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お風呂完成

「エリス、ここは危険です!」

 そう警告しながらフラウは今まさに襲い掛からんとする『二足歩行の牛(ミノタウロス)』の頭を容赦なくモーニングスターで叩き潰す。


「お嬢、私に任せろ!」

 そう勢いづきながらレーヴェは目の前でその足を高く掲げる『六本足の馬(スレイプニル)』の足ごとその首をシャムシールで跳ね飛ばす。


「エリス、大丈夫?」

「お嬢、大丈夫か?」


 フラウとレーヴェの二人から届く形式だけの心配にエリスはため息をついてしまう。

 あー面倒くせえ。



 大浴場の施工が本格的に始まり、エリスたち四人は完成までの期間を次のように過ごすことにした。


 まずは朝。

 フラウは四人の朝食とクレア及び職人さんたちの昼食にするお弁当を準備する。

 レーヴェはいつものように洗濯。

 エリスは退屈そうにあくびをしながら道具の整理。

 クレアは職人さんたちと朝礼を行った後に現場監督としてどっしりと構える。


 次は昼。

 フラウ・レーヴェ・エリスはミノタウロスかスレイプニルが出現する迷宮に出向く。

 クレアは現場監督を継続しながら時計を見て職人さんたちにフラウ特製の弁当を配る。

 その後はレーヴェから頼まれた洗濯物の取り込みを済ませておく。


 そして晩。

 フラウは台所で夕食の準備にとりかかる。

 レーヴェは洗面所で水浴びの準備を済ませていく。

 エリスはリビングにて迷宮で手に入れた魔道具の複写実験と整理を始める。

 クレアは職人さんたちの日払い賃金を精算してから工事現場の最終見回りを行う。


 最後は夜。

 まずは四人で仲良くフラウ謹製の夕食を楽しむ。

 夕食後はレーヴェが準備してくれた洗面所で四人仲良く水浴びを済ませる。

 その後は寝間着に着替え、エリスとその他三人が順番でブヒヒヒヒ。


 平和ではあるが退屈な日々が過ぎていく。


 クレアが大浴場の建設をしている間にエリスたち三人が設定した目標はふたつ。

 

 まずはひとつめ。

 これは迷宮で出会うミノタウロスを容赦なくぶち殺して奴らがたまに残す武具『両手鉾モール』をゲットすること。

 それにエリスが飛燕をコピーすれば、超レアモノである『飛燕のミノタウロスモール』が一丁出来上がり。

 これを集めてしれっと冒険者ギルドに売り飛ばし、財産をため込むというもの。

 

 そしてふたつめ。

 同じく迷宮で出会うスレイプニルを容赦なくぶち殺して『魔導馬マジカルホース』を人数分ゲットすること。

 

 この目標を達成するためにエリスたち三人はミノタウロスがボスである『オックスの迷宮』スレイプニルがボスである『スタリオンの迷宮』そしてミノタウロスとスレイプニルが中ボスとして出現する『ゴズメズの迷宮』を順番に周回しながら荒らしていったのである。


 正直なところモンスターが四体以上出てこない限り、これら中級の迷宮クラスでは、刀を構える碧の娘と鉄球を振り回す紅の娘の前にはモンスター共は全く歯が立たない。

 まさにやりたい放題なのである。


 出現したモンスターが一体だとフラウがモーニングスターで速攻ボコる。

 二体出現だと一体目をフラウがボコった次の瞬間には二体目の首をレーヴェが跳ね飛ばしてしまう。

 それならば三体であればなんとかなるかというと何ともならない。

 なぜなら三体目はエリスの氷結によって凍らされ、フラウかレーヴェのどちらか近くにいる娘においしくいただかれてしまうから。

 

 それでは四体以上出現すれば勝負になるかというとそうでもない。

 なぜならばこの娘どもはやたら冷静で、出現したモンスターが四体以上だと判断した瞬間に三人で的確に氷結を放ってくる。

 

