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盗賊少女に転生した俺の使命は勇者と魔王に×××なの!  作者: halsan
エンジョイ デーモンズライフ編
139/186

謁見でーす

 王への謁見。

 エリスたちはその身を「本気」の装束で纏うことにした。それは最悪の場合を考慮して。

 エリスは深淵の黒装束。腰には狂神のダークミスリルスティレット。

 レーヴェは抵抗のブレストアーマーに隼のロングブーツ。腰には鴻鵠破魔のダークミスリルカタナブレード。

 フラウは迎撃のハーフプレートアーマーにガントレットとブーツ一式。右手には鴻鵠破魔のダークミスリルハルバード。

 クレアは闇のドレス。指には覚醒の指輪と大魔導の指輪。

 キャティは猛攻のランジェリーに宝石箱Tシャツと白のショートパンツを重ねた。そして両腕には勇者を切り裂くもの(ブレイブリッパー)

 マルスフィールド公はその装いを謁見の装束として認めた。なぜならば、王は竜戦乙女ドラゴニックワルキュリアとの謁見を所望しているのだから。そしてもう一つ。竜になんら願わないとした。なぜなら、竜が王に謁見なぞありえないから。

 そして謁見の間。豪奢な両開きの扉がお付の者によって威厳を持って開かれる。

 そこには真紅の絨毯が正面に向けて敷かれている。両脇には物々しい存在たち。そこには下級貴族から上級貴族までが両一列に並んでいた。チャーフィー卿も今は列の中。そして先にはブラインド。

 広報官が声を張り上げた。

「竜戦乙女なる者共が、マルスフィールド公と共に謁見に馳せ参じた」

 ふん。この国でもこんなものかとエリス-エージは鼻を鳴らした。権威と、権威にすがる者たちへのうらやみとやっかみ。同時に絨毯の先に見える偉そうな存在に喧嘩を売ってみたい衝動にかられる。以前の彼にとっては漫画やアニメの中でしかありえなかった状況がここでは現実。が、王の脇に立つ勇者を見つけて一気に頭が冷えた。「まずはあいつだ」と、エリスーエージは冷静になる。

 謁見はシンプルなものだった。王はブラインドの後ろから姿を見せず、広報官の発する司会進行に従い、儀礼的に謁見の手続きが進むだけ。そしてメインテーマ。守護竜について。ここで広報官は意外なことをエリスたちに投げかけた。

「王は竜を疑っておる。竜戦乙女よ、竜の力を示せ」

 広間にどよめきが走る。王は竜を試そうとしている。しかし、それは竜に対してあまりに不遜な物言いではないかと。特に事前に「竜には何も願わない」と取り決めたことが反故にされたマルスフィールド公は憤り、広報官に詰め寄ろうとする。

 ところがそれに乗っかったのは空気読めないシスターズとその竜たち。

「はいはい! 私とあーにゃんにちょっとやらしてほしいにゃ」

「わいも頑張るでえ」

「ちょっと待ったあ! そこはボクたちがいいもの見せてあげるよ」

「みんなオレたちに注目だよー」

 突然の竜戦乙女2人のやたら前向きな申し出に戸惑う広報官とどよめく貴族たち。が、踏ん張った広報官は何とか王の意思を竜戦乙女たちに伝える。

「竜の怒りは雷槌いかづちとも例えられる。それを見せてみよ」

 なんという不遜な言葉。大地竜と鳳凰竜はエリスとフラウに不満の意を伝える。が、氷雪竜と混沌竜は例のものを堂々と試せる機会が来たと大喜び。ちなみに暴風竜はとっくに飽きてレーヴェの胸で居眠りをしている。

 こそこそとじゃんけんをするキャティとクレア。

「よし!」

「さすがだクレアたん!」

「ふぎゃー!」

「なんでそこでパーでんねんキャティにゃん!」

 デモンストレーションは、クレアと混沌竜が行うこととなった。

 

 王を除く貴族たちとエリスたちは王城の庭園に移動した。王は庭園を一望できる場所に玉座を移動する。

「あの尖塔は取り壊し予定だ。あれに力をぶつけてみよ」

 広報官の言葉にクレアと混沌竜ぴーたんが嬉しそうに頷く。

「それじゃ行ってみようか」

「よーし」

 クレアは混沌竜の息吹開放を行った。

暗黒珠の息吹(ブラックボールブレス)』!

 するとクレアに抱かれた混沌竜の口腔から漆黒の珠が吐き出された。それは尖塔に向かうにつれ大きくなっていく。そして塔に衝突。 漆黒の珠は、そのまま塔を中央でへし折った。それはまさしく質量の塊。重量の権化。

「すごいやぴーたん」

「環境にやさしいでしょ」

 結果に満足するクレアとぴーたん。またしても息吹の機会を逃して地団駄を踏むキャティとあーにゃん。あきれ顔のエリスたち。一方、混沌竜が放ったブレスの威力に、貴族たちは総じて声を失ってしまっていた。

 ところが、そこで広報官が声を張り上げた。

「王の勅命である。勇者グレイよ、見事今の攻撃を受け止めてみよ!」

すると広報官の声をあらかじめ想定していたかのように、勇者パーティーが無言でエリスたちの前に現れた。無表情のグレイに、彼の左腕に掴まり、心配そうな表情を浮かべているマリオネッタ。ギースは真顔になっている。一方、ピーチ、ダムズ、クリフは他人事のように、にやにやとうすら笑いを浮かべている。

