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盗賊少女に転生した俺の使命は勇者と魔王に×××なの!  作者: halsan
エンジョイ デーモンズライフ編
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お姉さまたち

「ここは別荘だとお考えくださいね」

 エリスはビゾン、グリレ、そしてメベットにそう伝えると、ケンとハンナを3人に紹介した。

「この街の最古参となるケンとハンナです。2人はケーキショップを経営していますが、同時にこの家の面倒も見てもらっています。私達が留守の時になにかお困りのことがありましたら、遠慮なくこの2人にお尋ねください。ケン、ハンナ、よろしくね」

「お客さま方、よろしくお願い致します」

 ケンとハンナは丁寧に3人に挨拶をした。

 現在ケーキショップはハンナの祖母であるロンナと、妹のニンナが店番をしており、この2人は朝のケーキ仕込みを終えた後は、比較的自由な時間が増えている。特にケンは宝石箱の御者から解放されたので、午後は自由の遊歩道フリーダムプロムナードの各店舗に顔を出し、様々な調整を行っている。髪もそれなりに伸びた彼には既にヒャッハーだったころの面影はなく、立派な好青年として街を取りまとめている。ハンナは唯一エリス宅の鍵を預けられており、エリスたちが不在の時は清掃やベッドメイキングを行っている。エリス達から見ると下男筆頭と召使筆頭、街の住人達から見るとエリスの代貸だいがし夫婦というおっかない存在というのがケンとハンナなのである。

「姉さま、食事は私達と共に摂ってもいいし、良い機会だから街で食べ歩いてもらっても構わない。百合の庭園(リリーズガーデン)自由の遊歩道フリーダムプロムナードは全店顔パスにしておくが、ワーラン市内までは手が回らないので滞在費を預けておく。当座はこれで過ごしてくれ」

 と、レーヴェはビゾンとグリレに財布を渡した。2人はレーヴェが何を言っているのか今ひとつ理解できない。たまらずビゾンがレーヴェに尋ねた。

「街が顔パスとはどういうことなの?」

 するとレーヴェが困ったような顔をしてケンの方を向いた。と、心得たとばかりにケンはレーヴェに代わって答える。

「百合の庭園も自由の遊歩道も宝石箱の皆さまには大恩がございます。そのご親族の方からお支払いをいただくなど滅相もございません」

 そこでレーヴェが付け加えた。

「フェル爺さまだけは調子に乗るので、必ず支払いを求めるよう、街の者たちには厳命してある。なので、姉さま方も爺さまと同席の時だけは支払をしてくれ」 

 思わず噴出すビゾンとグリレ。同時に、あの放蕩末妹が立派になったとつくづく思う。

「わかりました。エリスお嬢さま、皆様方。ここはスカイキャッスル貴族の面目をかけて贅沢をさせていただきます」

 グリレが5人に笑顔で答えた。それに対し笑顔で返す5人。

 ビゾンとグリレが財布内の金額に仰天するのは、そのしばらく後のことである。

 

 翌日からビゾンとグリレは2人でワーランの街を楽しんだ。既にグリレは謝肉祭のステージでスカイキャッスル産の酒類を宣伝した女性ということで街の者たちの間では知られている。また、碧の麗人レディ・ブルーグリーンの姉、茶売鰻ティーセラーイールの孫、何より金髪の幼女(アンファン・ゴールド)宅の客人ということで、どの店でも最高の待遇を受けた。

 訪れる先々で2人が驚くのは、決して宝石箱はエリス1人だけの評判だけではなく、5人それぞれが様々な店舗で絶賛されていること。

 朝食を楽しんだカフェではフラウの料理センスについて、精悍な男性店主が2人に熱く語った。

 お笑い芸人の午前興行を楽しんだライブハウスでは、興行終了後に芸人自らが2人のもとを訪れ、キャティのお笑いセンスと、自分を拾ってくれた恩について2人にとうとうと紡いだ。

 昼食にランチコースを楽しんだ蒸し料理店では、クレアの厨房がなければこのような店は開けなかったとネコ娘の店主たちから絶賛された。

 興味本位で覗いたカジノでは、白のブラウスに黒のベストとボウタイ、タイトスカートを颯爽と纏った女性から、レーヴェの存在がいかにこの店で大きいものであるかと感謝された。

 熱気に当てられて一休みしようと訪れたティーショップでは、エリスの存在がいかにこの街で大きなものかと語られた。そして横のテーブルにはエリスの契約竜である大地竜ランドドラゴンが、お茶の湯気の前でひなたぼっこを楽しんでいるかのように硬直している。

