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勇者さまそれヤバい

 ダークフィナンス家は『断絶』となるだろう。


 当主アコムスと息子レイクはスカイキャッスルに連行されることになる。

 その罪状は『脱税』『誘拐』そして『外患誘致』である。

 なぜなら当主アコムスは『魔王』と通じたから。

 魔王に通じた者にはほぼ間違いなく『極刑』が待っている。

 残された家族であるアコムスの妻『アイフル』と娘の『クレディア』も、アコムス家の財産を全て王家に接収された上で、ウィートグレイスから追放されるのは間違いないだろう。


 ウィートグレイスの下級貴族であったアイフルの実家は、アコムスがアイフルを強引に妻に迎えるための策略により潰された。

 なのでアイフルとクレディアに頼れる者はいない。

 犯罪者の家族を面倒みようなどという酔狂な者もいない。

 つまり彼女たちを待ちうけるのは、人々からの憐憫と侮蔑と好奇の視線に晒された後から始まる路地裏での闇の人生だけ。


 アコムスとレイクはクズだった。

 しかし、アイフルはアコムスに半ば騙された状態で無理やり妻にされた、ある意味では他の貴族たちと同じ被害者でもある。

 クレディアもアイフルの性格に似たのか、レイクとは異なりおっとりとしたおとなしい性格に育った。

 少なくとも彼女たち二人はアコムスやレイクと異なり周囲に対し『暴君』ではなかった。

 それがレーヴェの心を締め付ける。


「お嬢。相談がある」

「なに?レーヴェ」

「アイフルとクレディアを、ワーランで使ってやってもらえないか?」


 エリスはちょっと考えた表情となるとレーヴェにこう言い放った。

「馬鹿じゃない?」

「なっ」

 突然のエリスからの罵倒にレーヴェは突き放されたかのような想いとなり動揺の表情を浮かべる。

 も、エリスはあきれたようにレーヴェに続けた。


「私にお願いしなくても、あなたが使ってやればいいじゃない」

「どういうことだ?」

「『ローレンベルク茶』の製造販売権があなたの実家に戻ったんでしょ。それならハンナとケンのケーキ店の隣にでもローレンベルク茶の直売店を構えたら?商人ギルドをたらしこむのは私よりあなたの方がよっぽど確実でしょ」

