表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盗賊少女に転生した俺の使命は勇者と魔王に×××なの!  作者: halsan
エンジョイ デーモンズライフ編
146/186

お前らそれでいいのか?

「ねえご主人さま」 

 ……。

「ねえ、ご主人さま」

 ……。

「ねえってば、ご主人さま」

「あのね、ベルルナルさん、お前、今どこに座っているの?」 

「ご主人さまの膝の上です」

 当然のように言い放つベルルナルさん。 

 魔王は大きくため息をついた。

 ワーランでのイベント終了後に、すっかり酔っぱらって碧の麗人に付き添われながら千鳥足のベルルナルを引き取った魔王は、その前にさんざんマルゲリータさんに焚きつけられていたおへその下の欲望を、城に連れ帰った後に、ついベルルナルにぶつけてしまった。

 酔って正体をなくしたブラックレザーランジェリー姿の彼女は、美しくて可愛くて魅力的でだらしがなくて、魔王の心に嗜虐心しぎゃくしんを芽生えさせてしまうには十分だった。

 甘くざらついた欲望に囚われた魔王はベルルナルを再び思うがままに蹂躙してしまった。彼女の耳元で「殺すぞ」と囁きながら革製の下着を引きちぎっていった魔王。泣き叫び呻きながら、同時に快楽の深淵に落ちて行ったベルルナルさん。

 翌日から、さらに彼女はおかしくなった。

 二言目には「遊んでください」「遊びに行きましょう」と来る。

 さすがに心配になった魔王はベルルナルに尋ねる。

「なあベルルナルさんよ、お前、悪魔の管理はちゃんとやっているのか?」

「爪探しとリルの略奪は悪魔に命じてあります。あと、私はワーランに遊びに行きたいです。ご主人さま、早くマルゲリータさんに予約を入れてください。予約を入れに行かないのなら私を抱いてください。それから、新しい服を買ってください」

 と、万事がこんな調子。やることはやっているようだが、妙に魔王にべたついてくる。そう、まるで恋人のように。かといって魔王がマルゲリータのところにあうあうしに行くのは無問題の様子。逆に早く予約を取りに行けと急かされる始末なのだ。 

「そうだな、そろそろ予約を取りに行くか」

「ご主人さま、私も連れて行ってください」

「ああいいよ。ついでにこないだ破っちゃったお前の服も買いに行くか」

「嬉しいです。ご主人さま大好き」

 ということで、2人はスカイライナーの魔法で連れ立ってワーランに向かった。

 

「グレイさま、朝食ができましたよ」と、勇者の耳元で甘い声が囁く。

 ここはワーランの街はずれ。再開発され、アパートメントが立ち並ぶ新興住宅地。その小さな一室で勇者は朝を迎えた。

 三馬鹿がなぜかスカイキャッスル王宮にとりたてられ、違約金を支払うことなくパーティを解散できた勇者一行は、勇者グレイ、盗賊ギース、魔術師マリオネッタの3人で活動を再開した。

 王命は魔王軍の殲滅。なので彼らはその準備のため、天啓による「対魔王決戦アイテム」を探しに、各地の上位迷宮を回っていた。三馬鹿がいたころは1つの迷宮を走破するのに数日を要したが、この3人ならば1日で走破できる。盗賊が罠を解除し、勇者が魔物をなぎ倒し、魔術師が盗賊の体力を回復する。入手した道具は迷宮から戻ってから魔術師がまとめて鑑定し、必要なものは装備、そうでないものはレアものであれば王宮に納め、それ以外は売却して行った。こうしていつの間にか盗賊と魔術師もそれなりの装備となる。しかし相変わらず決戦アイテムは出ない。

 だが、3人は充実していた。

 探索が終わると、勇者の魔法リープシティでスカイキャッスルに飛ぶ。そこで一日の活動を記録官に報告し、レアアイテムを納める。次に飛ぶのはワーラン。そこで3人は2人と1人に分かれる。そして勇者と魔術師は魔術師の小さな部屋へ、盗賊は定宿となった街中の一室に向かう。翌日は休日と決めている。

「マリオネッタ、おはよう」 

 勇者グレイは幸せだった。目覚めると愛しい人が朝食を用意して笑顔で迎えてくれる。こんな日が来るとは思ってもいなかった。だから勇者は己の目的と存在意義を簡単に忘れた。

