マーメイド・プリンセス~マイン~
私の大好きなマーメイドを題材にして書いた処女作となります。
まだ、書き途中ですが少しアップします。
今回は短編ですが、反応が良ければ連載にシフトするつもりです。
少女には、繰り返し見る夢がありました。
夢は決まって、真っ暗闇の水の中でした。
少女は夢を見るたび、身体がどんどん沈んでいくことに気づいていました。
しかし、少女は不思議と恐怖心を持っていませんでした。
反対に、とても安心感を抱いていました。
沈み続けてしばらくして、少女の足の裏に固い感触を感じました。
水の底は固いのに水が張ってあるように、少女が歩くと波紋が広がる不思議な場所でした。
少女はそこで、氷の中に閉じ込められた、自分と瓜二つの少女に出会いました。
少女は声をかけました。「あなたはだれ?」と。
氷の中の少女は言いました。『私は、あなた。あなたは、私』と。
「あなたは、私?」
少女は吸い寄せられるように、氷に近づいて初めて氷の中の少女が普通ではないことに気がついた。
氷の中の少女は、上半身は人間と同じ肌色で耳と手首の所に、虹色に輝くヒレがありホルダーネックの服は薄く、胸の部分に桃色の貝殻がついている。服の左右脇の所で、裾は結ばれそれがクラゲの足のようにヒラヒラと揺れていた。
特に目を引いたのは、少女の下半身だった。下半身にはあるはずの足がなく、そこには魚と同じ鱗が輝く魚の尾びれが合った。
氷の中の少女は、所謂人魚だった。
『そう、私達は同じ存在。やっと出会えた』
とても澄んだ綺麗な声が肯定し、人魚はにこっと微笑んだ。
少女にはどうしても信じられなかった。氷の中の人魚と自分が、同一人物だなんて。
少女は首を左右に振って、その事を否定した。
「違う。違うよ。私とあなたは、別人だよ? だって私はこんなに醜い姿をしているのだから」
氷から一歩、二歩と後退り少女は自身の身体を見下ろして、その表情に少女には似つかわしくない、嘲笑を浮かべて呟いた。
『そんなことないわ。あなたは醜くなんかない。とても綺麗よ』
人魚は悲痛な表情を浮かべて、自分自身を必要以上に卑下する少女の言葉を否定するが、少女はそんな人魚に対して激しく首を左右に振り、今まで胸の内に秘め続けた想いを吐露するべく、叫んだ。
「どこが!? 身体中痣だらけで、腕には煙草の火を押し付けられた痕だってある、父や兄には玩具にされて母や姉にはストレス発散の道具。家から一歩も出してもらえなくて、家の地下に鎖に繋がれて監禁状態。ご飯だってろくに食べさせてもらえないだよ!!」
少女の叫びを黙って聞いていた人魚は、涙目になりながらもう一度同じ言葉を繰り返した。
『あなたは醜くなんかない。とても綺麗よ』
「だから、私は醜いって言ってるじゃない!! ...どうしてあなたが泣いてるの?」
氷の前まで駆け寄り、氷に拳を叩き付けながら、人魚を見つめて目を見開いた。
『あなたが泣かないから。だから私が泣くの。あなたは自分が醜いと言うけれど、私はそうは思わない。だって、ココロが綺麗だもの』
人魚は頬を流れる涙を拭きながら、優しい微笑みを浮かべた。
「私のココロ?」
『そう、ココロ。あなたはどんなに辛くても、相手を憎んだり恨んだりしない。そして困ってる人には、自分自身を二の次にして手を差しのべている。違う?』
人魚は暗に外見だけが、全てではないことを少女に知ってほしくて、問いかけた。少女は人魚の言葉にしばらく黙ったまま、俯いていたが顔を上げたときそこには、初めて見る少女の笑顔があった。
まだ少しぎこちないが少女は確かに笑みを浮かべていた。