モヒカンさん
湿原に設置した浄化槽の様子を見に来たエリスとクレアは、その帰りの街道でおかしなものを拾った。
それは馬の上でうつ伏せに倒れこんでいる男。
そいつの頭はモヒカンに刈られ、トゲトゲが下品な肩パッドをつけている。
着ているものもトゲトゲの恥ずかしい鎧とみずぼらしいズボン、そしてやはりトゲトゲがついた安っぽいブーツである。
そんな男を背負いながら、馬はぽっくりぽっくりと街に向かって歩いてくる。
当然のことながら『百合の庭園』のお客様たちや従業員たちも、こんな胡散臭い男には関わりたくない。
なので当然のことながら全シカトである。
しかしこのまま放っておくと、馬はぽっくりぽっくりと街まで進軍してしまうだろう。
そこで面倒を起こされたら、まず間違いなくギルドマスター連中はエリスたちに「なぜ見逃した」と言いがかりをつけてくるであろう。
多分面白そうに薄笑いを浮かべながら。
「仕方がないわね……」
エリスはそう呟くと馬の手綱を取った。
さすがに男を百合の庭園で休ませるわけにはいかないので、エリスとクレアは馬を屋敷と街の間にある草むらに誘導していく。
すると気を失っていたと思っていた男が力なく呻いた。
「何か食わせてもらえないっすか……」
空腹で動けないということね。
エリスの目配せに気づいたクレアは一旦屋敷に戻り、すぐにお皿とカップをお盆に乗せて戻ってきた。
それはちぎったパンをスープストックでさっと煮てから卵を落としたパンスープ。
クレアからモヒカンさんの様子を聞いたフラウが「胃に優しいものがよさそうですね」とさっとこしらえた料理である。
クレアの持つスープの匂いに誘われたのか、モヒカンさんは馬上からずり落ちるように草むらに倒れ込んだ。
「仕方がないわね……」
エリスは先程とおなじ台詞をつぶやくと、モヒカンさんの上半身を背中から支えてやる。
同時にクレアはお盆をしゃがみこむモヒカンさんの前に差し出してやった。
モヒカンさんはよろよろとスプーンを手に持つと、最初はゆっくりと確かめるように一口づつ、そして徐々にスープをかっ込み始めた。
「美味いっす、美味いっす!」
モヒカンさんは泣きながらスープを食べている。
こりゃあ何かの事情持ちかな?
とエリス-エージが様子をうかがっているところに、突然キャティが最近お気に入りになっている『ミニスカメイド姿』で屋敷からエリスの背後に駆けよってきた。
「ごちそうさまでした」
「エリスこれを見るのだにゃ!」
モヒカンさんがスープを食べ終わりエリスにお礼を言いながら顔を上げた瞬間に、キャティが自身のミニスカをエリスの頭越しにめくって見せる。
キャティがエリスに自慢げに晒したのは『黒の紐パンツ』であった。
キャティが豪快にスカートをめくったので、勢い余っておへそまで見えている。
続けて家から血相を変えてフラウが飛び出してきた。
「きゃー! キャティ今すぐ返しなさい!」
しかしキャティはミニスカをめくったままフラウから逃げようとする。
「これはエリスが言っていた『見せパン』に違いないのだにゃ。なぜならフラウが『勝負パンツ』だと言っていたから間違いないのだにゃ。ちなみに紐パンはしっぽが引っ掛からなくて便利でいいのだにゃ。だからこれからは私が穿くことにするのだにゃ」
「だまらっしゃい!」
逃げ出すキャティにめがけてやり投げのように投げたフラウのミノタウロスモールが、見事キャティの後頭部ににヒットする。
同時にキャティが腰にぶら下げていた『犠牲の人形』が頭から吹き飛んでしまう。
続けてミノタウロスモールの『昏倒』効果発動でキャティはそのまま気絶してしまった。
そしてなぜかモヒカンさんも気絶していた。
モヒカンさんが目を開くと、そこには天国が広がっていた。
五柱の麗しき天使がモヒカンさんを取り囲み、上から見つめている。
ああ、お迎えが来たんだ。
