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開発だにゃ

 村人が落ち着いたところで、ニコルが彼らに、商人ギルドとして海産物の買い付けを行いたいとの説明を始めた。村人たちのうち、漁師であろう男どもがニコルの周りに集まる。

 大地竜ランドドラゴンのらーちんはそのままのサイズで日向ぼっこを始めてしまった。そこに興味と恐怖をない交ぜにした子どもたちが恐る恐る近づく。薄目を開けるらーちんにびびる子供たち、が、キャティが手招きをして子供たちを呼ぶ。

「大丈夫にゃ、ちょっと登ってみるにゃ」

 子供たちが近づいても全く動じないらーちん。恐る恐る近づいた子供たちが手を触れても微動だにしない。こうして、守護竜と子供たちの交流が始められた。

 フラウと五郎は、集落を一通り回る。彼らが見つけたのはエビの頭や、小魚を干したもの。普段ワーランでは淡水性の手長エビなどを調理している2人は、海水性のエビが醸し出す強い風味が気になって仕方がない。

 エリスとクレアは、北の断崖から砂浜、南の磯と一周し、それぞれの様子を把握する。また、海と集落の間にある岩場も念のため回ってみる。ひそひそと打ち合わせをするエリスとクレア。

 レーヴェは砂浜でマリアの日光浴につきあわされている。なんとマリアさん、自身とレーヴェの水着とパラソル、ビーチチェアをご丁寧にも用意していた。

「なあマリア、私たちだけこんなことをしていてもいいのか?」

 気まずそうにレーヴェがマリアに話しかけると、マリアは笑顔を浮かべながらレーヴェに答えた。

「これもエリスの計画の内ですわ。まずはたっぷり日光を浴びてから、後ほどエリスに報告しましょう」

 いったい何を報告するのだろうと疑問に思うレーヴェだったが、こうなったら仕方がない。自身も日光浴を楽しむことにした。


 そして数刻後。

 ニコルが行っていた魚の買い付けについては、一旦彼がワーラン商人ギルド食品部門の料理人たちを村に連れてくることとなった。というのは、予想よりも様々な海産物が獲れるとわかったため。

 同時にフラウと五郎が、これまでは天日干しだけだった小魚を、煮干しとして本格的に生産するように提案する。煮干しならば数日は十分に持つし、出汁としての価値が非常に高いので、換金商品として期待できる。

 そして本日の目玉商品はこれ。

 十分に日向ぼっこをしたらーちんの背に乗り、エリスとクレアが皆を先導する。向かったのは村の裏手に広がる岩場。

「エリス、この辺りが期待できるよ」

「わかったわ、クレア。ところでキャティ、この辺は特に持ち主はいないって言っていたわよね」

「うん、それはとーちゃんに確認したにゃ」

「じゃ、らーちん、いくわよ」

 何が始まるのだろうと騒然とするギャティスをはじめとする村人とマリアたち。

 エリスはシェアサイトでらーちんと視界を共有。ロックオンで、岩場の中央を目標に定めた。

「やさしくよ、らーちん」

「了解、エリスちん」

 エリスは火山召喚サモンボルケーノを解放する。徐々に盛り上がる岩場。そして岩が砕け、何かが噴き出した。

 そう、それは温泉。

 岩場が火山質の岩だということはエリスもクレアもわかった。多分北方の火山からの延長。ならば温泉もあるはずと当たりをつけ、ごくごく弱くサモンボルケーノを唱えた結果、水脈がマグマに押し出され、ここに湧きあがったということ。

 湯は徐々に岩場に溜まっていく。その様子をじっくりと見ているクレア。そして手を湯に差し入れ、温度を確認。次に湯を舐め、成分も確認。

「大丈夫だよエリス。淡水のお湯だよ」

 そうしている間にも岩場にたまっていく温泉。エリスとらーちんは別の場所に移動し、もう一か所温泉を噴出させた。そしてエリスはらーちんをラブリーサイズにし、村人たちに声をかける。

「皆さん、これが温泉です。試してみてくださいね」

 わっと駆け寄る村人たち、各々がお湯に手を差し入れ、その温度を楽しんでいる。

 一方、マリアとギャティスの3人でその場から離れ、今後の計画についての最終確認を始める。

 まずは領地問題。この村がマルスフィールドやウィートグレイスなどの領土だと、今後の開発に支障が出る。が、これはギャティスが自嘲気味に説明した。この村は捨てられた村だと。

