おじさまころがし研修
ここは男性街(仮称)のナイトクラブ(仮称)。
まだ建物が建っただけで、内装などはこれからだが、エリスはフリントに無理を言って、ゲームテーブルとゲームのセット一式、チップを事前に用意してもらった。
目的はマシェリとマシェリの部下たちへの、ディーラー、バンカー、アシスタント研修のため。
その話をどこからか聞きつけたのか、冒険者ギルドと工房ギルドの、エリスたちにかっぱがれた面々も集まってきた。
「さて、マシェリ、これからゲームの説明と、それぞれの役割を説明するから、このおじさま方を相手に、トレーニングをしましょう」
「わかりました、エリスお嬢さま。皆もお嬢さまの指導をきちんと覚えなさいね」
マシェリが部下たちに指示を出す。素直に返事をするマシェリの部下たち。
ゲームテーブルはディーラー席が1席と、その左右にプレイヤー席が6席ずつ、計12席並んでいる。
テーブルには緑のクロスが貼られており、その上に白のマーカーで場所代置場、賭場、カード置場が描かれている。
ディーラー席の左はバンカー席。バンカー席には配当用のチップと、回収したゲーム料を収納する箱が置かれている。
また、右側には、プレイヤー席から見えないように囲いがされたカード置場がある。
まずはワーランダイス。
「ワーランダイスでは、ディーラーは店が務めます。バンカーはディーラーが行い、アシスタントは、左右に1名ずつ立つこと」
エリスの指示を受け、ディーラー席にマシェリ、アシスタントに部下2名が立つ。
「それではマシェリ、先ほどの要領でダイスをカップの中で振ってくれる?」
「わかりました」
マシェリがカップの中で紅白1つずつのダイスを転がし、カップをスポットに伏せる。
「さあ、おじさま方、賭けてくださいな。今日は100リルテーブルで行いますので、賭チップは最低100リル、最高1000リルでお願いしますね。
嬉々として賭けを始めるおじさまたち。
「エリス、ガチでいいんだよな?」
おじさま方を代表してバズさんがエリスに確認する。
「ええ、今日は私がバンカーになりますわ」
エリスは笑顔でバズさんに答える。ゲーム代がすべてエリスの懐に入るのは内緒。
「そしたらマシェリ、クローズを宣言して」
言われた通り、クローズを宣言するマシェリ。
「次は、オープンのコールで、カップを上げるの。このとき、ダイスがカップに当たらないよう、慎重にあげること」
頷きながらマシェリはゆっくりとカップを上げる。目は赤の6と白の1
「最後にコールよ。この場合は、レッド6ホワイト1ね」
言われた通りに宣言をするマシェリ。
「よっしゃ!幸先いいぜ!」
バズさん、赤の1と6、白の1と6に賭けている。配当は9倍。
「そしたらアシスタントは、外れている人のチップを回収してください。その際は無言でお願いね」
うなずいて回収を始める部下2人。
「回収したチップをバンカーに戻してから、次は配当を付けます」
バズの賭金は100リル。配当は900リル。なので、バンカーからの持ち出しはゲーム料10%の90リルを引いた710リル。
「そしたら、アシスタントはディーラーに近い席から順番に、配当を賭金に並べていってください。このときは、お客様の耳元でおめでとうございますとささやくこと」
バズさんの席には、元の賭金100リルと、配当710リル、合計810リルのチップがいったん置かれる。
「バズおじさま、配当が置かれたときに、アシスタントの女の子にチップを渡すと粋ですよ」
エリスの一言に、いいところを見せちゃうバズおじさん。
「幸先いいのはお姉ちゃんのおかげだぜ」と、アシスタントの娘に100リルチップを1枚手渡す。笑顔で受け取る娘。
「よっしゃ、ケツの毛を抜く雰囲気作りもばっちりだぜ」エリス-エージは1人ほくそ笑む。
そして何度かゲームを進める。
賭金が少額なので、比較的和気あいあいと進むゲーム。
「アシスタントは、お客様の手元に端数チップがある程度たまったら、「両替いたします」と声をかけてください」
この場合の端数チップは10リルチップ。
アシスタントたちはうなずき、ゲームの間にお客様に声をかけていく。
「マシェリ、慣れたかしら」
「ええ、エリスお嬢さま。私、ちょっと楽しんでしまっています」
先日の冷たい目線とはうって変わっての透き通ったような笑顔。本来はこの笑顔が、この娘なのだろうなと、エリス-エージは思う。そしてその無垢な笑顔がおやじころがしに有効だということも。
「そしたら、マシェリはアシスタントの子と、ディーラーを代わってくれる?皆にも慣れさせないとね」
「わかりました。私もアシスタントの練習をしますね」
素直にいうことを聞くマシェリ。
場は回転し、順調におじさま方のケツの毛を抜いていく。
何しろ、おじさま方は勝つたびにゲーム料とアシスタントへのチップを少しずつむしられるのだ。
「おお、マシェリちゃんがアシスタントになってから調子がいいぜ」と、雰囲気作りに一役買ってくれるダグさん。
すると、フリントとテセウスが現れた。
「よっしゃ、俺たちも参戦だぜ!」
「様子を見に来たよ」
こちらはマルゲリータ姐さんとマリリン姐さん。2人はマシェリの笑顔を見て、互いに顔を見合わせほほ笑む。
「お前ら、何こそこそと遊んでんだ!」
バルティスも登場。
これで12席はすべて埋まった。
「それじゃ、次はワーランナンバーズにしましょう。こちらも今日は100リルテーブル。親の総賭金最低金額は、最大賭金の50倍。今日は5万リルとします」
いったんダイスと、バンカー席のチップを片づけ、ナンバース用に配置を変えるエリス。
