ホモVSゲイ
ここはご主人様の隠れ家。紳士と淑女の出会いの場。
ところが最近、ややこしい問題が発生してしまった。客と客との間や、客と店員の間でトラブルが起きるようになってしまったのだ。
男女の話やゲームでの話ならば、用心棒たちやマルゲリータ、最後は盗賊ギルドマスターの登場で何とでもなる。
ところが今回のトラブルは、そういうわけには行かなかった。
「エリスお嬢さま、いるかい?」
エリスたちの自宅を訪れたのはマルゲリータ姐さん。ちょうどエリスたちも昼食を終え、これから何をして遊ぼうか算段を始めるところ。
「あら、珍しいわね、マルゲリータ姐さん。お店の方はいかが?」
エリスがマルゲリータを出迎え、リビングに案内しながら問いかける。
「売上の方は順調なんだけどね、最近私達の手に負えないトラブルが起きるようになっちまったのさ。今日はその相談。エリスお嬢さまの知恵を借りに来たんだよ」
マルゲリータの言葉に興味津々の5人。
マルゲリータの話の内容はこう。
最近、ライブハウスでのイベント効果なのか、店にノブヒコたちやラモンたちを目的に訪れる客も増えてきた。
客層はもちろんガチホモとファッショナブルゲイ。一部腐った女性方もいるらしいが。
で、問題なのが、彼らが色々と自己主張を店内で始めること。
うっとうしいのはゲイの方。
ガチホモ共に「醜い」「キモイ」などと、自分たちを棚に上げて侮蔑の言葉を吐いたり、店の女性たちにも「女は汚い」などとけなしたりする。挙句の果てには伊達者の楽園に男性部門がないのは男性差別だと騒ぎ出す。
こいつらはラモン達が逐一責任をもって追い出しているが、正直イタチごっこ。
一方のガチホモも、普段はおとなしいのだが、酒が入ると店の女性たちに絡みだす。やれ、女性がたくましい男性に惚れるのと同様に、我らもたくましい男性に惚れるのだとか、ファッショナブルゲイは所詮女性の真似にすぎないだとか、ちょっとここで服を脱いでみてもいいかと言い出したりなどと、面倒なこと、この上ない。
こいつらもノブヒコ達が頃合いを見て追っ払うのだが、こちらも同様にイタチごっこ。
「ふーん」
エリスは考える。確かにゲイ共の「男性差別」というのも理解できる。が、正直あの店がガチホモやゲイで埋まるのは気持ち悪いことこの上ないし、レーヴェがゲームルームに通えなくなってしまう。
「わかった、バルティスおじさまとマリアおばさまに相談してみるね」
エリスはマルゲリータにそう伝えると、早速とばかりに出かける準備を始める。
まずは盗賊ギルドのバルティスおじさま。
「というわけなんですけど、進めてもいいかしら、おじさま」
「おお、所属のメンバーを増やすのは構わんぞ。しかし気持ち悪い話だな。さすがの俺もガチホモとゲイが考えることはわからん」
次は商人ギルドのマリアおばさま。
「というわけなんですけど、ニコルさんと一郎さんをちょっとお借りしてもいいかしら」
「おばさまは余計です。でも、そういう話でしたら私も協力します。ただし、レーヴェさまが私にワーランナンバーズのコツをお教えくださるのが条件ですよ」
「わかりましたわ。マリアさま」
続けてマリアはゲイのニコルとガチホモの一郎を呼んでくれた。
エリスはニコルと一郎に計画の内容を説明する。頷く2人。
「次はクレアとフリントおじさまのところね」
エリスは一旦家に戻りクレアを探したが、クレアは既に工房ギルドに向かっていた。最近クレアは工房ギルドに通い詰めている。まあ、エリスにはなんとなく理由はわかっているのだが。
そのまま工房ギルドに踵を返すエリス。クレアは鍛冶職人と何やらごにょごにょやっていた。
「クレア、お楽しみのところ申し訳ないけど、さっきのマルゲリータ姐さんの件、ちょっと協力してくれないかしら」
「わかった、今行くよ」
そしてエリスはクレアを伴い、フリントのところに赴く。
「というわけなんですけど、お願いしてもいいかしら」
「そうじゃの。ならば一度現場を確認するかの」
「そうだね親方。改造で済むかもしれないし」