人生の最後を悟ったモヒカンさんは再度目を閉じた。
ところが誰かが彼を呼んでいる。
「モヒカンさん、モヒカンさん?」
モヒカンさんとはもしかしたら俺のことかと、モヒカンさんは目を開けてみた。
よくよく見ると五柱の天使の一人は先ほど食事を提供してくれた黒髪の少女である。
「あれ?」
こうしてモヒカンさんは正気に戻った。
「びっくりしたっす」
これがモヒカンさんの第一声である。
「女の子の、お、おパンツさんを初めて見たっす」
「パンツはどうでもいいからあなたは何者なのか教えなさい」
金髪の少女の冷たい声にビビったモヒカンさんは、ぽつりぽつりと事情を話し始めた。
彼はある組織の構成員だという。
彼らの任務は『とある品物の捜索』だということ。
「それは金色で『爪』がにょろんと伸びる奴らしいっす」
爪がにょろんねえ。
五人は当然気づいた。こいつは魔王の手下であると。ただし相当下っ端ではあろうが。
モヒカンさんの話は続く。
彼はある辺境の村出身だということらしい。
彼はその村で農夫として貧しいながらも楽しく暮らしていた。
ところがある日彼の村は何者かに襲われた。
賊は抵抗する村人を老若男女構わずひととおり殺し、老人を皆殺しにし、村の財産を全て略奪し、女性たちを全員さらっていった。
残された無抵抗の男性たちは全員頭をモヒカンに刈られ、賊から支給された制服の着用を義務付けられたのである。
そして彼らはこう命じられた。
「『黄金の爪』を探してこい」
賊は『魔王の軍隊』であった。
彼らは魔王から派遣された男をリーダーとし、分隊を組まされ大陸全土に探索に出ることになった。
彼らが持たされたのは『宝石』だけ。
彼らの装備は『ヒャッハーアーマー』と呼ばれるトゲトゲがこけおどしになっているだけの防御力皆無の鎧に『ヒャッハーバット』と呼ばれるこれまたトゲトゲがこけおどしになっている殴られると痛い棒きれである。
当然のことながら、こんな格好では出会う人々皆が逃げてしまい、彼らの話も聞いてもらえない。
食事をしようにも彼らはリルを持っていないので食料を買うこともできない。
分隊は分散を繰り返し、一人となった彼は数日を水だけで過ごしてこの場所にたどり着いたのである。
こうして聞いてみればひどい話だ。
しかしアラサーヒキニートは話の内容よりも、話の冒頭に出てきた単語が気になった。
「よかったら宝石を見せてくれる?」
エリスの依頼にモヒカンさんは何の疑いもなく懐から小さな袋を取り出した。
「これっす」
モヒカンさんが掌にころがした宝石をフラウが一瞬で鑑定し、鑑定額をエリスに耳打ちする。
「ざっと50万リルかしら」
「了解」
続けてエリス-エージは今後の算段を頭の中で立て始める。
「ところで『爪』の購入予算っていくらくらいなの?」
エリスの問いにモヒカンさんは申し訳なさそうな表情となった。
「わからないっす。でも、この宝石と交換してもらえればいいらしいっす」
続けてモヒカンさんは余計なことまでしゃべってくれた。
「正直ニセモノでも何でもいいから、実績作りが欲しいというのがリーダーの考えっす。他のチームが続々と爪をボスに届けているのでリーダーは焦っているっす」
「宝石はまだあるの?」
「リーダーはたくさん持っているっす。彼は使う分だけ持って行けと言うっすが、とりあえず1つだけ持ってきたっす」
ふっふっふ。
方針決定。
エリスが仲間たちにそっと耳打ちすると、各々はその場から静かに散って行った。
一人残ったエリスはモヒカンさんにやさしく語りかけてあげる。
「その宝石をリルに両替してくれるところに案内するわ。そうすれば食事もできて便利でしょ。ついでにそこで爪の情報も集めてみましょう。ところで、モヒカンさんのお名前は?」
これはモヒカンさんにとっては願ってもない申し出である。
だから彼は素直に感謝を示し、自らを名乗った。
