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オイシイところイタダキです

「ベルさん、せめてこれだけでも羽織っておくれよ!」

 全裸で突き進む魔王を、さっきまで昼メロをかましていたのも忘れ、マルゲリータがガウンを抱えて慌てて追いかける。

「こいつら、植物死肉プラントゾンビの一種だな」

 マルゲリータに無碍むげにされてムカついていたところに現れたこいつらは、魔王にとって、格好の八つ当たり対象となった。

「店を汚して片付けが大変になるのも敵わんからな」と、魔王は目に入るカボチャ頭、正式名称南瓜死肉(パンプキンゾンビ)を片っ端から凍らせ、テレキネシスで浮かせていく。そして店外に数匹のカボチャ頭を持ち出すと、その場でそいつらを粉々に砕いた。

 そこにやっと追いついたマルゲリータが魔王にガウンを羽織らせた。そして後ろから魔王の腰に手を回し、魔王の前を閉じて帯を結ぶ。

「こんな格好で恥ずかしいったらありゃしない」

 すると魔王はマルゲリータに振り向き、苛立たしげに言い放つ。

「姐さん、いや、マルゲリータ! さっきの続きはカボチャ共を片付けてからだ。絶対逃がさんからな」

「あ……」

 魔王はマルゲリータの返事も聞かず、カボチャ頭が湧いてくる方向に向かって行ってしまった。

 

 こちらは自由の遊歩道フリーダムプロムナード

 大量発生したカボチャ頭は、切り倒しても切り倒しても次から次へと湧いてきた。カボチャ頭は倒されると握りこぶしくらいのかぼちゃに変化する。これが兵士たちの足を取り、踏めばぐちゃっと滑り、戦闘の邪魔となっていく。

 ウィートグレイスの兵士たちやウィズダムの魔導隊士が剣やゴーレムで応戦するも、カボチャ頭の数は減るどころか、増える一方である。乱戦となってしまっているため、機械化竜も息吹ブレスを吐くわけにも行かず、メベットを背に乗せ、尻尾で1体ずつ屠っている。マルコシアも狼女悪魔ウルフェデーモンの姿となり、トランスハッピーの入り口を守るべく奮戦している。

 が、ここに1人場違いな娘。

「鰻の爺さま、今度はどんな遊びですか?」

「嬢ちゃん、これは遊びじゃないから、頼むから避難しておくれ」

「いやです、私とも遊んでください。そのカボチャ頭を消せばいいのですか」

「まあ、そうじゃな」

「そういうことは早く教えて下さい、爺さま」

 これまでフェルディナンド先公がベルルナルに迫ってくるカボチャ頭を迎え撃っていたのだが、そろそろ限界だというところで、ベルルナルはニコニコしながら、やっと席から立ち上がった。

 ベルルナルは無造作にカボチャ頭の前に立つ。

「あぶない! 嬢ちゃん!」

 フェルディナンドが身を挺して庇おうとするも間に合わない。と、ベルルナルがカボチャ頭に右の手のひらをかざした。

「さよなら」

 ベルルナルが一言唱えると、カボチャ頭は瞬時に消え去った。握りこぶし大のカボチャを残さずに、文字通り跡形もなく。

 ベルルナルが用いたのは「強制送還」の能力。カボチャ頭は魔界の植物である。なのでベルルナルにとっては他の悪魔と同じく、絶対服従を強要できる相手。

「爺さま、私のほうがたくさん消してみせますね」

 ベルルナルはフェルディナンドの方を楽しそうに振り向くと、カボチャ頭たちを次々と消し去っていった。

 

 目に入るカボチャ頭を片っ端から物質分解ディスインテグレイトし、魔王はいらいらしながら自由の遊歩道の方に歩みを進める。その後ろをマルゲリータが受付嬢の手を引いて無言で付いていく。

