用意は周到に
「よう、来たぞ」
エリスたちの家に顔を出したのは、フェルディナンド爺さま。
商人ギルドが交わる町にオープンするライブハウスでの興行内容についてアドバイスを受けるため、わざわざウィートグレイスから出てきてもらったのだ。
「フェル爺さま、わざわざすまない」
「何、可愛い孫のためじゃ。と言うのは建前で、面白そうじゃからの」
「それじゃ、マリアのところに行きましょうか」
「何じゃ、茶の一杯も出んのか」
「爺さま、ここは男性禁止だ」
「じじいでもダメか?」
「ダメだ」
茶の一杯くらいはと思ったエリスだが、頑強に拒否するレーヴェに合わせることにした。
「フェルディナンドさま、クロスタウンでアイフル達がお茶を提供していますから、そちらにご案内しますわ」
「おおそうか、それも楽しみじゃ」
「あ、エリス、ボクとキャティも、工事の進捗を確認したいから途中まで一緒にいくよ」
「にゃあ」
「では、私はぴーたんとお留守番していますね」
5人はそれぞれの行動計画を確認しあう。そして、フラウを留守番として、爺さまと乙女4人は、クロスタウンに向かう。
蒸し料理店の前でクレア、キャティと別れた3人は、まず茶店に顔を出す。
「ご無沙汰しております、フェルディナンドさま」
アイフルとクレディアが丁寧に挨拶をし、3人を迎えた。
「アイフルさん、ティーセットを3つお願い」
エリスは注文後、テラスにフェルディナンドを案内する。
「ほう、良い雰囲気じゃの」
「ああ、いい感じで商売できている」
アイフルがすぐにティーセットを運んできた。
今日のお菓子はケンが1口サイズに焼いた「宝石箱のタルト」
「おお、上手に入れてくれておるな」
フェルディナンドが、ローレンベルク茶を味わった後、アイフルにねぎらいの言葉を向ける。
「皆様のおかげです。こういっては何ですけど、実は、今のほうがウィートグレイスでの生活よりも充実しています」
恥ずかしそうに微笑むアイフル。
「よう、ティーセット2つ頼むわ、アイフルさん」
バスさんとダグさんがやってきた。そしてエリスの姿を見て身構える。
「おいエリス、昨夜はよくもやってくれたな!」
「おじさまたちって、仲いいわよね。あんなに悪友を連発するとは思わなかったわ」
そう、2人は昨日、エリスにケツの毛まで抜かれて、慌ててサラマンダーの迷宮に潜ってきたのだ。
「まあ、発熱の石が出たからいいけどよ」
きょとんとしているアイフル。エリスはバズさんとダグさんの耳元で囁く。
「昨夜の話、アイフルとクレディアにしてもいいの? お得意様は博打でケツの毛抜かれましたって」
青ざめるバズさんとダグさん。
「いや、今の無し」
「アイフルさん、早く頼むわ」
話をはぐらかすバズさんとダグさん。
エリスはタルトを口に放り込むと、レーヴェとフェルディナンドを促す。それを合図にレーヴェはクレディアに勘定を済ませ、エリスは再びフェルディナンドを街道に案内した。
そして商人ギルド。
「あら、レーヴェさま、エリス、ごきげんよう」
商人ギルドマスターのマリア、この人だけは、レーヴェをエリスよりも上に扱う。まあ、ヒキニートにとってはどうでもいいことだが。
「マリア、紹介する。私の祖父、フェルディナンド・ローレンベルクだ」
「フェル爺さま、こちらがワーラン商人ギルドマスターのマリアさまだ」
レーヴェが各々を紹介する。
「ローレンベルク茶発展の祖であり、レーヴェさまのご師匠であらせられるフェルディナンドさま、お会いできて光栄です。今回は、ライブハウスの興行内容でお力添えをいただけると伺っております。よろしくお願い致しますわ」
「いやいや、このじじいの知識と人脈が少しでも役に立てば、儂も嬉しいの」
そして、改めてエリスはライブハウスの規模について3人に説明した。
基本はホール。それを興行内容によって席の配列を変える。1日あたりの目標売上は30万リル。100人規模なら入場料3000リル、300人規模なら入場料1000リルが目安。これを2日に1回のペースで開催したい。
「まあ、売上については参考程度じゃの。芸人のギャラからの積算じゃ」
フェルディナンドが図面を見ながらイベントの内容や規模を模索し始める。
その時間を借りて、エリスがニコルに声をかける。
「ニコル、こないだのストーンウォールズのメンバーと、マッスルブラザースの舎弟共を集めてくれる?」
怪訝そうな表情のニコル。だが、断る理由もない。
「わかりました、エリス。少々お時間をください」
ニコルはメンバーたちを呼びに行った。
その間もフェルディナンドは、様々な助言をマリアたちに与える。宣伝方法、宣伝場所、芸人との連絡のとり方、盗賊ギルドと冒険者ギルドの活用など。
「常設のライブハウスができたとなれば、そのうちに芸人たちの方から売り込みに来るようになるじゃろ。ところで、ワーランの芸人はおらんのか?」
マリアは既に何人かピックアップしている様子。エリスも実は2件のアイデアがあった。
そこに到着したニコルのバンドメンバー達。
「俺の名はラモン、スタイリッシュでロックなゲイだ」
