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二人目の犠牲者

「エリス、ケビンの家はお前が引き継いでおけ」


 盗賊ギルドマスターは、ケビン宅に残された財産は全てエリスが引き継ぐようにとの命令を出した。

 わざわざ『命令』としたのは、そうしておかないと盗賊仲間同士のケビン遺産争奪戦が始まってしまうから。


 本来は掟破りの罪で始末されたメンバーの財産はギルドが所有権を主張する。

 が、ケビンの始末自体はレーヴェが行い、また今回は経緯が経緯なので、ケビンの財産についてはアンガスの香典代わりということなのだろう。

 それ以外に始末されたメンバーの財産は盗賊ギルドに一旦没収され、ギルドメンバー同士の争奪戦が開催されるのである。

 

 翌日からエリスはレーヴェと二人で、ケビン宅の後片付けを始めた。

 すると、そこに盗賊ギルドのキャティがひょっこりと顔を見せる。

 

「お手伝いするにゃ」

 さらにキャティは続けた。

「エリスはこれからどうするつもりなのかにゃ?」


 不意にキャティから出されたその『問いかけ』が突然エリスの頭に渦を巻き起こしていく。

 

 勇者……。魔王……。許せない……。


 エリスーエージは思い出した。

 ああそうだ、俺は嫌がらせをするために転生したんだ。


「レーヴェ、キャティ、勇者とか魔王とか聞いたことある?」

 エリスからの突拍子もない質問に、レーヴェとキャティは互いの顔を見合わせる。


「聞いたことないな」

「聞いたことないにゃ」


 ということは、勇者も魔王もまだこの世界にまだ具現化していない。

 もしくは暗躍しているということなのだろう。

 

 ならば俺がやることは、まずは連中に嫌がらせをするための力をつけること。

 それと、こちらがメインではあるが『下衆』の堪能。

 エリス-エージはワクワクするとともに、不意に自分自身にこう気づいた。

 目的意識を持ったアラサーヒキニートはこんなにポジティブだったんだと。


 ケビンの屋敷を片づけている間に、あちこちから結構なお宝が出てきた。

 その中に魔道具のたぐいはなかったが、宝石やら現金やら高価な装飾品やらが様々な場所に隠されている。

 こうしたお宝の処分を、エリスはキャティにお願いすることにした。


「盗賊ギルド経由だと、手数料で10%いただくにゃ」

「問題ないわ。私たちにはどのみち、処分するすべがないもの」

「賢い判断だにゃ」


 ケビン家の財産を処分したところ、現金で3千万リルほどになった。

 これって、もう働かなくてもいいんじゃね?


 するとレーヴェがその金額に呟いた。

 

「これはまた中途半端な金額だな」

「なんで?」

 そう聞き返すエリスにレーヴェは説明を重ねる。

 

「1千万リルの使い方は容易に想像できる。2千万はその倍。ところがこれが3千万になると、無限の富を手に入れたかのような錯覚さっかくに陥ってしまう。実はたいした金額ではないのだがな」

「へえ」

 エリス-エージは素直に感心した。

 すごいなレーヴェは。さすが没落貴族の娘だと。


「建物はどうするにゃ?」

 これはキャティからの問いかけである。

 

 エリスの自宅は結構広い。

 平屋で寝室が4つ、客間が1つ、数人でくつろげるリビングに六人掛けのテーブルと椅子を備えたダイニング。

 それにキッチン、広めの洗面所と、五人が個室で生活できるスペースが十分にある。

 まあ、今はエリスとレーヴェで1部屋なので、客間を含めて後4部屋空いているのが現状ではあるが。


 ケビン宅の東側と、エリスの家の西側は人一人分くらいの通路で接している。

 南側は街道からすぐの位置である。

 なので互いに北向きへと庭を広げている状況となっている。


 ケビン宅はエリス宅より一回り大きい。

 するとレーヴェはエリスにこう提案した。

 

「余裕があるならその家も押さえとけ、お嬢」

 これはまっとうな意見に聞こえるが、実は新たな住人によりエリスにおかしな虫がつかないための後ろ向きな提案なのである。

 

「キャティ、一度売りに出して金額を評価してもらえることはできる?」

「それは可能だにゃ。提示価格を相場の倍くらいにして、そこから相手の値引き交渉に応じ、最終的に売らなきゃいいにゃ」

「じゃあ、それでお願い」


 その会話にレーヴェは敵が現れる予感が走った。

 エリスは新たな獲物が引っかかる予感がした。

 

 そして二人の予感通り、レーヴェにとっての敵、エリスにとっての獲物が屋敷を訪れたのである。


 それは数日後のこと。

 

「こんにちは、引越しの挨拶に参りました」

 エリスとレーヴェの前に現れたのは冒険者ギルドマスターの娘であるフラウである。

 