「マルゲリータ、よくよく考えたら、俺はまだお前と本番までしてないぞ。なのに出入り禁止っておかしいじゃないか!」

「ベルさん、こんなときになんて話をしてんだい! 今はそれどころじゃないだろ!」

「俺には大事な問題なの! 何でわかんねえかな! いい加減優しい俺もキレるよそこは!」

 いよいよ魔王はブチ切れてきた。いつの間にか背中に無数の炎弾を浮かべている。

「あーもうムカつくなあ!」

 魔王は一気に炎弾を解放し、カボチャ頭を瞬殺していく。その後ろを、おろおろとしながらマルゲリータと受付嬢が追いかけていく。

 マルゲリータに手を繋がれた受付嬢は、これまで見たことのないマルゲリータの表情を見つめ、2人のやりとりを聞きながら、

「このお二人ってお似合いよね」と、街中がパニックになっている中で、ほのぼのと考えてしまった。

 

 こちらはワーラン東。セラミクス軍は領主の近衛隊を残し、全軍がワーラン自警隊に向かって進む。セラミクス軍の者たちはワーランの守護竜が現れないことを不思議に思いながらも、命令のままに突き進んでいく。

「さて、どうしましょうか」

「後から言い逃れができるように、足止め中心で行くしかないだろうな」

「イゼリナ、例の魔法はまだ使えるのか」

「ええ、娘たちから結構なプレゼントも貰ったしね」

「なんじゃい、期待させてくれるのう。まあ、娘たちが帰ってくるまでわしらで足止めとするかの」

 マリア、テセウス、バルティス、イゼリナ、フリントの5名は、自警団にその場を動かぬように指示をすると、セラミクス軍の方に5人で進んでいった。

 その姿を発見したセラミクス軍から、雨あられのように矢が降り注ぐ。

「『アロープロテクション』!」

 しかし、降り注ぐ矢はマリアが唱えた防御魔法でことごとく弾かれてしまう。

 続けてイゼリナが呪文を唱えた。

「『サモンスワンプ』!」

 するとセラミクス軍の足元が土から沼に変わる。

「うわ!」

「なんだこりゃ!」

「おい、後ろ、押すな! おいやめろ!」 

 隊列を組んで進軍していた彼らは先頭から足を取られ、将棋倒しに倒れていく。

「相変わらずえげつない魔法だなあ」

 テセウスが額に手をかざしてセラミクス軍の様子を眺めながら、イゼリナにニヤリと笑いかける。と、イゼリナも

「あなたの指輪も大概たいがいでしょ」と、テセウスに笑い返した。

「まあそうだな。ほんじゃ行くか。『雷精召喚サモンエレクトリカルスプライト』!」

 テセウスが指輪を掲げてコマンドワードを唱えると、数個の電気をまとった球体のようなものが現れた。

「よっしゃ、お前らちょっとあそこで水浴びしてこい。人には触れるなよ」

 テセウスの指示に了解したとばかりに球体たちはプルプルと震えると、将棋倒しになっているセラミクス軍の前衛に飛んでいき、その足元を濡らす沼に身体を晒した。

 水は電気を通す。 

 ということで、将棋倒しになっている兵どもは、電気ショックでことごとく気を失ってしまった。

「わしら暇じゃの」

「暴力と暗殺の出番はないかもな」

 フリントとバルティスはマリアとイゼリナを庇うように立ち、軽口を叩き合いながらセラミクス軍の動きを観察する。

「ええい! 何が起きた!」

 絶叫する領主に伝令が最前線の状況を伝える。足元が沼地化し、そこに電流を流されたために最前線の兵士数百人が気絶してしまったと。

「そんなもの、さっさとたたき起こして兵を進めろ!」

 そう叫ぶ領主の意識に念話が飛び込んできた。

「おいやべえ助けてくれ! なんだよこれ聞いてないよ!」

「何だどうした!」

「やっぱりワーランに手を出しちゃまずかったんだ! オレの悪魔人生終了だ!」

「だから説明しろ!」

「魔王とベルルデウスさまだよ! 畜生! うぎゃっ」

 念話の相手はザクロマだった。

「魔王だと……。それって超やばくないか?」

 領主の姿をした悪魔は焦った。やばい、やばすぎると。

「とりあえずこのまま人間のふりをしてやり過ごすしかないか」

 下手に能力を使うとベルルデウスさまの悪魔探知に簡単に引っかかってしまうのは明らか。ここは隠れておくの一手。

 続けて領主は進軍停止と陣までの一時撤退を兵たちに命じる。万一のときに兵たちを魔王から自分を守る肉の壁にするために。

「お、あいつら撤退していくな。なんだ?」

「これは罠かもしれんの。でもまあ、わしらにも時間があることに越したことはないからの」

 バルティスとフリントはセラミクス軍が一時撤退していくのを確認し、他の3人とともに一旦自陣に戻った。

 

