現状把握しまーす
人知れずチャーフィー卿とビゾン夫人は彼らの館を離れた。彼らの目的地はスチュアート卿の館。
館の入り口には金髪の少年が二人を待っていた。少年は二人の後方に意識を集中させ、尾行がいないことを確認してから2人を館に招き入れた。
「メベット!」
「お父さま! お母さま!」
やっと緊張の糸がほぐれたのか、父親と母親に包まれ、大泣きする幼い少女。
館で待っていたのはメベットと5人の少女、5柱の竜たちだった。2人を迎えたのは探知能力に優れる大地竜エリソン。
チャーフィー卿はマルスフィールド公からエリスたちと合流するように指示されていた。そしてその指示をマリアからマルスフィールド公に伝えるように指示をしたのはエリス。併せてビゾン夫人には長期の避難に耐えられるよう、荷物をまとめてくるようにも伝えていた。
一息ついてからエリスたちはチャーフィー卿にメベットが囚われていた屋敷の場所を説明した。レーヴェとすーちゃんが今回切り殺した相手は全て悪魔であり、館の住人は確認できなかったこと。館の中には祭壇らしき石台が置かれていたこと。そしてすーちゃんが言うには、多分直前にもそこで何人かの人間が殺された気配が残っていたこと。
「予想以上に王都は悪魔に浸食されているのかもしれません」
エリスが率直にチャーフィー卿に意見をぶつけてきた。それに頷く卿。
「実は王令発布直後に貴族たちは王の真意を確かめるべく王城に向かったのだ。が、頼みの広報官すら王と直接の謁見ができず、下命は全て署名によるもの。今回の無茶苦茶な王令に対しても、広報官が唯一拝聴したのは『事実である』という王の呻きなのだ」
そこでチャーフィー卿は思い出したようにエリスたちに尋ねた。
「ところで、竜戦乙女と言うのは王と褥をともにしても竜の怒りは買わないものなのか?」
何を言っているんだこのおっさんと言う表情で唖然としながらチャーフィー卿を見つめる5人。竜たちも、ちょっとこのおっさん、何を言っているのかわからないんですけどという状態となった。
「あの、チャーフィー卿、何を突然とんでもないことをおっしゃるのだ? そんな馬鹿げたことがあるわけないであろう」
レーヴェが皆の気持ちを代弁して卿に呻く。
「あのね、おっさん。例えば王がレーヴェちゃんにちょっかい出した時点で、僕はこの都市を滅ぼしちゃうくらい怒り狂っちゃうと思うんだけど、それってわかる?」
あまりに突拍子もない質問に、逆に冷静になった暴風竜もフォローを入れた。
「あの、そもそも突然何でそんなお話になるのですか?」
おずおずとフラウも卿に尋ねる。そうしたあまりの皆の予想外の反応に驚きながらも卿は答えた。
「実は王のところにも竜戦乙女と竜が現れたのだ。そして今は竜戦乙女と竜、そしてお付きの2人が王の警護をしておる。君たちも知っているだろう、竜戦乙女は元勇者パーティの女性、そしてお付きは大男と商人ギルドの下っ端だ」
「あり得ないわ!」
その言葉に鳳凰竜が、我慢ならないとばかりに怒鳴った。そして続ける。
「女性って、ピーチとか言う腐れ女でしょ? わたしはあの女のお陰で口から生命エネルギーだったのよ! あの女が竜戦乙女だなんてあり得ないわ!」
「大体、その竜ってのはどんな竜なのかにゃ?」
「ああ、聞いた話だが、夜馬竜というそうだ。巨大な馬の身体に竜の頭を持っているらしい」
「おっさん、アルメリアン大陸に、そんな竜はおらへんで」
キャティの質問に卿が答えると、氷雪竜が即座に否定してみせた。
「それってもしかして夜馬じゃなくて夜魔じゃないかな?」
「あ、オレ知ってるかも。夢喰夜魔がそんな格好だよ」
クレアと混沌竜が何やら知識を披露しだした。
「夢喰夜魔って?」
