天使の呟き
ぼくはしってるよ。
きみが、横を行くカップルのにぎり合った手を、うらやましく見たこと。
きみが、いま、隣のカレの手を見つめていること。
その手を、にぎりたいとおもっていること。
でも、その手を払われたらどうしよう、と不安におもっているね。
腕を組む方が嫌がられないだろうか、とも考えている。
まず袖口をつかんでみようか、と今おもったよね。
それなのに、きみはけっきょく、カレの上着のすそを、つまんだだけ。
きみの、恥じらいも、思慮深さも、ほんのすこし勇気を出したことも、ぼくはちゃんとしっている。
だけど、カレは、気づきもしない。
きみが、自分の手をにぎりたいとおもったことはおろか、その上着に手を伸ばしたことでさえも。
ぼくはしってるよ。
きみが、昨日の夜、カレといっしょにどこに行こうかと、たくさん悩んだこと。
きみが、カレに自分といっしょにいる時間をたのしんでほしかったこと。
そのために、いっぱい、いっぱい考えたこと。
カレにも、相談しようとしたね。
でも、コンタクトをとるキカイをきみはにぎりしめたまま、またたくさん悩んで……
返事が返らないかもしれない、とか。
面倒だとおもわせて気分を害させてしまうかも、とか。
そんなかなしい想像ばかりして、かなしいきもちだけを味わって。
けっきょく、きみは、カレの行くところについて行こう、とこころに決めた。
なんて、奥ゆかしくて、健気なんだろうと、ぼくはおもうよ。
なのに、きみの隣を行くそのおとこは、きみが自分についてくるのは当然だとおもっている。
きみのことを、行きたい場所もない、つまらないおんなだと、おもっている。
どうしてなんだろう。
きみは、ぼくがもっとべつのたのしいことを考えなよといくら促しても、カレのことばかり考える。
かなしいきもちになったり、悩んだりするだけなのに。
きみは、ほかのたのしいことに、目を向けようともしない。
もっと、きみをたのしいきもちにさせてくれる相手は、たくさんいるよ?
そう、どんなにシグナルを送っても、きみは気づかない。
目を向けた、とおもっても、すぐにカレのことをおもいだす。
カレのほうが、かっこいい、だとか。
カレのほうが、たまにわらったときはうれしいきもちにしてくれる、だとか。
カレにも、やさしいところはあるから、だとか。
カレとつき合えるだけで自分はしあわせなのだ、とか。
どうせ他のひとも、自分をこころからあいしてはくれない、とか。
カレが受け入れてくれただけで奇跡なんだから、とかね。
きみは、カレしか見ないいいわけを並べたてる。
ぼくが、こんなにもあいしているのに。
いつも、きみだけを見て、きみのしあわせだけを願っているのに。
きみは、ぼくのことを、見もしない。
ぼくの存在さえも、受け入れてくれない。
ぼくが、どんなに、どんなにかなしいか、わかる?
ぼくが、どんなにきみの瞳にうつりたいとおもっているか。
きみを、どんなにしあわせにしてあげたいとおもっているか。
どんなに、たすけてあげたいとおもっているか。
どんなに、たすけてあげようとしているか……
今も、たすけてあげようと、しているんだよ。
ほら、道の向こうに、きみのやさしさにふさわしいひとが歩いているよ。
ほら、そこの角を曲がれば、きみは、べつのひとに出会えるんだよ。
ほら、もうすぐここを、すばらしく生命力に満ちたひとが通るよ。
ぼくが、きみたちを引き合わせてあげるから。
だからさ、ぼくの声を聞いてよ。
ほんとうはさ、聞こえているんでしょう?
聞こえているはずだよ。
どうして、聞こえないふりをするの。
ぼくは、きみのしあわせを願っているだけなのに。
こんなにも、ただ、きみのしあわせそうなえがおを見たいとおもっている、それだけなのにな。