3人は意見交換をし、計画が開始された。
十数日後、紳士街に、異様な集団が現れた。
片方は白褌一丁の、むさいおっさん集団。もう片方は上半身裸でぴっちりしたレザーパンツを履いた、むさいおっさん集団。
そして野次馬が十分集まったところで、彼らは一斉に声を上げた。
白褌集団が叫ぶ。
「本日より、栄光あるガチホモ居酒屋『蘇民屋』の営業を開始する。なお、今日のゲストはノブヒコさんだ」
レザーパンツ集団も負けじと叫ぶ。
「今日から待望のファッショナブルゲイスポット『マーキュリーズ・バ-』の営業を開始します。今日はゲストにストーンウォールズのラモン氏をお招きしております」
そう、エリスのアイデアは、ガチホモとゲイを隔離し、そこでばんばんリルを使わせること。
この集団は、ニコルと一郎たちの伝で集めた真性のガチホモとゲイたち。さすがガチホモだけあって、腕の良い料理人も集まった。また、ゲイにもソムリエやバーテンダーが揃っている。
仕入れは全て商人ギルドから。店の経営は他店と同様に盗賊ギルドが行い、管理はノブヒコとラモンがマルゲリータ直属の部下としてそれぞれ行う。従業員は各店の直接雇用。
今回集まったメンバーの何人かは、ノブヒコたちの穴埋めとしてご主人様の隠れ家の用心棒などに充てる。
そして、ここで突然ニコルと一郎がキモイ提案をエリスに持ちだした。
「ゲームルームでは、アシスタントたちは客との恋愛禁止だが、こちらの2店では従業員と客との恋愛は禁止させたくない。エリス、いかがなものだろう」
うえっぷ。
エリスは各店で展開されるであろう惨状もとい営業を想像し、思わず吐き気をもよおした。
吐き気をこらえながらエリスは答える。
「自由恋愛でも何でも好きにして。でも、私達の前には現れないでね」
さあ、男性差別もこれで解決。「蘇民屋」と「マーキュリーズ・バー」堂々の開店です。
その晩、エリスたちは連れ立って紳士街を訪れた。
いつにも増して活気を帯びている町並み。
まずは隠れ家へ足を向ける5人。そこではマルゲリータ自らが5人を迎えてくれた。
「エリスお嬢さま。今回は助かったよ。それに街全体の売上も伸びたしね。感謝の言葉もないよ」
「そう、よかったわ、それじゃ、ちょっと様子を見てこようかしら」
するとレーヴェが深刻な表情でエリスに懇願する。
「お嬢、私はゲームルームで留守番していることにする。すまん、想像しただけで吐き気がする」
するとフラウも続けた。
「私もホモとゲイには興味ありませんので、こちらでお酒を嗜んでいますね」
「わかったわ、それじゃ3人で行ってくるね」
エリスはクレアとキャティを連れ、蘇民屋とマーキュリーズ・バーに向かう。
まずは蘇民屋。
店外まで響き渡る「オッスオッス」の連呼。
エリスが引き戸を開けると、目に染みる漢臭さを纏う、褌一丁の男たちで店は占拠されていた。
うえっぷ。
すぐに引き戸を閉めるエリス。続けてクレアとキャティも覗く。
うえっぷ。うえっぷ。
「何か、見てはいけないものを見た気がするよ」
「お客さんの中に女性もいたにゃ、女性のお変態さんだにゃ」
彼女たちは二度と蘇民屋に近づかないことを決意した。
次にマーキュリーズ・バー。
こちらは静かなもの。
エリスが扉を引いて中を覗くと、猛烈な煙草の匂いと、肌を密着させて語らう男ども。
ぞくぞくっ。エリスは悪寒がした。
すぐに扉を締めるエリス。続けてクレアとキャティも覗く。
ぞくぞくっ。ぞくぞくっ。
「お変態さんの世界って、深いね」
「なぜ女性が混じってるんにゃ。なぜうっとりと眺めているんにゃ?」
彼女たちは二度とマーキュリーズ・バーに近づかないことを決意した。
「帰ろっか」
エリスはクレアとキャティを伴い、激しく後悔しながら2店を後にする。
その晩、エリスVSクレアとエリスVSキャティが異常に盛り上がったのは言うまでもない。
後悔するレーヴェとフラウ。
まあ、仕方がないですね。見た者勝ちということです。
こうしてワーランの夜は更けていく。




