面接です
「エリスお嬢さま、紹介する。マシェリだ」
マルゲリータ姐さんとマリリン姐さんが、盗賊ギルドのロビーに連れてきたのは、細面の女性。
銀の髪は肩まで。耳元で両おさげにした髪がアクセント。目線は細く、鼻筋から口元までもスッキリと通った冷たい美人。
「お店での二つ名はあるの?」
「夜の保健室です」
エリスの質問に、戸惑うこともなく返すマシェリ。
へえ、頭の回転は早そうね。と、エリスは判断し、質問を続ける。
「仕事の内容は姐さんたちから聞きました?」
「はい、エリスさま。特に、男の誘惑禁止というのが気に入りました」
「お嬢さま、マシェリは没落貴族の娘だよ」
マルゲリータが、本人からは言いづらいであろう事実をエリスに伝える。
「あなた、これまでのご主人様の隠れ家での収入を全て捨て、新しい仕事に就く覚悟はある?」
「エリスさま、私は、恋愛感情なぞ不要な仕事だと姐さん達から聞いたからこそ、ここに来ました。姐さんたちには申し訳ないですが、私はあの仕事から逃れられるのならば、今すぐ逃れたい」
真剣な眼差しでエリスを凝視するマシェリ。その目元には涙が浮かんでいる。
エリスは思い出す。アイフルとクレディアのことを。
2人はレーヴェが救った。でも、マシェリは救われなかったのであろう。
「わかったわマシェリ。でも、試験はさせてね」
エリスはマシェリに向かう。
「500リルの36倍は?」
「18000リル」
「その10%は?」
「1800リル」
「18000リルから1800リルを引いたら?」
「16200リル」
「合格」
計算能力は十分に持っている。後進の指導も問題なさそうな性格だ。
最後の試験。
「マシェリ、あなたがこれまでどんな人生を送ってきたか、あなたの口で私に話すことはできるかしら」
エリスを睨みつけるマシェリ。
しかしエリスは動じない。逆にエリスはマシェリを睨み返す。
「わかりました、お話しします」
マシェリが話した内容は、よくある貴族の権力抗争。そして路地の闇。
「私を犯した男の数も申し上げたほうがよろしいですか?」
マシェリはエリスに尋ねる。それは、嫌味でも何でもなく、事実を伝えるべきかどうかという確認という手続きとして。そこにエリスは唐突に返す。
「不要よ。で、マシェリ、あなた、盗賊ギルド『芸能ユニット』のサブリーダーに就く気はあるかしら」
突然の話に戸惑うマシェリ。
「マシェリ、私と同じ立場になるということですよ」と、マリリンがサポートする。
「マシェリ、形式上は私の部下になるけど、これまで通りさ」と、マルゲリータも続ける。
「マルゲリータ、マリリン、マシェリの3人に、男性街の運営を実質任せるということよ」最後をエリスがまとめる。
何を言われているのかわからないマシェリ。
ご主人様の隠れ家のお陰で、明日を考える余裕はできた。でも、この話は、さらにそれを上回る、夢のような話。
「男の街を女で支配する計画だといえば、少しは胸も高鳴るかしら」
エリスの言葉に、マシェリはこれ以上ないほどに、目を見開くことで答えた。
要員配置の概要は決まった。
男性街の3店舗。ナイトクラブ、ご主人様の隠れ家、新浴場は、マルゲリータが「芸能ユニットリーダー」として管理する。
ナイトクラブのアテンダントと、ご主人様の隠れ家、新浴場で働くメイドは、全てサブリーダーであるマリリンの配下とし、マリリンが浴場側から配置の手配をする。
予約が入っている子は浴場で控え、フリーの子はナイトクラブでアテンダントに出すように。
ゲーム部門のバンカー、ディーラー、アシスタントは、ナイトクラブが直接雇用し、マシェリの配下につける。
この条件は当初バルティスが眉をひそめたが、エリスがゲームの公平性を担保するためだとの説得に引くしかなかった。
