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おじさまころがし

 今回の悪魔襲撃について、ワーランでは緊急評議員会が開催された。

 それに先んじ、2つの行動が既に採られている。

 まず、城砦都市マルスフィールド経由での王都スカイキャッスルへの事実報告や、農耕都市ウィートグレイス、周辺農村に対する警戒連絡等が冒険者ギルドによって速やかに行われた。

 次に倒された悪魔たちが残した武器などの回収。こちらは盗賊ギルドが中心となって行われた。

 議会で話題に挙がったのは、まずは悪魔の襲来。こちらについては魔王の宣言もあり、警備強化と民軍の再整備、住民の避難経路確認などを冒険者ギルドが速やかに整備することになった。正直、来てしまったものは仕方がない。要は、次に来た時にどれだけ被害を減らせるかが今後の目的。

 次に挙がった話題が、謎の魔法と、魔法を唱えた者。

 無数の炎弾、悪魔どもを灰燼と帰した謎の圧力、天空から降り注いだ閃光、そして空で行われた魔犬による残虐ショー。

 炎弾については、ファイアバレットの拡張魔法だろうと推測されたが、他の3つ、空に結界を張った魔法を加えると4つの魔法は、ワーランでは未知。また、魔法を唱えたものは何者なのかも不明。

「魔導都市にも状況を説明し、場合によっては応援を要請する必要がありますね」

 商人ギルドマスターのマリアが提案する。

 魔導都市ウィズダムとは、マルスフィールドから南東に位置する学術都市。残念ながらワーランとの直接の街道は整備されておらず、ウィズダムに向かうにはマルスフィールド経由となる。