「ありがとうっす。おらあ、ケンっていうっす」
エリスとケンはまず冒険者ギルドに向かった。
「こんにちは、レレンさん」
「こんにちは、エリス」
受付嬢のレレンがエリスをいつものように迎えてくれる。
特にレレンはエリスの横に立つモヒカンさんを気にしていないようだ。
これにはケンもほっとした。それと同時に彼の気も緩む。
「この方が『宝石の買い取り』をお願いしたいっていうのだけど、鑑定していただいてもいいかしら」
エリスに促されてケンは懐から宝石を取り出しレレンに渡した。
宝石を光にかざしながらじっくりと見つめたレレンはすぐに笑顔になる。
「40万リルで買い取りますわ」
しれっと相場より低い金額を提示するレレンさんである。
ところが相場などわかろうはずのないケンは、二つ返事で宝石を冒険者ギルドに売り飛ばしてしまった。
現金40万リルを手にしたケンは大金に浮かれている。
そんなケンをよそにエリスは商談を続けた。
「ところでこの方、『爪』を探しているらしいのですけど、何か情報はないかしら」
しばし考えたレレンは再び笑顔となった。
「そういえば盗賊ギルドでそんな話をしていたような……。あ、確証はありませんよ」
「わかったわレレン、行ってみるわ」
こうしてエリスとケンは冒険者ギルドを後にした。
それを笑顔で見送るレレン。
その背後には下衆い笑いを浮かべたフラウがケンからは見えない位置にしゃがんでいたのである。
「うふふ、まずは10万リルゲットね」
本来50万リルの価値を持つ宝石を40万リルでゲットした冒険者ギルドは、差額の10万リルをエリスたちと分け合ったのである。
次にエリスとケン向かったのは盗賊ギルド。
「カレン、お久しぶり」
「エリスさん、お久しぶり」
カレンというのはキャティの後任で盗賊ギルド受付となった、エリスとも顔なじみの娘である。
「こちらの方が『爪』とやらの情報を探しているらしいのだけど、ギルドで何かご存じないかしら」
するとカレンは困ったような表情となる。
「どしたのカレン?何か気になることでも?」
カレンの様子に気づいたエリスは優しく声をかけた。
すると意を決したようにカレンはエリスに相談を持ちかけたのである。
「実はマスターもまだご存じないことなんですけど、旅人がこれを持ちこんだんです」
それは『金色の小手』である。
「旅人はものすごくお金に困っていたみたいで、いくらでもいいから買ってくれと泣きながら迫ってきたのです。マスターが留守だったので、私の責任が取れる金額でやむなく買い取ったのですけど、正直私も困っているんです」
するとケンが出張ってきた。
「おねいさん。ちょっとそれを見せてもらってもいいっすか?」
「どうぞ」
ケンはカレンから差し出された小手を手に取ってみた。
そして彼は小手の内側に『ぶれいぶりっぱー』の文字を発見したのである。
「うおおおおお!これは『当たり』かもしんないっす!ぜひこれを売ってほしいっす!」
「でも……」
興奮するケンをしり目に困った表情のするカレンにエリスがアドバイスを耳打ちした。
「ケンが欲しいというならば売ってあげればいいのよ、その代わりケンには『盗賊ギルド』で買ったのではなく『旅人から直接買った』ということにしてもらえばいいでしょ」
「そうね。それならギルドにも迷惑はかからないわ」
「お値段はいくらっすか?」
「30万リルよ」
ケンには所持金が40万リルある。
なのでケンは30万リルで嬉々として『ぶれいぶりっぱー』を購入した。
「これでリーダーから叱られないで済むっす。エリスさん、カレンさん、本当にありがとうっす」
「喜んでもらえてよかったわ。でもくれぐれも『旅人から直接買った』としておいてね」
「もちろんっす!」
満面の笑みを浮かべながらエリスと連れだって盗賊ギルドを後にしたケンをカレンは笑顔で見送った。
その背後には下衆い笑いを浮かべたクレアとキャティがいたのであるが。
