ドラゴンですって
たおやかな金髪を肩までのストレートに流し、エメラルド色の瞳と桜色の唇を持つ少女。その裸体は透き通るように白く、胸にもささやかな桜色が2つ。
やわらかな純白の髪に包まれ、灰色の刺すような目線と小さめの唇から覗く牙を持つ乙女。その裸体はしなやかに鍛え上げられており、整った胸に、髪と同様の純白で隠された秘部。
そんな2人の乙女がその美しい裸体を惜しげも無く晒している。そしてそれぞれの美しい唇から洩れることば。
「あんまり 乳首が 擦れるので ブラジャー してみたら 浮いちゃった それぱいぱい!」
「ギャハハハハ!」歌いながら大笑いのエリスとキャティ。
「ひどいよ! 二人とも!」と、怒っているのはクレア。
「なんで怒るにゃ? さてはこないだ買ったブラのサイズが合ってないにゃ?」
猫娘が黒髪の少女を挑発する。
「クレア、浮きブラから覗く胸は、一部のマニアさんにとっては垂涎ものだから、おかずにされないように気をつけるのよ!」
注意しているのか、からかっているのかわからないエリス-エージがひどいことを口走る。
その横では、半身浴でひたすら汗を流す紅髪のフラウと、他人の歌なんか聞かずに、次は何を歌おうかと真剣に悩んでいる碧髪のレーヴェ。
ここは百合の庭園の大浴場。営業終了後は5人が独占して使用している場。
紳士街と交わる町が順調に営業を始めた中、現在は交わる町の裏と、百合の庭園のさらに郊外に広がる平野で、第二期工事が始まっている。
それらはクレアが設計した集合住宅を中心とした新興住宅地。
評議会では、紳士街を開発している際に、観光客用の宿泊施設増設も検討された。
そこで決議されたのは、街中のアパートメントを再開発し、ホテルとして機能させること。
それに先行して、アパートメントに居住する人々の住居を郊外に移すこと。
アパートメントの主な住人は、商業施設で働く者たち。百合の庭園、紳士街、交わる街と立て続けに観光・商業施設が整備されたため、彼らが住む場所も不足している現状を解決するための計画でもある。
集合住宅の所有者はエリスファイナンス。なお、各ギルドから文句を言わせないため、市中のホテルについては所有者を商人ギルドとした。また、工房ギルドはクロスタウンに金物・小物の直営店を出店。郊外には資材置き場を建設し、集合住宅の一部を工房ギルド若手の住宅として設置・管理することにする。
ちなみに、めでたく工房ギルド所属となった「8本足で荒れ地もへっちゃらなので、整地も運搬もお任せのモゲモゲくん1号改」は、「トランスポート・スパイダー」略して「TSくん」という新たな名を付けられ、現場で大活躍している。
冒険者ギルドは各街をつなぐ公共馬車の運営をさらに拡大し管理する。同時に警備体制も商人ギルドからの交付金で整える。
盗賊ギルドは既に紳士街で大きな利権を確保しているので、今回は黙っている。
全てのギルドをウィン-ウィン関係にしておけば文句はどこからも出ない。住宅街の面々も、家族が働ける場が増えるのは良いこと。ちなみにご主人様の隠れ家でのゲームアシスタントは、地元の娘たちにとって憧れの職業となった。
「さて、そろそろ出ましょうか」
半泣きになっているクレアをなだめながら、エリスたちは風呂を後にした。
ブヒヒヒヒ
「エリス、ひどいよ、あんなこと言って!」
「大丈夫よクレア、これから私が少しずつ大きくしてあげるわ」
「約束だよ、毎日だよ!」
あ、そんな強く、ああん……。
「クレアの半泣き、最高だったにゃ!」
「そういう悪い猫は、私が泣かせてあげるわ」
「そこはだめにゃ、許してほしいにゃ!」
にゃうにゃう……にゃ…にゃあん…。
「私はこれ以上大きくなってしまっては困りますわ」
「じゃあ、もう可愛がるのやめようかな」
「ごめんなさい、お願いですからこの豚女をいじめてください」
ああ、ごめんなさい、ああ、ああ……。