「少なくとも、あの馬鹿げた魔法については聞いてみたいところだな」

「ああ、あれが勇者なのか魔王なのか、それ以外の存在なのかも確認しないとまずいだろう」

 バルティスの意見にテセウスも同意する。

「さて、そうとなったら、誰を派遣するかいの」

 フリントが、もう決まったようなもんだけどなという目で、ニヤニヤしながらエリスの方を見る。

 反射的にエリスは目をそらすが、そらした先にもニヤニヤ笑いの他の評議員たち。

「ワーラン全体のことだから、命令にはしたくないのよね」

「状況に詳しい奴らが自発的に手を挙げてくれねえかなあ」

「俺たちは次の襲撃に備えた軍備再編とかで忙しいしなあ、困った困った」

「悪魔襲撃のときに、かっこよく暴れた娘さんたちがいたらしいのう」

 ……。

 詰んだ。

 しぶしぶエリスは手を挙げる。

「発言を許可願います」

「どうぞ、エリス準会員殿」

 吹き出しそうな顔でマリアがエリスを指名する。

「おじさま方、おばさま方、あまり私どもをいじめないでくださいませ」

 言ってやった。

「おばさま」に眉をひきつらせるマリア。場内からは失笑。

「私ども5名で行ってまいりますわ。ただ、今回の事件に関する報告を、マルスフィールド宛、ウィズダム宛の親書としてワーラン評議会名でご用意くださいまし」

 当然だと頷く評議会員たち。

 エリスたちは再び旅に出ることになった。


「というわけなの」

 4人に事情を説明するエリス。

 彼女たちの使命は、マルスフィールド公に親書を届けたのち、魔導都市ウィズダムに向かい、魔導大学校に親書を届けた上で、今回の魔法についての分析を依頼すること。

 魔王が最初に使用した炎弾は、クレアのホーミングミサイルと性能は同じだろうが、その弾数はケタが違う代物。

 他の魔法については、クレアも推測がつかない。

「魔導都市かあ」

 クレアが珍しく嫌そうな顔をする。

「どうした、クレア」

 その表情に気付いたレーヴェの問に、クレアは返事をせず、何と答えたらいいものかという困った表情を見せた。

「魔導大学校の存在が気に入らないのではないですか?」

「クレアは元々魔道師が大嫌いだもんにゃ」

 フラウ、キャティの指摘にしぶしぶ頷くクレア。

「学校で魔法を学ぼうとする連中って、特権意識みたいなものを持っているんだ」

 魔術師ギルドの本部は王都スカイキャッスルにあるが、研究そのものは魔導都市ウィズダムで盛んに行われいる。

 流れとしては、ウィズダムでの成果がスカイキャッスルに送られ、そこで取捨され、最終的にギルド本部から王家に成果を報告する。

 そしてその研究資金を稼いでいるのが「大学校」。

 要は、貴族の次男坊以降や、嫁に出せない容姿の娘に魔術を教え、授業料をがっぽりと稼いでいるということ。

「まあ、大学校の生徒たちと接することはほとんどないでしょうし、ウィズダムでお使いをどんどん済ませて、さっさと帰ってきてしまいましょう」

「ああ、交わりの町(クロスタウン)の完成も楽しみだしな」

「まずはマルスフィールドまでの3日分、食材を用意しましょう」

「今回は護衛なしだから、街道沿いの宿泊ポイントを使えるね」

「今度こそマルスフィールドの獣人街に寄るにゃ」

 乙女5人、それなりに出かけるつもりになってきた模様である。


 すると、盗賊ギルドから使者がやって来た。受付嬢のカレンだ。

「エリスさん、フラウさん、あとクレアさん、お手伝いをお願いします」

 何の手伝いかといぶかる5人、カレンが説明を付け加える。

「先日悪魔が残していった武具の鑑定です。マスターが、多分その3人が魔道具鑑定を使えるから、連れて来いと仰せられました」

 冒険者ギルドの受付をやっていたフラウはともかく、エリスとクレアも鑑定ができると見抜かれてしまっていた。

 まあ、ダムズとクリフを吊るした時に、身ぐるみ一切を鑑定したのだから、ばれても仕方ないのだが。

 クレアは最近魔道具鑑定の魔法を覚えた。さすが魔術師、大魔道の指輪効果と相まって、必要精神力1でホイホイ鑑定していく。

 フラウも魔道具鑑定には同じく大魔導の指輪で、必要精神力を軽減できる。

「仕方ないわね。レーヴェ、キャティ、食事以外の馬車の準備をお願いするわね」

「ああ、洗面関連を特に十分に用意しておく」

「ハンナたちに、しばらく留守にするとことづけておくにゃ」

 そしてエリス、フラウ、クレアの3人はしぶしぶと、レーヴェとキャティは楽しそうに行動を開始した。


「大した武器はないわね」

 エリスがため息をつく。

 ここは盗賊ギルドの控え室。今は鑑定部屋。

 悪魔軍の残していった武器の殆どが無印、たまにあっても大した事のないものだった。

【毒】 ダメージを与えた相手に、毒によるダメージを2追加。相手に毒耐性がある場合は無効 必要精神力0 自律型。

 もう1つが、攻撃力を追加するもの

