報告しますね
エリスは校長、そしてアレスたちに、ワーランで起きた事件を順を追って説明していく。
悪魔どもが大挙して襲ってきたこと。
悪魔の種類は、人間並みの力しかないポーンデーモン。
ザンゲル級と呼んでいる、攻撃魔法を使いこなすノーマルデーモン。
ザビナス級と呼んでいる、巨大な体躯と魔法抵抗力を持つハイデーモン。
そして幹部級と呼んでいる、様々な抵抗能力を持ち、上級魔法と連続攻撃を使いこなすグレートデーモン。
それらが約数千。
ハイデーモンまでは何とかなっても、グレートデーモンはエリスたちですら1体止めるのがやっと。
ワーランは陥落の危機に陥った。
するとそこを膨大な魔気が覆った。
まず、空が真っ赤に染まり、そこから無数の炎弾が放たれた。それはポーンデーモンすべてを焼き尽くし、ノーマルデーモンとハイデーモンにダメージを与えた。
次に魔力の輪がワーランを通過した。
エリスたちは魔力は感じたが、彼女たちに変化はない。
しかし、輪に触れたノーマルデーモンとハイデーモンは灰燼と化した。
続けて天空から白光が降り注ぎ、それらは的を外すことなく全てのグレートデーモンを撃った。
空に残る悪魔の大群は直方体にゆがんだ空間に閉じ込められたように見えた。
そしてその後直方体の中におぞましい魔犬どもが次々と現れ、悪魔を食いつくしていった。
悪魔の姿がなくなったのち、魔犬どもは消え、空間のゆがみも元に戻った。
その話にあっけにとられる校長たち3人。
「炎弾はファイアバレットの複数コントロールだろうが、無数というのはあり得ないな」アレスが呟く。
「白光は、神魔戦争の文献に載っていたコールコメットかもしれませんね」イゼリナが失われた魔法を思い出す。
「空間断絶は結界魔法の強化じゃろうな。魔犬は召喚魔法じゃろう」校長も予測する。
しかし、悪魔どもを一瞬に灰燼と化した魔法については、誰も何の心当たりもない。
「神魔戦争の文献を、再度詳しく調べる必要がありそうですね」
アレスの提案に校長は頷き、エリスたちに伝える。
「魔導都市の威信にかけて、ワーランで何が起きたかを調査しよう。その際、改めて親書を送る。申し訳ないが、今日はここまでじゃ」
「クレア、エリスさんたち、私たちの家にいらっしゃいな」イゼリナがやさしく声をかけてくれる。
クレアは困ったような顔でエリスを見る。
エリスはクレアにウインクして答えた。
「フラウが楽しい話を紹介するってクレアのご両親に約束しちゃったし、ここはお言葉に甘えましょ」
アレスとイゼリナの家は、大学校の構内にある集合住宅の1室だった。
2人で住むには十分だが、5人の来客だとちょっと手狭。
部屋の中は魔導研究の材料だろうか、様々なものが乱雑に置かれている。
「散らかっていてお恥ずかしいですけど」イゼリナがちょっとだけ頬を赤らめた。
アレスは5人に適当に座るように促す。
「さあ、楽しい話を聞かせてはくれまいか」
イゼリナが入れてくれたお茶を手に、ワーランでの楽しい日々を語る乙女たち。
アレスのツボにはまったのは、クレアが抵抗のプレートアーマー持ちにエクスプロージョンをぶっ放したところ。
イゼリナは娘が設計した百合の庭園に興味津々だ。
今楽しんでいるお茶がレーヴェの実家製というのには2人共驚いた。
イゼリナはクレアにやさしく問う。
「魔法を使用するのに抵抗はなくなりましたか?」
「友達のためになら喜んで魔法を唱えるさ!」
ほほ笑むアレスとイゼリナ。
そして改めて2人はクレアに使用できる魔法について問う。
「エクスプロージョン・バインド・ライト・ライトニングシャワー・バインドシャワー・ファイアアロー・アースジャベリンかな」
そう答えた後、クレアがエリスの方に目線を送る。
エリスは一瞬考える。
禁呪をクレアの両親に伝えるべきか否か。
できれば自分たちの切り札にしておきたい、が、ホーミングミサイルは明らかに悪魔襲来のときの1発目と酷似している。
「クレア、迷宮で手に入れた巻物をご両親に見ていただいたらどう?」
