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盗賊少女に転生した俺の使命は勇者と魔王に×××なの!  作者: halsan
エンジョイ デーモンズライフ編
149/186

憲兵少女エリス

「さて、私たちもコスプレ開始ね」

 エリスがにやりと笑う。それに合わせ、クレアも口元をいやらしく歪めた。 

 今日は謝肉祭カルナバル

 フラウとふぇーりんは既にシェフのコスプレをまとい、屋台でステーキサンドを楽しそうに販売している。

 レーヴェとすーちゃんは、これ見よがしのお揃い軽戦士スタイルで威圧感たっぷりに不埒な連中を脅しつつパトロールを行っている。キャティとあーにゃんは真っ白なサイドスリットロングドレス。あーにゃんはその下にロングパンツを履き、男女お揃いで、黙っているうちは優麗な姿で街を闊歩かっぽしている。

 さてエリスたちとクレアたち。まずエリスとらーちんは秘密警察のコスプレ。エリスは手に鞭を持ち、パチンパチンと鳴らしている。クレアとぴーたんは軍服の上に白衣を羽織る。その姿はさながら軍医。

「うふふふ」

「えへへへ」 

 なにやらきな臭いことを考えているらしい2人と2柱は、その姿で街に繰り出した。

 

「お、エリス、今日はおっかない格好をしているな」

「クレアもやばそうな感じがいいぞ」 

 街ゆく人たちが気軽にエリスたちに声をかけていく。それに対し「私を怒らせたら逮捕よ」とか「実験材料にしちゃうぞ」とか、笑顔で答えていくエリスとクレア。その姿に街中の誰もが、エリスたちもコスプレを楽しんでいるのだと思い込んだ。

 秘密警察と軍医のコスプレで街中を闊歩する少女少年4人と、それを微笑ましく眺める市民と観光客たち。街は良い感じでお祭り騒ぎ。

 と、らーちんがエリスに思念を送った。

「あいつだ」 

 同時にエリスはクレアとぴーたんに目配せした。次に1人の観光客らしき男をゆっくりと取り囲む、と、突然エリスが叫んだ。

「貴様! 逮捕する!」

 突然の叫び声に動揺する観光客らしき男。そこに有無を言わず男に猿ぐつわをかませ、ぐるぐる巻きにし、ふん縛るらーちんとぴーたん。

「よっと」

 男をらーちんが軽々と肩に抱えた。

 この捕り物にいっとき騒然となった街の一角だったが、エリスが笑顔でぺこりと頭を下げたところで、全員が「これはコスプレの寸劇だ」と納得し、笑いながら拍手を送った。エリスたちは拍手の中、笑顔で手を振りながらその場を離れた。そして向かうは盗賊ギルド。


 ここは盗賊ギルドの拷問室。エリスが事前にギルドマスターに使用目的を説明し、事前に使用許可を取っている特別室。

「それじゃ、始めましょうか」 

 魔法の拷問椅子に固定された男はゆっくりと猿ぐつわを解かれた。それと同時に男は叫び出す。 

「何だ! この街では観光客を突然拉致するのか! 訴えてやる!」

「うふふふ。いい声ね。クレア、まずはあれを試してみましょうよ」 

「えへへへ。そうだねエリス。まずは盛大に行こうね」

 クレアがかばんからごそごそと何かを取りだした。

 それは大きな扇子のような代物。いわゆる「ハリセン」という武器というかなんというか、音は派手だがダメージはあまり出ない代物。

「さて、どうかな? そーれい!」

 クレアがワクワクした表情を浮かべながら男の頭をハリセンでぶっ叩く。

「ぐわあっ!」男は予想以上の痛みに悲鳴を上げた。

「えへへへ。効果ありだね。つぎはこっち」

 次にクレアが取り出したのは小さな木槌。これも殴られればそれなりに痛いが、一発で致命傷を与えるようなものではない。クレアは男の前にしゃがみこんで、その膝下を木槌でコツンと殴る。