 前衛を氷結されてパニクっている後衛に向かって襲いかかってくる飛燕のモーニングスターやら飛燕のシャムシールやらを止めるすべなどはありません。


 本来ならば希少であり奥の手であるはずの『氷結の指輪』をホイホイ使ってくる三人娘。

 恐るべきは少女二人が持つ精神の指輪。

 そして真に恐るべきはそれらの指輪にホイホイと精神力を充填するエリスの存在なのである。


 これをレーヴェとフラウは楽しそうに、エリスは退屈そうに浴場完成までの30日間続けたのである


 この成果は次の通り。

 三人はミノタウロスを合計15体ぶち殺した。

 うち五体から『ミノタウロスモール』をドロップアイテムとしてゲット。

 スレイプニルも15体ぶち殺した。

 ここでも五体のの魔導馬をゲットできた。

 

 さらに三人はこの探索で2つのレアモノもゲットした。


 ひとつめは「昏倒のモール」

 これはオックスの迷宮ボスでゲット。

 ふたつめは「浄化のバスタードソード」

 これはゴズメズの迷宮最後の宝箱でゲット。


 他にもいくつか魔道具を得たが、既存のものとかぶっていたのでそれらは容赦なく売っぱらってしまう。

 その額は合計で360万リル。

 さらにエリスは4本のモールに『飛燕』を複写して『飛燕のミノタウロスモール』に仕立てた。

 これらの冒険者ギルドでの売価は1本900万リルである。

 つまりミノタウロスモールの細工を売り飛ばすだけでも、エリスたちは合計3千6百万リルを得たのである。

 

 結局エリスたち三人はお風呂の完成を待つ間に合計3960万リルを稼ぎ出した。

 エリス分は1320万リルとなる。

 盗賊冒険者であるエリスは、稼ぎの10%である132万リルを盗賊ギルドに納めたのであるが、その額は30日間記録としてしばらく盗賊ギルドに掲示されることになったのである。


 また、迷宮探索の合間を縫ってエリスたちは魔道具店で発光の石と冷却の石の購入も済ませている。

 発光の石は10万リル。

 冷却の石は少しお高くて50万リル。

 

 工事中の小川でたくさんの小石を拾ってきたエリスは夕食と就寝の合間に次々と複写を行い、屋敷の照明は全てランプから発光の石に切り替えてしまった。

 

 また、台所でフラウが愛用している厨房も、これまでのまきから工事現場で分けてもらった板状の石に『発熱』を複写した『コンロ』に切り替えていった。

 

 さらには乱獲した迷宮のボス部屋からお宝だけでなく鉄製の宝箱も飽食のかばんを利用してパクってきた。

 パクってきた宝箱は罠と鍵を無効化した上で台所に据え付け、その中に数個の冷却の石を入れて食料保存庫にしてしまう。

 

 発光の石と発熱の石を配置した場所には、それぞれ専用の『精神の指輪』が置かれている。

 彼女たちは明かりを灯すときや消すとき、コンロを使用するときや止めるときは精神の指輪をはめてコマンドワードを唱える。

 こうすればエリス以外も本人の精神力を削ることなく明りや熱源の管理が可能となる。

 

 ちなみに各精神の指輪はエリスが定期的に精神力を充填しておく。

 なお冷却の石は宝箱の中で冷却しっぱなしで問題ない。


 その結果エリスの屋敷は最先端のエコ仕様となったのである。


 そうこうするうちに設備引き渡し当日がやってきた。

 

 親方とクレアはエリスたち三人を北の小川から南の排水溝まで案内しながら、順を追って施工内容を説明していく。

 

 北の小川からの採水口は上手に偽装されているので他者からいたずらされる心配はないだろう。

 また、採水口は流れに逆らわないように斜めに設置されており、さらに石製の柵が施されている。

 これならば異物の混入も最大限防止できるであろうし、迷い込んだ小魚や水生物も元の流れに戻ることができる。

 

 採水口の東西5メテルの位置には木柵がエリスたちの屋敷を囲む柵まで延ばされ連結されており、ここが彼女たちの敷地内であることを主張している。

 