「ワーランナンバーズは、お客様同士の勝負ですから、マシェリたちはサポートだけよ」
そして、まずはエリスが親を務めることにする。
「まず親は、バンカー役の女性をアシスタントから指名します。マシェリ、私の隣に座って」
マシェリが指示通りエリスの左に座る。
「次に、親は総賭金の宣言をします。今回は最低の5万リルにするわね」
エリスは総賭金を宣言し、5万リル分のチップをバンカー席に置く。
「ゲーム中はバンカーに指名されたマシェリが、親のチップを管理し、配当の計算を行うのよ」
そしてゲーム開始。プレイヤーは場代として、最低賭金の100リルを場所代置場に置く。
「初めての親ですから、このセットで流しますわ」
エリスは6ゲームで終了するとあらかじめ宣言し、ゲームを続ける。
まずはカードを専用ハンカチーフの下に1枚隠すエリス。
それに対し、予想カードと賭金を置いていくプレイヤーたち。
「クローズ」
エリスは場を閉めたことを宣言し、まずは前に並べた見せ札の「3」をとり、見せ札の右端に並べる。
そして、ハンカチーフの下に隠したカードをオープン。そのカードも「3」
「ここで、見せ札とカードの数字が異なったら、親の独り負けなので、覚えておいてね」
マシェリたちにルールを説明しながら、エリスはゲームを進める。
「よし、当たりじゃ」
100リル3枚賭のフリント。
「俺も当たったぜ」
500リル2枚賭のテセウス。
「ふん、ちょろいな」
1000リル1枚賭のバルティス。
他の者はカードを開かない。
「そしたら、ダイスと同様に、アシスタントたちは外れのチップを回収してね。場所代はそのままよ」
頷きながらチップを回収するアシスタントたち。
「そしたら次に、配当を付けます。フリントおじさまは100リル2倍なので10%のゲーム料を引いた80リル、テセウスおじさまは500リル3倍なので1000リルから150リルを引いた850リル、バルティスおじさまは1000リル6倍なので、5000リルから600リルを引いた4400リルを払い出してね」
「なんじゃい、3枚賭けだとしょぼいのう」
「まあ、こんなもんか」
「ちょろいな」
「しょぼいフリントおじさまはともかく、テセウスおじさまとバルティスおじさまは、アシスタントへのチップも忘れないでね」
そんなもんかという表情の2人。テセウスは100リルチップ、バルティスは何と1000リルチップをアシスタントに弾いてやる。
「こりゃ、バルティスが一番のカモだな」エリス-エージは再びほくそ笑む。
「それでは2ゲームめ行きますね」
エリスはゲームを進める。
2ゲームめのエリスの目は「2」
「よっしゃ当たったぜ」
1000リル3枚賭のバズさん。
「ワシもだ」
1000リル2枚賭のフリント。
他に当たりのコールはない。
他に3枚賭はダグさんともう1人。
2枚賭はテセウスとマリリン、マルゲリータ。
「1枚賭の当たりがいないので、悪友を宣言します」
エリスの宣言で、まずは3枚賭の3人が手札をすべて開く。バスさんは「1、2、3」ダグさんは「4、5、6」他の1人は「3、4、5」
「バズさんとダグさんで悪友成立。バズさんの賭金と2人の場所代を回収します」
ご愁傷さまという表情でチップを回収するアシスタント2人。にらみ合うバズさんとダグさん。
次に2枚賭の4人。
フリントは「2、5」テセウスは「1、3」マリリンは「4、6」マルゲリータは「4、5」
「フリントおじさま、テセウスおじさま、マリリン姐さんで悪友成立。賭金と場所代を回収します」
マジかいという表情のフリント。
「なんだ、こりゃ2枚賭と3枚賭はリスクが高いだけじゃねえか」とバルティスがつぶやく。そしてそう思わせることが、このゲーム最大の落とし穴。
3ゲームめのエリスの目は「3」
1つ前の目に戻している。
この選択は手本引ではセオリーの1つだが、素人心理ではなかなか選択できない目。
2ゲームめの悪友でびびったおじさま連中と姐さん方、全員1枚賭。しかも当たりなし。
全外れ成立。
アシスタントたちは賭金とともに、場所代も淡々と回収していく。
さあ、皆さん熱くなってまいりました。
残り3ゲームをあっさりとこなしたエリスは、宣言通り1セットで親を終了。 勝金は3万リル。
「親は、指名したバンカーに勝金の10%をチップとして渡すのがスマートよ」
と、マシェリをねぎらいながら、3000リルを渡すエリス。
「次の親は?」
フリント、テセウス、バルティスが手を挙げる。
「そしたら、右回りで順番で親を代わってください」
「ほっほっほ、ならばわしじゃな」
ディーラー席をフリントに代わるエリス。
そして場を離れながら、悪魔の微笑みでマシェリにささやく。
「あなたたちは絶対にゲームをやってはだめよ。黙っていればチップが貯まるの、わかったでしょ?」
「エリスお嬢さま、この仕事を紹介していただいて、本当に感謝します」
透き通った、だけど冷たい笑顔を浮かべるマシェリ。
よし、この様子ならしっかり場をコントロールしてくれるな、と、安心しながらエリスはフリントが座っていた席に着く。
「そこのお嬢ちゃん、バンカーを頼めるかの」
自分のアシスタントを務めていた娘をバンカーに指名するフリント。
ゲーム開始。
「エリス、遅かったね」
クレアがエリスを迎えてくれる。
「うん、ちょっと研修が長引いてね、あ、これ、みんなで食べよ」
それはとっても高価なフルーツ。
「どうしたの、これ?」
「ちょっと臨時収入が入ったの」
そして、おじさま方は夜の迷宮に潜るのであった。