 そうエリスからウインクされたエリスにレーヴェは目からうろこが落ちる。

「そうだ、そうしよう!」


 レーヴェはざっと計画を立てると設計を相談すべくクレアのもとに走った。

 エリスには叶わないなとうれしいため息をつきながら。

 自分がアイフルとクレディアの面倒を見るのだという覚悟を決めながら。


 ウィートグレイスでは勇者を歓待する席が設けられた。

 レオパルドを始めとする何人かの貴族代表に『商人ギルド』マスターと『農耕ギルド』マスターが勇者パーティを歓待する。

 ちなみにウィートグレイスには独立した『冒険者ギルド』『盗賊ギルド』『工房ギルド』はない。

 これは単純に農耕都市にはこれらのギルドが管轄するような需要はそれほど無いから。


 なのでウィートグレイスでは『商人ギルド』が『冒険者ギルド』と『盗賊ギルド』の機能も有し、『農耕ギルド』の一部に『工房ギルド』のような機能が備わっている。

 ちなみにややこしいことになった場合にはワーランのそれぞれのギルドがこの辺の面倒を見てきている。


『農耕ギルド』はその名の通り『自由農民』が中心となったのギルドであり、メインの業務は『農業用水』の配分や『種苗』の取り扱い『品種改良』などである。


「今回は本当に助かりました」

 歓待の場に同席を求められた税務官が改めてグレイに礼をする。

「この場にいたのは偶然でしたが、皆さんが無事でよかったですよ」

 などとご機嫌な勇者グレイは税務官に対してこんな提案をした。

「もし良ろしければ税務官殿もスカイキャッスルまでお送りしますよ」


 勇者の固有魔法である『リープシティ』は、一度訪れたことのある街にパーティごと高速で移動できる魔法である。

 なので税務官も勇者とパーティを組めば王都スカイキャッスルまですぐに引きかえすことができる。


「おいおい。それは先に俺たちとのパーティを解除しなきゃならんぜ」

「せっかく皆さんが私たちをもてなしてくださってるのだから、こちらに一泊して行きましょうよ」

「私は疲れましたよ」

 などといういつもの三馬鹿による勝手な物言いにグレイは顔をしかめるも、こうなると彼らはてこでも動こうとはしないだろう。

 なのでグレイは三馬鹿の提案にしぶしぶ従うことにした。

「そうだな。今晩は御言葉に甘えて世話になろう」

 そうグレイが見せた嫌そうな表情をエリス-エージは見逃さなかった。


 宴が終わると、勇者たちは商人ギルドマスターの案内により『ウィートグレイス最高級の宿』の『最高級のスイートルーム』に通されたのである。


 一方こちらはローゼンベルク家の客間での出来事。

「さて行ってくるわね」

 エリスは身支度を済ませた。


「気をつけてな」

「なにか面白い話が聞けるといいですね」

「勇者は嫌そうだったよね」

「あの連中はが仲悪そうですにゃ」


 エリスが向かうのは勇者たちが宿泊する宿である。

 その目的は勇者たちの弱みを握ること。


 さてこちらは宿でそれぞれベッドに荷物を置き、ひと通り落ち着いた勇者さまご一行。

 スイートルームは三部屋六ベッドルームであり、グレイとギース、ダムズとクリフでそれぞれ一部屋を使用しピーチはひとりで一部屋を独占することになっている。

 現在五人はリビングで仲居さんが入れてくれたお茶を堪能しているところなのだが、なぜかグレイがそわそわとしだした。

 しばらく落ち着かない様子を見せていたグレイは、意を決したかのような表情になると、そっとピーチに近づいた。


「なあピーチ、頼めないか」

 するとピーチはいつものことのように鼻でグレイをせせら笑うと、どっこいしょとばかりに腰を挙げる。

「ふん。悪魔を切って股間が火照ったかい。しかたがないね、この好き者は」

 そう馬鹿にしながらピーチはグレイについてくるように促すと、そのまま二人で洗面所へと消えたのである。

 それをニヤニヤしながらダムズとクリフは見送り、ギースはまたかとばかりに頭を抱えている。


 洗面所の扉を閉じると、ピーチはグレイを仰向けにさせると、やれやれとばかりにグレイの腰のあたりに膝をついた。


「ほら、さっさとズボンを脱ぎな」

「あ、ああ。すぐに脱ぐ」

 グレイは腰を挙げて慌てながらズボンを脱ぎ、その下腹部をピーチに晒したのである。


 あうあう

 あうあう

 あうっ


「ぺっ」


 しばらくの後にピーチは何かを洗面所に吐き出すと、うがいをしてから無言で洗面所を出て行ってしまう。

 続けて洗面所の外から嬌声と歓声が聞こえてくる。

 「勇者の次はお前らの番だよ!たっぷりとあたしを可愛がるんだよ!」

「おうよ。俺らはあんな田舎者とは違うぜ!」

「たっぷり楽しませてあげますよピーチ!」


 リビングではしゃぐ三人を尻目に、ギースは無言で割り当てられて部屋へと閉じこもってしまう。

 そこに残されたのは、下半身を露出したまま膝を抱え、洗面所の壁に向かって賢者タイムを無言で過ごしている勇者。

 この『ある意味記憶にある光景』にアラサーヒキニートは興味と嫌悪と同情と怒りを覚えてしまう。

 特に賢者タイムが勇者にもたらしている無情な時間と空間に。


「これはパーティになにか秘密がありそうね」

 エリス-エージは首を左右に振りながら『興味』以外の己の感情を消し去ると、改めて屋根裏で下衆な笑みを浮かべたのである。


 そのままエリスは屋根裏を伝い、部屋に凍るギースと、ピーチの部屋で絶賛開催中の乱痴気騒ぎをひと通り確認すると「美しくないわね」と小さく吐き捨ててからローレンベルク家に戻ったのである。


