないので謎の草Aで試してみることにした。


 アビリティウィンドウから調合を選択してスロットに謎の草Aと水をセット。個数ははじめなので1セットにして実行を選択。


 ボンッ!

 目の前で薄緑の煙が発生する。



 【メッセージ:調合に失敗しました。】



「ダメか。いやでも、単純に成功確率が設定されているのかもしれないし、もうちょっと試してみるか」

 ボンッ!ボンッ!ボンッ!



【メッセージ:調合に失敗しました。】

【メッセージ:調合に失敗しました。】

【メッセージ:調合に失敗しました。】



「……。ダメだな。確率で失敗してるのか手順が間違ってるのかわからん。でもとりあえず手当たりできそうなことを試してみるしか無いし……」


 そういえば、とさっきも気になっていた水を見直してみることに。

 アビリティを確認していたときに気になっていた精錬を取得してみる。ついでにこれからの採集でモンスターに袋にされては困るので索敵も取得しておいた。


 精錬スロットに水をセットして実行。

 ボンッ!



【メッセージ:精錬に失敗しました。】



「……。」

 ボンッ!ボンッ!テッテ―♪




【メッセージ:精錬に失敗しました。】

【メッセージ:精錬に失敗しました。】

【メッセージ:精製水×1を獲得しました。】



「お!できたできた!なんだかんだアビリティ初成功だ」

 材料の水ができただけだが、初めて自分でアイテムを作り出したことになんとも言えない満足感がある。

「この感じもゲームの醍醐味だよねー。よし、もっと数を増やそう、どうせ失敗しても水だし」


 この水がある程度ないと次の調合の段階に進めないので、そこからひたすら精製水を制作することにした。なにせ元手はタダだ、怖いものはなにもない。強いて言えば後でこの行為が無意味だと発覚するのは怖いが。


 ボンッ!ボンッ!ボンッ!テッテ―♪ボンッ!テッテ―♪テッテ―♪ボンッ……


「やっと精製水が4つかぁ。地味にめんどくさいな……。ん?あ、そうか、数量指定すればいいのか。あれ?ない……」

 どうやら精製は一括処理できないようだ。

 仕方がないので地道に作業をこなす。


 

【メッセージ:熟練度が一定に達しました。】



「ん?熟練度?」

 早速アビリティウィンドウで精錬の詳細を確認。


 【精錬:熟練度10% 成功確率20%】


「おお、なるほど、熟練度が上がると成功率が上がるのか。てことはこの作業もだんだん楽になるんだな」

 というわけでその後の作業の結果、精錬の熟練度が30%になり、精製水は25本集まると、ナギは早速先程の謎の草Aとの調合に挑むことにした。


「成功してくれよ……」

 ボンッ!ボンッ!

「クソッ、もう少し」

 ボンッ!テッテ―♪


 【メッセージ:麻痺薬Lv.1を獲得しました。】


「よっしゅあぁ!……って、麻痺薬!……いや、売るつもりだから何でもいいのか」

 ともあれできたアイテムの効果をチェックしてみることに。


 【麻痺薬Lv.1:相手を10%の確率で一定時間麻痺状態にする。】


「10本使って一回成功か……効果低いなぁ。あ、でも自分で作ったアイテムは鑑定しなくても詳細がわかるんだな。なんか当たり前のようなそうでもないような……それに謎の草の方も詳細が見れるようになってる。痺れ草か……一応これで素材関係は間接的に鑑定できるな」

 その後結構な時間を費やして精製水を作っては調合に失敗を繰り返してついに薬草を発見。

 念願のポーション作成をすることに。



 テッテ―♪

「おおおお!ついに念願のポーションが!どれどれ、こんだけ苦労して作ったポーションの効果たるやいかに……?」


 【HPポーション:HP回復量2%】


「なん……だと……?いくらなんでも効果低すぎるだろ……いや、ここではこれくらいが普通なのか??そう言えばまだ街のNPCショップにも行ってないしなぁ。とりあえず今日は今ある分の材料でアイテム作って明日は探索してみるか」






 ●冒険結果●

 獲得アイテム

 ・麻痺薬Lv.1×3、解毒薬Lv.1×2、HPポーション×5、謎の石

 獲得アビリティ

 ・採集(熟練度30)調合(熟練度30)精錬(熟練度40)索敵(熟練度0)


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