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Lady Bluegreen VS Rosen Daemon

 その日、レーヴェは他の4人とは別行動を取った。

 理由は、ご主人様の隠れ家マスターズハイダウェイに、薔薇色悪魔ローゼンデーモンが来店したとの連絡があったから。

 まあ、実はそれは建前で、本音を言うと格闘興行を観戦に行きたくなかったからなのだけど。

「さて、店の女性たちとは衣装が被らないようにせねばならないな」

 レーヴェは、ファンからプレゼントされた衣装を並べ、どれにしようか思案する。

「これにしておくか」

 彼女が選んだのは、葡萄酒色ワインレッドのジャケットにブラックのパンツ。インナーブラウスもブラック。胸にはマルスフィールドで購入した藍晶石カイヤナイトのブローチ。

「さてと、それでは留守番を頼むぞ、ぴーたん」

 ぴー。

 レーヴェはぴーたんの頭をひとなでしてから、ご主人様の隠れ家マスターズハイダウェイに向かった。

 門番ベルボーイのカズオが、「いらっしゃいませ」ではなく、あえて敬意を表して「うっす」とレーヴェを迎える。本日はカズオだけ試合がないので、彼が冒険者ギルドの若手達を、店内の用心棒バウンサー他としてコントロールしている。

 カズオの敬意に右手を挙げて答え、入店するレーヴェ。

「あ、レーヴェさま、いらっしゃいませ!」

 受付嬢が立ち上がってレーヴェを迎える。

 彼女もレーヴェたちワーランの宝石箱ジュエルボックスオブワーランが、この街の重鎮であり、自分たちの味方であることをよくわかっている。

「ああ、そのままでいい、ところで、来ているそうだな」

「ええ、先ほど麦わら帽子さまと薔薇色悪魔ローゼンデーモンさまがご一緒に来店され、麦わら帽子さまはマルゲリータさまと格闘の観戦にお出かけになりました」

 レーヴェは受付嬢の報告に頷くと、とりあえず10万リルをチップに替え、ゲームルームへと向かう。

「いらっしゃいませ、レーヴェさま」

「いらっしゃいませ、レーヴェさま」

 ブラックドレスの女性たちが、次々と彼女に挨拶をする。バールームの男たちの視線も、自然とレーヴェに集まる。

「うっとうしいな」

 男嫌いのレーヴェは、男の視線が苦手。なので、早足でゲームルームへと向かった。

「いらっしゃいませ」

 ゲームルームでレーヴェを迎えたのはマシェリと彼女率いるアシスタントたち。ディーラー席には黒色の髪に陶器のような肌を持つブラックスーツの男性が座り、その横にはマチルダがバンカーとして控えている。