「これは口直しが必要だわ」


 ということで、戻ってきたエリスを出迎えた乙女たちは、報告をそれぞれのベッドで聞くことになった。


「ねえキャティ、あなたは白くてふわふわで、とてもきれいね」

 にゃん……。


「ねえクレア、クレアはいつも真っ直ぐで可愛らしいよね」

 あん……。


「ねえフラウ。私はフラウの胸が大好き」

 あっ……。


「ねえレーヴェ、あなたの切れ長の瞳はとても素敵よ」

 うっ……。


 ということで本日も五人元気なウィートグレイスの朝が来た。


 勇者グレイは一旦現在のパーティでスカイキャッスルに飛び、ダムズ、ピーチ、クリフ、ギースの四人をスカイキャッスルに送り届けた。

 そのまま単身でウィートグレイスに戻ると、次は税務官と拘束したアコムスとレイクおよび税務官の娘であるミーナとパーティを組み直し、スカイキャッスルに再び飛んでいく。

 その前に税務官はレオパルドたちにこう約束してくれた。

「皆さんには良い知らせをお届けするようにしますから」

「ありがたいお話です」

 良い知らせとは『ダークフィナンス家断絶に伴うローレンベルク家のウィートグレイス領主就任』の勅命である。


 などと税務官がウィートグレイスのお歴々と挨拶を交わしている間にエリスはそっとグレイに近づくと、握手を求めるようにしながら両手でグレイの左手に一枚の紙片を握らせたのである。

 同時にエリスは可愛らしい微笑みを浮かべながらそっとグレイに耳打ちした。


「グレイさまはお疲れのようですから、こちらをぜひご利用くださいませ」

 そんなエリスを何事かと訝しんだグレイは手渡された紙片にさっと目を通してみる。


 グレイは思わず赤面した。


 紙片にはこう書いてあった。

 まずは表面

ご主人様の隠れ家マスターズハイダウェイ営業時間と営業内容のお知らせ』

 そこには『ちょっといいこと10000リル。とてもいいこと時価』とも記載されている。


 しかしグレイにとって真に衝撃的だったのは裏面である。

 なぜならそこにはきれいな筆記体でこう手描きでサインがなされていたからである。

「本券で『癒しの双丘マリリンさん』との『とてもいいこと』を無料でお試しいただけます。エリス」


「ちょっと君!これは何だ?」

 グレイは動揺を押さえるかのように小声でエリスにささやき返した。

 するとエリスは小悪魔のささやきでグレイに告げる。


「そちらに記載してあるとおりです。私はその浴場の経営に携わっているの。『癒しの双丘マリリンさん』は『体と心』の両方を癒やすのが得意なメイドさんですわ。一度お試しくださいな」


 さらにエリスはつらそうな表情を作るとこう続けた。

「昨夜みたいな味も素っ気もないものではございませんよ」

「昨夜?」

「洗面所」

 エリスからの突然の指摘にグレイは心臓が破裂しそうになってしまう。

 なせこの少女はそれを知っているんだ!


