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紅星伝  作者: 島津恭介
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第二章 ケルマーンの戦い -7-

 翌朝、マハンの郊外の岩山に、アナスは三人の師匠とともに魔術の練習に来ていた。


 アナスは火炎を出すことは出来るようになっていたが、制御はまるで出来ていなかった。一発、ぼんと巨大な火炎を出したら終わりである。威力はそれなりに高いようだが、遠くに飛ばすこともできず、至近距離の大技一発のみではまだ練習が必要だ。


 ヒシャームに見てもらいながらアナスか火炎の制御に集中し始めると、次にシャタハートか自分の星の魔術に改良を加えようと模索していた。


「射程は百ザル(約百メートル)くらい、速度はエルギーザの矢より遅い、威力も急所に当たらなければ大したことはない、同時に出せる個数は十、三連射すると息継ぎが必要になる、分析すると微妙な性能だね」

「射程はともかく、速度と威力に改良が必要だよね。辺りどころが悪ければ死ぬではなく、一撃で絶命させるくらいに」


 シャタハートが自分の魔術を解析すると、エルギーザが直すべき箇所を指摘した。


「速度と威力か。まずは、素材かな。星の欠片を単なる岩石ではなく、隕鉄の抽出にしてみよう」

「形状も大切だよね。球形じゃなく、鏃みたいに尖らせるとか」

「ふむ、円錐形に近い感じかな? やってみよう」

「射出の推力のイメージはどうしているの」

「風に乗せて運ぶ感じかな。正直風の魔術は適性が低くて速度が出ないんだ」

「うーん、難しいね、ぼくも風の魔術を使って射ているし」


 話しながらシャタハートは改良を試していく。鉄素材の抽出は、初めは時間をかけていたが、一度決めるとあとは複写するだけなので簡単にできる。


「ただの岩石より硬いだけあって威力は高いね」

「形状も変化させたら速度と貫通力が上がってないかな?」

「球形より速く感じるね。最適の形を探そう」


 幾つか試したところ、短い杭に近い形がよさそうだった。硬い岩盤にも、めり込む貫通力もある。


「貫通させるなら、回転式のがいいのかな。ねじは回転するしね」

「武術の基本も螺旋だしね。力を伝えるにはいいのかも」


 鉄杭を回転させることで、貫通力はさらに上がったように感じた。岩盤に撃ち込むと、壁面に罅が入るくらいの威力はある。


「あとは推進力だね」

「杭の背中に小さな爆発を起こして、その力を使うのはどうかな」

「それは難しいな……わたしは火の魔術もあまり得意ではないんだが」

「敵を吹き飛ばすほどの力はいらないし、やってみたらいいさ」

「どのみち、風も火も単独では使いものになるほどではないか。組み合わせるのはいいかもね」


 爆炎の魔術はただの炎より難易度は高かった。だが、魔術の制御能力に関しては、シャタハートは三人の中で一番才能はある。威力はだせなくても、発動させることには成功した。が、思った方向に力を伝えるのがなかなか難しい。


「筒でもイメージすればいいんだよ。そうすれば、決まった方向に力が伝わらないかな」

「……エルギーザの発想力だけは凄いと思うな」


 轟音が響き渡った。岩盤には、今までと比べ物にならない深さで鉄杭が突き刺さり、激しくひび割れた壁面がぼろぼろと崩落してきている。速度も威力も申し分なかった。


「できた……が、さすがにこれを同時展開したり、連射するのは無理そうだ」

「そのうち慣れるさ」

星の閃光ターラー・ラフシャーンとでも名付けるかな」


 確かに閃光(ラフシャーン)のような魔術であった。密かに観察していたヒシャームは、あれが自分にかわせるかどうか自信がなかった。人を殺すのに特化した魔術と言えなくもない。剣と同時にあれが来たら、どんな達人でも死は免れまい。


「エルギーザはどうするんだ?」

「ぼくは、ヒルカと妖精(ペリ)に同期させてもらえば十分さ」


 エルギーザの風の矢は千ザル(約一キロメートル)ほどの射程はある。ターゲットの視認さえできれば、幾らでも遠距離で封殺できるのだ。


「おまえのそれは、何かずるいな」

「遮蔽物があっても曲射できるからね。撃ち落としできる人じゃないと、ぼくの矢からは逃げられないよ」


 星の閃光ターラー・ラフシャーンで迎撃すれば、矢は撃ち落とせる。だが、千ザル(約一キロメートル)の彼方にいるエルギーザを攻撃する手段はシャタハートにはない。この銀髪の射手を相手にしたときの勝つイメージがシャタハートには思い浮かばなかった。


 大人しく星の閃光ターラー・ラフシャーンの連射速度を上げる訓練をしながら、シャタハートはアナスの訓練に視線を移した。


 ちょうど、アナスが大きな岩石に手を触れて魔術を発動させようとしているところだった。


 アナスの護符が赤く輝き、魔術が発動する。同時に岩石が内部から爆発し、破片を周囲に四散させた。


「うわっ危ないな、おまえ。というか、何だそれ」

「遠距離はうまくいかないから、手で触れてやってみたらできたのよ」

「使いにくいが、えぐい威力だな。内部から爆散とか、防ぎようもないじゃないか」


 単純にアナスは爆炎(インフィガール)と呼んでいるようだ。だが、これはそんな生易しいものではない、とシャタハートは思った。触れられたら、防ぎようがない。威力は人間を相手にするレベルではない。戦闘中に使えるかどうかは修練次第であろうか。


「これ繋がっていれば徹せるのよ。手前の岩石は無傷で、奥の岩石だけ爆散できるわ」

「どこの格闘家だ」


 シャタハートも少し連射速度があがっていた。彼の頭上に十個ほど鉄杭が浮かんでおり、一秒一発くらいの速度で撃ち出していた。十発撃ったら、再召喚するのに一呼吸必要のようである。


 「その星の閃光ターラー・ラフシャーンだっけか、それは恐ろしい魔術だね。それだけ撃てたら、囲まれても平気だよね」

「この十倍くらいの連射速度にしたいところだけれどね。とりあえずさ」


 シャタハートは、とりあえず殺傷力を抑えた形で、ヒシャームに向けて術を試してみることにする。


 轟音とともにシャタハートの魔術が放たれる。粘土で作って非殺傷弾にしているようだ。ヒシャームは三発くらいを黒槍(メシキ・フムル)で捌いたが、後は処理しきれなく被弾した。


「いや、これ普通に無理だ。黒槍(メシキ・フムル)の解放なしには受けられん」

「むしろ、三発弾いたことに驚くよ」

「視認して弾いたわけじゃない。ほとんど勘だ。この速度は目では追えない」


 何にせよ、実戦で使える手応えを掴んだシャタハートは、更なる改良を目指した。


「派生型として、大型化による威力の向上が一つ。逆に小型化による弾数の増加が一つ。射程を伸ばすのが一つ。試しにやるとしたら、そのあたりかな」

「隕石みたいなでかいのかい?」


 さすがに大型化にも限度がある。巨大な質量の召喚は、いまのシャタハートの手に余る。


「いや、いまの大きさの倍とかその程度からだね。質量を変えることでの速度や弾数の変化の検証もしないと」


 やることは幾らでもある。まずは一つ一つ、目の前のことができるようになればいい。地面を爆砕して作った穴に自ら落ちたアナスを見ながら、シャタハートはそう自分に言い聞かせた。

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