くちばし】 一定時間攻撃力を1.2倍 必要精神力1 コマンドワードは【嘴よ来れ】

 ほとんどがロングソードかショートソード。

 防具に関して言えば、ほぼ無印。ただ、性能は良さそうだ。

 天空からの閃光で貫かれたグレートデーモンたちの武器防具は、ほぼ無傷で残っている。

 エリスたち3人は鑑定を進めながら、次々と仕分けをしていく。

「これは親方にいいかな」

 クレアが鑑定したのは、グレートデーモンが持っていたらしき漆黒の両手戦斧グレートアックス

 飛燕のほかに、自律型の【喰人】という能力がついている。

【喰人】 人間型生物に対しダメージ2倍 必要精神力0 自律型。

 これはエリスが予備のダガーに内緒で複写し、お持ち帰りする。

「人間相手だと、ダメージが飛燕の2倍に喰人の2倍で4倍ですか。フリントさんが鬼になってしまいますね」

「今でも鬼だけどね」

 フラウとクレアが笑いあう。

 そこでエリスはバルティスとテセウスにこびを売ることを思いついた。

 漆黒のダガー2本を選び、それに飛燕と吸精を複写する。漆黒のロングソード1本には飛燕+浄化。

 そして鑑定終了をカレンに伝える。

「おお、どうだ、いいものはあったか」

 バルティスがひょこっと顔を出した。

「おじさまたちにぴったりのものがございましたわよ」

 エリスが媚媚こびこびの笑顔でバルティスの前にダガー2本、ロングソード、バトルアックスを差し出す。

「このダガーは、飛燕と吸精付きです。ロングソードは飛燕と浄化、グレートアックスには飛燕と喰人がついてました。他はほとんど嘴か毒です」

「ほう」

 予想通りに頬を緩めるバルティス。そしてエリスに「来い来い」と手招きする。

 ニコニコしながらバルティスの元に歩を進めるエリス。

 バルティスは笑顔でエリスの耳元で囁く、フラウとクレアに聞こえないように。

「お前、魔道具作成の能力があるだろ?」

 一瞬で顔面が蒼白となるエリス。

 そう、バルティスは最初から疑っていたのだ。エリスたちの異常な攻撃力と防御力を。

 なのでトラップを張った。既に鑑定を済ませている道具を再鑑定させるように。

 そしてエリスは罠にはまってしまった。

 嫌らしい笑みでバルティスは続ける。

「お前の能力が他に知られると、パワーバランス的にも、相場的にも非常に困る。ついては、俺の心だけにしまっておくので、この4本には、お前らが使用している魔能力をつけること」

「何のことかしら、おじさま」

 あくまでもしらを切ろうとするエリスにバルティスは意地悪そうに答える。

「鴻鵠と破魔でいいぞ」

 バレバレである。多分キャティの爪をどこかのタイミングで鑑定したのだろう。

 こうなるとエリスもやけである。

「おじさまも鑑定なさるのね。それなら、こちらをお譲りしましょうか」

 エリスはかばんから、淡く金に輝く針短剣スティレットを取り出し、バルティスに渡す。

 どれどれと鑑定を始めるバルティス。そしてその表情はすぐに真っ青になる。

「お前、これを使えるのか?」

「それもセットで内緒にしていただけるとありがたいですわ。それから、付け加えますけど、私、5人の中で最弱ですから、私に何か遭った時は、おじさまといえども無事では済まないと思いますわ」

 これは参ったという表情のバルティス。

「ああ、内緒だ内緒。そんなにおじさんをいじめるなよ。ただ、先日みたいな襲撃には備えたいから、この4本は強力にしといてくれや」

「お安いご用ですわ。それなら、おじさまの革鎧も貸してくださいな」

 訝るバルティスだが、部屋に戻り革鎧を用意する。

 その間にエリスは悪魔が残した武具からプレートアーマーを2つ選ぶ。1つは普通サイズ。もう1つは大きめサイズ。

「それじゃおじさま、一旦部屋の外に出てくださいね。覗いたらさっきのスティレットで突きますからね」

 両手を挙げて部屋から出て行くバルティス。

 そして複写開始。

 そこには、「鴻鵠+破魔」のダガー2本、ロングソード1本、グレートアックス1本、どれも漆黒。

 そしてバルティスの革鎧と、プレートアーマー2つには「抵抗」

「おじさま、どうぞ」

 部屋に入ってきたバルティスは、まず自分の革鎧を鑑定し、あっけにとられる。

「おじさま、テセウスさま、フリントさまが喧嘩をなさらないように、お揃いにしておきました。これでおじさま方も勇者さまですわ」

 目の前の娘を手のひらに乗せるつもりが、乗せられてしまったことに気付いたバルティス。思わず苦笑を浮かべる。

「ああ、喧嘩をしないように仲良く使わせてもらうさ、これでお前らも留守の心配はしなくていいだろ」

「お任せいたします」

 最後に、地獄の穴もかくやというどす黒い笑いを浮かべたエリスが、バルティスに挨拶をし、この場はお開きとなった。


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