ジェノサイド
魔宴とは何か。
要はやりたい放題の宴会である。ならばガチホモどもの白褌祭やファッショナブルゲイどものシガレットパーティ、おかまちゃんやおなべちゃんたちの狂乱ダンシング、ガチレズたちのお風呂でのお楽しみなども魔宴かというと、そうではない。
魔宴がやばいのは、「何でもあり」なこと。
乱交は当たり前のようにあり、薬物も普通にあり、たまにおかしな召喚儀式もあり、興奮した連中は自らのちんこを料理して持参したり、挙句の果てには拐ってきた幼女や少年を面白半分にバラしてみたりする。
魔宴あるところに悪魔ありと言われるのも納得の、人として、いや、生物として最低最悪の宴。それが魔宴である。
魔宴が合法化されたことということは、それらの行為すべてが認められたということ。正直、正気の沙汰ではない。が、既に王は正気ではなくなっていた。
「魔宴の解禁」と、
「魔宴への生贄は、成人ならば本人、未成年ならば親の同意があれば合法的に提供される」
この2つの王令は瞬く間にスカイキャッスル内に広まった。
当然貴族たちは王城に詰めかけ、王の真意をただそうとする。が、最も王の真意を理解できないのが唯一王の言葉を代弁する広報官なのだからたまらない。
竜戦乙女は彼女の竜、そしてお付きの2名により王を直接護衛すると申し入れ、王はそれを受け入れた。以降、広報官も王から直接下命を受けることはなくなった。広報官の手元に来るのは王直筆の王命書のみ。
広報官はお付きの大男からこの王命を受け取ったときに、まずは王の正気を疑った。なので彼は不遜を承知で王の寝所に立ち入り、王に真意を求めた。が、王の寝所からは「事実である」との王の声が響いただけであった。
「あらあら、広報官さま、そんな不遜は許されませんよ」と、同じ場所から女性の声がした。それはまごうこと無き竜戦乙女の声。
ここでも広報官は混乱した。竜戦乙女とは竜に乙女を捧げるものではないのか? と。が、そこまで。彼はお付きのもの2名に部屋から連れ出された。背後に王の「今回は見逃すが、次回はないと思え」との抑揚のない声を浴びながら。
だから広報官は王の言葉を繰り返すしかない。「王令である」と。すると貴族の中には「それが王の御心ならば」と、王令に賛同するものまで出てくるありさまである。もはや貴族間でも事態の収拾がつかない状況となってしまった。
「予想以上に混乱してくれていますわね」と、ピーチの姿を借りた全裸の何者かが呟いた。
「どうも一部の連中が暴走しているようだが、それもまた一興か」と、全裸の男が呟いた。
2人の間には王が仰向けになって意識を失っていた。
「お、早速拐ってきたか」
「おう、どうだい旨そうだろ」
「あいつらに従ってきたのはこれを食いたいからだもんな」
「俺は心臓とか肝臓が楽しみだ」
「俺は眼球をつるっといきたい」
「俺は未成熟の子宮と卵巣かな」
「俺は生血をぐいっとやりたい」
「俺らってとっても仲いいよな」
「ああ、食事の好みが微妙に違うっていいことだよな」
「ところで、この娘の親の合意は得たのか?」
「なんだそりゃ?」
「あちゃー。お前それはだめだよ。あいつらは事前に親の合意を取れって言ってただろ」
「でもどうやってそんなもんを取るんだよ」
「簡単だ。『王命によりこの娘は魔宴の生贄となる。王に逆らうこと無きよう合意せよ』これで終了」
「面倒くせえ」
「なあ、今回は事後承諾でもよくないか?」
「そうだな、とりあえず今回は食っちまうか。誰が親なのかを調べるのも面倒くさいし」
とんでもない会話を聞かされていたメベットは、それでも気丈に姉と慕う少女たちの助けを待っていた。が、それも限界。
「さてっと、お嬢ちゃん。こっちにおいで」
猿ぐつわを噛まされ、両腕を後ろに縛られたメベットは抵抗することもできず、1人の男に運ばれる。そこには蜀台に飾られた石台が据え付けられていた。
メベットは着衣のまま石台に固定される。
「それじゃお嬢ちゃん、いい声で泣いてね」
「なるべく痛くしてあげるからね」
「お願いだからすぐに死んじゃ駄目だよ」
メベットを取り囲む男たちが好き勝手なことを囁く。
「それじゃ鱗はがしから行ってみようか」
男の一人がメベットの猿ぐつわをはずす。同時に地獄にも届けとばかりの悲鳴を上げるメベット。
「いいよいいよ!」
男はゆっくりとその「爪」でメベットの衣服をはがし始める。可愛らしいブラウスを切り裂かれ、メベットは悪魔たちに未成熟の身体を晒した。
フェルディナンド先公から「魔宴の合法化」について聞かされたエリスたちは、メベットが生贄として連れ去られた可能性が高いと判断した。ならばチャーフィー卿に対し、誘拐者どもから何らかの接触があるだろうと。