当然のことながら『ぶれいぶりっぱー』はパチモンである。
ちなみに工房ギルドでの製作費は一式3万リル。
クレアとキャティは、ケンからゲットした30万リルから製作費の3万リルを引いた27万リルを、工房ギルドと盗賊ギルド、そしてエリスたちと分け合って臨時収入としたのである。
ケンはエリスに重ねて礼を言った。
「エリスさん、今日は本当にありがとうっす」
そんなケンにエリスは笑顔を重ねた。
「ところでケンさんは『おパンツさん』を初めて見たって言っていたわよね」
美少女からの突然の話題にケンは顔を真っ赤に染めてしまう。
そんな彼をからかうかのようにエリスは続けた。
「内緒でいいところに案内してあげるわ」
顔を真っ赤に染めたままのケンの手を引いてエリスが連れてきたのは『ご主人様の隠れ家』である。
「ちょっとここでお待ちくださいね」
エリスは少し離れた路地にケンを待たせると、ご主人様の隠れ家に入店していった。
店内ではレーヴェともう一人がエリスの到着を待っている。
「こんにちは、エリスお嬢さま」
甘い香りを漂わせるキセルを手にした女性がエリスに丁寧に挨拶をした。
「こんにちはマルゲリータ姐さん」
「レーヴェさまの指示で待っていたけど、今回はどんなお話だい?」
マルゲリータはメイドさんたちのリーダー格である。
ここのメイドさんたちは、浴場の新装開店前に、エリス-エージから『宅配風俗の鬼畜テク』を伝授された。
それまでは闇の路地で男どもからわずかな対価で獣のようにされるがままだった彼女たちであったが、浴場では伝授された技を駆使して逆にお客さんをリードすることに成功したのである。
今では『ちょっといいこと』と『とてもいいこと』でお客さんにやりたい放題なのだ。
ところがそれがお客さんに受けてリピーターが続出し浴場は大繁盛なのである。
生活に余裕ができてきた彼女たちは、今ではそれぞれが得意な分野を新規開拓し、新たな常連さんを増やしている。
ちなみにマルゲリータの二つ名は『背徳のメイド長』である。
「今日はカモを連れてきたわよ」
エリスが下衆い笑みでマルゲリータに用件を伝えた。
「定期収入ありの童貞よ。現在の所持金は10万リル。わかっているわね」
マルゲリータもにやりと笑う。
「『鶏は肉を食わずに卵を食え』だね、お嬢さま」
マルゲリータは店内を見回すと、最近入店した田舎くささの抜けない娘を手招きした。
「ハンナ。お客さんを紹介したげるから、うまくおやり」
同時にエリスは路地に戻るとケンを店の前まで連れていったのである。
「それじゃ私はここで」
帰ってしまうエリス。
取り残されたケン。
このままUターンすれば何ごともとなく終わるだろう。
しかしケンの頭の中では『おパンツさん』が先程から繰り返し響いている。
ケンはおずおずと店に入ってみる。
すると一人の娘が彼を迎えてくれた。
「お、おかえりなさいませ、ご主人様!」
受付の前に立ったハンナがたどたどしくケンを迎えた。
一方でハンナからご主人様呼ばわりされたケンはびびってしまう。
するとハンナの背後から受付嬢が平常運転の笑顔でケンに笑いかけた。
「入浴料は1000リルです」
ケンは言われるがままに受付嬢に1000リルを支払うと、その手をハンナがおずおずと握る。
エリスの手とは違った、どこか懐かしさを感じさせるハンナから伝わる手の感触に、ケンはどぎまぎしながら脱衣所に連れて行かれた。
わけもわからず服を脱いだケンは、やっとここが浴場だと理解した。
「さっぱりしていくっす」
ちょっとリラックスしたケンは、案内通りにかけ湯で体を洗いはじめた。
すると目の前には衝撃の看板。
「ちょっといいこと 一万リル」
「とてもいいこと 時価」
これは先程『猫娘のおパンツさん』を初体験したばかりの若者には刺激がきつすぎる。
ケンは股間をタオルで隠しながら受付に戻ると頑張って質問した。
