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一人目の犠牲者

 冒険者ギルドを後にすると、エリスとレーヴェはその足で今度は盗賊ギルドへと向かった。


 先日届け出をしておいた所属変更の申請が済んでいれば、書き換えた盗賊ギルド証が発行されているはずだ。


「こんにちは、キャティ」

 受付のネコミミ娘にエリスがいつものように挨拶する。

 が、こちらはいつもと違い、なんとなく暗い表情でキャティがエリスに語りかけてきた。

「こんにちはエリス。申し訳ないけど、所属変更申請はまだ保留だにゃ」

 キャティの返事にエリスは眉をひそめた。

 なぜなら、盗賊冒険者への所属変更は盗賊ギルドにとっては基本的に無問題な事柄であるから。


 するとキャティはレーヴェを無視し、エリスにこちらに来るようにと手招きをした。

 続けてエリスの耳元で囁く。

「エリスはあの女に騙されているんじゃにゃいの?」

「何故そう思うの?」

「せっかく潜入ユニットに配置されているのに、わざわざ冒険に所属変更なんておかしいにゃ」

「キャティはそう思うの?」

「普通はそう思うにゃ。それに今回保留になっているのは、ケビンさんが強硬に反対しているからなのにゃ」


 ネズミが動き出したわね。


「ねえキャティ冷静に考えて。8歳の私が一人で潜入に配属されているのと、レーヴェと二人で初級者迷宮を探索して生活するのと、どちらが危険だと思う?」

 エリスの問いにあっと気が付くキャティ。


 そうだ、長く盗賊ギルドにいるせいか感覚が麻痺していた。

 潜入は最もエリートとされている。

 なので盗賊の価値観からすれば、潜入から盗賊冒険者への所属変更はわざわざ己の価値を下げる愚かな行為である。

 但し潜入は最も危険な仕事なのだ。

 これまではアンガスがエリスを守っていたこともあり、キャティはその危険度を失念していた。


 黙り込むキャティにエリスは続ける。

「もしケビンさんが私を守るためとか言って、私をケビンさんの諜報ユニットに加えるようなことを言ってきたら、内緒で私に教えてくれる?」

 エリスの願いにピンとくるキャティ。

 そう、少女を守るのと、諜報ユニットに所属させるのはその意味が真逆なのである。

 なぜなら諜報では、女の魅力は最大限に利用されるのだから。


「わかったエリス。これは二人の秘密だにゃ」

「お願いね、キャティ」

 エリスはそうキャティに言い残すと、レーヴェともに盗賊ギルドを後にした。


「エリスと二人だけの秘密にゃあ」

 ニヤけるキャティ。

 そうだにゃ。

 エリスが正しいにゃ。

 怪しいのはケビンの方だにゃ。

 そういえばアンガスが命を落とした依頼も、ケビンが受注してきた仕事だったにゃ。

 これは色々と調べて見る価値があるにゃ。



 エリスとレーヴェは食事の買い物を済ませると家に戻った。

「今日は一日、あわただしかったな」

 やれやれと椅子に腰かけたレーヴェがエリスにそう声をかけるが、エリスはカーペットの上にぺたりと座って、何事かを考えこんでいる様子である。

 なのでレーヴェも沈黙する。


「予想より早くゴタゴタしそうだな」

 ヒキニートは考えを張り巡らせていた。

「こりゃ、今晩中にレーヴェをモノにするのが確実だな」


 エリスーエージは一転してレーヴェに笑顔を向けると、彼女にこう提案した。

「ねえレーヴェ、汗かいちゃったから、夕食の前に水浴びしない?」

 エリスのうれしい提案にレーヴェも笑顔で大きく頷く。

 二人は洗面所に向かうと、昨日のように全裸となり、仲良く水浴びをはじめた。


 美しいな。

 レーヴェは思わず抱きしめたらぽきりと折れてしまいそうなエリスをまざまざと眺めてしまう。


「レーヴェ、恥ずかしいわ」

 レーヴェの視線の意味を理解したかのようにエリスが頬を赤らめる。

 その愛らしさにどうにかなってしまいそうなレーヴェである。

 すると、水が目の前に腰掛けているレーヴェの前でエリスが突然立ち上がった。

 レーヴェの顔とエリスの顔が同じ高さになる。


「レーヴェ……」

 エリスはそうつぶやきながらそっとレーヴェに顔を近づけた。


 エリスは無言でレーヴェの唇に自らの唇を重ね合わせた。

 同時にエリスはレーヴェの頭を小さな両腕でやさしく抱擁する。

 突然のエリスからのキスと抱擁にレーヴェの頭の中は真っ白となってしまう。


 ブヒヒヒヒ

 さあ、アラサーヒキニートの野望開始である。


 何が起こったのか理解できず完全にショートしている目の前の碧い娘に向かって、宅配風俗のプロを相手に腕を磨いたヒキニートのキモ技が8歳のお人形のような少女の身体を通じて襲い掛かる。


