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コンサルタント

 今日はケーキショップとティーショップのオープン当日。

 全員早めに朝食を摂り、徒歩で現地に向かう。

「この3日で、4人がどのような準備をしたか楽しみだな」

「ケンが早速新作を用意したそうですよ」

「散歩がてら寄れるのがいいね」

「楽しみだにゃん」

 5人は楽しくおしゃべりしながら歩いて行く。

 するとそこには人だかり。

 ケーキショップ、ティーショップともにお客様が並んでいるのだ。

宝石箱ジュエルボックスの皆さま、ごきげんよう」

「おはようございます、宝石箱の皆さま」

 並んでいるのは百合の庭園(リリーズガーデン)の常連さまたち。

 彼女たちはエリスたちに敬意を持って「宝石箱ジュエルボックスの皆さま」と呼ぶ。

 同じワーランに住むもの同士、わざわざワーランを付ける必要はない。

 そしてそれは彼女たちの、他の街の者たちに対しての「身内意識」という優越感となっている。

 まあ、ヒキニートには関係ない話。おばちゃんたちはひたすらお金を落としてくれればいいのだ。

「おう、クレア達、こっちじゃ」

 フリントがエリスたちに声をかける。

 彼らは店舗の間のデッキに陣取っていた。

 そこにはいつものギルドマスター4人。

 このメンツが揃うと、エリスは嫌な予感がする。

「まあ、座れ」

 バルティスに促されてエリスたちも用意されたテーブルに座る。

 デッキには6人がけのテーブルとイスが2組と、2人がけのテーブルと椅子が4組並べられていた。

「団体様用とカップル用か」

 エリスのつぶやきに、フリントが自慢気に答える。

「おう、アイフルに頼まれて、大至急仕上げた。こっちは雨濡れがあるからニス塗りが必要でな。店内の方は既製品だが、いい感じじゃぞ」

 するとそこにハンナとケン、アイフルとクレディアが現れ、5人に丁寧に挨拶をする。

「まだ準備中でしょ、早く店に戻りなさいな」

「挨拶はいい、早く店を開けてやれ」

 フラウとレーヴェがハンナとアイフルにそれぞれ声をかける。

 店舗に戻り、開店準備を始める4人。

「で、なんの御用ですの?」

 エリスが4人に問いかけると、4人は嫌らしい笑みを浮かべた。

「いや、悪い話じゃないぞ」

「そうそう、まずはお茶が来るのを待ちましょう」


 そして開店。

 ケーキショップでは5色のケーキ持ち帰り用巾着袋入りが800リル。単品が1個100リル。

 持ち帰り用のかごは10個まで入って別途300リル。かごは何度も使える丈夫なもの。

 2回目以降はかごを持ってくれば、そのかごにケーキを入れてくれる。

 5色のケーキに加え、焼き菓子も揃えている。こちらも1枚100リル。

 店内は花柄中心の明るい内装で統一されている。花瓶にも花。庶民的な可愛らしさだ。

 一方、ティーショップでは、当初の予定通り、限定品を5500リル、通常品を5000リルで販売している。

 こちらは壺を持ってくれば、中身のみを3000リルで販売する仕組みにもなっている。

 今日は皆さん初めてなので、壺入りを買っていく。やはり人気は限定品の方。

 店内は風景画を中心とした、落ち着いた調度品で飾られている。さすが元貴族といったところ。

「こちらをお試しください」

 アイフルが9人に運んできたのは、ポット入りのお茶と人数分のカップ、そしてお皿に盛られた5色のケーキ。

 ケーキは販売用のさらに半分のサイズで、サイコロのような可愛い形状。

 横にホイップクリームが添えられている。

「こちらのセットを、店内用に750リルで販売いたします」

 エリスはアイフルを手招きし、耳元で質問する。

「取り分は?」

 笑顔で答えるアイフル。

「ハンナさんのところが300リル、私どもが450リルです。その代わり給仕は私とクレディアで行いますわ」

「了解、良い分担だわ」

 エリスはウインクを返す。

「旨いもんじゃのう。こうして外で飲む茶も格別じゃ」

 フリントがご満悦そうにしている横で、マリアが切り出した。

「そうそう、今日は相談があって参りましたの」

 それはこんな内容だった。

 まず、ご主人様の隠れ家マスターズハイダウェイが大人気となり、それによる弊害が出てきたこと。

 それは浴場周辺の通行人が、男ばかりになってしまったこと。百合の庭園とは逆の現象。

 百合の庭園はもともと何もないところに作られたので、その後はご婦人方用に拡大できたが、ご主人様の隠れ家の方はそうは行かない。