「たちの悪い悪魔だ。夢を通じて人間の欲望にとり入り心を内から破壊し、思うがままに操る連中だ。まあ俺たちにとってはザコでしかないがな」
エリスの質問に大地竜が胸糞悪そうに答えてみせた。
「そうなると、多分三馬鹿も夢喰夜魔に操られていると見て間違いなさそうね」
「多分そうだろうな。王は間違いなく夢喰夜魔の虜になっているだろうな」
沈黙する一同。王に夢喰夜魔がちょっかいを出しているのであろうまでは推定できた。が、その後に打つ手がない。
何しろエリスたちは正面から王を守護する夢喰夜魔に喧嘩を売るわけにはいかないのだ。そんなことをすればスカイキャッスルがワーランに兵を向けてくるのは間違いない。それに、夢喰夜魔が竜でなく実は悪魔であり、王を食い物にしていると周囲に証明する術も今はない。
するとチャーフィー卿が持つ人形から、状況を報告せよというマルスフィールド公の指示が響いた。チャーフィー卿はその場でマルスフィールド公に現在の状況を一通り説明する。すると公から意外な指示が出た。
「王令がマルスフィールドに正規の手続きで届くのを待ってから、わしはそちらに向かい王に謁見を願う。その時には宝石箱よ、お前たちが私に同行しなさい」
その手があったかと得心するチャーフィー卿。一方、王への面会は広報官すら不可能だと聞いたばかりのエリスたちには意味がわからない。
そんなエリスたちの表情を見越したように、人形の向こうからマルスフィールド公が豪快に笑い飛ばした。
「お前たちには言っておらなかったな。わしの本名はジャック・J・スカイキャッスル。現国王の弟にして王位継承権1位のおっさんじゃよ。さすがの兄もわしの面会は認めざるを得ないだろうよ」
公のとんでもないカミングアウトにエリスたちは皆で顔を見合わせた。
その後エリスたちはこれからの動きについて詳細を詰めた。
チャーフィー卿とスチュアート卿はスカイキャッスルの貴族。今回起きている問題の場にいるべきであり、貴族として王の乱心を収めることは彼らの責務。なのでチャーフィー卿はこの場に残り、スチュアート卿はワーランから急ぎスカイキャッスルに戻る。
一方、チャーフィー卿の妻であるビゾンと娘のメベット、スチュアート卿の妻であるグリレは、いつ何時言いがかりを付けられて魔宴の生贄に仕立てあげられるかわかったものではない。なので彼女たちは現在最も安全だろうと思われるワーランのエリス宅に身を寄せることにする。エリスたちは全員の移動が終わってから速やかにスカイキャッスルの西に移動。マルスフィールド公に合流し、正規の手続きで改めてスカイキャッスルに入城することとした。
「それではチャーフィー卿、ご無事をお祈りしております」
「ああ皆さん、ビゾンとメベットを頼みます。それからスチュアート卿には、単身で正規のルートで正規の時間をかけてスカイキャッスルに戻ってくるようにお伝えください。今はスカイキャッスル貴族である私とスチュアート卿が竜戦乙女と親密であるのが明らかになるのは、あまり得策ではないですからね。グリレ夫人については、貴族連中には私の家内とともに里帰りしたとでも言っておきます。良かったですよ、2人ともウィートグレイス領主レオパルド公の娘で」と、チャーフィー卿は笑顔でエリスたちと愛する妻と娘を送り出した。
エリスたちは夜明けを待たずに街の郊外まで移動し、ビゾンとメベットをエリスとともに混沌竜のカプセルに乗せた。このカプセルならば身体に負担なく、2人は道中をゆっくり休むことができるから。エリスが同乗するのはメベットを安心させるため。フラウは鳳凰竜に跨がり、暴風竜の背にはレーヴェとキャティが跨る。
そして物音をたてないようにゆっくりと竜たちは舞い上がった。