 採水口から引き込まれた小川の水は水路を通り、途中の何か所かで網や木炭によってろ過された上で湯沸かし場へと向かっていく。

 湯沸かし場で薪によって温められた水は、建物に引き込まれた水路によってふたつの浴槽に流れ込んでいく。

 しかし流れ込むそれはあくまでも『温められた水』であり、お湯と呼べるような温度ではない。


 浴槽に満たされた『温められた水』は、あるいは排水口へ、あるいはトイレへと向かい、最後は湿地に排水されていく。

 排水は深く掘られたいくつかの穴の中を経由し、汚物を浄化しながら最後は湿地に吸い込まれていく。

 ちなみに浄化設備の上は木板で目張りをしたうえで湿地の植物で囲まれた。

 これで浴槽からの汚物が環境を極端に損なうこともないし、お変態さんたちがが流れ込んだ汚物を見学に来る心配もない。


「これでよいか?」

 一通り案内を済ませた親方が三人に尋ねる。

 しかし三人に文句などあろうはずがない。

 これは完璧な仕事だ。


 三人を代表してフラウが親方にお礼をする。

「ありがとうございます。明日、残りの支払いをいたしますわ」

 一方の親方も満足そうにうなずいている。

「良い仕事をさせてもらった」


 するとふいに親方は彼の背後に控えているクレアの頭をつかむと、無造作に彼女を自身の前に引きずり出した。

 

「お前ら、どうせ隠し事があるんだろ?」

 親方の指摘にクレアを含む四人はドキリとする。

 が、親方はエリスたちの反応に気づかないような振りをしながら言葉を続けていく。


「儂はお前たちのやろうとしていることにこれ以上詮索せん。ただ気持よくこいつを迎えてやってくれ」

 そう言いながら親方はクレアの頭をつかんでいた手を放すと、その手で今度はクレアをエリスたちに押し出した。


 え?

 突然の親方の行動にクレアは動揺する。

 なぜなら自分から切り出そうと思っていたことを、親方に先に言われてしまったから。

 

「クレア。温水設備と内装にはこれからさらに手を加えるつもりじゃろ?」

 親方の指摘にクレアはぴくりと反応し、エリスたち三人も表情を硬直させる。

「だがな、さっき言った通り儂はもう知らん。クレア、あとはお前一人でできるな?」

 あ……。

 

 親方には全部見抜かれていたんだ。

 クレアはその場でしゃがみ込んでしまった。

 そしてすすり泣きを始めてしまう。


「親方、親方、親方……」

 そう嗚咽しながらしゃがみこんでいるクレアをエリスは優しく引き起こし、彼女の耳元でこうささやいた。


「何をしているのクレア。親方に感謝のキスは?」


 その後クレアは親方にキスをしようとして最後のげんこつで返り討ちにあった。

 

 こうしてクレアは正式にエリスたちの一員となったのである。



 これはその日の晩のこと。


「レーヴェ聞こえる?」

「問題ないお嬢。こちらの声も聞こえるか?」


 エリスとレーヴェはそれぞれが持つ諜報のカチューシャと諜報のピアスを使い、互いの声をやり取りできるようにしている。


「へえ、便利なものだね」

 レーヴェの隣ではクレアがしきりに感心している。

「これで皆にもエリスの声が伝われば最高なのだけれどな」

 とレーヴェもクレアに笑顔を送った。

 

 現在、エリスとフラウは湯沸かし場、レーヴェとクレアは浴場内にいる。

 

「それではレーヴェ、少しずつ行くわよ」

「ああ、状態は都度報告する」


 レーヴェからの返事を確認した後、エリスはあらかじめ用意しておいた人の頭ほどの石に発熱を複写する。

 次にそれをフラウが持ち上げ、湯沸槽に沈めていく。

「それではひとつめ」

 諜報を通じてレーヴェにも聞こえるように宣言すると、エリスは専用のトングで沈めた発熱の石に触れる。


【赤くなれ】


 すると石の周りの水がぶくぶくと泡立っていく。

「レーヴェ、どう?」

 レーヴェとクレアは浴槽に流れ込んでくる水の温度を確認していく。

「まだまだだな」


 さらにエリスはもう2つほどの石に発熱を複写すると、それをフラウがバランスよく湯沸槽に沈めていき、エリスが順番に発熱させていく。

 

