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盗賊少女に転生した俺の使命は勇者と魔王に×××なの!  作者: halsan
エンジョイ デーモンズライフ編
142/186

王都守護竜

 スカイキャッスルの朝を迎えたエリスたち5人は、メベットの案内で、それぞれの竜を従えて再び市場に来ていた。

 フラウは酒市場を回り、樽詰の酒の前に並べられた試飲酒の香りを確かめながら、しきりにメモをとっている。

「このメモを元に、ニコルさまに葡萄酒や蒸留葡萄酒の発注をお願いするのですよ」と、楽しそうに店を回るフラウ。

 一方レーヴェは陶器瓶入りの強い蒸留酒をいくつか購入していた。

「あら、レーヴェはそんなにお酒が好きだったかしら」

「違うぞお嬢、これはな、茶売鰻ティーセーラーイールへのお土産だよ。あのクソジジイを酔っぱらわせてケツの毛を抜くためのものだ」

「それ、反則じゃない?」

「これくらいしないとフェル爺さまには勝てぬ」

 呆れた顔のエリスをよそに、クレアとキャティはフルーツ売場で2人して悩みだしていた。2人が悩んでいるのはフルーツのお持ち帰り方法。大量に購入するのはいいが、腐らせてしまうのも惜しい。かといって干フルーツもおいしいにはおいしいのだが、やはりみずみずしいフルーツには敵わない。 

 たまりかねたエリスがアドバイスをしてやる。

「柑橘と林檎はそのまま、葡萄は冷やしすぎないようにすることね。苺は思い切って半分冷凍しちゃいなさい」

 そして迷宮からぱくってきた木製の箱にしまいなさいと指示を出した。葡萄はいくつかを氷結で凍らせておけば氷代わりになるので便利。林檎は他の果物を熟させてしまうから混ぜてしまわないことなどを教えてやる。

「エリスは物知りだなあ」と、クレアが感心したようにため息をつく。 

「これでワーランでもしばらく苺食べ放題だにゃ」 

 と、2人はそれぞれのかばんから宝箱を取り出し、買ってきた果物をあーにゃんの冷気や氷結の指輪効果で処理しながら片づけていった。

 そんなこんなで買い物を進める中、大地竜らーちんがエリスの意識に直接語りかけた。

「結構混じっているな」 

「判別はできる?」

「出来ないことはないが、多分憑依タイプの連中だ。依代よりしろの人間まで殺してしまってはまずかろう。それに俺たちがここで下手に手を出す事自体が悪魔どもの罠かもしれないしな」

「身内はまだ大丈夫だよね」 

「少なくとも昨日出会った者たちは大丈夫だ。しかしこの状況だと、何らかの歯止めはしておいた方がいいだろうな」 

 エリスとらーちんが意思疎通を行っていた内容。それは王都スカイキャッスルに紛れ込んでいる悪魔の気配について。どうもスカイキャッスルにはかなりの悪魔が潜り込んでいる。ただ、そいつらは今のところ表立った動きは見せていない。

「そうね、チャーフィー卿とスチュアート卿に告げても混乱を助長するだけ。レーヴェに2人の姉さまにだけは事実を告げておくように指示するわ。後は……」

 エリスは市場を見渡し、1件の人形店を見つけ、指人形と小さなぬいぐるみを大量に買い込んだ。

 

 一方、一晩じっくりと反省をした勇者グレイと反省をさせてあげた魔術師マリオネッタは、盗賊ギースと合流し、スカイキャッスルへと帰還した。そしてその足でアジトに出向くが、いつもの三馬鹿の姿が見えない。

「またあいつらは遊び呆けているのか。グレイ、とりあえず王城に顔を出そう」 

「そうだなギース。今後の活動についての承認も得ねばならないしな」 

 グレイたちは一旦竜の探索は諦め、対魔王決戦アイテム入手のため、各地の上位迷宮を虱潰しにすることにした。そのためには王の承認を得ねばならない。

 グレイたちが王城の城門に立つと、護衛兵長が慌てて彼らの所にやってきた。そして一気にまくしたてる。

「勇者殿、今までどこをほっつき歩いておった! 王が貴殿らをお待ちだぞ、急げ!」 

 その剣幕に押され、グレイたちは王宮奥まで歩を進める。そして謁見の間。

「勇者グレイだ、王の呼び出しに応じ、ただいま参った」 

「遅いぞ勇者殿、とにかく中に入ってくれ、もはや我々ではどうにもならん!」 

 貴族の1人がグレイを急かす。その勢いに押され、呼び出しもそこそこに勇者たち3人は謁見の間に足を踏み入れた。

 そこはいつもの風景だった。ただ異なるのは、謁見時にグレイが立つ位置、つまり王を守る位置に別の者が立っている。それは歌姫ピーチだった。さらにその横には漆黒の衣を纏った漆黒の髪に浅黒い肌を持つ眼光の鋭い男。