「グレイさま、今日はどうなさいますか?」

 グレイは考える。そういえばこの街について、彼はほとんど何も知らない。

「どうせ俺が勇者だとばれているのなら、堂々と街を見物に回ろうか」

 するとマリオネッタははにかむような笑顔で返事をグレイに返した。

「そうですね、改めて宝石箱の皆さまにもご挨拶をしたいですし。それから……。グレイさまがお世話になった……マリリン姐さんにも……」

「ああ、そうだな」

 敢えて過去形を使ったマリオネッタの心を察したのかどうかは知らないが、さばさばと頷くグレイ。そして2人は仲良く朝食を楽しみ、互いに見つめ合い、しばらくの互いの恥じらいを乗り越えて勇者は魔術師をベッドに連れ込み、本日の1回戦目を開始した。

 

 さて、こちらはエリスたち。昨日の大地竜バスが大成功だったので、今日は街中から料理人を集め、西の漁村に「お肉見学ツアー」に向かった。西に向かって疾走する大地竜。

 大地竜の背にはエリスが見知った顔ぶれが並ぶ。商人ギルドからはガチホモの五郎八十とスタイリッシュゲイのジモン、蘇民屋の料理人とマーキュリーズバーのシェフ、スチームキッチンのミャティにポットアンドケトルのカオル、スチームブレッドのシンなど。フラウも今はチャーミングサイズの鳳凰竜とともに大地竜の背に乗っている。

「サンプルの肉は驚くほど上質なものであったからな。楽しみである」

「ああ、肉の種類も充実している。これは腕がなるぞ」

 ガチホモとスタイリッシュゲイとしては対立している五郎八十とジモンだが、互いの料理の腕前だけは認めあっており、料理についての情報交換だけは互いに真摯しんしである。

 一方、ミャティやカオル、シンたちは大地竜の移動速度に驚きながらも、旅そのものを楽しんでいる様子だった。

 1刻ほどで、エリスたちは西の漁村に到着した。と、そこへ突然、氷雪竜アイスドラゴンが海の中から姿を現した。

 いきなりの氷雪竜登場に驚くエリス一行。だがお構いなしに氷雪竜は陸に上がってきた。その腕には太い縄で結びつけられた船や漁具などが引っ張られている。それをあらかじめ杭を打って準備していた海豹あざらし獣人たちが当然のように受け取り、それらを杭に縛りつけていく。

「エリスはのんびりさんだにゃ」

 氷雪竜あーにゃんの頭上にはキャティが跨っていた。が、濡れた様子は全く見えない。

「キャティ、どういうことなのよ!」

「海豹獣人たちの引っ越しを手伝っているにゃ」

「そうじゃなくて、何でキャティは濡れていないの?」

「あ、これは氷雪竜あーにゃんの結界だにゃ」

「何を当たり前のことを言っとるんやエリス社長。氷雪竜の結界と言ったら耐水被膜に決まっていますがな。さて、もう一回や」と言いながら、あーにゃんとキャティは踵を返して沖に向かって行った。

「聞いてないわよ……」

 そんな便利なものがあったとは。エリスはちょっとムカついた。が、相手はお花畑コンビ。こちらがむきになっても柳に風、暖簾に腕押し。ということで、エリスはすぐに切り替え、後で氷雪竜に乗せてもらい、海底散歩を楽しもうと固く決意した。

 料理人たちは冷凍倉庫に案内され、中で様々な肉を確認し、それぞれのメニューが重ならないように自発的に調整を始めた。その中心はフラウと五郎八十とジモン。

「エリス、だいたい決まりました。夕方の仕込みもありますから帰りましょう。らーちん、お願いしますね」

 冷凍倉庫の中から出てきたフラウがエリスとらーちんに声をかけた。

 氷雪竜の帰りを今か今かと待っていたエリスはここで時間切れ。

「ちっ。水中散歩はお預けね」

 エリスはつぶやくと、料理人たちを大地竜に乗せ、街に帰っていった。


 ここは宝石箱のティールーム。勇者グレイと魔術師マリオネッタは店内で悩んでいる。マリオネッタはどのペアカップにしようかと悩み、グレイは一瞬でマリオネッタに却下された目の前のカップのどこが悪いのかと悩んでいた。

