行くぜ女子力
「やっぱりうちのお風呂が一番気持ちいいね!」
クレアがゴキゲンそうに湯船で水死体ごっこのごとく、全身を浮かべる。
5人は先ほどワーランに到着。遅い時間だったので食事は途中のワーラン市街で買ってきた軽食で済ませ、閉店後、店員さんが掃除してくれた後の風呂に5人と1匹で浸かる。
「今回の旅行は長かったですものね」
フラウが相変わらずの半身浴で、豊かな胸に汗を浮かべながら答える。
「お疲れのところ悪いけど、明日はすぐに工房ギルドに図面を持って行きたいにゃ」
友達にプレゼントする店のことが気になって仕方がないキャティ。
「そうね、男性街と交わる町の準備もあるし、明日からまた忙しいわよ」
エリスの言葉に頷く3人。もう1人は、全裸仁王立ちでオペラをがなっていた。
疲れた時こそ効果があるエリスのブヒヒヒヒ。
さあ今日は誰からだ?
「レーヴェ、お風呂ではゴキゲンだったわね」
「ああお嬢さま、久しぶりに唄を堪能した」
「ところでレーヴェ、明日の予定は聞いていた?」
「う……。すまん、聞いていなかった」
「そんな馬鹿な玩具はこうしてくれるわ」
「お嬢さま、許してくれ、許してくれ、許して……。あっ」
ヒュンメルの件からバリエーションが増えたエリスとレーヴェ。
「ねえフラウ、あなた、ミノタウロスゴーレムに殴られたとき、ちょっと感じてたでしょ」
「そんなことないわエリス、虐めないで」
「ふーん。よくも人前で殴ってくださいとか言えたわね」
「そんな意味じゃなかったのエリス、許して、私はエリスの豚女なの。何度でも言うから許して」
「ふん、許してあげないわ。こうしてあげる」
「あ、そこは……」
タイマンの件からバリエーションが増えたエリスとフラウ。
「お父さまの胸はこんな感じだった? クレア」
「ううん、もっと大きくて無骨だったよ。でも、ボクはエリスの胸のほうが好きだな」
「可愛いクレア。今日も優しく虐めてあげるね」
「大好きなエリス、今日も優しく虐めてね」
「いい子ね」
「あん……。大好き……」
親子対決の件からバリエーションが増えたエリスとクレア。
「キャティ、あなた、路地に連れ込まれる時、可愛がってもらってくるにゃと言ったわよね」
「言ったけど、それがどうかしたかにゃ?」
「それならこれからも、他の男に可愛がってもらってくればいいんじゃないの?」
「エリス、なんてこというにゃ! 私はエリスのペットにゃ!」
「キャティ、それならペットらしく可愛がってあげるわね。この辺が気持ちいいのかしら」
「エリス! エリごろごろにゃん。にゃん。にゃ……」
カツアゲの件からバリエーションが増えたエリスとキャティ。
そして5人共大満足の朝が来た。
旅行中に買い込んだフラウの食材で軽く朝食を摂った5人、それぞれのスケジュールを確認する。
キャティとクレアは工房ギルドに行き、ミャティとラブラの蒸し料理店建設の依頼をする。その後、建設中の中華まんじゅう店の進捗と、エリスが融資したブティック、カフェの建築状況を確認する。
レーヴェはハンナとケンのケーキショップとアイフルとクレディアの茶店の様子を確認した後、商人ギルドが建設しているライブハウスの進捗を確認し、その後商人ギルドでマリアと情報交換を行う。
そしてエリスとフラウは冒険者ギルドで今回の旅について報告した後、盗賊ギルドに行き、男性街の経営について打ち合わせを行う。
「お昼ごはんは各々食べること、夕食までには戻ってくること」
エリスの最終確認に頷く4人。そしてそれぞれは街に散っていった。
まずは冒険者ギルド。
エリスとフラウはテセウスに、ウィズダムでも今回の魔法については今のところ不明。だが、アレスとイゼリナが中心となって、情報収集を行ってくれるとの報告をする。
「おお、アレスとイゼリナは元気だったか?」
テセウスは2人と旧知の仲。
「アレスおじさまは、クレアとの魔法勝負で、一本取られていましたよ」
どうせバレる話だからと、さっさとテセウスにチクるエリス。大笑いのテセウス。
そして真顔になり、テセウスは続けた。
「そうか、スカイキャッスルにはマルスフィールド公が直接報告をしてくださるはずだ。それまでは、悪魔どもが来ないことを祈りながらの平常営業しかないな」
「そうですね、おじさま」
「構えていても仕方がないですものね、お父さま」
エリスとフラウも同意する。
「それでは、これから盗賊ギルドで、例の芸能ユニットについての打ち合わせをしてきますけど、テセウスおじさまはどうします?」
「ああ、決まってからの報告でいい。あと、シンを引き抜いただろお前。もう、これで打ち止めにしてくれよな」
シンというのはケンの親友。今度中華まんじゅうの店を任せる男。
「職業選択の自由ってご存じですか? おじさま」
エリスの言葉にテセウスも苦笑いをする。
「メンバーが引き抜かれないよう、楽しい仲間が揃っている明るい職場の冒険者ギルドを目指すよ、エリス」
それはブラック企業の社員募集広告だなと思いながらも、エリスは黙って笑顔で冒険者ギルドを後にする。
次に盗賊ギルド。
待っているのはバルティス、マリリン、マルゲリータ。
マリリンとマルゲリータは、さすがに盗賊ギルドマスターからの直接の呼び出しにびびっている模様。