なのでエリスはフェルディナンド先公とマルスフィールド公を通じてチャーフィー卿に誘拐者からの接触があった時点で連絡を送るように指示していた。チャーフィー卿は「何を失っても構わない、メベットだけは助けてくれ!」とマルスフィールド公を通じて己の想いをエリスたちにぶつけてきていた。が、最悪なのはチャーフィー卿とメベットの共倒れ。それだけは避けたい。だからぎりぎりまで状況が好転するのを待つ。
「クレア、まだか!」
「もう少し先だよ、落ち着いてよレーヴェ!」
「これが落ち着いていられるか!」
クレアは必死にファインドマーカーの信号をたどる。そしてやっと信号の位置を確定した。そこは以前通過したことのある貴族街の邸宅。灯りは消えている。
「レーヴェ、あそこだ!」
クレアの声を受け、レーヴェは手元の人形に叫んだ。
「エリス、見つけたぞ」
「わかったわレーヴェ。私たちも間もなく到着するからそれまで待機していて!」
と、同時にメベットの叫び声が人形から響き渡った。
「だめだエリス、間に合わない!」
「ならば作戦変更、突入したら遠慮なく皆殺しにしなさい! 一人も逃しちゃだめよ! クレアもね!」
男はゆっくりとその爪をメベットの胸に向ける。
「おい、先に心臓を取り出しちゃうと終わっちゃうぞ」
「そうだそうだ、まずは腹にしておけ」
「阿呆、眼球が一番命に影響がないぞ」
「それもそうだな」
男は爪をメベットの瞳に向けた。
「それじゃいただきまーす」
男の声とメベットの悲鳴が重なる。と、メベットの胸が突然輝いた。そして急激に大きくなる影。
メベットは遠吠えの人形と、もう1つ小さな人形を首にかけていた。それはクレア会心作のゴーレム、防衛人形くん。大きな影は防衛人形の雄姿。
防衛人形くんは小さな人形と指輪で1組になっており、指輪の持ち主に命の危機が及んだとき、防衛人形くんは自律して起動し、指輪の持ち主を最優先して守る行動をとる。
命を救うだけなら犠牲の人形の方が効率はいい。が、メベットが命の危機に晒される状況では、すぐに二の手三の手が襲ってくることは容易に想像できた。それでは一度命が救われても意味がない。なのでエリスはクレアと秘密裏に一般人用最終防衛手段として防衛人形くんを開発していたのだった。
人形は男の爪を腕ではじき、メベットを捕えた縄を瞬時に引きちぎった。そして男たちが唖然としている中、メベットを抱え、その場から脱出しようとする。
「うお、何だあれ!」
「つーか、何逃げてんだこいつら!」
一瞬驚いた男たちだが、すぐに正気に戻り人形を追いかける。男たちは人形の背に弓や投槍、炎弾などをぶつけるが、人形はメベットの全身を守り、背中を削られるがままにひたすら逃げる。
が、攻撃の一つが人形の片膝を砕いた。バランスを崩し人形は倒れこんでしまう。が、ここでも人形はメベットを守るように倒れこむ。己の肩が砕けても気にせずに。
人形はメベットを抱きかかえるとその場で亀となった。メベットの全身を己の身体で覆う。
「この野郎! 突然出てきやがって!」
「とりあえずぶっ壊して娘を取りだそうぜ!」
男たちが人形に追いついた。そして男の1人が人形の背に斧を振り下ろす。しかし斧が振り下ろされる前に突如現れた複数の炎弾が男たちに叩きこまれた。
「ホーミングミサイル!」
クレアが放った炎弾が次々と男たちを襲う。そしてそれを追いかけるように碧い影が男たちに向かった。
「メベット、よく我慢した」
レーヴェは亀になった人形に囁きながら男たちの群れに突っ込む。その途中で暴風竜がレーヴェの胸から離れた。そしてレーヴェは目の前の男たちを無言のもとに切り捨てていき、暴風竜は男たちが現れた地下に向かう。その後、地下から何人かの男たちによる絶叫が響いた。地下の男たちは暴風竜の風の刃で、これでもかというくらいまで細かく刻まれた。
皆殺し完了。
レーヴェはメベットのところに戻る。そしてメベットをやさしく抱きあげ、その頭を胸に抱えてやる。
「よく我慢した、えらいぞメベット」
「お姉さま、私、頑張りました……頑張りました……」と、メベットは気丈に振る舞い、同時に意識を失った。
「頑張ったね」
クレアは気を失ったメベットの頭をひとなですると、彼女の指から指輪をはずした。それから床にしゃがみ飛び散った防衛人形くんの破片を丁寧に拾う。
「君も頑張ったね。すぐに直してあげるからね」
その後、それほどの時を待たず、エリスたちもレーヴェとクレアに合流した。