「レーヴェたちは愛されているのね」 

「レーヴェたちもこの街を愛しているのね」

 ビゾンとグリレは、お嫁に行かずこの街で放蕩を尽くしている末妹に少しだけ嫉妬した。が、すぐに考えを改める。自分たちにはこんな街を創りあげるのは不可能。それに、2人ともお嫁に行った先で実は満足していた。 

「ところで、スチュアート卿とはどうなの? 子供はまだなの?」

「私はまだ20歳だもの。もう少し2人でいたいわ。姉さまこそ、2人目はどうなの?」 

「そうよね、一姫二太郎が理想だから、2人目は男の子が欲しいわ」 

 と、幸せに姉妹トークを楽しむ2人なのであった。

 

 さて、残る1人のメベットちゃん。6歳の彼女はまず母親と叔母にこう言い放った。

「私はお姉さまたちと過ごすので、お母さまはグリレ叔母さまと街をお楽しみくださいな」

 ちょっと心配な表情を浮かべたビゾンも、メベットが張り付いているのがエリスだったこと、妹のレーヴェもいるといるということで安心してしまった。

「宝石箱の皆さま、よろしいのですか?」

「よろしいのですよ」と濁り一つ無い笑顔で答えるエリスと、いまいち歯切れの悪い他の4人。だが、ビゾンはそこまでの4人の表情を読み取れなかった。 

 一方、エリス-エージは、ここのところ忙しくてすっかり忘れていた己の欲望に目覚める。

「ロリ最高」

 エリス-エージはその左手でメベットの右手を握ると、至高の笑みを浮かべた。

 とはいっても真っ昼間から色々と仕掛ける訳にはいかない。ワーランで魔宴サバトを開く訳にはいかないし。

 なのでエリス-エージはメベットの手を握りながら、街の案内を始めた。その後ろを心配そうな表情で付いていくレーヴェとフラウ。ちなみにクレアは工房にこもりっきり。キャティは基本他人はどうでもいいので、今日も氷雪竜あーにゃんキャティスと何処かをふらついている。

「なあお嬢、メベットはまだ6歳なんだ、それを忘れないで欲しい」 

「エリス、メベットにあまり刺激を与えるのは正直良くないと思いますわ」

 笑顔で道行くエリスとメベットの後ろから、レーヴェとフラウがこそこそとエリスに話しかける。 

「うるさいわね。わかってるわよ!」

 2人に何となく魂胆を見透かされたような気がしたエリスは表面上だけでも反論してみせた。

 一方のメベット。握ってもらっている右手が頼もしいからなのか、何の不安もなく、街の光景をおもいっきり楽しんでいる。

 屈託のない幼女の笑顔。エリス-エージは久しぶりの新しい獲物に猛ってしまった。

「このまま部屋に帰ってメベットを剥いちゃおうかしら」と良からぬことを考えていたところにクレアから通信が入った。

 いいところで腰を折ってきやがるとエリス-エージはため息をつきながら人形を顔の前に上げ、いらだちを隠さずに声を上げた。

「何なのクレア?」 

「何なのとは失礼だなあエリス。どうせメベットと一緒にいるんでしょ。適性を見たいから連れてきてよ」

 クレアはダークミスリルを持って工房にこもっている。相棒はダークミスリルを加工可能にする魔流を発生できる混沌竜ぴーたん

「大枠はできたからさ。後はできるだけ親和性を高めて精神力の浪費を抑えたいんだ」

 人形の向こうで何やら難しいことを言っているクレアに、エリス-エージは「わかったわ、今から行くね」と返事をするしかなかった。

 しばらくして工房に着くと、クレアはプロトタイプ手乗りモゲモゲくんをメベットに差し出し、指輪をはめさせた。

「メベット、この子を意識で動かしてみてくれる?」

「はい、クレア姉さま」

 以前手乗りモゲモゲくんで遊んだことのあるメベットは、指輪を通じてモゲモゲくんに意識を送る。するとモゲモゲくんはカタカタと動き出した。

「やっぱりね」

「そうだね、クレア」

 クレアとぴーたんが言葉をかわした。次に彼女たちは別の指輪をメベットに渡す。 

「メベット、この指輪から何かを読み取れる?」

 メベットは指輪に意識を集中する。すると1つの術式が頭に浮かんだ。

「クレアお姉さま、……」

 それを笑顔で受けたクレアとぴーたん。

「よし、後は仕上げだけだ。エリス、もう帰ってもいいよ」

「説明はなしなの? クレア」

「そんなの完成してからでいいだろ、エリス。楽しみにしてなよ」 

 エリスは疑問をクレアとぴーたんに遮られるも、2人が何をこしらえているのかについては知っていたので、ここは余裕を持って工房ギルドを後にした。

  

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