換金場
地下に蟻の巣のように広がる線路を、充電式のLEDランタンで照らし歩く。
ランタンがなければ一寸先は闇と言っても過言ではない暗闇だが、ここは地上よりも安全。それを知ってからはこの暗闇の中がホッと一息付ける空間になりつつある。
「ふぅ、やっと着いた」
トタンや廃材を用いて作られた巨大なバリケード。その上に設置された照明は広いトンネル内を昼間の如く照らしている。
「おお、今日も生きて帰ってくるとは流石だなジン」
櫓の上でアサルトライフルを持った短髪の若い男が話しかけてくる。
「お前も暇そうで何よりだよ。ほら、さっさと開けてくれ。今日は疲れてるんだ」
男がバリケードの向こうに合図すると、錆びた音をトンネル内に響かせて開く。
中に広がっていたのは、停車している電車達と、照明の下で商売をしている人間達。テーブルの上に置かれているのは銃火器や、刃物鈍器と言った武器類から、食料や日用品といった多種多様の物。
「ジン、無事で何よりだ。どうだ買っていくか? 今なら九ミリ弾二発で缶詰一つと交換だ」
「先に換金してからだ。それにどのランナーから仕入れたかは知らないが、その魚の缶詰はクソマズイ。一発でも売れるか分からないぞ」
マジかよと悲鳴を上げる店主を他所に、露店通りを更に奥へと進む。
辿り着いたのは折り畳みのテーブルを幾つも並べて作られたカウンター。
「おやおや、ジンさんじゃないですか。今日はどんな御用で?」
手もみをしながら話しかけてくる小男に、バックパックから煙草のカートンを二つ取り出して、テーブルに置く。
「ほうほう、煙草ですか。吸っている人間からすれば飯より大切だと考える奴もいますからね。軽くて、嵩張らなくて、買い取り値段も高い! 流石ジンさん目の付け所が違う!!」
「そういうおべっかはいらない。さっさと換金してくれ」
ぶっきらぼうにそう言いながら最近剃っていない顎鬚を触る。小男は煙草の銘柄や本数を手元にある表と見比べて、後ろに立っている襤褸を着た少年に何言が言う。
少年はそれに頷き、端にある用心棒が立っている大きなテントへと入っていき、赤い箱を二つ持って帰ってくる。
「今日の買い取りは九ミリが六十発ってとこでどうでしょ?」
「おいおい、先週は二カートンで八十じゃなかったか?」
「そうは言われましても、相場と言うものは推移するものでして、今は一カートン三十が限界でさぁ」
耳障りな妙に高い声で手もみをする小男に、俺は溜め息を吐きだしたい気持ちを押さえて、箱を受け取る。まだ後には予定がある。ここで揉めて時間を食うのは割に合わないと己に納得させて、換金場を去る。