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花火大会

 東の湖付近に陣を張るセラミクス連合軍に対し、ワーランではその西方に自警団1000人を配置した。うち200人は元難民の獣族である。彼らは自ら希望して最前線に配置された。自らのワーランへの忠誠心を示すかのように。

 ワーランの火薬庫パウダーマガジンオブワーランの5人は、自警団員たちにねぎらいの声をかけながら最前線へと進んでいく。

 自警団のメンバーはほとんどが冒険者ギルドに所属しており、自警団そのものは形式上ワーラン評議会所属となっているが、実質的にはテセウスの部下のようなもの。彼らにとって見れば大将が勇猛な仲間を引き連れてきたようなものである。当然自警団の士気は上がった。

 火薬庫たちは最前線に到着すると、自警団たちの前に並ひ立った。続けてイゼリナがラウドネスの魔法をマリアに唱える。その後、魔法効果により、相手の陣まで響き渡る声でマリアが発した。

「ようこそワーランへ、セラミクスの皆さま、ウィズダムの皆さま、ウィートグレイスの皆さま! ワーラン評議会は皆さまを歓迎いたします。どうぞ街をお楽しみくださいませ!」


 マリアが発した突拍子もない内容に、セラミクス領主はあっけにとられた。彼に下されている王命は「軍を率い、ワーラン付近で待機せよ」というもの。その後の王令は彼には届いていない。しかしワーランの代表は街を楽しめという。するとそこに魔導隊隊長のアルフォンスと農民軍代表のフェルディナンドが連れ立ってやってきた。

「領主よ、これからどうしますか?」

 アルフォンスがわざとらしく領主に指示を仰ぐ。が、次の命令を受けていない領主は答えに詰まる。 

「公よ、わしに良いアイデアがあるのじゃが、聞く耳はあるかいの?」

 無言の領主にフェルディナンドがもったいぶった様子で話しかけた。領主は彼の言葉に耳を傾ける。

「念のため聞かせてもらおうか、ウィートグレイス先公よ」

「なに、あいつらの誘いに乗るだけじゃよ」

「というと?」

「先ほどのあいつらの呼びかけに応じて、あいつらの懐に『客』として兵を送り込んでおくのじゃよ。次の王令は十中八九、ワーランの占拠じゃろ。しかしこのままではこちらは占領戦の攻め側じゃ。この兵力では正直心もとない。が、奴らの客としてわしらが事前に街に入り込んでおれば、王令が交付された瞬間にわしらは街を占拠できる。効率的だとは思わんかの?」

 領主はこの提案が素晴らしい名案に思えた。領主は頷きながらフェルディナンドの言葉に聞き入っている。

「とは言っても大量に街中に入れば奴らも警戒するじゃろうな。どうじゃ、ここはわしら農民軍に任せてはみんか?」

「なら、我ら魔導隊も共に街に入ろう。我らのゴーレムは市街戦でこそ有効に能力を発揮するからな」

 領主は考える。元々当てにしていない農民軍500名に、いまいち能力を把握できない魔導隊100名の合計600名。彼らを派遣しても本隊には5000名が残る。これならば挟撃きょうげき作戦として充分有効だと。

「ならばウィートグレイス先公よ、貴公が代表として農民軍と魔導隊を引き連れ、街に入ってくれ。王命が届き次第、狼煙のろしをあげるから、そのタイミングで内部から街を占拠してくれ」

「あいわかった」

 フェルディナンドは一旦最後尾に控える自らの軍に戻り、1列50人横10列の隊列を組ませた。その後ろに50人2列の魔導隊が続く。彼らはその隊列を維持したまま陣を離れ、ワーラン代表のところまで歩みを進めた。そこで一旦歩みを止める。

「我らは王命によりウィートグレイスおよびウィズダムから参った。我らが王から賜った命は『ワーランでの待機』。ゆえに街に入らせてもらう。構わんな!」

 フェルディナンドの言葉にマリアは返事を返す。

「我らも王命に逆らうつもりは毛頭ございませんわ。公らを歓迎いたします」

 その言葉を受け、フェルディナンドは再び軍を先導して歩みを進めた。マリアの横を通り過ぎる際に、互いにぺろっと舌を出し合いながら。


「あいつら、なにやってんだろな?」

「なんでも構いませんから早く行きましょう」

 魔王とベルルナルはワーランの街に向かう途中でセラミクスの軍を見つけた。が、魔王は少し興味を示すも、ベルルナルは全く興味がない。

 いつもの通りワーランの町外れに降り立った二人は、いつものようにまずはベルルナルを自由の遊歩道フリーダムプロムナードに預けるべく歩を進めた。が、今日はやけに混雑している。

 すると、彼らに手を振るものがいた。

「よう、薔薇色姫ローゼンプリンセス、こっちに来てわしらと遊ばんか?」

「こんにちは、茶売鰻ティーセラーイールのお爺さま、今日はなにかイベントなのですか?」

「いやいや、単に600人ほど連れて遊びに来ただけじゃ。おーい、マロンさん、酒を頼むぞい。つまみは持ち込みじゃ」

「フェル爺さま、今日は盛大にいきっますよー!」

「こんな日には賭場も開かんじゃろ、マシェリたちにも一緒に飲もうと伝えとくれ」

「わかりましたー!」

「お、そこの銀髪娘は新入りかの、ボーイのお仕着せがよう似合うぞ」

「その子はマルコシアといいますー。マルコシアちゃん、ちょっとそこの爺さまにお酒を注いでやってー!」

 フェルディナンドとマロンの掛け合いの中、彼の部下たちも、それぞれの背嚢からドライフルーツなどの保存食を取り出し、並べ始めた。

 ベルルナルは魔王に振り返ると、あの爺さまと遊んでいますと魔王に笑顔で伝える。

「それじゃ爺さま、いつもすまんが、今日もこいつのことを頼むな」

「礼儀正しい御仁おひとよ気にするな。我らも嬢ちゃんと遊ぶのは楽しいから歓迎じゃよ」

 こうして、本来なら緊張感漂うはずの場のはずなのだが、お構いなしとばかりにフェルディナンドは部下たちと自由の遊歩道フリーダムプロムナードのオープンスペースで宴会を始め、魔王はマルゲリータが待つ伊達者の楽園ダンディーズシャングリラに歩を急がせる。


