かーくん
ここは工房ギルド裏の空き地。
エリスたちはメベットを連れ、みんなでやってきた。竜たちもそれぞれの乙女に張り付いている。
「完成したよ、エリス」
クレアが混沌竜を頭に乗せ、一旦工房でなにやらごそごそした後、小さな何かを持ってくる。
それは小さな人形と指輪。エリスは指輪をクレアから受け取ると、メベットの小さな親指にはめてやる。
「指輪がきつくなってきたら、中指とかに、はめ替えてね」
「わかりました、エリスお姉さま」
続けてクレアが小さな人形を空き地の真ん中に置いた。その人形は淡く黄金に輝き、形は混沌竜を模している。その後、クレアがメベットに指示を出す。
「メベット、モゲモゲくんの要領であの人形に指輪を通じて念を送ってごらん」
「わかりました。クレアお姉さま」
メベットは左手親指の指輪に右手を重ね、コマンドゴーレムを念じる。すると人形は淡く輝きながら巨大化した。
「おお!」
どよめく乙女たち。その姿は混沌竜よりもややスリムな竜。大きさは混沌竜の半分ほど。それでも直立すると30ビートほどの高さとなる。
メベットは竜を見つめながら動作を念じてみた。するとゆっくりと竜が歩きだした。振り返って満面の笑顔を浮かべるメベットにクレアが答える。
「どうだい? この子の名前は『硬くて大きくて素敵なダークミスリル製の機械化竜型ゴーレムくん』というんだ」
相変わらず名づけのセンスがないクレアにエリスが口をはさむ。
「もう少し短くしなさいな。とりあえず頭文字を取って機械化竜とかでいいんじゃない?」
文句を言いたげなクレアを無視し、エリスはゴーレムの名称を決めてしまった。そして続けてメベットに伝える。
「メベット、これからはこの竜で自分の身を守りなさいね」
「はい、ありがとうございます!」
するとエリスの背中から大地竜がクレアに尋ねた。
「なあクレア、今メベットと、そのおもちゃの竜は精神が結ばれているのか?」
「うん、今はつながった状態だよ」
それに暴風竜がレーヴェの胸から顔を出して質問を続けた。
「何か武器は持っているのかい?」
それに首を横に振るメベット。
「今のところ何もないんだ。ダークミスリル製だから、もしかしたら武器として魔能力を付与できるかもしれない。それはエリスに頼もうかと思ってさ」
「ふーん。ダークミスリル製なら多分いけちゃうわよね」
鳳凰竜が呟くとクレアと混沌竜が不思議そうな顔をした。
「そこのお間抜け竜はクレアを手伝っていながら何も思いつかんかったんかい。さすがメタルイーター崩れやの」
氷雪竜がキャティの首から混沌竜に辛らつな言葉を投げかけた。
「何だとこのバカたれ竜! って、あっ!」
混沌竜が何かを思い出したような表情となる。そこに大地竜が言葉をつなげた。
「やっと気づいたか。エリスちん、ちょっと俺を降ろしてくれ」
「どうしたの? らーちん」
「まあ見ていろ」
らーちんが降ろされると、すーちゃん、ふぇーりん、あーにゃん、ぴーたんがその周りに集まった。そして何やらごそごそと打ち合わせを始める。
「そんじゃ分担決まり。メベット、ちょっと機械化竜をうつぶせにしてくれ」
らーちんの指示に素直に従い、メベットは機械化竜をうつぶせにした。するとらーちんが頭、すーちゃんが背中、ふぇーりんが鼻先、あーにゃんが顎、ぴーたんが尻尾にそれぞれ張り付いた。
「ほんじゃ開始!」
らーちんが声を上げると、一斉に5柱の竜が輝きだした。
黄金に輝く大地竜
碧く輝く暴風竜
紅く輝く鳳凰竜
白く輝く氷雪竜
闇を飲み込む混沌竜
エリスたちは息を飲みながらその光景を見つめ続けた。やがて輝きが収まっていく。そして光が消えると改めて大地竜がメベットに声をかけた。
「どうだメベット、頭に術式は浮かんだか?」
「はい、すごいです大地竜さま!」
「何? 何なの?」
「何が起きたんだ?」
「何か圧力を感じますわ」
「もしかしてこれって……」
「にゃー」
5人の問いかけにすーちゃんが自慢げに答えた。
「僕たちの特殊能力をこの人形に分け与えたのさ」