「こちらの屋敷を『冒険者ギルドの女子寮』として購入させていただきましたの」

 自慢気にフラウが説明を続ける。

 

 ちなみに冒険者ギルドが盗賊ギルドを通じてエリスに提示した屋敷の購入価格は1億リルなり

 これは相場の3倍ちょっとにあたる。

 正直頭おかしい。


 エリスはレーヴェが反対するにもかかわらず、ケビン宅の売却を決めた。

 それは『購入価格』ではなく『購入者』が気に入ったから。


 すると、フラウの背後から冒険者ギルドのマスターがひょっこりと顔を出した。

「すまんな、こいつがどうしてもというので」


 あきれたような表情で互いに顔を見合わせるエリスとレーヴェに、ギルドマスターが続けていく。

「それで、お願いなんだが、この家を管理するために、あんたらの屋敷にも部屋を貸してもらえないか?」

 父からの何気ない提案にフラウがぴくりとした。


 ふーん。

 

 フラウが一瞬見せた緊張にエリスーエージは嫌らしい笑みを浮かべる。

 エリスはそっとフラウに近づくと、彼女の耳元に向かって小声でささやいた。

 

「それが結論か豚女」

「はい」


 紅の瞳に涙をうっすらと浮かべながら、フラウはエリスに向けて返事を絞り出した。


「わかったわ」

 レーヴェと冒険者ギルドマスターからは見えないようにフラウの耳元にそっとキスをした後、エリスはレーヴェに向かいなおした。

「フラウも私たちの家に住まわせるに決めたわ!」

「何言ってんだお嬢!」


 ぶちきれるレーヴェ。

 それは当然である。

 

 が、今度はレーヴェの耳元に向かってエリスがささやいた。

「もう日は落ちているわよ。この時間に使う言葉は違うのではないかしら?」

 エリスの指摘に硬直してしまうレーヴェ。


「レーヴェ、日が落ちたら何て言うの?」

 エリスからの圧力に圧倒されたレーヴェは彼女に従い、耳元で恥ずかしそうにうめいた。

 

「夜の私はお嬢様の玩具です」

 はい、よく出来ました。


 何事もなかったようにエリスは冒険者ギルドマスターに振り返りると、フラウを受け入れる意思を彼に示した。

「すまんな。家賃はそれなりに支払うから。まあ、俺としてもおかしな野郎がたむろしてところよりは安心できるしな。まあよろしく頼む」


 お父さん、フラウに騙されています。

 確かにここにはおかしな野郎どもはいない。

 が、それ以上に下衆な存在が約一名存在している。

 

 こうしてフラウもエリスの屋敷に同居することになった。


 エリスーエージにも何となくおかしな雰囲気を伝わってくる。

 何かギクシャクしているな。

 

 レーヴェはエリスのことを守る気満々でフラウを常に威嚇しているし、フラウはフラウでレーヴェを気に入らないのとエリスに嫌われたくないのとで混乱状態に陥っている様子である。

 

「レーヴェ、水浴びをしましょう」

「わかったお嬢様。すぐに準備をする」

 エリスの言葉に従い、レーヴェが洗面室に準備に走っていく。

「おいフラウとやら、お嬢様に失礼がないようにな」

 途中でフラウに釘を刺すのも忘れずに。

 

 フラウはリビングにしつらえたローテーブルの一角でかしこまったままである。

 その様子は居心地の悪さというよりも、どこに身を置いてよいのかわからないという不安が垣間見れる。

 

 そうだよね。居場所を見つけるの、大変だよね。

 

 アラサーヒキニート時代のつらい記憶を思い出したエリスは、フラウの手を取ると、客間に案内してあげる。


「今日からこの部屋を使ってね」

 客間はエリスの家では一番上等な部屋である。

 でも、フラウはなんとなく気兼ねしている様子。

 

「失礼でありませんでしたら、エリス様とレーヴェ……、レーヴェ様のお部屋も拝見させていただけないでしょうか?」


 そんなフラウをエリスは気兼ねなく案内してやる。

 勢いで父の部屋も。

 そこはエリスの部屋の隣であり、レーヴェの部屋の反対に位置する部屋。

 

「この部屋ではお許しいただけませんか?」

 フラウはエリスにそう小声で懇願こんがんした。

 

 ふん。

 

 エリスーエージはフラウの魂胆を見ぬいた。

 

「こんな無骨な部屋で良ければいいわよ。明日お父様の形見を片付けるのを手伝ってね」

 エリスはそれなりの優しい言葉を続け、フラウを網に絡めとっていく。

「それでは、この部屋でお願いします」

 桃色の肌を更に紅潮させてながら、フラウはエリスに嬉しそうにお願いしたのである。


「お嬢様、水浴びの準備が出来ました」

 レーヴェの声に、エリスは答えた。

「今行くね」

 そのままフラウの手を引き、エリスは彼女を洗面所まで引っ張っていく。


「水浴び、一緒にしよ!」

 一瞬エリスから何を言われているのかわからないといった表情のフラウ。

 水浴びは一人でするものではないの?