「ところであなた、私たちの歌を聞いていなかったわね」
「う、すまない。夢中になってしまったんだ」
「じゃあ別のことでも夢中にさせてあげる」
うっ……。はあ……。あ、あああ……。
さわやかな朝が来た。
今日の朝食は魚の切り身をさっと焼いたもの。
そこでエリス-エージは気づいた。
「魚って、どこで獲ってくるのかしら」
それに答えたのはキャティ。
「ワーランの魚は、ほとんど東に広がる湖と川で採れるものにゃ。マルスフィールドとウィートグレイスなら、海の魚も食べられるにゃ」
確かにそうだ。何気なく食べていたが、ワーランでは淡水魚ばかりだった。
「海ってどこにあるの?」
「マルスフィールドの西、ウィートグレイスの西に漁村があるにゃ。馬車で半日くらいだから海の魚も運べるにゃ。ワーランの西にも漁村はあるけど、直通の街道がないにゃ」
ふーん。
「その漁村にはどうやっていくの?」
「マルスフィールド経由か、ウィートグレイス経由になるにゃ。どちらからも距離があるから、その漁村は貧しいにゃ」
「なぜ直通の街道がないの?」
「間の丘に、やばい怪物が棲んでるからだにゃ」
「やばい怪物って?」
「大地竜だにゃ」
「どれくらいやばいの?」
「上位迷宮に出てくるラスボスくらいやばいにゃ」
……。
おずおずとフラウが手を挙げる。
「もしかしてですけど、上位迷宮くらいのやばさなら、私たちで何とかなりません?」
……。
「そういえばそうだな」
レーヴェが同調する。
……。
「今のボクたちなら勝てるかも」
クレアも頷く。
するとキャティが目を輝かせた。
「そうにゃ、退治しちゃえばいいにゃ! そしたらあの村も裕福になるにゃ!」
……。
「とりあえず、大地竜とやらの情報集めね」
エリスはこの話にいったん幕を引く。ヒキニートは、リスキーな勝負はしたくないから。
まずは商人ギルドに向かうエリス。ここでエリスはワーランでの海水魚需要を探った。マリアが言うには、これまでは淡水魚でだけで十分だったが、今後観光展開をしていくのであれば、海産物の需要も伸びるはずと。
次に向かったのは冒険者ギルド。ここでは大地竜についての情報を集める。大地竜とは、50ビート(5メートル)ほどの、トカゲ型の魔獣。強固な鱗は並の剣では通用しない。尾には神経性の毒を持ち、獲物を痺れさせてから、装備ごと丸のみにするという。
装備ごと丸のみという点にエリスが疑問を持つ。もしかしたらぴーたんと同様に、捕食のために獲物を狩るのではなく、嗜好としてそうした行動に出ているのではないかと。それならば大地竜を天敵とする生物はいないはず。ならば退治しても食物連鎖に影響を与えることもない。
最後に訪れたのは盗賊ギルド。ここでは、西の漁村とワーランが街道でつながれた際の影響について確認する。マスターの回答は問題なし。
盗賊ギルドマスターのバルティスが豪快に笑う。
「またお前ら何か画策してるな? まあいい、お前らの持つ武器なら十分に大地竜に通用するだろうよ。情報操作は適当にしておくから、まあ適当に退治してこい。大地竜を倒したら適当に捌いて持ってきな」
エリスが盗賊ギルドに依頼したのは、自分たちが大地竜退治を行うことを隠すための情報操作。自分たちの武力が知れ渡るのはまずいと判断したから。それはバルティスも同様の意見だった。
「というわけで、いっちょドラゴン退治に行くわよ」
エリスの宣言に4人が沸き立つ。
特に喜んでいるのはキャティ。
「うれしいにゃ! うれしいにゃ!エリス、ありがとうにゃ!」
エリスはキャティの異常な喜び方に疑問を持つ。
「何でそんなにうれしいの? キャティ」
「西の漁村には、私の実家があるにゃ!」
「そういう大事なことは、最初に言いなさい!」
こいつは相変わらずのボケ猫だった。
そして彼女たちは、旅の準備を始める。向かうは西の丘陵地帯。獲物はドラゴンさん!