 これはその少し前のこと。ここは自由の遊歩道フリーダムプロムナード

「ご主人さまも遊んでいるんですか?」

 ベルルナルがニコニコとカボチャ頭を消し去りながら魔王に語りかけた。自由の遊歩道に現れたカボチャ頭たちは、あらかたベルルナルが片付けてしまい、ウィートグレイスやウィズダムの兵たちはベルルナルの圧倒的な力に驚きながらも、彼らの大将が彼女を嬢ちゃん呼ばわりするので、まあいいかと思いながら追撃に街に散っている。マルコシアも人型に戻り、やれやれと座り込んでいる。メベットはさすがに疲れたのであろうか、機械化竜の背から降り、竜に庇われるように包まれながら、うとうとと居眠りをしていた。

「なんだよ遊びってのは。ところでベルルナル、これは植物死肉プラントゾンビだろ? その辺にこいつの種を撒き散らかしている奴がいるはずだから、ちょっと探してみろ」

 魔王たちはカボチャ頭を殲滅しつつ、発生元をたどってきた。すると到着したのが自由の遊歩道。

 魔王の指示に従い、ベルルナルは周囲を探索した。

「あ、あそこです」

 ベルルナルが指を向けたのは、ブティックの裏にある馬小屋。

「お、俺も見つけた。おいそこの、怒らないから出てこい」

 すると、観念したように一匹のグレートデーモンが姿を現す。

「お前か? カボチャ頭を撒いたのは」

「そうです、魔王さま、ベルルデウスさま。私はザクロマ。植物死肉使いです。魔王さまたちがお見えだったとは存じ上げなかったのです。何卒お許しくださいませ……」

 悪魔はその場にひれ伏すと頭を地面に擦り付けた。

 悪魔の言葉に、自由の街道に残っていた兵士や、家の中に隠れていた女性や子供たちは驚いた。

麦わら帽子(ストローハット)さまが魔王?」と。

 さすがのフェルディナンド先公も驚きに口をパクパクさせている。

「お前、何で俺たちの正体を簡単にばらしてるの? ちょっとは許してやろうかなと思ったけど、もうそれだけで死刑確定」

 完全にブチ切れモードの魔王さまの怒りが空気を伝わり、ザクロマにも届いた。

「ひいっ! お助けください! ザブナートのようになるのはごめんですぅ!」

 これにも人々は先程以上に心底驚いた。悪魔の中でも最強と言われるグレートデーモンが地面に頭を擦り付け、麦わら帽子と薔薇色姫にひれ伏し、泣きべそをかいていることを。一体麦わら帽子と薔薇色姫はどれだけやばい存在なのだろうかと。

 と、そこでメベットが目を覚ました。

「オメザメデスカ、めべっとオジョウサマ」

「どしたの、かーくん」

「マオウトぐれーとでーもんガアラワレマシタ」 

「マジ?」

「まじデス」

 メベットは急いでかーくんにまたがると臨戦態勢をとる。そして周囲を見渡すと、そこにはフェルひい爺さまと爺さまの部下たち、その横にはマルコシアお姉さま。いつものストローハットさまにマルゲリータお姉さまと受付嬢。それに薔薇色姫ローゼンプリンセス

 そして悪魔の姿。

 敵発見。

「かーくん! 『雹嵐の息吹(ヘイルストームブレス)』よ!」

 メベットの指示に従い、機械化竜はグレートデーモンに向け、問答無用でブレスを放った。大量の氷槍がデーモンの身体に突き刺さり、デーモンの動きを止める。

「続けて大回転しっぽアタック!」

 メベットの号令に合わせ、機械化竜は一気にデーモンまでの距離を詰め、前方に一回転する。

 ぐしゃ……。

 哀れグレートデーモンは機械化竜の尾でぺしゃんこに潰されてしまった。

 得意気にメベットは皆に振り返り、指でVサインをこしらえる。

「すごいわメベットちゃん!」

 それをベルルナルは拍手で褒め、魔王は「ほう」と感心し、他のものたちは自分たちがどうしていいのかわからなくなってしまった。 

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