 冷静に考えれば勇者はその行動を、エリスをはじめとする何者かに監視されていたということになる。

 しかし残念ながらグレイのわずかな『賢者タイム』はとっくに終了している。

 ちなみに勇者の性欲はその無限とも思われる体力と相まって人一倍旺盛である。

 今のモードでは目の前の金髪の少女よりも『癒しの双丘マリリン』さんが気になって仕方がない。

 ここでエリスからのとどめ。

「税務官さんをお送りした後にでも、ワーランにお寄りくださいな」

 従順な犬のようにグレイはうなずいたのである。


「それでは世話になりました」

 こうして税務官たちはグレイに急かされながらウィートグレイスから去っていったのである。


 さてこちらはワーランの中心街。

 以前変装用にとギースから譲ってもらった『見習い盗賊の服』に着替えた勇者グレイが一人で訪れたのは『ご主人様の隠れ家マスターズハイダウェイ』である。

 彼は深呼吸をすると勇気を出してその扉をくぐった。

 すると明るくも扇情的な声が彼を迎えてくれる。


「おかえりなさいませ!ご主人様」

 受付嬢の御出迎えに一瞬びびって腰が引けてしまうグレイだが、意を決してエリスからもらった紙片を懐から取り出すと、冷静さを取り繕うかのようにしながら受付に置いた。


「これをいただいたのだが使えるだろうか?」

 受付嬢は笑顔のまま紙片を受け取ると裏面を確認すると、その笑顔をさらに膨らませながらぺこりと頭を下げた。

「これはこれはエリスさまのご招待客さまでいらっしゃいますか。ようこそお越しくださいました!」

 予想外の大歓迎に硬直するグレイをよそに受付嬢は案内を進めていく。

「マリリンさんの準備に一刻ほどお待ちくださいね。それまではどうぞお風呂をお楽しみください」

 紙片が利用可能なことにグレイは心底ほっとするとともに、受付嬢があの少女を「エリスさま」と呼んだことに少し驚いた。


「それではお客様のお名前をお教えください」

「グレ……。いや、ギースだ」

 ついグレイは本名を名乗るのをためらい、相棒の『ギース』の名を騙ってしまう。


 ロッカーのカギとタオルを受付嬢から受け取ったグレイは案内に従い衣服をロッカーにしまうと浴場に向かっていく。

 まずはかけ湯。

 で、当然のことながらグレイの視界にも浴場内に掲示されたサービスが飛び込んでくる。


『お背中流し』

『洗髪』

『ちょっといいこと』

『とてもいいこと』


 ……。


 グレイはたまらず股間を押さえると湯船にあわてて浸かった。

 妄想が止まらない。


 我慢できずにこのまま一発目は自家発電してしまおうかと決意する寸前に、グレイは受付嬢から声をかけられた。

「ギースさま。お待たせいたしました」

 呼びかけに膨らんだ股間を濡れタオルで隠しながらグレイはあわてて受付へと戻った。

 その場でグレイはみだりに自家発電しなくてよかったと心底思ったのである。

「おかえりなさいませ。ご主人さま」

 受付にたたずんでいたのはグレイが妄想した以上の女性であった。


 優しそうなまなざしと柔らかそうな唇で微笑み、そのブラウンの髪は後ろでお団子ににまとめられている。

 彼女が身に浸けた『ロングメイドウェア』はほとんど肌を晒していないものの、今にもはちきれそうに膨らんだそれはグラマラスなボディを強調している。

 さらには彼女の『二つ名』に恥じない『そそり立つ二つの丘』がグレイの目の前に迫り、さらにその先には下着を着用していないことを示す小さな突起がグレイの劣情を刺激する。


 あうあうしているグレイにマリリンさんは優しげな表情で微笑んだ。

「ギースさま。メイド服と下着に私専用の白衣もございますがどちらがお好みですか?」


 あうあう


 それはグレイの想像力をはるかに凌駕するシチュエーション。

 そんな不届きな世界があったのか。


「そ、それでは白衣で」

「かしこまりました。ご主人さま」


 やがて白衣に着替え再びグレイの元に姿を現したマリリンは、白く美しい太ももをちらつかせながら、グレイの手をとり、いいこと専用のかけ湯へと向かっていく。

 マリリンはグレイの背中を優しく流し、彼女の白衣が濡れるのも構わず彼女の膝にグレイの頭をそっと抱えると丁寧に洗髪をしていく。


「お痒いところはございませんか?」

 マリリンからのグレイの耳元への問いかけが本日の号砲一発目の合図となる。


 あうっ


 グレイに本日一回目の賢者タイムが訪れた。

 まさか何もされていない状態での豪快な一発に赤面するグレイの体をマリリンは変わらず優しく流していく。

「他にもそういったご主人さまはいらっしゃいますからお気になさらずに」

 そんなマリリンの気遣いにグレイほっとする。

 そんな賢者タイムの彼を優しく包んでくれるのが彼女の二つ名でもある『癒しの双丘』

 双丘からグレイの顔へと伝わる柔らかな感触によって、彼の賢者タイムはすぐに終了した。

「それではこちらにどうぞ」

 そんな様子を察したのか、マリリンはそっとグレイを手をとると奥の個室へと案内したのである。


 あうあう

 あうあう

 あうっ


 本日二度目の賢者タイムがグレイに訪れる。

 マリリンの双丘にグレイは優しく包まれる。

 やさしく髪を撫でられる。

 心地よい。

 なぜか涙が出てくる。

「なにかお悩みでしたらお伺いいたしますわ」

 マリリンはグレイに胸のぬくもり越しにそっと呼びかける。


 この優しさと包容力がマリリンを『癒しの双丘』たらしめる『所以ゆえん』である。

 グレイはマリリンに誘われるかのように、彼女の胸に抱かれながら、ぽつりぽつりと己の身の上を語りだした。

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