「空いているかな?」

 レーヴェが尋ねると、マシェリが直々にレーヴェを空き席に案内した。そして彼女の耳元で囁く。

「現在ベルルエルさまが、100万リルジャックポット宣言での1セットめ6ゲームめです」

 セット途中からのゲーム参加は、プレイヤーが任意で決められる。レーヴェは現時点でのベルルエルの見せ札の配置をざっと確認し、6ゲームめはケンとした。

「クローズ」

 ベルルエルが優雅に見せ札を移動し、己の手札を開く。

 1人が3倍を的中させたが、他の全員ははずれ。プレイヤーたちは、基本1枚賭けで遊んでいるようだ。

 2セットめ、 彼は親流しを宣言しない。

 レーヴェは最低賭け金の1000リルと場所代を置き、1枚賭けとする。

 ゲームは進行し、レーヴェは3ゲームめで「1」の目で6倍を当てるも、後は外れ。1回の全はずれ(オールフェイリア)もあり、2セットめもベルルエルの1人勝ち。

「それでは3セットめですね。引き続きディーラーを務めさせていただきます」

 これでベルルエルは少なくとも2セット12ゲームはディーラーを務めなければならない。

 レーヴェの眼差しが光る。

 2セットめ

 第1ゲーム。

 ベルルエルがハンカチーフに自分の手札を隠す。

 レーヴェは2枚賭けの上、賭金を上限の1万リルとした。

 ベルルエルの札は「4」

 レーヴェは手札の1枚を開く。それは「4」

 他にも1枚賭けの当たりがいたので、そのまま勝ちが確定。

 レーヴェは1万7000リルを払いだされ、1000リルを後ろのマシェリに指で弾く。

 第2ゲーム

 次もレーヴェは2枚賭けの上、賭金は1万リル。

 ベルルエルの札は「5」

 レーヴェは「5」の手札を開く。

 ここで悪友ノーティフレンズ宣言となり、レーヴェはもう1枚の札を開ける。それは「3」

 他の2枚賭けプレイヤーたちとの悪友は非成立。再びレーヴェに1万7000リルが払い出される。

 そこで初めてベルルエルはレーヴェに目を向けた。

 その瞳に瞳を合わせ、口元だけで微笑みを見せる碧の麗人。薔薇色悪魔も陶器の微笑みで答える。

 3ゲームめ

 レーヴェは1枚賭け、1万リル。

 ベルルエルの札は「5」

 レーヴェの札も「5」

 レーヴェに5万4000リルが払い出され、1000リルチップをマシェリに弾くレーヴェ。

「お強いですね、お嬢さん」

たまらずベルルエルがレーヴェに声をかける。

「いえ、偶然ですよ」と薔薇色に謙遜してみせる碧色。

 4ゲームめ

 レーヴェは2枚賭け 1万リル

 ベルルエルの札は「1」

 レーヴェは「1」の札を返す。

 2枚賭けが他に1名しかいなかったので、悪友は不成立。1万7000リルがレーヴェに払い出される。

 再びレーヴェに目をやるベルルエル。それを無視するかのように後ろのマシェリと談笑するレーヴェ。

 5ゲームめ、6ゲームめは、共にレーヴェは1枚賭け1000リルの最低賭金で外れ。

 ベルルエルは考える。先ほどレーヴェがやってのけた4ゲーム連続的中は、運なのか実力なのか。

「それでは、このセットで親を流しますね。ラストですから、上限5万リルでお受けします」

 負けが混んでいた貴族や商人たちから歓声が上がる。

 ラストセット

 1ゲームめ

 レーヴェは1枚賭け1000リルの最低賭金。

 ベルルエルの札は「2」 レーヴェははずれ。

 1人が2枚賭けで当てるも、他は負け。

 2ゲームめ

 同じくレーヴェは1枚賭け1000リルの最低賭金。

 ベルルエルの札は「1」 これもレーヴェははずれ。

 2ゲームめもトータルでベルルエルの勝利。

 プレイヤーたちの頭に血が上る。

 3ゲームめ

 レーヴェが動く。

 2枚賭け5万リル。

 ベルルエルの手は「2」

 レーヴェは「2」の札を開く。他に2枚賭けがいないので悪友不成立。配当は9万5000リル。

 再びベルルエルの視線がレーヴェに向かうも、彼女はお構いなし。

 4ゲームめ

 レーヴェは再び2枚賭け5万リル。

 ベルルエルの手は「5」

 レーヴェも「5」を開く。再び9万5000リルの配当。

 今回は他のプレイヤーも1枚賭けで「5」を当てており、悪友不成立。

 5ゲームめ

 レーヴェは1枚賭け5万リル。

 ベルルエルの手は再び「5」

 一瞬口元に笑みを浮かべるベルルエル。

 しかし、一息置いてレーヴェが札を返す。これも「5」

 22万リルの配当。

 口元の笑みが消えるベルルエル。

 ラストゲーム。

 レーヴェは再び1枚賭け5万リル。

 ベルルエルは見せ札を移動せず、手札を返す。3回連続の「5」

 ため息をつく場内のプレイヤーたち。1枚当たりが出た目を、まさか3回連続で張ってくるとは予想外だった。

 が、レーヴェは「悪いな」と誰ともなく囁き、札を返す。「5」

 再度22万リルの配当。

 ベルルエルはこの店で初めて、トータル赤字でディーラーを終えることになった。


「お強いですね、お嬢さん」

「なに、偶然です」

 陶器の笑顔で挨拶をするベルルエルに、こちらも口元だけの笑顔で挨拶を返すレーヴェ。

 次のディーラーにレーヴェの右隣でプレイしていた男が名乗りを上げたので、必然的にベルルエルがレーヴェの隣席となった。

「まさか、お嬢さんのような方にやられるとは思ってもおりませんでした」

「勝負は時の運といいますからね」

「よろしければあちらの席で、お召し物と同じ輝きの葡萄酒でもいかがですか?」

「すまないが、私は男性が苦手なんだ」

 そこにマシェリが割って入った。

「お客さま、次のセットが間もなく始まりますよ」

 ベルルエルはちょっと考える。ならば、次は女性の姿で来ようと。

「ああ、私はこれで失礼致しますよ。ところでお嬢さん、不躾ぶしつけで恐縮ですが、その素敵なお召し物はどちらで購入されたのですか? 妹にプレゼントをしてやりたいのですが」

 ほう、とレーヴェは感心する。ベルルエルとやら、実はいいやつなのかもしれない。

「この先に交わる町(クロスタウン)がある。そこのブティックで同じような衣装を扱っていると思う」

「ありがとうお嬢さん、それでは今日はこの辺で失礼致しますね」

 ベルルエルは優雅に立ち上がると、そのまま去っていった。

 表立って喜ぶわけにも行かないマシェリたちは、小さなガッツポーズで彼を見送る。

「さて、私も今日はこの辺にしよう」

 レーヴェも席を立ち、マシェリに5万リルのチップを渡す。

 「これでまたクロスタウンに顔を出してやってくれ」

 「ええ、ありがたく皆でいただきます。レーヴェさま」

 レーヴェも店を後にし、帰宅する。ぴーたんの甲羅でも磨こうと考えながら。

 一方、ベルルエルは教えてもらったブティックで、自分用のパンツスーツやドレスを何着か購入した。

「次は女性型で訪問しましょう。あの娘の泣き顔を是非拝見したいですしね」

 ベルルエルが打ち倒すべき敵は、勇者ではなく、碧の麗人となった。

 闇に笑顔を浮かべるベルルエル。そして彼は魔王との待ち合わせ場所に戻る。

 

 碧の麗人レディ・ブルーグリーン薔薇色悪魔ローゼンデーモンを打ち破ったという噂は、すぐに街に広がり、この日格闘興行を見物に行っていたギルドマスターたち、特にマリアは、その場に同席しなかったことを猛烈に悔しがったという。


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