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くじ引きで暗殺者

「さあ、出発よ!」

 5人と1匹は馬車に乗り込み、まずはマルスフィールドに向かう。

 2回めということもあり、エリスたちの旅は順調に進んだ。

 今回は護衛の任務もないので、旅の途中で、各々が好きなことをやっている。

 レーヴェは基本御者台で、ぴーたんとうつらうつらしていることが多い。

 その横でキャティが手綱を持つ。

 レーヴェが目を覚ますと、キャティと交代。今度はキャティがぴーたんを抱く。やはりぴーたんは基本寝っぱなし。

 馬車のリビングでは、エリスとクレアが現時点で着工している交わる町(クロスタウン)の店舗整理や、次の展開を、図面を引きながら考えている。

 キッチンではフラウが蒸し料理と、お菓子の制作に勤しんでいる。

 お菓子については、エリスが卵とミルクと砂糖をヒントに出したら、見事にプディングをこしらえてみせた。

 料理については、ヒキニートも中華まんと茶碗蒸しぐらいしか知らないので、口出しをしないでいたら、フラウは食材をかたっぱしから蒸し始めた。

 大当たりだったのは鶏に詰め物をしてまるごと蒸したもの。

 これはフラウが自画自賛した。

「このあっさりとしたお肉を、さっぱりしたソースで食べると美味しいですよ!」

 フラウが言うには、焼くのと違って、蒸した後に残った蒸し汁と、肉を食べた後に残った鶏の骨で、美味しいスープストックが取れるのも便利だという。

 キャティが大絶賛したのは蒸し魚。皿に載せた大きめの魚を一気に蒸して、野菜たっぷりのあんをかけたもの。

「身がほろほろとして、これは旨いにゃ」

 エリスとレーヴェが絶賛したのは、肉を長時間蒸したもの。鶏よりも味が濃い。

 エリスはこれを刻んだものに味をつけて、中華まんをフラウにリクエスト。これがまた美味かった。

 クレアはどれもいまいちのよう。だが、プディングがたまらなく美味しいとご満悦。

 ぴーたんは悪魔が襲ってきた時に回収したロングソードを抱えて、リビングを転がっている。

 ちなみに、「毒」「嘴」「喰人」は、どれも合成はうまく行かなかったが、もともとあまり期待していない性能なので問題なし。

 こうして、マルスフィールドまでの道は、蒸し料理を堪能する旅となった。


 そしてマルスフィールドに到着した一行。

 まずはマルスフィールド公に、親書を携え面会に出かける。

 迎えてくれたのは、公と正妻のミレイ。

「おお、よく来てくれたな。早馬でワーランで起きたことについては聞いておる。よければ食事がてら、詳しい話を教えてくれ」

 公の誘いを受け、5人は昼食をご馳走になる。

 その席で無数の悪魔に襲われたこと、何者がそれらを簡単に撃退したこと、そしてそこで使用された不可解な魔法のこと。魔法と謎の人物の調査を依頼するため、魔導都市ウィズダムに向かうことなどを説明する。

 公は難しい表情で何かを考えている。

 城塞都市マルスフィールドは、王都スカイキャッスルの守り。だからこその城塞都市。なので、多くの兵を抱えており、兵を養うため、広大な領地を王族から認められているとも言える。

