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接続の日


 ――all of withdraw land、通称AOWL。


もとは最先端の仮想量子通信工学論研究機関であるクアンタイズ・ニューロニクス・ラボが持ついくつかの法人格の傘下にあった中小企業だ。



 そのアウルが最先端のテクノロジーを導入したRVMMORPGを発売するという噂はゲーマーの間では数年前から囁かれていた周知の沙汰で、その背景は医療通信部門での実用化に向けた試験運用だとか、事実上の人体実験モニターだとか様々な憶測が飛び交っており、おそらくそれらの噂の大部分は事実のようだ――が、今そんなことはどうでもいい。

 大事なのは抽選で行われたβテストを経てついにサーバーの一般公開が行われたということだ。


 ……といっても一般的な学生である七希にその筐体は高価すぎて、ツテを頼り両親を籠絡し、やっとこさの思いで手に入れた現在、すでにサービス開始から半年が経過していた。

前情報をシャットアウトしていたのでストーリーがどういうものかはわからないが、半年と言えばやりこみの程度によれば、一般的なRPGでいうところのメインストーリーをクリアしている者がいても不思議ではない時間であるし、ゲーマーたちがこんなゲームを前にやりこまないはずがない。


 アウルのゲームはこれまでいくつもプレイしている。不朽の名作RPGからアクション系キラーコンテンツまで様々なジャンルで支持を受けるアウルが、新技術をもって満を持してリリースした大作とあってこの半年間仏門の徒の境地で情報に対して見ざる言わざる聞かざるの誓いを立てていた。


だがそんな苦悶の日々も今日で終わりだ。

ライフリング加工の長筒から飛び出た弾頭よろしく一目散に帰宅した七希は、ぶち抜く勢いで玄関のドアを開け、文字通り転がり込むように家へと上がる。その際お母さんがうるさいの半回転しながらも靴を揃えるのは忘れない。

しかしこれも予防線。ゲーム中に邪魔が入っては台無しだ。


最短距離のアールを描いて廊下からリビングへ侵入する。


位置的には玄関の真横に当たるこのリビング。その角に小窓のついた一角があり、その向こうには一畳四方程度の電子ロック越しに外へとつながるスペースが有る。

バーコード認証による不在配達代理受け取りガジェット――受け取りくん――の小窓を開き、慎重にみかん箱ほどの大きさの包を引っ張り出す。

開封の間も惜しい七希は、それを抱えると二階の自室へと向かう傍ら包装を剥ぎ取っていく。が、お母さんがうるさいのでごみはきちんと回収する。



自室のドアを締め、あらためて抱えたものを見ると、高級感のある黒地に緑のラインが交差する化粧箱の中央で見慣れたフクロウの銀の箔打ちが皮肉っぽく笑っていた。



緊張に縮こまる手で柔らかな黒いウレタンフォームの台座に収められた筐体を取り出す。

鏡面加工のフィルムを剥がすころにはもう早く接続したい衝動を抑え込むことはこんなになっていた。

すぐさまリクライニングチェアに飛び込むと、七希はすぐさま情報の海にダイヴしたのであった。


 

 筐体から伸びるコードをヒュプノリンクポートに接続する。


 途端、多次元緩衝マットのリクライニングチェアに預けていた体から背に感じる重さが消え、意識は何もない黒い空間に浮遊した。


 真っ暗闇に落とされたと言うよりは、ただ何もない空間の前方一面を覆う黒いスクリーンを見ているような感覚だ。



 程なくしてそこに青く発光する緑色のデザイン文字が現れる。

 毎度おなじみのフクロウをあしらったアウルのロゴ。  




 ロゴ表示のあとオープニングムービーの視聴の是非を問われるがもちろんキャンセル。これまでネット上に転がる画像や動画もなるべく見ないようにしていた。いざとなればいつでも見れるオープニングなど見ている場合ではない。


 バーチャル酔いの有無や適性を見るパッチテストのようなごく簡単なチュートリアルをボタンを連打しながら流し読み、ついにキャラメイクへ。

 最高にカッコイイキャラを作ってやろうと息巻いた七希だったがキャラメイクしないまま何故かクリエイトフェーズはクラスセレクトへ。


「え、あれ??なんでなんで?ボクの金髪イケメン騎士は!?」

 手足をジタバタ振り回す。現実でどうなっているのかはわからないが少なくともここでは何も起こらない。


「初歩的な操作ミス……?仕方ない……とりあえず進めてみるか、最悪リメイクすればいいしね」

 キャラも大事だが何よりも早くゲームを始めたい思いからパッパと設定を終わらせていく。

 ワールド・オブ・セイバーの設定項目はあまり多くない。

 キャラメイクを除けば職業、初期ステータスポイント10ポイントの振り分け、名前。

 こうなれば実質悩みどころは職業くらいのものだ。


「なるほど、タイトル通り全部剣士なんだ……」

 簡単な説明も表示されたが、七希は読まずに直感だけで決めて、ステータスはDEXに極振り。

 これから始まる未知の冒険に高揚する気持ちが抑えられない。


 今から始まるのはこれまでのゲームとは違う全く新しいゲーム。本当に見たことのない世界がそこには広がっているはずだ。

「そうだ、リメイクなんてやめよう。たとえどんな見た目でも、どんなミスグロウをしてもボクは今日からこのキャラとして生きていくんだ」



 実際キャラクター作成は1回線に付き1つという制限がありリメイクはできないのだが、七希がそれを知るのはずいぶん後になってからだった。



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