04
猫ブームって言っても、猫の飼い主なんて簡単にはみつかるもんじゃない。
みんな興味を示してくれるけど、現実問題、住むところや生活の関係でうまくいかない。
もう、子猫を拾ってから、1ヶ月が経過していた。
猫好きだから世話は苦にならないけど、経済的な問題、家を留守にできないこと、いろいろな問題が生じてくる。
それにこのまま飼い続けるのは、子猫たちにとってもいいことじゃない。
2部屋のアパートじゃ十分な運動もとれない。
だからといって車があぶなくて都会では外飼いにもできない。
「笛吹くん、猫の飼い主見つかったよ。
2匹もらってくれるってさ。
写真みせたら、一目惚れだって」
同期の岡河さんが僕のところに駆けてくる。
職場のアイドル的存在。ずっと里親を探してくれてたんだ。
こういうやさしいところも、好感度が高いところだ。
「史人くん、わたしも1匹もらおうかな」
目の前のめがね美人は森園先輩。
クールな上司だ。仕事はきびしいけど、面倒見のいい人だ。
たぶん、ぼくらが里親を探しているのを聞いて、助け舟を出してくれたんだろう。
「まあ、もう1匹飼ってるから、一匹くらい増えても同じだからね」
スマホの待ち受けを見せる。そこにはかわいいアメショーが写っている。
「わたしも飼おうかな。
かわいいし。
でも、猫って初めてだし。
笛吹くん、いろいろ相談に乗ってくれる?」
岡河さんが僕を見つめる。
僕はその真っ直ぐな視線を逸らせてしまう。
すごい、チャンスなのに。
「ねっ、いいでしょ」
「う…うん」
僕のスマホがなる。
メールだ。
猫をもらってくれるらしい。
これで、あと一匹だ。
それくらいなら、僕も飼えないこともない。
でも、これであいつらも幸せになれる。
僕も岡河さんとの距離が縮まるかもしれないし。
これで良かったのかな?
「じゃあ、どの子がいい?」
「うーんとシロがいいかな」
「うん、じゃあ残りはクロだけだね。
クロは僕が飼うから」
「じゃあ、一緒にグッズとか買いにいこうよ」
岡河さんの笑顔に、つぎの休みの日の約束…これは猫の恩返しってやつかもしれないな。
ぼくはなぜかそう考えて岡河さんにOKの返事をした。