 一方、こども広場ではアルフォンスたち魔導隊100名が唖然としている。

 彼らの目線はこども広場でこどもたちが遊んでいるものに注がれていた。それは機械化竜カオスドラゴンのかーくん。

「うわ、動いたぜ」

「おい、あの竜ってゴーレムじゃないか?」

「じゃあ誰が操作してんだよ」

 魔導隊の面々が口々に疑問を並べた。それはアルフォンスも同様。と、アルフォンスの横にいつの間にかイゼリナが並び立っている。

「面白いでしょ? あれ」

「面白いというかなんというか、一体何だあれは?」

「私の愛娘の作品よ。あなたが基本を教えたのでしょ?」

「愛娘って、もしかしてクレアか? あれはクレアのゴーレムなのか?」

「もっととんでもないものよ」

 笑顔で答えたイゼリナは竜の方に声を掛ける。

「こどもたち、遊んでいるところをごめんね。お客さんたちがかーくんと仲良くなりたいというから、ちょっと挨拶させてね。メベットちゃん、いいかしら」

 イゼリナの言葉に驚いたアルフォンスたちは、それに返された返事に更に驚いた。

「わかった、イゼリナさん、そっちにいくね。じゃ、かーくん、向こうに行こうか」

「ワカリマシタ。めべっとオジョウサマ」

 魔導隊の面々は、ゆっくりとこちらに歩みを進めてくる竜に驚き、竜を操っているのが、その背に乗った幼女であることに驚き、竜が幼女に返事をしたことに驚いた。

 口を開けたまま声も出ないアルフォンスたちにイゼリナがさも当然のことのように説明を始める。この竜はクレアが作ったゴーレムが元であること、このゴーレムは幻の金属と言われるダークミスリル製であること、この竜は5柱の竜による祝福を受け、竜の力を分け与えられていること。

 竜のゴーレムというだけでも、その術式を創造するだけでどれだけの精神力が必要なのかわかったもんじゃないのに、さらに幻の金属製で、加えて竜の加護を受けているなど、彼らからしてみれば、にわかには信じられない。

 アルフォンスはメベットの了解を得て、機械化竜カオスドラゴンの細部を調べた。メベットは大サービスとばかりに、かーくんをハートフルサイズにしたり、元のサイズに戻してから空に浮き上がったりと、色々な動きを見せている。

「ねえ、アルフォンス、あなたの最大攻撃魔法は何だったかしら?」

 不意にイゼリナがアルフォンスをからかうように尋ねた。

 驚き疲れて逆に冷静になったアルフォンスは淡々とイゼリナに答える。

「お前も知っての通り、サンダーランスだよ」

 するとイゼリナが浮き上がっているメベットにとんでもないことを言い出した。

「メベットちゃん、これから魔法攻撃してみるけどいいかしら」

「いいよー。何が来るのかなー」

「かみなりよ」

 これからおままごとを始めるかのような口調のイゼリナとメベットに改めて驚くアルフォンスたちに、イゼリナが続ける。

「アルフォンス、最大魔力であの竜を撃ち落としてみなさいな。治療は私がやるから大丈夫よ」

 この挑発にアルフォンスはちょっとムカついた。竜上の幼女には何の恨みもないが、竜のゴーレムが持つ性能にゴーレムマスターとしてのプライドを折りまくられたから。

「遠慮はしないぞ」

「どうぞ」

「『サンダーランス』!」

 アルフォンスの呪文とともに、彼の右手から電撃の槍が放たれた。それは青白い発光と衝撃音を伴い機械化竜に向かう。そして見事に機械化竜に命中し……。そのまま花火のようにはじけた。

「たーまやー」

「すてきー」

「もっとやれー」

 リルラッシュのマシェリたちやトランスハッピーのマコトたちも合流し、一部の若い男女間では合コン気分もかもし始めだした宴会場では、花火を楽しむかのようにウィートグレイスの兵士たちと自由の遊歩道の娘たちが声を上げる。

 それにムキになった魔導隊はそれぞれがそれぞれの得意魔法を竜に向けて砕けよとばかりに放った。その数100発。

 どどーん、どどーんと、次々に爆音を上げて立ち上り、赤やオレンジや青に魔法が霧散していく。

「おお!」

「すげーや!」

「メベットちゃんかっけー」

「かーぎやー」

「風流じゃのう」

「いいぞもっとやれー!」

 宴会席の面々と、広場の子供たちがその光景に大はしゃぎしている。


「楽しかったね、かーくん」

「ハイ、めべっとオジョウサマ」

 空から降りてきて、魔導隊の前で交わされた幼女と竜の言葉が彼らへのとどめとなった。

「ね、アルフォンス、最終的にどちらに付くかは冷静に考えたほうがいいわよ。それじゃ私は持ち場に戻るから、ワーランを楽しんでいってね。メベットちゃんもアリガトね」

 イゼリナはそう言葉を残し、その場から立ち去ってしまう。

「おじさんたち、またね」

 メベットと機械化竜もこども広場に戻ってしまった。

  

 100発の魔法花火大会終了後に残ったのは、ごきげんな農民軍にアシスタントとこどもたち、そしてプライドを粉々に砕かれた魔導隊だった。

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