お花畑VSお花畑
ここは謝肉祭コスプレカップルイベント特設会場。
「よう、マザコン、今日はまた渋い格好をしてるな。そちらのお嬢さんもセクシーで可愛いぞ」
「おう、麦わら帽子、そっちこそどこの童話の勇者さまだよ。しかしお連れさんは素敵だなあ」
相変わらず軽いノリの魔王と勇者グレイ。各々の連れもそれぞれに笑顔でぺこりと挨拶をする。
「で、こんなところで何を悩んでいるんだ?」
グレイの問いに魔王は困ったような顔で答える。
「実はな、こいつがあそこで配っている鯨獣のマフラーが欲しいと駄々をこねていてな。どうも非売品らしくて売ってもらえないんだ」
「私はあのマフラーが可愛いので欲しいです。あと、マリオネッタさんにあの帽子が似合うと思います」
ベルルナルが指差したところには、可愛らしい丸い帽子が飾られていた。それを見たマリオネッタはちょっと欲しくなる。
するとそこに舞台から引きずりおろされたキャティとキャティス型あーにゃんが顔を出した。
「何を悩んでいるんにゃ? マリオネッタ」
「あ、キャティさま、実はあのマフラーと帽子が欲しくて……」
「それならステージでネタを披露すればいいにゃ」
「そうは言っても、何をしていいかわからなくて」
マリオネッタの言葉に他の3人も腕組みしてしまう。するとあーにゃんが横から口を出した。
「せっかく勇者と魔王のコスプレをしとるなら、勇者と魔王のバトルをやればええ。簡単や」
「そうだにゃ。2組での出し物ということなら、私から帽子とマフラーを景品にするようにお願いしてあげてもいいにゃ」
まず口を開いたのは勇者コスプレの魔王。
「ならば、勇者の俺が負けるというシナリオで行こう」
すると魔王のコスプレをした勇者も負けじと提案する。
「いやいや、ここは魔王の俺が負けておこう」
ここでどちらが負けるかで揉め始める2人。その横でおろおろする女夢魔と戦乙女。するとキャティが4人にシナリオを提案した。「どうせならここまでやっちゃうにゃ」
そのシナリオに複雑そうな顔をする勇者コスプレの魔王と魔王コスプレの勇者。でもまあ、観客のことを考えるとそんなものかと納得する。
「それじゃイベント参加の申し込みをしてくるにゃ。景品は私がキープしておいたげるにゃ」
「勇者よ! 今こそ貴様との決着をつけてやろう!」と、全身漆黒鎧の魔王コスプレ勇者が叫ぶ。
「魔王よ! ここが貴様の墓場となるのだ。覚悟!」と、全身青く輝く勇者コスプレ魔王が答える。
そしてステージ上に対峙する2人。その後ろには白亜のミニスカアーマー戦乙女コスプレだ天使と、黒のコルセットアーマー女夢魔コスプレ魔術師が不安そうに動向を見つめている。
じりじりと間合いを詰める魔王コスと勇者コス。観客席にも緊張が走る。と、「今よ!」と叫んだ女夢魔。
「ぐあっ!」女夢魔コスの三叉槍が魔王の背を貫く。
「うおっ!」戦乙女コスの細身の槍が勇者の背を貫く。
「な、なぜだ女夢魔よ。間もなく俺の時代が来るというのに……」
「う、裏切ったのか戦乙女よ……。そ、それが、神の意志なのか……」
すると一転して晴れやかな表情となった女夢魔と戦乙女が声を揃えて会場に叫んだ。
「邪魔者は消えたわ。さあ、私たちの理想郷に向かいましょう!」
「ええ、私達が目指すは百合の庭園!」
「さっきゅん、愛してるわ!」
「大好き、わるきゅん!」
そして2人は手に手を取ってステージの袖に消えていった。
まさかの結果に唖然とした観客たち。次に大爆笑。
勇者と魔王は、この反応に複雑な想いをしながらも、愛想笑いを浮かべながら、ステージから去って行った。
勇者と魔王がステージ下の景品引き渡し所に到着すると、既にベルルナルとマリオネッタが上機嫌で鯨獣のマフラーと帽子を身につけて、互いに自慢しあっていた。その姿にちょっと可愛いなと思ってしまった勇者と魔王。
「それじゃベルルナル、俺は伊達者の楽園に行ってくるからな。あまり酔っぱらうんじゃないぞ」
「はい、ご主人さま。マフラー嬉しいです」と、マフラーにご満悦なベルルナル。
「マリオネッタ、今日の夕食はどうしようか」
「今日は奮発してスチームキッチンでコースを頼みましょうよ。ところでグレイさま、似合ってますか?」と、想像以上に良い出来の帽子にご満悦なマリオネッタ。
こうして、何事もなかったように4人は解散した。上機嫌のベルルナルだけをそこに残して。
「ねえ、おねーちゃんはレーヴェの友達の薔薇色姫かにゃ?」
一人立ったままニコニコしている戦乙女姿の女性がさすがに気になって、キャティはベルルナルに声をかけた。
「はい、レーヴェお姉さまにいつも遊んでいただいています」
と、このセクシーないでたちからどうやって出来るんだというくらい純朴な笑顔でベルルナルはキャティに答えた。この女性に興味を持ったキャティは、「ちょっと果実酒でも一緒に飲むにゃよ」と、ベルルナルの手を引いてトランスハッピーに連れて行った。
トランスハッピーのボックス席に3人で座ったキャティとあーにゃんとベルルナル。ベルルナルはキャティとあーにゃんのお茶らけた会話がよっぽどツボらしく、果実酒を噴き出しそうになりながらコロコロと笑っている。
こうなってくると俄然やる気になってくるお花畑の2人。調子に乗って時事漫才のようなものを始めてしまった。それは魔王をからかうもの。
「なあキャティにゃん、魔王ってアホちゃうか?」
「何でやねんあーにゃん」
「魔王って、略奪してリルを稼いでいるんやろ?」
「そうらしいにゃ。農民もいい迷惑だにゃ」
「そこがアホやねん」
「というと?」
「悪魔を使えるんなら、貧乏人を襲って小金をちまちま稼がんでも、ここは一発迷宮に潜ればいいねん」
「おお、あーにゃん頭いいにゃ」
「悪魔の戦士に悪魔の盗賊、悪魔の魔術師に悪魔の勇者や!」
「そしてお宝がっぽがっぽという訳だにゃ」
「そうじゃい、ほんでお宝を売っぱらってリルをがっぽがっぽじゃい」
「そして悪魔の勇者はついには」
「ついには」
「魔王を倒すんだにゃ!」
にゃんにゃん。
……。
あれ?