 それはたかが16歳の小娘に耐えられるような生易しい刺激ではなかったのである。


 数刻後、洗面所に横たわり、痙攣けいれんが残る身でレーヴェは何とか声をしぼり出した。


「エリス、もしかしたらあなたは悪魔?」

「そうかもしれないわ」

 エリスが浮かべる笑みは底知れないものを感じさせる。

 悪魔か……。

 しかしレーヴェには悪魔に対する恐怖心は微塵みじんもない。

 なぜなら彼女は少女からの仕打ちによって羞恥心すら完全に引きはがされてしまったから。


 そんなレーヴェの様子に満足したかのように、エリスは昼間の笑顔に戻った。

「それじゃ、今日の買い物の理由を教えるわ。レーヴェ、私の身体を拭って寝間着を着せてね」

 レーヴェは頷き、けだるそうにその身体を床から起こすと、言われるがままにエリスをタオルで包み、寝間着を着せていく。


 次にエリスがレーヴェの身体をタオルで拭ってやる。

 エリスにやさしく拭われる身体のそこここで、先程の猛烈な快感が思い出される。

 それだけでレーヴェ再びしばらく立ち上がれなくなってしまったのである。


 今晩の夕食は途中で買ってきたサンドウィッチとハーブティー。

 それを二人でけだるくみながら、エリスはレーヴェに自身が持つ能力を教えていった。

 エリスの説明に素直に感嘆するレーヴェではあったが、そのやばさを本当に知るのは、もうしばらくのちのことになる。


 エリス達が今日手に入れた魔道具は4つ。

 ひとつめは飽食のかばん。

 これはオリジナルをエリスが持ち、ファーストコピーのポーチをレーヴェが持つ。


 ふたつめは飛燕のダガーと飛燕のシャムシール。

 これは2本ともファーストコピーである。


 みっつめは解毒の指輪。

 これも2本ともファーストコピー。


 よっつめは犠牲の人形。

 これはエリスがオリジナル、レーヴェがセカンドコピーを持つ。

 ファーストコピーはエリスのかばんにバックアップとしてしまっておく。

 オリジナルとセカンドコピーは、次の複写時に複写元の能力が消えてしまうので注意が必要である。


 次にエリスは諜報のピアスをレーヴェに渡した。

 これは万一エリスとレーヴェが引き離された時に、レーヴェもエリスの会話を聞けるようにするため。

 同時にエリスも諜報のカチューシャを使用すれば、疑似的な無線として互いに連絡を取ることも可能になる。


 続けてエリスはケビン夫妻についての説明をレーヴェに行った。

 夫妻の思惑に憤るレーヴェ。

「今から始末してこようか?」

 が、それをエリスが首を左右に振りながらなだめた。

「そんなことしたらレーヴェが盗賊ギルドに報復されちゃうわ」

「ならばどうする?」

「まずは証拠集めよ」

 ケビンはエリスの所属変更を保留にした。

 これがきっかけとなるだろう。

 キャティも今のところはこちらに協力的である。


「そのうち尻尾を出すから、その時はざっくりとお願いね」

 と、エリスはレーヴェに微笑みかけたのである。


 一通り説明が終わった後、エリスはカーペットの上で何やら実験のようなことを始めた。

「そうか。同系じゃないとダメなのね」

 真剣になにやらぶつぶつと唱えているエリスの表情に、ふとレーヴェは考える。

 8歳の娘がこれほどの立場に追い込まれているのだ。

 ならばせめて私はこの娘の盾となろう。

 レーヴェはそう誓う自分自身に酔いしれた。


 しばらくの後、満足したかのような表情でエリスは広げた道具の片付けを始めた。

「さあ、明日は何があるかわからないから、もう寝ましょう」


 エリスは当然のようにレーヴェの手を引き、当然のようにレーヴェの寝室に向かう。

 そんなエリスにレーヴェは抵抗できない。

 いや、抵抗する気が全く起きないのだ。


 ベッドでは昨日と全く同じポジションで、エリスはレーヴェを上目遣いに見つめている。

 が、その表情はキングオブ下衆のもの。

 その笑顔はレーヴェには悪魔の微笑みに映る。


「ねえレーヴェ、もう寝ちゃうの?」

 それは悪魔のささやき。

 レーヴェは胸の先にエリスの顔が当たるのを感じ、思わず吐息を漏らしてしまう。

 するとエリスはレーヴェの胸に顔をうずめながらからかうようにささやいた。

「試しに、続きをお願いしますって言ってごらん?」

