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魔王さまそれヤバい

 さてこちらはとある日の魔王城。


「なあ、副官さんよ」

「魔王さま。一応私にも『ベルルデウス』という名前があるんですけれど」

「すまんやりなおす。なあ、ベルルデウスさんよ」

「何ですか魔王さま」

「退屈なんだけど」

「こないだまで、さらってきた娘たちを相手にあうあう言っていたじゃないですか」

「飽きた」

「さいですか」

「理由くらい聞いてくれよ」

「なんでですか?」

「だって、みんな『マグロ』なんだもん」

「処女に何を期待してるんですか。大体『処女だけさらってこい』と命令したのは魔王さまでしょ?」

「それについては反省している」

「それなら反省しながら処女と遊んでいてくださいよ」

「そう言うなよ。だってさ、ハーレムが『大人用のお人形さんの博覧会』みたいになっちゃってるんだよ。みんな反応も表情もほとんど変わらないんだよ」

「そこで細かい造作の違いにこだわるのがマニアじゃないですか」

「残念だが俺はマニアじゃないんだ」

「それならこれからマニアになればよろしいでしょ」

「よろしくないですよ。だから食らうか犯すかの二択しかない悪魔は人格が薄っぺらなんだよ。俺はもっと『イマジネーションあふれるクリエイティブなあうあう』を求めているんだよ」

「ならばマグロに求めてみればいいじゃないですか」

「もう求めてみた。一番のお気に入りに」

「ほう。それでどうでした?」

「試しに『ちょっと俺を踏んでみてくれ』と命令したら、大粒の涙を流しながら、観念したように俺の前で舌を噛んだ」

「きっと魔王さまを踏んだ後に魔王さまによって『生きながら臓腑を食われちゃう』こととかを想像しちゃったんでしょうね」

「だからね。お前らがそういうことを人前で堂々とするからダメなの。何で魔王がお気に入りの女に目の前で舌を噛まれてオタオタしながら全力で治癒魔法を唱えにゃならんのよ」

