カレの言い分 3
「ちょっとステージ、見に行ってみる?」
「……うん」
誘えば、従順についてくる。
とくに、嫌そうな顔も、うれしそうな顔もしない。
(たく。どっちなんだよ、その反応は)
また、マサキはぼりぼりと頭を掻いた。
こんなことなら、たまにはと、デートの約束なんかしないで、家でベースの練習をしていた方がよほど有意義だったかもしれない。
会いたいなら会いたいと言ってくるだろう、とおもっていたら、半月もデートをしていなかった。
会って、顔を見ると、あの、告白してきたときの真っ赤な顔をおもいだす。
あれはかわいかったな、とこころがいっしゅん、温かくもなった。
まあ、顔のつくりで言えば、ごくふつう。
振り返るほどの美人でも、手放すことが惜しいほどのスタイルでもない。
ごく、ごく、ふつうだ。
いっしょにいると、マサキの趣味って地味、さすがベーシスト、とか仲間の笑いを取れるほどだった。
そんなときは、すこしだけ誇らしいきもちを味わったけれど。
彼女のかわいい顔は、自分だけしか知らないのだ、と──
「お、っきい……!」
ぽっかりと口を開けて、サヤカは目の前に出現した野外ステージを見ている。
「多いときで、ここ、三千人くらいは集まってたんじゃねーかな、ひとが」
「三千人……っ」
「けど、スタジアムでのライブは、一万人規模だから。俺たちの夢は、そっちでやるほう」
「そうなんだ」
「ステージ、ちょっと、のぼってみる?」
「うん」
ステージ下の芝生を踏みしめてひろばを突っ切ると、マサキは一メートルちょっとあるステージの上によじ登った。
サヤカも手だけはかけたが、よじ登るのは無理だと判断したらしく、ステージ横の階段へとまわり込む。
ステージのふちに腰かけたマサキのそばに、サヤカも座った。
「あそこの木、ぜんぶ桜」
「へえ……」
「一八日じゃ、まだ咲かないかな」
「……満開は、むずかしいかも」
「そうだな。ちぇー、咲いてたら、見晴らしいいだろうに」
マサキは、ステージの上に仰向けになる。
両腕は、頭の上に投げ出して。
そそぐ日差しは、春めいてやわらかい。
アンプを通した爆音も、三千人の歓声も、考えられないほどに静かな、午後の公園。
とくに、話しかけてくる声もない……
とろとろとまぶたが重くなるのを、マサキは止められなかった。