 しかしレーヴェは声が出せない。

 なぜなら、再び自らに襲い掛かろうとしてくる快感に必死で抵抗しているから。


「もう、つまらない子ね」

 再びエリスは顔を上げ、レーヴェの顔を見つめる。

 続けてうんしょうんしょと身体をよじりながらレーヴェの正面に顔を向け直した。

 思わずうつぶせになって枕に顔をうずめるレーヴェ。


 するとエリスは意地悪くも、レーヴェの髪を掻き分け、その耳たぶを軽く噛んでからもう一度命じた。

「お願いしますは?レーヴェ」


 レーヴェが見せた必死の抵抗も、エリスに耳たぶを噛まれただけで簡単に籠絡された。


「お願いします……。エリス……」


 鬼畜の夜。


 この日以降、レーヴェの夜はエリスのものとなり、レーヴェは自らそれを差し出すようになった。



 さあ、新しい朝が来た。


「おはよう、レーヴェ」

 爽やかな笑顔を浮かべるエリス。

「おはよう、お嬢」

 こちらも吹っ切れた笑顔を浮かべるレーヴェ。

 レーヴェのエリスへの呼び方が昨日と違っているのは、前の晩に何かがあったのだろうということ。


 二人で仲良く簡単な朝食の支度をしていると、盗賊ギルドからの使いが訪れた。

 使いから手渡された手紙には簡単にこう記されていた。


 本日夕刻にエリス一人でギルドに赴くこと。


「いよいよ尻尾を出してきたかしら」

 エリスの独り言にレーヴェが不思議そうに尋ねた。

「どういうことだ?」

「8歳の娘に潜入の仕事が来るのは、普通に考えれば異常でしょ?」

 さらにエリスは続ける。

「おそらく仕事はダミー。目的の一つは私を拘束すること。そしてもう一つの目的は多分レーヴェ、あなたの始末よ」

 エリスの説明をレーヴェは理解した。

「ケビン夫妻だな」

「間違いなくね」


 二人は何事もなかったかのように朝食を済ませると、今日も市場に出かけることにする。

 今日の目的はレーヴェの暗殺対策である。


 今日の露店もいくつか淡い光を放っているものが売りに出されていた。

 エリスはめぼしいものを物色していく。

 こうして見つけたのが次の魔道具たち。


『精神の指輪』

 装着者の精神力を+10とし、この指輪から先に精神力を消費する。

 必要精神力ゼロ。

 精神力の充填が可能。

 その際のコマンドワード【精神力逆流】


 この指輪はレーヴェ専用とする。

 その後の実験で、エリスが無制限に精神力を再充填できることも確認できた。


 指輪のオリジナルはレーヴェが持ち、ファーストコピーをエリスがかばんにしまっておく。


『閃光のブレスレット』

 装着者を中心に閃光を発する。

 必要精神力5 コマンドワードは【光あれ】

 これもオリジナルをレーヴェが身につけ、セカンドコピーをエリスが身につけておく。

 ファーストコピーはこれもエリスのかばん行き。


『擬態のブローチ』

 装着者の隠蔽いんぺい能力を上昇させる。

 必要精神力3 コマンドワードは【カメレオン】

 これは閃光のブレスレットと同様の扱いとする。


 今日の掘り出し物はこれ。


『吸精の針』

 この針で攻撃した場合、相手に与えたダメージ分だけ自らのダメージが回復する。

 必要精神力0 コマンドワードなし・自律型。


 針というのがエリスには気になったが、ダメ元でレーヴェのシャムシールに使用したところ、うまく複写できた。

 しかも、シャムシールには飛燕の効果も残っている。


 昨日エリスが行っていた実験は複写物の分類であった。

 解毒の指輪に余裕があったので、いろいろ試したところ、複写は同系統のアイテムにしかできないことがわかった。

 なお、複写が失敗した場合も複写効果は1回使用してしまう。

 なので針からシャムシールへの複写が通るかどうか確証がなかったのである。

 一度複写を行使した針はそのままエリスのかばん行き。


 飛燕と吸精の両方がシャムシールに残ったのはコマンド型と自律型だからか?

 これは今後の課題とする。


「これだけあれば、数人に襲われても大丈夫よね」

「お嬢、私は早く暴れたいのだよ」


 向い合って互いに笑い合う二人。

 

 ブービートラップの準備は万全である。

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