「『とてもいいこと』って何すか?」
すると受付嬢ではなく、先ほど脱衣場に案内してくれたハンナが頑張ってケンの耳元でささやいた。
「例えば……」
あうあう
ケンは自身の説明に顔を真っ赤にしてしまったハンナに勇気を出して尋ねた。
「時価っていくらすか?」
「えっと……」
口ごもるハンナに代わって、いつの間にか受付に立っているマルゲリータが代わりに応えた。
「本日はオール込みで9万8000リルよ」
ちなみに『とてもいいこと』の相場は現状で5万リル前後である。
ケンの手元には9万9000リルが残っている。
『とてもいいこと』をお願いしても1000リルが残る。
こうなると童貞は止まらない。
「と、とてもいいことをお願いするっす」
勇気を振り絞ったケンに、ハンナは顔真っ赤のままに尋ねた。
「は、はい。ところでメイド姿と下着姿のどちらがお好みですか?」
あうあう
「お、おまかせで」
「かしこまりました」
メイド姿のハンナに奥のかけ湯に案内されたケンは、まずはそこで髪と身体を丁寧に洗ってもらう。
香油で流されたモヒカンはすっかりしなびてしまうが、別のところが元気になる。
「失礼します」
ハンナはケンの背後からその両腕をそっとケンの前に伸ばしていった。
まずは『ちょっといいこと』
あうっ
最初の賢者タイムを迎えたケンの身体をハンナはもう一度丁寧に流すと、次はケンを奥の個室へと誘った。
「失礼します」
ケンの前でハンナが恥ずかしそうにメイドウェアを1枚づつ脱いでいく。
あうあう
ハンナの手が最後の下着に延びる。
あうっ
生まれたままの姿になったハンナを前にケンはその日2回目の賢者タイムを迎えてしまった。
しかし若さは暴走するものである。
ケンとともにそっとベッドに横たわったハンナは再びささやいた。
「失礼します……」
あうあう
あうあう
あうっ
モヒカンをばっちりと決めなおしたケンはヒャッハーアーマーに身を包みなおし自慢げに受付を振り返った。
「また来るぜハンナ!」
「お待ちしております。ご主人様!」
ハンナの笑顔に贈られながら表に出るケンである。
太陽がやけに眩しいぜ。
ケンはその足で意気揚々とエリスの家に向かっていった。
その姿を見送りながらマルゲリータはハンナに繰り返す。
「いいかい。『活かさず殺さず』定期的に貢がせるのが極意だよ。ハンナ」
「わかった。マルゲリータ姐さん」
これが『生き馬の目を抜く』大人の世界なのである。
「あらケンさんお帰り。馬はこちらであずかっているわ」
エリスの出迎えに自信を感じさせる笑顔でケンはお礼を言った。
「エリスさん。今日は何から何まで世話になったっす」
「いえいえ。今度はお仲間さんも連れてまたワーランに遊びに来てくださいね」
するとケンはエリスが聞いていないこともほざいた。
「絶対来るっす。絶対ハンナに会いに来るっす。これは食事のお礼っす」
そう宣言しながらケンは1000リルをエリスに差し出した。
「ありがたく受け取っておくわ」
「それでまた会おうっす!エリスさん」
こうしてケンは意気揚々と引き上げていった。
約束通り数日後にはケンは仲間を引き連れてワーランにやってきたのである。
「帰ってきたぜハンナ!」
ケンとその仲間は冒険者ギルドで相場より低い金額で宝石を両替すると、旅人を装った盗賊ギルドメンバーに気持ちよくパチモンを掴まされ、レストランではぼったくられ、浴場では『時価』ふっかけられていく。
これらは全てエリスから指示である。
それは『モヒカン価格』としてワーランの街に浸透した。
しかしケンと仲間は所持金の大半をかっぱがれても気にしない。
なぜならば宝石の替えはいくらでもある。
何より今の彼らは幸せだから。
あうあう
あうあう
あうっ
こうしてワーランは『魔王軍の』を金づるとして継続してかっぱぐルートを開拓したのである。