「魔導都市行きについては了解した。また、謎の男だが、少なくとも王の命で勇者を名乗っているものではない」

 公の話では、勇者の特徴はその圧倒的な力。魔法は間接魔法が主で、少なくとも無数の炎弾を操作するような魔法は持っていないとのこと。

「まあ、あれも相当なバケモノじゃがな」

 公は少々不愉快そうな表情で勇者についてコメントした。

「ところで、いつ出発するんじゃ?」

「今日は街で一泊し、明日の昼にでも出発しようかと考えております」

 エリスが代表して答えると、公は、出発前にもう一度城に寄るようにと5人に指示を出した。

「乙女たちがこんなむさい中年といても面白くはなかろう。前回の宿に案内させるから、今日はマルスフィールドの街を楽しんでくるといい」

 こうして、エリスたちは一旦城を後にし、公の使用人に案内されてマルスフィールド随一の宿に到着。スイートルームを提供してもらった。

 部屋で荷物をおき、一息つく5人。

「今日はマルスフィールド名物の冷たいお料理を楽しみましょうね」

 フラウが本心から楽しみだという表情で5人に提案すると、キャティが手を上げた。

「今回こそは獣人街に行きたいにゃ」

「こだわるのね」

「友達が住んでるにゃ」

「そういうことは早く言いなさい。ところで、獣人街って危険なところなの?」

「大したことないにゃ。ただのスラムだにゃ」

 豪快なキャティさま。

「まあ、我々がどうなることもないだろうが、あまり派手な格好はまずいだろうな。収穫祭の時のブラウンのジャケットでも着ていくか?」

 レーヴェの提案に他の4人も合意。万一のために、エリスがぴーたんを抱っこしていくことにした。


 5人は宿のフロントで獣人街の場所を確認し、向かっていった。フロントさんの「暗くなる前に戻ってくださいね」という言葉が、獣人街を端的に物語っている。

 やはりというか、その場所はマルスフィールドの中でも低地にあり、建物もみずぼらしいものが増えていった。

 いつのまにかレーヴェは帯刀している。

 そんなことも気にせず、キャティは街の人に友人のことについて尋ねていく。

 そして友人宅が見つかった。

「ミャティ、いるかにゃ?」

 キャティがドアをドンドンとノックしながら大声で友人の名前を呼んだ。

 するとドアが空き、中から恐る恐る顔が覗く。

「ミャティ、ひさしぶりにゃ、キャティにゃ!」

「みゃう! キャティ! ひさしぶり! こんなところにどうしたにゃ!」

「旅の途中にゃうよ。会いたかったにゃ」

「こんなところじゃにゃんだから、汚いところだけどはいるにゃ! あれ、こちらの方々はどちらさまにゃ?」

「仲間だにゃ。エリス、レーヴェ、フラウ、クレアだにゃ。あと、ぴーたん」

 キャティの突然の紹介に慌てて頭を下げる4人。

「お初にお目にかかりますにゃ。私はミャティ」

 ミャティはキャティとよく似ているが、髪の色は白とブラウンのぶち。目はキャティよりもタレ目で、可愛らしい感じがする。

 5人はミャティに誘われ、彼女の家でお茶をごちそうになった。

 キャティとミャティがみゃうみゃう話し込んでいる。

 強烈な方言なのか、他の4人には2人が何を話し込んでいるのかさっぱりわからない。

 が、表情豊かな2人なので、眺めているだけで楽しかった。

 するとそこにノックの音。

 ミャティが玄関に向かう。

 そして玄関で何かを話し込んだ後、先ほどとは180度異なる暗い表情で彼女が戻ってきた。

「キャティ、皆さん、突然で申し訳ないけど、もう帰ってほしいにゃ」

「どうしたんにゃ?」

「なんでもないにゃ。キャティたちは元気に旅を続けるにゃ」

 その一言が、エリス-エージに引っかかる。

 そしてミャティの背後に気配。明らかに殺気を放っている。だが、それはエリスたちに対してではない。

 エリスはぴーたんをクレアにそっと渡し、ブラウスの下に着込んだ装束の魔力を解放する。

「溶け込め」

 音もなく消えるエリス。

 そして彼女は殺気を放っているもの背後に姿を現し、背にダガーを突きつける。

「ミャティ、こちらはどちらさま?」

 突然背後から声をかけられたミャティと声の主、慌てて振り返ると、そこにはダガーを突きつけた少女が音もなく立っていた。