 湯沸槽から立ち上る湯気が徐々に激しくなっていく。

「これくらいでどうかしら?」

「ああ、いい感じだ。一度こちらにきてくれ」

 レーヴェからの返事に従い、エリスとフラウは湯沸槽から建物へと移動していった。

 

「いい感じね」

「気持ちいいわ」


 浴槽の湯に手を差し入れて満足げなエリスとフラウにクレアはこう提案した。

「湯船にしている石材も芯までを温める必要があるから、一旦もう少し温度を上げて全体が温まったら一部の発熱を止めたらどうかな」

 クレアの提案にエリスとフラウは従い、湯沸槽にいったん戻る。

 

「あと2つくらいでしたら、水流を止めずに石を置くことができますよ」

「それなら、2つとも入れておきましょ。そうしておけば夏と冬で湯音調整もできるしね」

 エリスとクレアは発熱の石をもう二つ湯沸槽に投入すると、再び浴場に戻った。

 

 浴場ではクレアとレーヴェが一旦湯船の排水溝をふさぎ、お湯を浴槽にかけ流しながら様子を見ている。

「定期的な清掃のことを考えると、熱めのお湯が出るようにしておくのは正解だね」

 クレアが楽しそうに石材の汚れを巻き込みながら湯舟からあふれ出してくるお湯を見つめている。

 

「そしたら、湯舟を温める間に灯りの準備もしましょうか」


 エリスたちはあらかじめ用意した籐の籠にエリスが解放した発光石を1つずつ入れ、室内の天井にしつらえた留め金に順番にかけていく。

 発光席を直接おかずに籠に入れるのは間接照明にするため。

 籐の籠に入れられた発光石は、網目を通じてやさしく室内を照らしだす。


 室内に籠をかけ終わったころ、クレアがエリスに呼びかけた。

「そろそろ湯舟も温まったから、お湯をさっきの温度に戻してくれるかな」


 エリスとフラウは湯沸槽に戻ると最後に沈めた2つの石の発熱をトングを使いながら止める。

 一方のクレアはレーヴェに協力を仰ぎながら一旦2つの浴槽に溜まった熱めのお湯を全部抜いてしまい、再度お湯を溜めだした。

「これで浴槽の汚れも全部流れたからね」


 再び浴槽にお湯が溜まるのを楽しみに待つ四人。

 しばらくすると湯舟がお湯でいっぱいになり、お湯が溢れだしてくる。

 クレアが最後に排水口を調整する。

 

「トイレの温度もいい感じになったと思うよ」


 ならばと四人は連れ立ってトイレの様子も見に行ってみる。

 

「すごいわ」

「すごいな」

「すごいですね」

「すごいや」


 四人の目の前には完璧な温水トイレが鎮座している。

 それは設計したクレアですら目の当たりにすると驚く設備であった。


「ねえ、せっかくだから四人でお風呂に入りましょうよ」

 エリスの提案に嬉しそうにうなずく三人。

 

 一旦受付カウンター裏の扉から屋敷に戻ると、専用の脱衣所で服を脱ぎ、レーヴェがあらかじめ用意してくれたタオルを持って再び浴槽に向かう。

 

 全裸で浴場に戻った四人を迎えてくれたのは、立ち込めた湯気を籐の網から漏れる光がやさしく照らす幻想的な空間だった。


 四人はまず、かけ湯の前に置かれた低い椅子に各々座ると桶でお湯を身体にかけてから体を拭っていく。

 そして浸かり湯へ。

 四人は思い思いの位置で湯船につかっていく。

 

「これは極楽だな」

 レーヴェは全身を脱力させている。

「1日の疲れが抜けていくようですわ」

 フラウも目を細めている。

「エリス、気持ちいいね」

 クレアはうれしそうにエリスに語りかけた。

 

 ああ、なつかしいな。

 ヒキニートは転生前の風呂を思い出した。

 あのころは嫌々入っていた狭い風呂。

 でも今思い出すとそれほど悪かった気もしない。


 風呂ってこんなに気持ちよかったんだな。


 美少女三人が全身を上気させながら脱力しているのを眺めながら、自身も発情を忘れ、ともに風呂を存分に楽しんでいるアラサーヒキニートなのであった。

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