「ぎゃあっ!」男は片足を跳ね上げながら、痛みに悲鳴を上げる。

「うふふふ、脚気ではなさそうね」 

「お前ら、何なんだそのハリセンと小槌は! なんでそんなに痛いんだ!」

 男の悲鳴にエリスが真っ黒けな笑顔で答えた。

「だって、このハリセンと木槌、『破魔』付きなんだもの。わかる? あ・く・ま・さ・ん」 

 エリスの回答に男は全身から冷たい汗がにじみ出るのを感じた。

 そう、エリスたちは午前中のパトロールで、何匹かの悪魔が観光客を装って街に紛れ込んでいるのを既に察知していたのだ。男の正体は、最初からばれていたのだ。

 そして「破魔」とは、アンデッドと悪魔にダメージ2倍という、悪魔どもには天敵ともいえる魔能力。しかし破魔のハリセンや木槌などというふざけた魔道具は、見たことも聞いたこともない。

 するとエリスは1本の乗馬鞭を取りだした。そして可愛らしい笑顔で男の鼻先に鞭を突きつける。

「これ、『鴻鵠の破魔の乗馬鞭』なの。悪魔さんたちにはダメージ合計5倍のすぐれもの。効果はこんな感じなの」

 続けて男の鼻先を鞭先でぴたんと叩く。それはちょっと触れた程度。だが、男は耐えがたい痛みに三度みたび絶叫した。

「ね、そろそろ正体を現したら? 悪魔さん」

「わかった、わかったからやめてくれ!」 

 そう懇願すると、悪魔は正体を現した。その姿は以前見たことがある。いわゆるザビナス級と呼ばれる、以前ウィートグレイスでダークフィナンス家に紛れ込んでいた変装術を使うハイデーモン。同時に巨大化しようとするも、魔法の拷問椅子に阻まれる。

「いい子ね。それではこの街にやってきた目的から、じっくりとお話ししていただこうかしら」 

 乗馬鞭と小槌を構える少女2人に完全に威圧された悪魔は、全身をぺちぺち打たれ、ぽこぽこと小突かれながら彼女たちの質問に答えていった。


「魔王が引きこもっているというのは意外ね」

「ベルルナルさんが悪魔をべているというのも意外だったよ」

「それ以上に笑えるのはベルルナルとやらがおかしくなっちゃったことだろうな」

「でもあれ、演技じゃないと思うよ。本気で幸せそうだもん」

 悪魔を一通り拷問した後、エリス、クレア、らーちん、ぴーたんはそれぞれの感想を交換する。

「悪魔たちの略奪だけはやめさせたいところね」

「レーヴェにベルルナルさんを操ってもらうのが一番いいかな」

「あの考えなしにそれは重荷だ」

「そうだよ。オレたちでなんとかしたほうが賢明だよ」

 ひどい言われようのレーヴェさんだが、それなりの実績があるので仕方がない。  

「なあ……。まだ解放してもらえないのか?」

 会話から一人置いてきぼりにされている悪魔が呻いた。と、クレアがマッドサイエンティストを思わせる笑顔を悪魔に浮かべる。

「悪魔さん、ボクたちは悪魔じゃないから、命だけは助けてあげるね」

 そう言ってクレアは悪魔の額に触れ、「ディストラクションニードル」で魔法抵抗を無効化した後、ゆっくりと次の呪文を唱え始めた。その呪文に青ざめる悪魔。なぜならその呪文の中に「エクスプロージョン」が含まれていたから。

「やめろー!」悪魔は絶叫する。しかしクレアは笑顔を浮かべながら術式を滔滔とうとうと唱えつづける。

 クレアの呪文詠唱が終わった。が、悪魔の身体には何の変化もない。悪魔が浮かべる恐怖の表情にクレアはにっこりとほほ笑み返した。

「悪魔さん、今の呪文は『キーワードエクスプロージョン』っていうんだ。この呪文は、キーワードに反応するんだ。君がある言葉を発した途端に、君のおつむは『ぼんっ!』だよ。大丈夫、ある言葉さえ発しなければ君は無事だからさ。ね、やさしいでしょボクたち」