さらに、マルゲリータ直属の部下をつける。
「あなた方、いらっしゃい」
エリスの呼びかけにやってきた、屈強な男4人。
「マルゲリータ姐さん、この4人をナイトクラブで雇い、姐さんの部下にしてね」
ぽかんとするマルゲリータ。
「こいつらを門番、用心棒、連絡役として、姐さんが使うのよ。さあ、自己紹介しなさいな」
うっすと身構える4人。
「ノブヒコだ。元は格闘芸人だ。誇り高きガチホモだ」
「カズオだ。我も格闘芸人だ。誉れ高きガチホモだ」
「マサカツだ。我も格闘芸人だ。志高きガチホモだ」
「ミノルだ。我も格闘芸人だ。理想高きガチホモだ」
「どう、ガチホモだから、使いやすいでしょ? マルゲリータ姐さん」
この4人は、マッスルブラザースから紹介された彼らの舎弟。
男の街に暴力装置は必要と考えていたエリス。そこに彼らの推薦がばっちりとハマった。
一瞬怯むも、そこは女王蜂。すぐさま立ち直り、エリスの前で4人に宣言する。
「よし、お前らはこれから私の手足だよ」
「うっす」
マルゲリータ姐さんの魅力に何のアンテナも立たない4人は、ビジネスライクにマルゲリータ姐さんの部下となった。
交わる町の方も進捗は順調。
フラウがシンとノンナのところを訪れ、技術指導を開始する。
ケンやハンナも、繁盛するケーキショップの合間を縫っては、シンたちのところに顔を出す。
隣のティーショップには、最近冒険者ギルドのバズさんとダグさんが入り浸っている。
お茶のおかわり100リルを、なし崩しに決めさせたのは彼ら。
彼らはお茶をおかわりしながら、アイフルやクレディアとの会話を楽しんでいる様子。
ブティックとカフェも営業を始めた。
複数のお店が開店したので、市街から百合の庭園への馬車以外にも、観光客が徒歩で訪れるようになってきている。
ハンナの家族、ロンナばーちゃんと、ハンナの妹のニンナも店の手伝いができるようになったので、ケンとハンナは、エリスに指示されたように各店舗の売上手数料や返済金の集金業務にも回っている。
全てはエリスの計画通り。
一旦家に戻り、エリスはぴーたんをからかいながら、4人の帰宅を待つ。
「ただいまー」
クレアが帰ってきた。
続けて、キャティ、フラウ、レーヴェも帰ってくる。
「すぐに夕食を用意しますね」
笑顔でキッチンに向かうフラウ。
すると、昨日に続いて再びすまなそうな表情のレーヴェ。
「すまん、お嬢、ダメ元で話を聞いてくれ」
また何か商人ギルドで言われてきたなとエリスは判断する。が、それは無茶な内容ではないだろうとも推測する。
なんてったって、商人ギルドのマスターはレーヴェに首ったけ。
「なあに、レーヴェ」
「ニコルに、ストーンウォールズの就職先を探してくれと求められた」
ストーンウォールズとは、ニコルが率いる楽団。メンバーはニコルを含めて5人。全員ゲイ。
「筋肉の願いは聞くのに、私の願いは聞いてもらえないのかと、暗に脅された」肩を落とすレーヴェ。
こりゃ、ヒガミだなと感づくエリス。ガチホモの勢力拡大が気に入らないのだろう。
そして、こういう時に便利なのがヒキニートの頭脳。
ちーん。
「いいわよレーヴェ、ニコルに、4人を連れて私のところに来るよう、伝えてくれる?」
「いいのか、お嬢?」
「大丈夫よ、レーヴェ」
「夕食が出来ましたよ!」
フラウの声で、会話は中断。
今日も楽しい晩餐を楽しむ5人と1匹。
「そうだエリス、ライブハウスもほぼ完成だよ」
「エリス、蒸し料理店も、突貫工事で仕上げてもらってるにゃ」
「そう、明日は見に行かないとね」
そしていつもどおり、風呂を楽しみ、ブヒヒヒヒを楽しむ5人。
「今日はキャティのモフモフの順番ね」
エリスは真っ白なふわふわの中で、4人にとどめを刺した達成感を味わいながら眠りにつく。