 静まる庭園。貴族たちは身体を硬直させたまま、成り行きを見守るしかなかった。

「ということだ。済まないが今の一撃を俺に見舞ってくれないか、竜戦乙女よ」と、無表情のままグレイがエリスたちに語りかけた。

 ふーん。

 エリス-エージは考える。勇者グレイの噂が本当であれば、竜の息吹は通用しないだろう。ここでまともに攻撃を仕掛けるのは愚かなこと。ではどうするか。

 ちーん。

「クレアにぴーたん、ちょっと耳を貸しなさい」

 その後、クレアと混沌竜は勇者の前に立った。エリスたちと勇者パーティたちは混沌竜の後ろ側に控える。心配そうな表情のマリオネッタに、エリスが耳打ちした。

「大丈夫よマリオネッタ、心配しないで。あなたの勇者は強いわよ。でも、この後起こることによって、きっと彼は落ち込むから、その時はあなたがちゃんと彼を慰めてあげるのよ」

 そんなエリスの言葉に驚きの表情を浮かべるマリオネッタに、エリスはウインクをして見せた。

「それじゃ勇者さま、遠慮はしないよ」

「ああ、受け切って見せるさ」

 クレアは勇者の自信にちょっとむかつきながらも、エリスの指示に従う。

「それじゃぴーたん、行くよ!」

暗黒珠の息吹(ブラックボールブレス)』!

 混沌竜が質量の塊を吐きだした。それは急激に質量を増加させながら高速で勇者に向かう。そして勇者の身体は漆黒の珠に敏感に反応した。

 珠は勇者の右半身を襲う。勇者はそれを反射的に右手で払った。勇者は余裕だった。珠は勇者を傷つけることは敵わなかった。が、勇者に払われた珠はその進路を変え、そのまま宮殿の壁面に激突した。

 轟音とともに崩れ落ちる宮殿の壁。上では広報官たちの悲鳴が聞こえる。

 そう、エリスは勇者が混沌竜のブレスを止めるだろうと見越し、わざと軸をずらしてブレスを吐くようにクレアとぴーたんに指示を出したのだ。正面に撃ち込めばそのまま止められてしまう。だが、軸をずらせば……。そして案の定勇者は珠をはじいて見せた。はじいた先には宮殿。

 笑いをこらえながら震える乙女たち。真っ青になる勇者パーティ。

「ね、この後は楽しいお説教タイムだろうから、その後一晩かけて勇者を慰めてあげなさい」

 エリスの耳打ちに、マリオネッタだけが、仕方がないなあという困ったような楽しみなような複雑な表情を見せた。

 こうして大混乱の中、竜戦乙女たちの王への謁見は終了した。


「お姉さまがた、ようこそいらっしゃいました!」

 マルスフィールド公に案内されて5人がやってきたのはチャーフィー卿の屋敷。出迎えたのは娘のメベット。その後ろには母でありレーヴェの姉であるビゾンも笑顔で立っていた。ちなみにチャーフィー卿は勇者が破壊した宮殿の修復に巻き込まれ、宮殿から帰ってこれない。

 ビゾンも笑顔で5人を出迎えた。

「先日クレアーフリントブランドの大型シャワーとトイレのユニットをワーランの商人ギルドに届けていただきましたわ。ありがとうございます。今日はゆっくりしていってくださいね」

「なあ姉さま、せっかくだからスカイキャッスルの市場を案内してはいただけないだろうか」

「お安いご用よ」

 レーヴェが5人の興味を代弁し、ビゾンも快く答えた。こうして5人はビゾンの案内でスカイキャッスルの名産を堪能しに市場に出かけた。

 

 さてこちらは勇者一行。

 エリスの予想通り、王の取り巻きたちにさんざん絞られた後、6人は王城を後にした。落ち込むグレイと彼を支えるマリオネッタ。そこに追随するギース。さらにピーチ、ダムズ、クリフ。

「勇者さまのおかげで俺たちもえらい目にあったぜ。ここは落とし前をつけてほしいところだよな」

「ホント、どこの馬の骨かもわからない娘を拾ってきたかと思ったらこれだものね」

「ここは飲んで遊んで気晴らしをしたいところですね」

 と、三馬鹿が露骨に小遣いをせびりに来た。が、これはギースが想定済み。グレイはギースの指示通りに三馬鹿に対応する。

「三人とも済まなかった。今晩はせめてこれで楽しんでくれ」と、それぞれに30万リルずつを渡す。

「ほう、わかってるじゃねえか。それじゃ勇者さま、しっかりと反省するんだぜ」

 結構な額をせしめて上機嫌になった三馬鹿は繁華街に繰り出した。それを沈痛な面持ちで見送る三人。そして3人の姿が見えなくなったところでグレイは待ちかねたとばかりに、嬉々としてリープシティを唱えた。目的地はもちろんワーラン。ギースはアイフルさんに慰めてもらいに、グレイはマリオネッタと夕食の買い物を楽しんだ後、彼女の部屋で一晩反省をするために。なお、グレイとギースはワイト迷宮の周回で出てきたお宝を結構な額で売っぱらっており、90万リル程度は屁でもない懐具合なのであった。

 こうして勇者パーティの崩壊は進んでいった。

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