大地竜が機械化竜に授けたのは「竜の思考」。この能力により機械化竜はメベットの竜として、自ら考え行動するようになった。
暴風竜が機械化竜に授けたのは「竜の飛翔」。この能力により機械化竜は飛行が可能となった。
鳳凰竜が機械化竜に授けたのは「竜の加護」。この能力により機械化竜はメベットを乗せて飛行することが可能となった。
氷雪竜が機械化竜に授けたのは「竜の息吹」。この能力により機械化竜は口から雹嵐の息吹を吐くことが可能となった。
混沌竜が機械化竜に授けたのは「竜の一撃」。この能力により機械化竜は尾による大打撃攻撃が可能となった。
「ちょっとまってよ! そんなに能力をつけちゃって大丈夫なの? メベットの負担にはならないの?」
慌ててエリスたちは5柱の竜に問いかけた。
「大丈夫だよエリスちん。これは俺たちの能力を分け与えただけだから、メベットの負担にはならん」
「そうそう、レーヴェちゃん。それにメベットは既に竜戦乙女の資質を備えたから心配しないで」
「フラウりん、先日の誘拐騒ぎでメベットはかなり鍛えられたみたいなのよ。悪魔に一歩も引かない根性はさすがだわ」
「キャティにゃん、そんな心配せえへんでも、資質持ちにはこんなんおもちゃみたいなもんや」
「本物の竜じゃないから契約はできないけど、コマンドゴーレムでメベットと機械化竜はつながっているから問題なしだよクレアたん」
すると機械化竜も口を開いた。
「コンニチハ、ハジメマシテ めべっとオジョウサマ ミナサマ」
これには6人とも驚いた。
「私の……竜……?」
「ハイ ワタシハ めべっとオジョウサマノドラゴンデス」
メベットはゆっくりと機械化竜に近づく。すると甘えるように機械化竜はメベットに頭を下げた。その頭にメベットが触れると、淡い輝きが一瞬強くなった。後ろかららーちんが付け加える。
「人体変化は無理だが、体長変化許可は使用可能だ。解放してみ?」
メベットは頭に浮かんだ術式を解放する。すると機械化竜はしゅるしゅるとその身体を縮めていった。
「こっちにおいで」
メベットが指示を出すと、機械化竜は嬉しそうにパタパタとメベットの方に飛んで行った。そしてメベットのネックレスにつかまるようにぶら下がる。その姿はとってもハートフル。メベットは機械化竜を手のひらに乗せ、笑顔でその姿を見つめた。
「となると、恒例の名づけね」
「かーくん」
エリスが名づけ宣言を行うと同時にメベットが呟いた。
「はい決まり」
続けてエリスはメベットに機械化竜を動かしてみるようにメベットに指示を出した。
「かーくん、身体回帰!」
メベットが叫ぶと、機械化竜はメベットのネックレスから離れ、元のサイズに戻った。
「尻尾攻撃!」
続けてメベットが尾での攻撃を指示する。すると機械化竜は近くの岩を尾の一撃で粉々に砕いた。
「雹嵐の息吹!」
メベットの声に合わせ、機械化竜は口から氷でできた小さな無数の槍を吐きだした。それを受けた岩は表面を穿たれ、凍りつく。
さらにメベットは機械化竜の背に跨った。
「飛行!」
機械化竜はその羽をギシギシと羽ばたかせ始める。それは徐々にスムーズに、徐々に高速となっていく。そしてゆっくりと機械化竜は浮き上がった。メベットは結界で保護され、落下するようなそぶりは一切見せない。
「クレアたん、ファイアバレットを撃ち込んでみなよ」
混沌竜の言葉を信じ、メベットに声をかけてからクレアは機械化竜にファイアバレットを撃ち込んだ。炎の弾は機械化竜に確かに当たったが、機械化竜とメベットに何のダメージも与えることはできなかった。
「あれなら大丈夫だろう」
「飛行も安定しているね」
「結界も間違いなく機能しているわ」
「グレートデーモンくらいならどうにでもなるやろ」
他の竜たちもメベットと機械化竜の飛行を見つめながら、それぞれ口にした。
ということで、メベットは6人目の竜使いとなった。
なお、竜戦乙女ではないので、メベットに異性とのお付き合いの道はまだ残されている。