「俺の名はアモン、スタイリッシュでメタルなゲイだ」
「俺の名はジモン、スタイリッシュでパンクなゲイだ」
「俺の名はドモン、スタイリッシュでポップなゲイだ」
「私の名はニコル、スタイリッシュでレゲエなゲイです」
あーうっとうしい。
「ニコルは横にずれてください」
続けてノブヒコたち4人も到着した。互いに睨み合う格闘芸人と音楽芸人たち。こいつらも仲が悪いようだ。
エリスは8人が揃ったところで彼らに告げる。
「あなた方、盗賊ギルドの『芸能ユニット』に男性部門を新設するので、そこに所属なさい」
続けてマリアたちにも説明する。
「この8人は、普段はナイトクラブで働いてもらいます。ただし、メインの仕事はライブハウスでの活動。文句はあるかしら」
降って湧いたようなナイスアイデアに喜ぶ8人。
「また格闘ができるのか?」
「小さい箱だけど、7日に1回くらいは試合を開催できるでしょ。リングとかを譲ってもらってらっしゃい」
「俺達もライブが出来るのか」
「ニコル&ストーンウォールズの人気は収穫祭で確認したわ。たまにレーヴェも参加すれば変化があっていいでしょ」
エリスがすらすらと説明するのに唖然とするマリアとフェルディナンド。
「なんちゅう娘じゃ」
フェルディナンドはため息をつく。
「それじゃレーヴェ、この8人を連れて盗賊ギルドに行ってくるから、フェルディナンドさまをよろしくね」
そしてエリスは8人を連れ、盗賊ギルドに向かう。
「こんにちはカレン」
「こんにちはエリスさま」
「今日はマルゲリータ姐さん、こっちかしら、お店かしら」
「こちらでマリリンさん、マシェリさんと打ち合わせをされてますよ」
「ならちょうど良かった。マルゲリータ姐さんを呼んでくれる?」
「ちょっとお待ちくださいね」
しばらくすると、マルゲリータたち3人が現れた。
「あら、エリスお嬢さま、昨日は稼がせてもらってありがとうね」
そう、昨日の練習で、マルゲリータとマリリンは勝ち逃げ。マシェリはチップでホクホク。
「喜んでもらえてうれしいわ。ところで、ガチホモたちの使い方、ちょっと変更するから聞いてくれる?」
エリスはマルゲリータたちにガチホモ4人とゲイ4人を、ナイトクラブ採用ではなく、芸能ユニット採用とするように指示する。そして基本は6人でクラブの仕事をこなし、2人は休日。そして格闘と演奏をライブハウスで開催する日は、その他4人でナイトクラブの仕事を回すように手配すること。
「ナイトクラブの収入だけで食わせなくてもいいから、この方がコストも抑えられるでしょ」
本人たちの前で平然と言い切るエリス-エージ。
「ああ、了解したよエリス。ところでこの後時間はあるかい?」
「大丈夫だけど、何か?」
「ああ、ユニフォームのことさ」
「そうね、それは早めに決めなきゃね。それじゃガチホモとゲイは解散!」
8歳の娘に当然のように顎で指示を出される8人。だが従う。彼女は職をくれ、活動の場を与えてくれた大事なお嬢さまだから。
「それじゃ始めましょうか。話を聞かせて」
ナイトクラブの経営方針はほぼ決まっている。
店内は全てチップによる支払で統一する。
客はクロークに荷物を預け、カウンターで必要な分のチップを購入し、それを酒や料理の注文、ゲームなどに使用する。酒は基本500リル、料理はナッツなどの軽食を1000リルとぼったくるのも決定済。客が店内の娘に奢る飲み物は果汁の水割りのみ500リル。店内の精算は全てチップオンデリバリー。その場その場で精算する。
「ゲーム側のユニフォームは、バンカー、ディーラー、アシスタント全員を白のブラウスに黒のベスト、黒の膝上タイトスカートに統一したいと思います」
これはマシェリの案。
「アテンダント側は、当初は浴場と同じロングメイドウェアにしようと思ったのだけど、ちょっと考えがあってね」
マルゲリータがエリスに提案したのは、現在のご主人様の隠れ家から、「ちょっといいこと」と「とてもいいこと」の看板を外してしまい、お背中流しまでにすること。サービス料金も低価格にする。
それに合わせて店名も替える。
そして新店は、「ちょっといいこと」と「とてもいいこと」のみの営業とする。隠れ家でのユニフォームは黒のワンピースドレス、浴場では各々が工夫を凝らす。
「現在の風呂をもっと健全化して、街の女性たちも働きやすくする。一方、新店はいいこと専門に特化。雰囲気もアダルトにしたい」
「本番はダメよ」
「わかっているさ、お嬢さま」
エリス-エージは想像してみる。確かにメイドロングウェアはそろそろ限界。ならば、黒のワンピースドレスもありか。
エリスは当初予定していたバニーガールウェアについては取り下げることにした。
「そうね、マルゲリータ姐さんやマリリン姐さんの魅力は、ドレスでこそ伝わるわ」
「それでは、その方針で発注をかけてもいいかい?」
「そんなの、ユニットリーダーが決めることよ」
エリスはマルゲリータに笑いかける。
その一言で、任せてもらったことを改めて確認する3人。
まもなく男性街(仮称)オープンです。