「それはおやさしいですね」

「褒めるな照れる」

「別に褒めていませんよ。でもそうおっしゃられても誘拐時に処女じゃなかった方々は全員部下どもがおいしく頂いちゃいましたよ。言葉通りの意味で」

「お前らそういうところは仕事が早いんだな」

「そりゃあもう頭からボリボリと」

「だからねそういうのは今後は人前でやらないでね」

「そもそも魔王さまが全国放送の時に『奴隷か死かどちらか選べ』とかとんでもない二択を迫っちゃうからいけないのでしょうに」

「それも反省している。せめて『美女は除く』とか注釈をつけるべきだった。なあ、あれをもう一回やってくれよ」

「嫌ですよ。あれをやるのに何体の悪魔の生贄と何年の私の寿命が必要だと思っているんですか」

「そんなこと言わないでさ」

「ダメなものはダメです」

「仕方がない。引き続きマグロたちとあうあうしてくるとするか」

「小さい娘はマグロではなくてカツオだと思えば『あうっ』の味わいも変わるかもしれませんよ」

「これがホントの『カツオダシ』ってか」

「ちゃんちゃん」


 などとひとしきりの漫才を日課のように済ませた魔王とベルルデウスは、続けて各地に派遣した部下たちから届いた爪の試着を今日も始めていく。


 しかしどうやら今日も『当たり』はないらしい。

「というかさ。なんでこんなに『はずれ』が出回ってるんだ?」

「言われてみればなんででしょうね?」

 さんざんニセモノを掴まされ、その数おおよそ数十を超えたところで、やっとそうした疑問に辿り着いたのもつかの間のこと。

 魔王は爪の1つに挟まっていたチラシを見つけた。


「何だこりゃ」

 チラシには『ご主人様の隠れ家マスターズハイダウェイ』のタイトル。

 そこには浴場らしき施設の営業時間と営業内容が書いてある。


「ふーん」


 魔王は何の気なしに裏面にも目を通してみる。

 そこにはこう記載されていた。


「こんなメイドがご主人さまをお待ちしています」

『背徳のメイド長』

『嗜虐の秘書室長』

『癒しの双丘』

『ツンデレなロリッ娘』

『魅惑の義母さま』

『夜の保健室』

『微乳の誘い』


 ……。

 !!!。


「『嗜虐の秘書室長』だと!」

 魔王のイマジネーションあふれるクリエイティブな本能が、この七文字に囚われる。

 魔王は副官に見つからないようにいそいそとチラシを懐にしまったのであった。


 さて一通り試着をし、今日も全てが外れだったとわかったところで魔王が口を開いた。

「なあ、ベルルデウスさんよ」

「八つ当たりなら勘弁して下さいね」

「違うよ。ちょっと外出してきてもいいか?」

 すると副官は意外そうな表情を魔王に見せた。

「これはこれは『ひきこもり』が珍しいことを言いますね」

「お前それは失礼じゃないの?ところで外出してもいいか?」

「勇者に遭わなきゃ大丈夫じゃないですか?ところでどこに?」

「内緒」

「さようでございますか。でもさすがにその格好ですと魔王だとバレバレですから、着替えたほうがいいですよ」

「着替えはあるか?」

「『ヒャッハー一式』なら在庫は捨てるくらいありますけれど」

「もう少し普通のがいい」

「それじゃこれでも着てってください」


 それは村で捕まえた若者をヒャッハーモヒカンにするときに、彼らからひんむいた農夫のシャツとズボンである。ちなみに麦わら帽子付き。


「こんなのしかないの?」

「こんなのしかないです」


「これって攻撃されたら一巻の終わりだよね」

「魔力の固まりが何を情けないことをほざいてるんですか。ちょこっと結界を張ってきゃ勇者の攻撃以外は魔王さまには通らないでしょうに」

「そうだった。忘れていた」


 魔王はいそいそと黄金の鎧一式を脱いでいくと、代わりに農夫のシャツやらズボンやらに着替えていく。

 最後に麦わら帽子を頭に乗せれば、どこからどう見ても田舎の兄ちゃんが一丁出来上がりである。


「お似合いですよ」

「それは喜んでいいのか?ところで小遣いくれ」

「いくら欲しいのですか」

「10万リルくらい」

「魔王ともあろう方が何をみみっちいことを言ってるんですか。せめて『1億リル』くらい言ってみなさいよ」

「じゃあ1億リル」

「無駄遣いは感心しませんね。とりあえず財布に100万リルだけ入れておきましたから、これで何とかなさい」

「お前ってさ、俺で遊んでる?」

「遊んでませんよ。それより早く遊びに行ってらっしゃい」

 ということで副官はお出かけする魔王をお見送りしたのである。


 魔王は『スカイライナー』の魔法を唱えると、王城からワーランへと空を駆けて行った。

 目的地までひとっ飛びした魔王は、近くで魔法を解除すると、チラシに描かれた地図を頼りに徒歩で店を目指していく。

 その姿はまさしくお上りさんである。

 

 どんくさい服装のおかげで誰の注目も集めないまま、魔王は目的地に到着した。

「ここかな?」

 遠慮なく店内に足を踏み入れると「おかえりなさいませ。ご主人様」と明るい声が魔王にかけられる。

 魔王は受付らしき場所に向かうと、大事に懐にしまっておいたチラシを取り出した。


「この『嗜虐の秘書室長』というのをお願いしたいんだが」

 すると受付に座る可愛らしい娘はちょっと困ったような表情となってしまう。 


「マルゲリータさんは、今日は予約でいっぱいなんです」

「なんだと」


 魔王は考える。

『嗜虐の秘書室長』は予約でいっぱいだ。

 ならばどうする。

 ここは『夜の保健室』も聞いてみるべきか?