「お前から、この2人に今後を説明しろ」
「私が以前ご説明した内容でよろしいですか」
「ああ、構わん。説明中に問題があったら、遠慮なく口をはさむから大丈夫だ」
「わかりました」
エリスは2人に対して、説明と確認を行う。
「マリリン、マルゲリータ、今日から2人は盗賊ギルドの正式メンバーになってください」
突然の宣言に戸惑う2人。
「エリスお嬢さま、私に盗賊なんて無理ですわ」と、マリリン。
「エリスお嬢さま、私もそうだよ。どういうことなんだい?」と、マルゲリータ。
エリスは順番に説明する。
男性街のナイトクラブは、盗賊ギルド直轄とすること。
以前2人に、店に出るようにと言った話は、2人に店を任せるという意味だということ。
2人に、ナイトクラブ、ご主人様の隠れ家、新設するとてもいいこと専用浴場で働く女性たちの管理を任せたいということ。
ナイトクラブでは、少なくとも3つの役割が求められるので、その適任者を選ぶ、もしくは採用すること。
次々と出てくるエリスの説明に戸惑う2人。
「エリス、一気に説明すると、わからなくなってしまいますわ」
フラウがたまらず助け舟を出す。
一息つくエリス。
「そうね、もう一度順をおって説明するわ。まず、盗賊ギルドに新しく『芸能ユニット』を設立するの。そしてマリリン姐さん、マルゲリータ姐さんの2人はそこの責任者として、3店舗と、そこで働く者達の管理を行う。ここまではいいかしら」
頷くマルゲリータと、不安そうなマリリン。
「ご主人様の隠れ家の女性たちは、姐さんたちも含め、これまでは盗賊ギルドが直接管理していたけど、これを専門に管理するために設立するのが芸能ユニット」
そしてエリスは続ける。
「ナイトクラブは、お酒を提供するアテンダントと、ゲームを管理するアシスタントで明確に区別をつける。アテンダントは、浴場のメイドさん。お客を引っ掛けて連れ込んでよし。アシスタントは逆にお客さんの接待禁止」
アテンダントは、トレイにお酒を載せ、お客さんに配る係。当然そこで出会いもある。行き先は新設の、とてもいいこと専用お風呂。
アシスタントは、ワーランナンバースでのバンカーとワーランダイスでのディーラーも含まれる。賭博の世界に色恋無用。第一、特定の客と通じていると疑われた時点でアシスタントとしての役割は破綻する。
「ここまでいいかしら」
「お嬢さま、私はお客さんと楽しむのが生きがいなの」マリリンが申し訳なさそうにつぶやく。
「私もそうだよお嬢さま。別にこれ以上お得意さまを増やすつもりはないけど、私を求めてくれるお得意さまにはそれなりに応えたい」
「ならばこうしましょう」
エリスは次のような提案をした。
マルゲリータをユニットリーダー、マリリンをサブリーダーとする。
マルゲリータは原則ナイトクラブ常駐、マリリンは浴場に常駐する。2人は連絡を取り合い、女の子たち全てが満足に稼げるよう、配置のコントロールを行う。
マルゲリータは予約の時だけナイトクラブから席を外せるような仕組みを作る。
最後に、ゲームアシスタントリーダーとして、2人は信頼できる適任者を探してくる。
「これでどうかしら」
「お前ら、その辺で納得して手を打っておけ」
バルティスが介入してきた。
「お前ら、女だけでここまで出来るということがどういうことかを考えろ。わかるか?」
顔を見合わせるマルゲリータとマリリン。
2人は真摯な顔でエリスの方を向く。
「わかりましたわお嬢さま。私頑張ります」
「わかったよお嬢さま。本当にお嬢さまには頭が上がらない」
「なら、明日はもっと細かい打ち合わせをするから、今日はゲームアシスタントリーダーだけは探しておいてね」
エリスの言葉に2人は頷き、その場は解散となった。
その日の夕食。
「お嬢、実は今日、商人ギルドでマッスルブラザースから相談があったのだが」
「どうしたの?」
「彼らの舎弟で格闘芸人をやっていた連中が、一座の解散で、職を失ったそうなんだ。もし男性街か交わる町で働き口があったら、紹介してほしいということだ」
「どんな人達?」
「筋肉共の舎弟だ。ガチホモだよ。あと、タイマンは強いが、頭は弱いので、冒険者には向いていないらしい」
頭を回転させるヒキニート。
そういえばこれも足りなかったと思いついたヒキニート。
「わかったわ、詳細を教えて欲しいのと、少人数だったらワーランに向かってくれて構わないと、伝えてくれる?」
「ああ、わかった。ありがとうお嬢」
「エリス、中華まんじゅう店もいよいよ完成だよ。今日、ケンたちに経営者を紹介されたよ」
これはクレアの報告。
「そう、どんな感じだった?」
「実直そうな2人だったよ。名前はシンとノンナだよ。総売上10%の話と、新商品開発の話もしておいたよ」
よしよし、実直おいしいわね。とエリス-エージはほくそ笑む。
「さあ、明日も忙しいわよ、オフロに入って寝ましょう!」
エリスの声に返事をしない4人。
エリスは言い直す。
「さあ、明日も忙しいわよ、オフロに入って、その後いい汗かいて寝ましょう!」
おう!
元気な返事の4人。
ぴーたんは薄目を開けてその様子を見ていた。
その目は、今日は誰が自分をお風呂に連れて行ってくれるのかを確かめる目。
こいつもすっかりワーランの宝石箱の一員となっていた。