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きみがわらってくれるなら  作者: カノウラン
2/9

カレの言い分 1

「なあ。どっか行きたいとこ、ある?」

「え? ……えと。あの、どこでも──」

「あー、俺、今月のバイト代、新しいアンプ買うのに使っちゃって、金あんまねーんだわ。五〇ワットの真空管のやつ」

「へ、え。そうなの?」


おまえわかってねーだろ、とマサキは隣のサヤカの顔をかるくにらんだ。

そこは、真空管のアンプってどんなの、とか。

前のはいったい何ワットだったの、とかさ。

会話のつづけようがあるだろうがよ。

そう言いたいのを、飲み込んでおく。

マサキは、頭のうしろで手を組んだ。

まあ、彼女は、ロックにもバンドにも興味はないみたいだから、仕方ない。

わからないなりに、目をかがやかせてベースに関するうんちくを聞いてくれるカノジョとつき合ったこともある。

ひとりは、二カ月経っても、ベースとギターの区別さえついていないことに気づいてしまった。

ひとりは、ギターの方がかっこいい、とべつのバンドのギタリストに乗り換えた。

ひとりは、ベースとわたし、どっちが大切なの、と言いだした。

だから、今度つき合うなら、バンド活動以外で出会った女の子にしようと、決めていたのだ。

わかりもしないなら、わかろうとしないほうが、話す手間も省けていい。

そう、手間は省けるのだけど……


(いったい、なんのはなしすりゃいいんだよ。クソ)


つまんねえ、とおもう。

バンド仲間といるほうが、よっぽどたのしい。

ベースを抱いて、弦に触れているほうが、ずっとずっと満たされる。

情熱に、いろんなものを返してくれる。

あれほどの『喜び』をあたえてくれる存在を、他に知らない。

どっちが大切なの、なんて愚問だ。

決まっているだろうが。

おまえだと言われたいなら、ベース以上の『喜び』をいちどでもいいから与えてみせろよ、と言いたい。

それができもしないのに、自分だけを見ろ、だなんて勝手なことを言わないでほしい。

その点でいえば、サヤカはまだいい。

ベースを弾いているときに、邪魔をされずにすむ。

つまらないメッセージを送りつけてくることもないし、既読スルーをして怒られることもなかった。


(ただ…………)


マサキは、ちら、とうつむきがちの横顔を見た。


(俺といっしょにいて、ほんとにたのしいのか、こいつ?)



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