 エリスもブリブリしながら続ける。

「ある言葉って何かしら。ワーランかな、少女かな、竜かな、もしかしたら魔王? うーん、私悩んじゃう」

「わかった、わかったから、お前たちのことは何もしゃべらないから、もう許してくれ!」と、懇願する悪魔。

「そんな、許すだなんて。こちらこそ良い情報をありがとうございます、悪魔さま。それではごきげんよう」

 こうして悪魔は地獄の責苦せめくもかくやという拷問からやっと解放され、ほうほうの体で城に逃げ帰っていった。

「さて、次を捕まえてきましょ」

 再びエリスたちは笑顔を振りまきながら街を巡回し始める。


 さて、こちらは特設ステージ。ステージ上ではカップルコスプレをまとった市民や観光客たちがいろいろな即興劇を演じている。今回のステージはコンテストではなく、参加者全員にカフェ「ポットアンドケトル」特製の鯨獣肉ベーコンの塊や西の漁村特製の鯨獣革の帽子やマフラーなどのアクセサリーなどがお土産としてもらえる仕組になっている。 

 現在ステージ上にはキャティとキャティス姿のあーにゃんが立っている。演目は「キャットファイト演武」ちなみに腕と足の爪は収納してある。

 2人はステージ中央で礼をすると、各々がアップライトスタイルに構える。華麗なステップを踏む2人と、それに見惚れる観客たち。

 と、突然あーにゃんがクラウチングスタイルを取り、キャティに突っ込んだ。そこでパンチの姿勢を見せる。それをバックステップでかわそうとするキャティ。するとさらにあーにゃんは姿勢を低くし、まさかのタックルを仕掛ける。が、キャティはそれを読み切り、サイドステップからキャティスの頭に肘を落とす。しかしあーにゃんはさらに頭を下げ、一回転してから左サイドに跳ねる。これを左ミドルキックで迎撃するキャティ。と、これをさらにバックステップで勢いを殺し受け止めたあーにゃんは、キャティの左足に投げを仕掛ける。が、キャティは自ら投げに動きを合わせ、勢いとともに一回転し、あーにゃんの足を払う。そしてマウントポジション。 ここまで一瞬。

 2人は立ち上がり、中央で礼。湧き上がる観客席。すると2人はステージの前面に並んだ。

「なあキャティにゃん」

「なんにゃあーにゃん」

「謎かけってしっとるか?」

「にゃんとかとかけてニャンとかととくってやつだにゃ」

 こうしてステージ上で小ネタを始めた2人は、一部の笑いと大多数のブーイングを受け、ステージから引きずりおろされた。


 ここは魔王の城。

 ほうほうの体で逃げ帰ったザビナス級ハイデーモンは、慌てて魔法陣に向かい、魔界に逃げ帰ろうとした。なぜなら、魔界なら呪いも効果がないだろうと考えたから。

 ところがそこを他の悪魔に呼び止められる。

「何だお前、何慌てているんだ」

「俺は何もしゃべらん」

「何だよ、せっかくワーランとやらの街に潜入できたんだ。少しは情報をおいていけよ」

「嫌だ俺は何もしゃべらん!」

「どういうことだよ」

「喋らんと言ったら喋らん。気になるならお前が行けばいいだろ、俺は何も知らん」

 ぼんっ!

 突然逃げ帰ってきた悪魔の頭がはじけた。頭を失い倒れこむ悪魔。何が起きたのか理解できない他の悪魔たち。

「何だ今のは!」

「エクスプロージョンじゃないか! やべえよ!」

「誰だ呪文を唱えたのは!」

 こうして仲間内でも疑心暗鬼になっていく悪魔たち。

 エリスとクレアはキーワードを「知らない」と指定した。なぜなら、悪魔が他と会話しようとしたときに、確実に使用するだろうと予測したから。

 そう、最初から生かして帰すつもりはなかったのだ。悪魔を手玉にとった2人の少女は、この後も数体の悪魔に「キーワードエクスプロージョン」を仕掛け、城に帰し続けていった。

 その中の悪魔の1人がはじける前に一言を残した。

「悪魔以上の悪魔がいた。それ以上は知らん」

 そして

 ぼんっ!

 城の悪魔たちは残された言葉に怯えることとなる。

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