 そんな疑問を持ちながら洗面室に入ると、そこでは既に全裸となった一人の娘が立っていた。


 フラウは震撼した。

 なぜならば、そこに立っていたのは、碧色あおいろの髪をシャギーショートにまとめ、射抜かれるような碧色に輝く切れ長の瞳を持つ女性だったから。

 さらには絵画のような裸体がフラウの目に飛び込んでくる。

 

 そこにいつの間にか衣装を脱ぎ捨て、全裸になったエリスが向かっていく。

 そのうし姿すがたには肩まで真っ直ぐな金髪が輝いている。

 細く折れそうな身体。

 透き通りそうな白い肌。

 あまりのはかなげな美しさにフラウは眩暈めまいがした。


「レーヴェ! お水かけてー!」

 するとフラウに見せつけるようにエリスとレーヴェが戯れ始めた。


 覚える疎外感。

 二人はフラウに何の声もかけてこない。


 だからフラウは決意した。

 ブラウスとロングのスカートを脱ぎ捨てる。

 下着を脱ぎ捨てる。

 全裸になる。

 そうしてからそっと尋ねた。

 

「エリス、作法をお教え下さい」


 勝ち誇ったような表情を見せるレーヴェ。

 下衆な笑いを満面に浮かべるエリス。

 燃えるようなくれないの髪はふわりとしたウェーブで背中まで広がっている。

 輝くのは情熱を露わにするかのような紅の瞳。

 普段は男どもを黙らせる桃色の肌も今は紅色に染まっている。


 その身体はレーヴェと対照的な印象。

 豊かな胸、引き締まった腰に、グラマラスなお尻。


「フラウもこちらにおいで」

 エリスの呼びかけに、ふらふらとフラウもたらいに近づいていく。


「ほら、気持ちいいわよ」

 エリスは冷水で絞ったタオルをフラウに渡してあげる。


「お嬢様、まずは身体を清めよう」

 一方のレーヴェはフラウを無視するかのようにエリスの前で中腰となる。


 レーヴェがエリスの身体をタオルで拭っていく。

 エリスがレーヴェの身体をタオルで拭っていく。

 

 二人の姿をただただ見つめているフラウ。

 時間の感覚がなくなってくる。

 疎外感がピークに達してくる。

 悲しくなってくる。

 

 すると、エリスがフラウにおいでおいでをした。

 誘われるがままにフラウはエリスに身をゆだねた。

 エリスに身体を拭われるフラウ。

 疎外感が喜びに変化する。

 悲しみが嬉しさに変化する。

 

「さあ、夕食ね」


 その日の夕食は前の日からレーヴェが漬け込んでいたお肉を軽く焼いたもの。

 それと葉野菜をパンに挟んで食べる。

 飲み物は市場で購入してきた紅茶。

 

 フラウは黙って食べている。

 レーヴェはフラウを無視する。

 エリスも二人に何も言わない。


 夕食後、フラウは自分で要求した部屋に戻った。

 眠れない。


「なんで私はここに来たんだろう。レーヴェとエリスの美しい姿に劣等感を持つため?」


 自分の行動が自分でわからない。

 悲しみが再び襲ってくる。

 

 すると隣の部屋でドアが開く音がした。


 興味にかられたフラウは、音の後をこっそりとつけていく。

 音はレーヴェが使っていると紹介された部屋に続いている。

 

 フラウは無我夢中でそっと扉に耳を傾けた。

 

 室内から聞こえてくるのはレーヴェの喘ぎ声と、エリスのいじわるな声。

 フラウがあの晩に浴びせられたのよりも、数倍酷い、いじわるな声。


 彼女は扉の前にへたり込んでしまう。

 力が入らない。

 涙が出てくる。


「私、なんでこんなところにいるんだろう」


 すると突然ドアが開いた。

「フラウ、盗み聞きなんて悪い子ね」

 そこにはエリスの姿。


 フラウには何もかもがわからなくなっってしまった。

 エリスから悪い子と言われたことすらがうれしかった。


「お父様の部屋に行きましょう」

 フラウは、自分の胸ほどの身長しかない少女に左手をひかれ、右手で泣きはらした涙をぬぐいながらついて行ったのである。

 その日もフラウはエリスによって徹底的になぶられた。

 彼女は弄られもうろうとする意識の中で悟った。


 レーヴェと競う意味などないと。

 私たちはこのお人形さんの玩具なんだと。

 それを私たちは望んでいるのだと。


「フラウは意外と筋肉があるのね」

 そうつぶやくと、気を失うように眠りに落ちたフラウを残して、エリスは続きを待ち焦がれているであろう、もう一人の玩具のところに戻っていく。

 

 アラサーヒキニートの面目躍如である。

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