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5月:休日は…… 

 ゴールデンウィークも部活動は忙しく、これは運動部に所属する生徒にあまねく降りかかる運命であるけれど、顧問の先生も人間としての情を失っていないからか、一日の休日を与えてくれた。それでも一日だけなんだけど。ちなみに某公共放送では、「私たちはこんなに忙しいのに、何がゴールデンだ!」と言う一部の方々への配慮として「大型連休」の呼称を用いているらしいのだが、それが一体何の慰めになるのだろう。

 それはさておき、半端に与えられた休日をどう過ごそうか、家族でどこかに出かける予定も特にないし、とか考えていると、休日の前日の夜に友人のリンから電話がかかってきた。

「どうした、リン?」

『ユウキさ、明日って何か用事ある?』

「いや、何にも。すること無いから、一日家でごろ寝しようかと思ってたとこ」

 と、私が答えると、五秒ぐらいの間をあけて、

『あのさ、あの、もし良かったら映画見に行かない?』

「映画? 何の映画?」

 訊いてみると、リンは某「見た目は子供、頭脳は大人」な名探偵が活躍するアニメ映画のタイトルを挙げた。テレビの予告CMで頻繁に見かけるし、ちょっと前までは私も毎年見に行っていたからよく知っている。

「うん。暇だし良いよ。何時にどこ集合にする?」

 私が言うと、またも沈黙の時間が流れた。

 何だ? リンは何かをしながら電話をしているのだろうか。バタバタと腕か脚を振る音と、時々小声で「やった。やった」という声が聞こえてきたのだが、本当何なのだ。そんなに暇を潰せるのが嬉しいのかい。

「もしもーし、リンー、リンちゃーん」

『あ、ああ、駅前の時計塔の前に九時集合で良い?』

「ん、良いよ。そうだ、他にも誰かを誘お……」

『みんなにも連絡したけど用事があるから無理だってさ! 残念残念!』

 今度は喰って掛かるかのような即答だった。

 なんとなく、また嘘をついているような気配がするけれど、さして気にするほどのことでもないか。

「来れないなら、しょうがないね。元々、映画なんて集団で見る意味もあんまないし、良いんじゃない? 二人で行っちゃおうか」

「うん、行こう! 二人で!」

 なぜ「二人」を強調する?

 毎度几帳面にツッコミを入れるのも面倒なので、そのまま集合場所と時間を決めて、電話を切った。

 ふむ。何だかここ最近、リンの様子がちょっとおかしい。やけに一喜一憂が激しくなったような――――特に私に関わることでそれが感じられる。エイプリルフールでの嘘が効き過ぎたのだろうか。あれは確かに嘘が許される日にしてもタチの悪い嘘だったからな。

 明日は、ちょっとしたお詫びを企んでみよう。


 

 ほいっ、次の日。集合場所は駅前の時計塔の前。時間は九時集合なので、十五分前の四十五分に着く電車で来た。ここら辺は運動部の習性なんだろう――少し来るのが早かったかと思いきや、あにはからんや、リンがすでに到着していた。

「おはよう、リン。ごめん。待った?」

「おはよう、ユウキっ。私も今来たとこ」

「嘘つけ。今来たとこなら、私と一緒の電車で来ただろうに」

 そして、今日のリンの気合の入った服装。淡い黄色のシャツの上にオレンジ色のカーディガン、下はゆるふわのワンピース。お前はデートにでも行くのかと、言いたくなる。

「あんた服装気合入ってるね。これからデートにでも行くのかよ」

 本当に言ってみた。ら、ボッと赤面し、両手で顔をハタハタと煽ぎ出した。乙女の前でそんな乙女な反応をしなくても良かろうに。

「そ、そう言うユウキだって、オシャレだと思うよ。とても」

「ふふん、まあね。部屋着以外じゃあ学校の制服か部活ジャージしか着てないし、たまにはさ」

 ちなみに私の服装は、オフショルダーシャツにスキニーパンツ。馬子にも衣裳と言いたきゃ言うがいい。

「そんなことない! ユウキ、とっても似合ってる。多分、見た人が八人いたらその内の七人は見惚れる」

 噓つきリンちゃんにしては優しい嘘だったので、私は、気分よく機嫌よく映画館の方へと足を向けた――隣を歩くリンがちらちらと私の手元を気にしているのを横目で見ながら。


 

 さすがはゴールデンウィーク、まだ早い時間ながらも映画館内はすでに混み合い始めていたのだが、二人揃って早い時間に到着したため、早い順番で手際良く学生証を葵の紋所のようにかざして券をゲット、ポップコーンとジュースも買って、私たちは劇場内に這入った。久方ぶりの劇場内に、「なかなか良い席取れたよなあ」「映画館の席と席って、意外と近いね」と感想を言い合っている内に照明が天井に吸い込まれるようにして消えていく。せっかくお金を払ってまで来たのだから、寝ないようにしなければ。


 

 ダメだった。睡魔に負けてしまった。暗い部屋って、眠りを誘うよね。ばつの悪さを感じながら隣のリンに目をやると、リンはものすごく穏やかな目をこちらに向けていた。

「なにさ」

「んーん。ユウキ、ぐっすり寝てたなあと思って」

「気づいてたなら、起こしてよ。千円近く無駄になっちゃったじゃん」

「ごめん。だって、本当によく寝てたから起こし辛かったんだもん。映画、どんな話だったか聞きたい?」

「うーん………………、やめとく。来年あたりの金曜ロードショーに期待するわ」

 やれやれだぜ。映画では損した気分になってしまったが、映画が面白かったのか、リンはご機嫌な様子なので、スムーズにプランを発動できそうだ。

「「あのさ、リン(ユウキ)」」

 ハモっていることに気付かずに、私たちはそのまま全く同じタイミングで次のように言った。

「「お昼ごはんなんだけど、これから『リリィ』で食べない?」」


 