クレアは、エリスが自分の気持ちを理解してくれたことを喜びながら、3本の巻物を両親に手渡す。
「それは悪魔の迷宮で手に入れたんだ」
驚く両親。
「悪魔の迷宮って、ワーラン周辺最上級の迷宮だよな?」
驚いたようなアレスの問いに、クレアは頷く。
「5人で制覇したんだよ」
巻物の内容は「ディストラクションニードル」「ランアウェイダンジョン」「ホーミングミサイル」
「多分、悪魔撃退に最初に使われたのは、このホーミングミサイルだと思う」
クレアが両親に重ねて説明する。
食い入るように巻物を読み込む2人。
そして2人はソファに沈み込む。
「これはとんでもない魔法だな」
2人が言うには、この中で一番応用が利くのは意外にも「ランアウェイダンジョン」だそうだ。
術式を分析すれば、ダンジョン以外にも応用できる可能性がある。
「これは研究しがいがあるわ」イゼリナが母の顔から学者の顔に変わる。
そして再びイゼリナが母の顔に戻ると、一旦席を立ち、その後いくつかの巻物を持ってきた。
「クレアの魔法知識は偏っていますからね。これで初級、中級魔法をまんべんなく学びなさい」
それは中級魔法までの大全。
アレスは目を閉じ、何かを考えているようだ。
そして彼は眼を開き、クレアに語りかけた。
「クレア、お前はここで私たちと一緒に魔法を研究する気はないか?」
「ないよ」クレア即答。
そうだろうなという表情で互いの顔を見つめるアレスとイゼリナ。
そしてアレスは5人に依頼する。
「私とイゼリナは、解放後もしばらくここに残り、神魔戦争の研究を行う。クレアはもう大人だと判断させてくれ」
頷くクレアと4人。
「成果に目途がつきましたら、ぜひ娘の建てたお風呂を堪能しに行きますわね」
続けるイゼリナ。
「せめて、今晩の食事だけはご一緒しましょう」
アレスとイゼリナが案内したのは、大学校内のレストラン。
そこで個室を取り、7人は談笑しながらゆっくりとディナーを楽しんだ。
そして帰途に就く。
宿に着き、いつものようにクレアがシャワーを並べる。
シャワーを浴びる5人とたらいでお湯浴びの1匹。
さあ、今日も元気にブヒヒヒヒ
今日のスイートルームはツイン2部屋にシングル1部屋。
エリスがシングル。キャティとクレアが同室、レーヴェとフラウが同室。
「エリス、今日はありがとう」
「何のこと、クレア?」
「父さまと母さまのこと」
「私は何もしてないわ」
「そんなことない、ボクの背中を押してくれた」
「じゃ、ここも押しちゃおうかな」
「くすぐったいよ! ボクもお返しだ!」
今日はなかなか順番が回ってこなくて悶々とするその他3人。
「大丈夫、エリスは来ないときは誰のところにも来ないし、来る時には全員のところに来る……」
ベッドの中で呪文のように唱える3人。
「キャティ、お待たせ」
クレアがキャティを呼びに来た。
「にゃー!」
慌てて部屋を飛び出しエリスのところに向かうキャティ。
スッキリ爽快のクレアは、気持ちのよい疲れとともにベッドに入る。
そして想う。
「父さま、母さま、ボク、幸せだよ。おやすみ」
この後キャティはエリスの部屋で気を失い、エリスはレーヴェとフラウの部屋に乱入。
交互にDVとおさどさんを繰り返すという旅ならではの暴挙に出て、2人にとどめを刺した後、エリスはクレアの眠る部屋にもぐりこんだ。
そして眠っているクレア相手に、2回戦開始。
夢うつつで呻くクレア。ああん……。
魔導都市の朝が来た。
ここはクレアのベッドの中。
「おはよう、エリス」
「おはよう、クレア」
「ボク、エリスにお願いがあるのを忘れていたよ」
「なあに?」
「ゴーレム工房に行きたいんだ」
ため息をつくエリス。
そんなところ、レーヴェとフラウとキャティが留まっていられるわけがない。
「仕方ないわね、3人は自由行動にして、2人でアルフォンスさんのところに行きましょう」
「ありがとう! エリス」
5人は着替え、朝の街に出る。
大通りのカフェにて5人で朝食後、2人と3人は別行動。
2人はゴーレム工房へ、3人は観光へ。