 そこで、思い切って周辺を再開発し、あの界隈を男性街にしてしまえという案が出された。

 店舗については、出て行きたい店と出店したい店で調整するとしたのだが、これがなかなかうまく行かない。

 出店したい店より、出て行きたい店のほうが多かったのだ。

「どうしたものだと思う?」

 マリアが期待を込めてエリスに問う。

 エリスはちょっと考え、アイデアを出す。

「出て行きたいのは、女性用、もしくは男女の相手をしたい店よね。それなら、ここに出店させちゃえばいいじゃない」

 ケーキショップとティーショップの周りに出店すればいいのだとエリスは提案した。

「さすがね」

 マリアは感心したようにエリスに向かい、続ける。

「実はブティックや、カフェの店主の中で、こちらに移転したいと私に言ってきた者が何人かいたのよ」

 金の匂いを嗅ぎつけたエリス。

「そしたら、私がその人達に店舗の建設費用を融資しましょうか? 経営コンサルティング付きで」

 エリスファイナンスをよろしくねとの宣伝も忘れない。当然設計はクレア設計事務所。

「エリス、お前そんなことも始めたのか?」バルティスが呆れたような顔をする。

「お金は寝かせておいても増えないわよ」

 エリスの言葉にマリアも続ける。

「仰るとおりですわ。それにエリスのコンサルタント付きでしたら問題ないでしょう。このエリアでの商売が保証されたようなものですしね」

 エリスのところで資金を借りないと出店できないような風向きになってきた。

 そしてそれはエリスの思う壺。

「もう一つ問題がある。空いたスペースをどうするかだ」

 それにもエリスが即答する。

 ひとつ、浴場をもう1箇所オープンする。こちらは「とてもいいこと」専用。

 ひとつ、男性用のナイトクラブを建設する。

 ひとつ、ライブハウスを建設する。

「またスラスラと出てくるもんだな。で、順番に説明してくれ」

 テセウスがエリスに説明を促す。

「浴場は、既にマリリン姐さんとマルゲリータ姐さんがとてもいいこと予約のみとなっているでしょ。それを移転するの。そうすれば、マニアな連中は皆そちらに行くから、既存のお風呂に子供や老人が行きやすくなるでしょ」

「経営の管理はどうする?」

「いっそのこと、浴場については経営すべてを商人ギルドから盗賊ギルドに移す、その上でマリリン姐さんとマルゲリータ姐さんを正式にギルドメンバーに迎えたらいかが? 例えば『芸能ユニット』とかを新規に設立する。で、姐さんたちにそのユニットの管理をさせ、女の子は全員そこの所属にすればいいのよ」

 目からうろこのバルティスさん。

「で、ナイトクラブという楽しそうな響きは何だ?」

 テセウスの質問にエリスは即答する。

「風呂前と風呂あがりの客からケツの毛を抜き、次もお金を持ってこさせる店よ」

 エリスの説明は続く。

「要するに、お客さん同士の情報交換の場、社交場みたいなものよ。出すものはお酒中心。ああいうところに行くお客さんは、自分の贔屓の子がどれだけ素晴らしいかを語り、認めて欲しくなるものなのよ。もう一つは、同じ性癖の持ち主との連帯感。必ず繁盛するわ。店内に賭博テーブルを置くのも有効かもね」

 更に続ける。

「いっそのこと、マリリン姐さんとマルゲリータ姐さんに、交代でママをやってもらったら? お金持ちがばっさばっさとリルを落としていく音が聞こえてきそうね」

「ライブハウスとは?」

 マリアの問にエリスは返す。

「浴場の権利を商人ギルドから盗賊ギルドに移すと、商人ギルドの収入が減るでしょ。これはその補填。先日ギルドホールでレーヴェのライブを開催したけど、あの規模のステージを持った店舗をここに作るのよ。なにもマルスフィールドのオペラハウスのような大きな建物はいらないわ。ここなら男性女性ゲイガチホモ皆が集まることができるでしょ」

 ライブハウスの経営については、フェルディナンド・ローレンベルクにアドバイスを貰えばいいと付け加えた。

「レーヴェさまに歌を仕込んだお祖父さまですか、興味あるわね」

「でしょ」

 4人のマスターは心底びびった。

 金髪を肩で可愛く切りそろえ、あどけないエメラルドグリーンの瞳と、桜色の可愛い唇から、これだけの合理的かつ下衆なアイデアが出てくることに。

「末恐ろしい娘じゃの」

 フリントがこう絞りだすのがやっとだった。


 こうしてワーラン再開発が始まる。


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