「ミャティ、殺気がすごいにゃ。それじゃ殺されても文句を言えにゃいにゃよ」

 キャティが2人に声をかける。

 声が出ない2人。5人はミャティの後ろにいるものを確かめる。

 それはアヌビス種の女性。

 そして彼女が先に気がついた。

「もしかしたら、あなた方、ワーランの宝石箱(ジュエルオブワーラン)の皆さま? 私の兄を救ってくれた」

 沈黙する5人に、アヌビスの女性は続ける。

「兄は皆さんに吊るされることによって助かったのです。ありがとうございます」

 この娘は、吊るされたアヌビス種の妹。

「良かったら、その殺気の理由を聞くわよ」

 エリスの言葉に、アヌビスの娘は崩れ落ちるように座り込み、突然大声で泣きだした。

「ひどい話だにゃ」

 キャティが憤慨している。

 つまりは、ミレイとアンナの暗殺やりっこのとばっちりを、獣人街がまともに受けているということ。

 ミレイとアンナは、各々盗賊ギルドを通して、互いの暗殺依頼を出している。

が、盗賊ギルドとしても、失敗した時にギルドメンバーの顔が割れるのは、マルスフィールド公の手前、まずい。

 ということで、盗賊ギルドは獣人街に暗殺の下請けを出す。この辺りが、盗賊ギルドにもやる気がない証拠。

 ギルドは獣人街の長に手付金を支払い、成功報酬を約束するが、実際は手付金が暗殺者の葬式代になっている。

 で、長が作成した暗殺者決定くじびきに今回当選したのが、ミャティとアヌビスの娘。

 ミャティは猫戦士、アヌビスの娘は魔術師なので、人並みの殺傷能力は持つ。が、暗殺など当然行ったことはない。

 実質「死ぬ役目」ということ。

「あのババアどもも大概だな」

「面倒だからまとめて殺して来ちゃいましょうか」

「それはマルスフィールド公の手前、まずいと思うよ」

「エリス、なんとかにゃらにゃいか?」

 エリス-エージはちょっと考え、下卑た笑みで4人に提案する。

「アコムスにやったやつ、ミレイとアンナにもやってきましょうか?」

 吹き出す4人。何が何だか分からない2人。

「そうだな、それがいい」

「ぶっすりやってきてくださいね」

「お手紙を残していけば効果的だね」

「ありがとうにゃ、ありがとうにゃ」

 そしてキャティはミャティたちに、これからエリスが何をしに行くかを説明する。

 呆然とする2人。

「ところで、ミャティはこの街にまだ未練があるのかにゃ?」

「家族も死んだし、ここにいる理由はにゃいけど、行くところもないにゃ」

「なら、ワーランにくるにゃ。お仕事紹介するにゃよ」

「さあ、やることも決まったし、夕食に行きましょう。アヌビスの娘さんもご一緒にいかが?」

「遠慮しないで来るにゃ。ところで名前はなんというにゃ?」

「ラブラと申します。皆さま」

「それじゃ、ラブラちゃん、美味しい店を紹介するにゃよ。お財布は私が持ってるにゃ」


 5人とミャティは、ラブラの案内で夕食に出かける。その店は決して上等な店ではなかったが、とても美味しかった。

 ちなみに冷たい料理ではなく、普通の料理。冷たい料理はやはり観光客用らしい。

 特にフラウが調味料に興味をもったようだ。明日の午前中は下町で買い物になりそうな雰囲気である。

 食事後7人は宿に戻る。フロントさんには「友人だ」ということで、2人が部屋に行くことを伝えた。

 フロントさんは快諾。そりゃそうだ。この娘たちはマルスフィールド公の客なのだから。


 エリスが上着とブラウス、ズボン、ブーツを脱ぎ、愛用のショートシューズと絹のグラブを身につける。

「エリス、手紙を書いておいたよ」

 クレアが2通の手紙を渡してくれた。

 城内の見取り図は、既にミャティ達から入手済み。

「じゃ、行ってくるね」

「ああ、気をつけてな」

「きっちり絞ってきてくださいね」

「殺しちゃだめだよ」

「頼むにゃ」

 そして祈るような姿勢でエリスを見守るミャティとラブラ。

「まかしときなさい」

 そしてエリスは深淵を解放。闇に消えていった。


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