 ちなみにグレイが選んだのは紅白のおめでたいペアカップ。いろいろな意味でおめでたい。

 すると横から店の娘であるクレディアがマリオネッタに声を掛けてきた。

「マリオネッタさん、普段使いのカップをお探しですか?」

「ええ、クレディアちゃん。なかなか決められなくて」

 するとクレディアは一旦奥に戻り、すぐに一組のカップとポットを持って戻ってきた。それは厚めに筒状に白く焼かれたマグカップ。肌には影絵が焼き付けられている。1つは男性の姿。もう1つは女性の姿。そしてポットには女性を抱きかかえた男性の姿が黒く美しく焼き付けられている。

「マリオネッタさん、ラブラブならこれがオススメよ」

 カップを手にしてみるマリオネッタ。男性のカップと女性のカップは微妙に造作が違う。無骨な男性用と繊細な女性用。マリオネッタはこのカップセットが気に入ってしまった。

「ねえグレイさま、このカップで休日はお茶を楽しみませんか?」

 紅白のカップを睨みつけていたところに突然話を振られたグレイは反射的に頷いた。

「お幸せそうですね」

 クレディアはカップセットを箱に詰めながら、笑顔で2人に声を掛ける。照れくさそうな勇者と幸せそうな魔術師は、この後クレディアにお茶の入れ方を教えてもらう。

 一方ティールーム店主のアイフルは、珍しいお客さまにティーセットを提供していた。それは麦わら帽子(ストローハット)さまと呼ばれる伊達者の楽園ダンディーズシャングリラの常連さまとそのお連れさま。

「ご主人さま、ここが皆さんおすすめのティールームです」

「へえ、こんな良い店があったんだな」

 2人はリラックスしながらお茶とお菓子を楽しむ。と、そこに勇者と魔術師が自分たちで入れたお茶を楽しむために現れた。2人に気づく魔王。

「よう、マザコン、こないだは災難だったな」魔王は勇者に声を掛けた。

「おう、麦わら帽子(ストローハット)、そっちはお楽しみだったな」勇者も魔王を愛称で呼ぶ。

 この2人、実は互いが勇者と魔王だということをわかっていない。こないだというのは自由の街道フリーダムプロムナードでのイベントで行われたゲームの話題。

「何だ、結局その娘といい仲になったのか」

「ああ、俺はもう風呂には行かない」

「そうか、まあ人それぞれだしな。俺は予約してきたぜ」

「お前、そんなきれいな女性を連れて、よくそんなことを言えるな」

「よせやい、こいつは妹みたいなもんだ」

 魔王は勇者の横でお茶を楽しんでいる赤毛の女性に見覚えがあるような気がした。が、すぐに打ち消した。魔王はこの世界に召喚されてから、あんなに幸せそうな笑顔を浮かべる女性は見たことがない。なのですぐに勘違いだろうと納得し、ベルルナルと旨いお茶を楽しむ。

 勇者は魔王の横でセクシーな姿に似合わず、両手でカップを抱えてふぅふぅとお茶を冷ましている可愛らしい仕草の女性を見て思った。別にマルゲリータさんでなくても、この女性に踏んでもらえばいいんじゃないかと。でも所詮他人のことなので放っておき、マリオネッタにおかわりを注いでもらう。

 マリオネッタとベルルナルもそれぞれ挨拶を交わす。互いに互いの連れから発する強大なオーラを感じてはいるが、マリオネッタは恋人と相手の男が知り合いのカップル同士なのでベルルナルに対し何の警戒心も持たないし、ベルルナルはそれこそ他人のことなどどうでもいい。こうして4人で午後のティータイムをゆったりと楽しんだ。

 隣のテーブルには、運搬役から解放された大地竜らーちんが、相変わらず置物のような姿で茶の香りを楽しんでいる。当然大地竜は勇者と魔王、そして魔王の横にいる存在については感知済み。だが、大地竜にとってはそんな瑣末なことよりも目の前にあるお茶の香りを堪能する方が大事。ちなみにエリスたちは商人ギルドのホールで新たなイベントの下打ち合わせ中でここにはいない。


 この日、ここに大陸の命運を握る3つの勢力が集結しているとは、大地竜以外誰も思わなかった。

 なお、このとき盗賊ギースは、なるべく宝石箱のティールームに近い場所でアパートメントを借りるべく商人ギルド不動産部で受付嬢の説明を受けていた。

 そんな1日である。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 平和だなぁ〜(思わず言いたくなった)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