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きみがわらってくれるなら  作者: カノウラン
8/9

理由

「で、さ。どうして、彼女をあいしてんの? ごくふつーの子だとおもうけど」

『──喜んで、くれたんだ』

「は?」

『ぼくが吹かせたひとすじの風を、きもちいい、って言ってくれた。そのとき、空間をかのじょの喜びのエネルギーが満たしたんだよ!』

「は、あ……」

『わからない? 喜びだよ。あのすばらしいエネルギーを、ぼくに返してくれたんだ。ぼくにとって、あのいっしゅんは、永遠だから──』


とたん、わけのわからない幸福なきもちが、降ってきた。

上から押されて沈んでいるようで、上り詰めていくような、ふしぎな浮遊感。

ベースを弾いて得られる『喜び』さえ、ちっぽけにおもえる。

まるで、アンプで増幅されたエネルギーを浴びているような……

これが、真の『喜び』?

これこそが、『喜び』が返ってくる、ということなのか。

受け取り、返してくれるもののいない『喜び』の、いかにちっぽけなことか。


『感情は、肉体からしか生まれない。喜びも、かなしみも、つらさも、ぼくは、かのじょが発して初めて、知ることができたんだ』

「肉体があることが、そんなすばらしいかよ?」

『すばらしいよ! きみも、あいするものに無視され、あらゆる物質をすり抜ける経験をしたはずだ。だから、肉体を持ってそこにいる』

「────そう、だっけな?」


かなしい、とぽろぽろ泣いていた。

本当に、サヤカをあいしているのだろう。

それなのに無視されるというのがいかにかなしいか、わからなくはない。

けれど、もしかしたら、そのかなしみさえ、サヤカが発したかなしみの借りものなのかもしれない、とおもった。

自分が、サヤカのことを、どこかで知らずに泣かせていたのだろうか。

かなしませるより、自分だって、喜ばせたいとおもう。

肉体のあることの価値はいまいちわからない。

それでも、名もない風ではなく、自分は彼女に触れることができる肉体を持ち、彼女に好かれている人間として、そばにいる。

面と向き合って、『喜び』も、愛も交わせるのだ。

それはたしかに、すばらしいことなのかもしれなかった。


『みてろ……肉体を持てたなら、ぼくはかのじょを、すぐにも、かなしみや苦しみから救いに行く!』

「──あー、まぁ、……おぼえとくよ」

「え? おぼえとく?」


サヤカの声────!

そうおもった瞬間、ふっ、と首と、体自体が動いた。

あたりが、急に暗くなった気がする。

むく、と体を起こして、マサキは気がついた。

日が沈みかけている。



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