 ならばワーランの一部として主張できる。今後ここで発生した売上については、商人ギルドを通じてワーラン評議会が王家に直接税金を納めれば問題ないだろう。

 次に「漁業」を食物生産活動と認識するかどうか。食物生産活動だとすると、食物生産を禁じられている貿易都市ワーランでは取り扱うことができない。が、これも生産品全てをワーランで消費するのであれば、元々ワーランでは他都市からの海産物の買い付け行為自体がほとんど行われていないので問題なし。そもそも「漁」という行為をを「生産」とするかどうかがグレーゾーンだとのこと。煮干しなどは「加工品」なので問題なし。これで王家や諸貴族との問題は解決できる。

 さらに開発計画。この村に何らかの名前を付け、リゾート地として再開発を行うというのがエリスの考え。

「マリアさま、レーヴェ、日光浴はいかがでした?」

「最高だったわ、エリス。唯一心配だったのは日光浴後の入浴でしたけど、これも温泉で解決ですね」

 と、マリアが機嫌よく答えた。その横でひたすら頷くレーヴェ。

 クレアが続ける。

「宿泊施設、レストラン、ビーチチェアなどの貸出、日光浴客への飲み物の提供、温泉を囲む建物と付帯施設。これくらいでいいかな。これなら村の女性たちを雇用することで十分回ると思うよ」

 するとフラウも続けた。

「生のエビや貝などはワーランまで持ちませんから、ここのレストランの名物にしてしまえばいいのですよ」

 そこに五郎が桶を運んでくる。中にあるのは大量の一枚貝。

「あそこの岩場で獲ってきたものである。試してみるといい」

 そう言うと、五郎は短刀できれいに貝殻から身を外し、海水で洗ってから皆に配る。そのとろっとした旨さに驚くエリスたち。確かにこれはここでなければ食べられない。その様子を不思議そうな顔で眺める村人たち。彼らにとっては当たり前の食材だったから。

 最後にマリアが話をまとめる。

 この村の開発は商人ギルドが行うこと、ギャティスたち村人は、希望者を優先的に各施設で雇用すること。また、おいおい商人ギルドに加盟することによって、自ら出店する道も用意するということ。

 歓声に沸く村人たち。捨てられた村に、突然の明るい未来がやってきたのだから無理もない。

「とーちゃん、これで私の勘当を解いてくれるかにゃ」

「仕方がねえ、お前らは村の恩人だぎゃ」

 どうもキャティは、父親とけんかをして家出をしてきたというのが真相らしい。父娘が仲直りできたのも良かったことなのだろう。

「ならとーちゃん、これやるから、マリアさんやニコルさんのアドバイスを受けてうまく使うにゃ。賭博には使うにゃよ」

 キャティがギャティスに差し出したのは、1億リルの冒険者ギルド為替。その金額に腰を抜かすギャティス。その様子を覗き込みながら、店を持つ第一号は村長さんですねと笑顔で口をはさむニコル。

 こうして、村中が幸せ感に包まれる中、エリスとマリアが皆から離れ、最後の交渉を始めた。

「温泉入浴料売上の10%および、海産物の販売を除く全ての施設売上の10%」エリスがマリアに囁く。

「温泉入浴料売上10%は仕方ないわね。その他については、フラウをレストランの顧問として顧問料を売上の10%。他の施設は譲れないわよ」マリアがエリスに返事をする。

「ならばこうしましょう。施設の設計は全てクレア設計事務所が担当。温泉入浴料売上はエリスファイナンスに対し10%支払い、レストランの顧問料は税金レストラン持ちでの10%を、フラウに支払いで決まり」

 皆に見えないように固く握手を交わすマリアとエリス。さすが商売人同士。


 一通り話が終わり、帰り支度をしているエリスたちに、村の老婆が声を掛けてきた。

「竜と共に生きる娘さんたちよ、お主らは暴風竜の物語は知っておるかの?」

 それは神魔戦争時に、勇者や魔王に制約を受けるのを良しとしない1匹の竜が、大陸のどこかで今も息をひそめているというもの。らーちんも暴風竜の存在を知っていた。

 老婆は続ける。その竜はこの村から南、ウィートグレイスの漁村をさらに越えた南の果てに隠れているらしいと、その漁村でまことしやかに伝えられているのだと。そしてそこも数十年誰も訪れていない場所だと。

 にやりと笑うエリス。勇者や魔王の戦力はできるだけ削りたい。ダメもとで一度調査してみる価値はある。

「おばあさん、ありがとう」

 笑顔で老婆に手を振りエリス。そして4人とらーちんに提案する。

「暴風竜とやらも、仲間にしちゃいましょう」

 いまいち不服そうならーちんと、悪魔の笑顔を浮かべる4人。

 それは、次の遊びが決まった瞬間であった。


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