先ほどまでコロコロ笑っていたベルルナルさんが、なぜか真剣な表情で考え込んでいる。まあ、真剣と言っても可愛らしい真剣さなのだが。
すると唐突にベルルナルはキャティに尋ねた。
「迷宮の宝って、どこで売れるのですか?」
「冒険者の店で買い取ってくれるにゃ」
何か、いいこと聞いた感にあふれるベルルナルさん。と、そこにエリスたちが現れた。
「キャティとあーにゃん、楽しそうね。あら、ベルルナルさまとおっしゃったかしら、こんにちは」
笑顔でベルルナルに挨拶をするエリスとクレア。すでにらーちんはエリスの背中。ぴーたんはクレアの頭に留っている。
ベルルナルは嬉しそうな顔でエリスたちにあいさつした。
「こんにちは。今、キャティさんに良いお話を聞かせていただきました。タメになりました」
ニコニコしてるベルルナルさん。エリスたちはキャティがベルルナルに聞かせた内容を確認すると、小さくガッツポーズをした。
実はここに来るまでに、どうやって魔王に略奪をやめさせようかと悩んでいたエリスたち4人。ところがここでお花畑のキャティとあーにゃんが、同じくお花畑のベルルナルに「悪魔を使って迷宮探索」というアイデアを出してくれた。ここは一気にたたみかけるべき。
エリスたちはベルルナルを囲むように座ると、「迷宮のお宝がいかに素敵で、そして高く売れるか」についてベルルナルに力説した。そこにレーヴェたちと屋台を閉じたフラウたちも合流する。
こうして魔王がベルルナルを迎えに来るころまでには、すっかり彼女はエリスたちに洗脳されてしまっていた。
「お、ここにいたのか、帰るぞベルルナル」
マルゲリータに今日も責められ、さっぱりした魔王がベルルナルを呼びにやってきた。
「皆さん今日は楽しかったです。また遊んでください」
と、ベルルナルはぺこりとあいさつをしてから、魔王の方に駆けて行った。魔王はエリスたちに軽く会釈をすると、そのままベルルナルと帰って行った。
「まさか彼女が悪魔を統べているとはな」
「悪魔からの直接の情報だから間違いないわ」
レーヴェの当然の疑問をエリスが打ち消す。しかし誰もが、あのお花畑が悪魔を統べるものだとはにわかには信じられなかった。
ここは魔王の居城。
「ねえ、ご主人様」
「なんですか、ベルルナルさん」
「私、素晴らしい提案があるのですけど」
「言ってみなさいな」
「リル稼ぎは、村からちまちま略奪するのはやめて、悪魔たちに迷宮探索をやらせましょう」
「俺は構わないけど、それで悪魔どもが納得するのか?」
「そんなのは私の強制力で何とでもなります。迷宮で爪を探して来いと命令します」
「で、迷宮探索でリルはともかく、道具はどうすんだ?」
「街で売っぱらいます」
「人間を強くしちゃっていいの?」
「ワーランで売っぱらうのなら、問題ないです。ご主人さまもワーランを攻めるつもりはないですよね」
「それでは任せるよ。ベルルナルさん」
「わかりました。嬉しいですご主人さま。それでは抱いてください」
「今日は弾切れなので駄目です」
「わかりました。それではこれを一緒に飲んでください」
ベルルナルが取り出したのは、レーヴェからもらった高級な蒸留酒と、フェル爺さまからもらったドライフルーツの数々。
「仕方がないな、ちょっとだけだぞ」
こうしてちょっとだけでは済まず、相変わらず幸せそうに酔っぱらってしまったベルルナルの姿に刺激され、相変わらず我慢できなくなった魔王は弾切れのはずだったのにいつの間にか弾が再装填され、ベルルナルをこってりと蹂躙してしまった。当然衣装は全部引き裂いて。毎回これでは衣装代がたまらない。
魔王はベルルナルの意見を積極的に採用することにした。
なお、レンタル衣装は1セット単位なので、ベルルナルのミニスカートアーマーを引き裂いてしまった魔王たちのコスプレは「買い取り」となってしまったことは言うまでもない。