「おお、勇者グレイよ、よく来たの。このたびはご苦労であった」 

 王が気さくにグレイに声をかけた。事情がさっぱりと飲み込めない3人に王は続ける。

「この度の守護竜探索お見事であった! ここに勇者パーティは一旦解散とする」 

 いよいよ事情が飲み込めない3人に広報官が続けた。

竜戦乙女ドラゴニックワルキュリアになられたピーチさまは王宮竜戦乙女に就任され、その契約竜である夜馬竜ナイトメアドラゴンさまとともに王城での生活を始められます。ダムズさまはピーチさま直属の護衛官、クリフさまは同様に文官としてともに王城に部屋を与えられます」

「ちょっと待った! 竜戦乙女とは何の話だ?」

 ギースの問いかけにピーチが不敵な笑みを浮かべた。

「これまで仮にも同じパーティで活動していたのだから、功績もおすそわけという奴よギース」

 その言葉に横に立つ漆黒の男も不敵な笑みを浮かべる。一方、ダムズとクリフはさらにその後ろで表情を変えずに立っている。 

「そういうことじゃ勇者グレイよ。これで王城の守りは完璧じゃ。貴殿は新たにパーティを募り、引き続き魔王殲滅にまい進せよ」

 こうしてグレイたちは一切の事情が飲み込めないまま、謁見の間を後にした。すると外でグレイたちを貴族たちの一部が呼び止める。

「あれは明らかにおかしい。本当にお前らは竜を仲間にしたのか? 少なくとも我が義妹の暴風竜は威圧感こそあれど、あのような邪気はまとっておらんかったぞ! そもそも、ピーチとやらは竜戦乙女ドラゴニックワルキュリアの条件をクリアしておったのか?」

 グレイたちに詰め寄ったのはチャーフィー卿たちだった。それは昨日竜たちをその目で目の当たりにした貴族たちである。

「いや、実は俺たちにも事情が呑み込めていないんだ。いったい何があったんだ?」

 グレイの素朴な問いにチャーフィー卿が怒りを込めて答える。

「けさ早くあの3人が竜を城内に引き込んだのだ。そして王はそれをお認めになられた。しかし我らはあの禍々しい存在が竜だとはとてもではないが思えないのだ。しかし別の貴族一派は『邪竜でも竜は竜、守護竜であるなら問題ない』と王におもねっているのだ」

「しかし今はどうにもならないでしょう、落ち着いてください。まずは様子見からではないですか?」

 ギースの言葉に黙りこむ貴族たち。そう、彼らも分かっていたこと。王命は王にしか覆せない。

「とにかく用心をしてください。僕らもすぐにここに戻れるようにしますから」

 グレイたちは貴族たちにそう告げるしかなかった。

 

「こんなものかしら」

 帰還前にエリスはビゾンから1室を借り、クレアと2人で工作にいそしんでいた。作成していたのは大量の指人形や小さなぬいぐるみを使用した魔道具。

 4体の色違いのぬいぐるみが1本の紐で結われているものが5セット。それぞれに使用者の名前が書かれている。これらはエリスたちがそれぞれ連絡を取り合うための遠吠えのぬいぐるみのセット。

 エリスのセットにはさらにマリオネッタとの連絡に使用する遠吠えの指人形もぶら下がっている。そしてもう1つ、レーヴェのセットにもぬいぐるみをぶら下げた。

 もう1つは人形とぬいぐるみがぶら下がっている首飾り。

「とりあえずこんなものね。じゃあクレア、みんなとメベットを呼んできてくれるかしら」 

 エリスの指示に従い、クレアはレーヴェ、フラウ、キャティとメベットを呼んできた。

「さて、メベット、よくお聞きなさい。みんなもね」

 そこでエリスが皆に説明したのは、王都スカイキャッスルに悪魔が潜り込んでいること。今のところ彼らの目的は不明なこと。いつ誰が悪魔の依代となるのかわからないこと。

「メベット、あなたはこれをこれから肌身離さずに身につけてね」 

 エリスがメベットに渡したのは、6歳の女の子がつけていても違和感のない指輪と、小指ほどの小さなぬいぐるみと兵隊人形がぶら下がった首飾り。

「いい、メベット。人形のうち、熊のぬいぐるみは『遠吠えのぬいぐるみ』。そのぬいぐるみに呼びかければレーヴェのところに声が届くわ。身の危険を感じたら遠慮なくレーヴェに連絡を取りなさい。もう一つの人形と指輪はお守り代わり。きっとあなたを守ってくれる。いいわね。何かあったらすぐにレーヴェに助けを求めること。それから、今の話はお父さまとお母様にも内緒。心配させてしまうからね。約束よ」

 そしてエリスはレーヴェに振り返った。

「私たち5人の中で一番機動力が高いのはあなたよ。万一メベットが助けを求めて来たら、それを最優先になさい」

 無言でうなずくレーヴェ。他の3人も神妙にしている。

 不安そうな表情のメベットをレーヴェが抱きしめた。

「大丈夫だメベット、お前は私たちの可愛い妹だ」

「わかりました。私は心強いです。お姉さま」

 メベットがレーヴェの胸の中で気丈にも返事を返した。

 他の4人もメベットの頭を撫でる。そして準備完了。

 エリスたちはマルスフィールド公を連れ、帰宅の途に就いた。

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