 『リリィ』とは、駅から北にしばらく歩いたところにある小さな喫茶店である。あまりにオシャレな店なので男性客は一人では這入り辛そうな雰囲気で、私たちJKも普段はあまり行かないような店なのだけれど、昨日の夕方に見たこの店のチラシの左側曰く、創業二十周年記念でランチメニューが半額なのだそうだ。思い切ったことをしたものだ。そこでせっかくなので、リンを誘って一緒に行ってみようと私は画策したのだが、どうやらリンも私と同じことを考えていたらしい。サプライズには欠けるけれど、まあ良いか。

「ユ、ユウキも⁉ …………でも、ユウキはどうせランチの方なんだろうな……」

 とか何とか、リンの反応は微妙なものであったが。

 ともあれ、『リリィ』に着いた私たちはテーブル席に腰を落ち着けて、ランチを注文した。お昼時でしかもチラシを配っていたにもかかわらず、客の入りはまばらだった。私たちのほかには、二組の男女のカップルしかいない――なるほど、ここは恋人たちが来るのになかなか良い雰囲気の店であるのかもしれない。

「どうした、リン。あのリア充な方々が気になんの?」

「ううん。料理が……、」

「ああ、あのハンバーグ美味しそうだよね。あっちにしても良かったかも」

「そっちでもない!」

「じゃあ、どっちなのさ?」

「知らない!」

「なーに、怒ってんの?」

「怒ってない!」

「嘘つけ。噓つきリンちゃんには、こうしちゃうぞー、うりうり~」

 私はリンのほっぺたをつまんで、遊び始めた。

 おーおー、ちっこい顔の癖に良く伸びること。

「うりうり~♪ うりうり~♪」

「うぅ~、やめへぉ~」

 赤らめた頬のまま抗議してくる――何故か手は出してこないが――リンを見て、何だか思った以上に楽しくなっていると、注文したランチが来た。

 お遊戯終了。


 

 私が注文したのはAランチ。メインがオムライスでサラダ、コーヒーと食後のデザートもついたややボリューミィなセット。ちょっとお腹が空いてたし、まだお昼だからこれぐらい食べても良かろう。

 一方、リンが注文したのはDランチ。メインがサンドイッチで、サラダとレモンスカッシュなどがついた、私に比べてボリュームも値段も軽めなセットである。

「「いただきます」」

 オムライスをスプーンで一掬い。ふわふわの卵に、多分何か隠し味が入っている感じのチキンライス。これは美味しい。リンのサンドイッチも食べている表情からして、なかなか美味しそうである。

 隣の芝生は青く見える。

「リン、そっちのサンドイッチ一口ちょうだい」

 私がそう聞くと、リンはなぜか固まった。

「え、ダメだった?」

「全然! ぜんぜんぜんぜんぜんぜんぜん!」

「ぜん一個多くない?」

「全然!」

 ともあれ、リンのサンドイッチを一口頂いた。うむ、こちらも美味しい。マスタードの加減が良い。

「こっちのオムライスも食べる?」

 頂くだけじゃ悪いから、というより美味しさをリンと共有したくて、私はスプーンにオムライス一口分を載せてリンに差し出した。

「うぇえ⁉ こ、これってアーンってこと⁉」

 リンちゃん、謎の驚愕。

「どしたの? 食べない?」

「い、いや、いただきます!」

 リンはおずおずとスプーンを口に含んだ。

一体、何をそんなに緊張しているのやら。

 とかいう感じで私たちはランチを食べ終えた。また、行きたいと思えるほどに満足できた。そろそろ帰ろうかと思った時、

「ユウキ、わたしデザート食べようと思うの!」

 何か強い決意をしたかのような様子で言うリン。

「食べればいいじゃん。私待ってるよ」

「一緒に食べよう!」

「え、私は良いよ。ランチにデザートついてたし」

「一品をシェアするだけだから!」

「でも、やめとく。一人で頼みなよ」

「一人じゃダメだから!」

「何がダメなのさ?」

「え⁉ あー、えーと、その…………」

 結局、リンはデザートを頼まなかった。別に、食べてるのを待つくらい良かったのに。



 その後はショッピングモールでウィンドウショッピングを楽しみ、夕方になったあたりで今度は二人で電車に乗って帰り、リンの家の前で別れた。

「じゃあ、また明日」

明日からは共にまた部活に精を出すとしよう。


 

 夕飯を食べた後に連休中の課題を少し進めて、他にやることも特にないので、お風呂に入って今日は早めに眠ってしまおうと、私はベッドの中に入った。

 私もリンも今日はとても楽しかった。ごろ寝していては決してできなかった、精神的なリフレッシュだ。

 しかし、リンに対する四月のことの埋め合わせはできたのだろうか。たまたま『リリィ』のチラシを見つけたので一緒に行こうと誘ったのだけれど、リンの反応は微妙なものだった。奢った方が良かったのかな?

 それにしても、店の中にカップルが目立ったのは、多分チラシの右側に書いてあったアレのせいだろう。

「カップル限定、カップル向けデザートを無料でサービス」

 リンもチラシを見ていたようだし、もしかしてアレを食べたかったのだろうか、なんてね。

流石に、そんなわけないよな。

 男女だったら今日はデートっぽかったかも、とか与太なことを考えながら、私は意識を手放した。


 3話以降は更新がやや遅れてしまうかもしれませんが、ご容赦のほどをよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] リンちゃんがとても可愛らしくて、私までときめきました、、!!♪ ユウキちゃんは、ボーイッシュな感じなのですかね、、!! 女の子という感じがして、リンちゃん彼女に欲しい!という気持ちになりま…
2020/09/22 19:35 退会済み
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