 しかし『保健の先生』はきっと年上ポジションだろう。

 一方で『秘書室長』は少なくとも部下のポジションであろう。

 しかも『嗜虐』つまり『残忍なことが好き』というお墨付きである。

 これは確実に『年下いじめっこ女』を期待できる。

 一方で万一『夜の保健室』にひよった場合『年上いじめられっこ女』を引いてしまったら元も子もない。

 さて困った。


 すると受付嬢は申し訳なさそうな様子で目の前の農夫にこう告げた。

「明日以降ならば予約が可能ですが、いかがなさいますか?」

「なんだと」


 もう一度魔王は考える。

 冷静になれ俺。

 今日ここで後悔するか。

 明日まで期待を膨らませ続けるか。

 魔王は決断した。


「じゃ、明日朝一番で」

「お名前は?」

「まお……じゃなくてベルルデウス」

「ベルルデウスさまですね。マルゲリータさんは『とてもいいこと』のみの受付ですが、よろしいですか?」

「当然だ」

「マルゲリータさんはお高いですよ?」

「いくらだ?」

「今だと15万リルほど」

「問題ない」


 魔王は『嗜虐の秘書室長』を予約すると、一旦王城に戻った。

「おかえりなさいませ。お風呂になさいますか、お食事になさいますか?それともマグロ漁でも」

「今日はもう寝る」

 魔王は副官のおちょくりを無視するとそのまま寝室へと向かった。

 しかしその夜、魔王は久々のわくわく感で寝付けなかったのである。


 一睡もできなかった魔王ではあるが、徹夜の疲れよりも気合が勝る。

「おはようございます。朝食になさいますか、それとも朝からカツオの一本釣りでも」

 などという副官の挑発を無視しながら、魔王は再び農夫の装いでワーランに飛んで行ったのである。


「おかえりなさいませ、ご主人様」

 受付嬢の出迎えに農夫姿の魔王は尊大に頷いた。

 すると魔王の背後から、突き刺すようなそれでいて引き付けるような響きを持った声が響く。


「お客さんが『嗜虐の秘書室長』を予約なさった方かい?」

 反射的に振り返った魔王は瞬時に股間を押さえたのである。


 美しい金髪を背まで伸ばし、射抜くような目線と、ふくよかな紅の唇。

 白いブラウスのボタンは大胆にはだけ、胸の割れ目と黒いブラが覗いている。

 レザーのタイトミニと腿までの黒のストッキングで構成される絶対領域には白い素肌に黒のガーターベルトが走る。

 足元は真っ赤なピンヒール。

 その姿によって、魔王が昨晩徹夜で練った『イマジネーションあふれるクリエイティブな心の準備』がもろくも吹き飛んでしまう。


「あ、ああ。そうだ」

「これから始めるかい?」

「頼む」

「ご主人さまのことはなんて呼べばいい?」

「そうだな、それじゃ『魔王』で」


 これはまたおかしな趣味の男が来たなと思うマルゲリータさん。

 しかしそこはプロ。


「ほら魔王さま。さっさとこっちに来るんだよ」

「ほら魔王さま。見ていてあげるから私の前で服を脱いでご覧」

「ほら魔王さま。お湯責めにしたげるからここに横になりな」


 強い口調で叱責されながらもマルゲリータさんの膝枕に頭を置きながら魔王はかけ湯で身体と髪を洗われていく。


「この辺が痒いのかい?」

 あうっ


 魔王さまは一回目の賢者タイムを迎えてしまうことになった。


 するとそこはプロのマルゲリータさん。

 賢者タイムなりの対応を魔王にしていく。

 それはつまり『ロールプレイング』から『現実』にいったん戻るということ。


「これから奥の部屋だけど、今みたいな感じでいいのかい?」

 マルゲリータの確認に魔王は腕を組みながら率直に感想と要望を述べていく。

「そうだな、もっとこう『仕事ができない』のを責め立てるような『きつい口調』にしてもらえるとありがたい。それから……」

「なんだい?」


 魔王は勇気を出して自身のハーレムでは失敗したイマジネーションあふれるクリエイティブなプレイをマルゲリータに要求した。

「踏んでもらえるか?」

 すると魔王の不安をかき消すがごとくマルゲリータは即答したのである。

「ピンヒールで踏んであげるよ」


『ピンヒール』の響きに魔王の賢者タイムは即終了してしまう。

 マルゲリータさんの誘導で奥の部屋に連れ込まれた魔王さま。


「ほら魔王さま。何をグズグズしてるんだい。本当に魔王さまなのかあんたは。『馬鹿王さま』の間違いじゃないのかい」

 あうあう


「ほら魔王さま。頭の回転が良くなるようにオツムを踏んであげるよ。どうだい少しは血の巡りがよくなったかい?何だいその目は。そんなにあたしの下着が珍しいのかい?」

 あうあう


「ほら魔王さま。手伝ってあげるから頑張ってみな」

 あうっ


 こうして魔王は全身全霊で二回目の賢者タイムを迎えたのである。

 魔王は満足した。


「それじゃ時間だよ。ありがとね」

 普段の口調に戻ったマルゲリータに魔王はお褒めの言葉を授けた。

「余は満足だ。精算してくれ」

「15万リルだよ」

「うむ。これはチップだ」

 魔王は財布ごと100万リルをマルゲリータに渡してしまう。

 ちらりと財布の中をのぞいたマルゲリータは、さすがにこの金額はと用心するかのように、それとなく魔王の機嫌を損なわないように確認した。

「こんなにいいのかい?」

「問題ない。また来るから『イマジネーションあふれるクリエイティブな魔王虐め』を用意するがいい」


 入口でお別れのキスをマルゲリータにサービスしてもらった魔王は上機嫌で魔王城に戻った。

「おかえりなさいませ。昼食になさいますか?それともマグロ市場の見学でも……」

「昼寝だ」

 魔王は副官をあしらうと自室に戻り、ベッドに横たわって股間を中心とする全身に残る感触を思い出した。


 そして考える。


「ワーランを征服しちゃおうかな」


 しかし考えなおす。


「征服しちゃったら、マルゲリータさんもマグロになってしまうのだろうか」


 それだけは避けたい。

 絶対に避けたい。

 だから魔王は決意した。


「ワーランは最後にしよう」


 そのうちに第二回賢者タイムが終了の時を迎えた。

 ここで魔王は気づく。


「しまった。次の予約をし忘れた!」


 己の愚かさを十分に反省した魔王は、次こそ計画的に遊ぶことを決意しながら昼食を摂るべく玉座に戻ったのである。

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― 新着の感想 ―
[一言] 胸糞な描写のはずなのに読みやすいのは、やっぱり表現が優しい感じだからだろうか… 普通にストーリーとして読めます
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