王都スカイキャッスル
一行は貴族専用の門から王都スカイキャッスルへと足を踏み入れた。場内には豪奢な馬車がしつらえてあり、彼女たちはその馬車で王城まで案内された。
王都の造りは城砦都市に似ていたが、威厳はそれのはるかに上を行く。
「元々城砦都市は王都を守る砦のようなものだからの。王都が城砦都市に似ているのではなく、城砦都市が王都に似ているのじゃよ」と、マルスフィールド公が説明をしてくれる。
「既に早馬は飛ばしてありますから、まずは王城の控室へと向かいます。そこで謁見の日時が指定されますから、その上で予定を立てましょう」と、チャーフィー卿がこれからのことについて5人に話す。
馬車は市場を抜け、館が立ち並ぶ中を走る。この辺りは王城付き貴族の居住地となっているとのこと。チャーフィー卿の館もこの近辺らしい。
間もなく馬車は城門の前にたどり着いた。その巨大さに思わず息をのむ5人。
一行は馬車を降り、チャーフィー卿の先導で城門をくぐっていこうとする。すると、城門前で一行は衛兵に止められてしまった。衛兵長らしき人物がチャーフィー卿の前に歩み出る。
「チャーフィー卿、本日はワーランの守護竜をお連れいただくことになっているはずだが?」
「ああ、ここにおわせられますよ」と、チャーフィーは娘たちを衛兵長に紹介する。が、衛兵長は訝るばかり。
「先ほど郊外で5柱の竜が姿を現したということだが、その姿は強大だったと聞いておりますが?」
衛兵長の疑問に、マルスフィールド公が代わって答えた。
「この者どもはワーランの竜戦乙女。守護竜さまたちは、乙女たちとともにおわせられますよ」
それでも疑いの目を向ける衛兵長の前にエリスが一歩歩み出た。
「失礼いたします、衛兵長さま、こちらにおわすのが大地竜さまです」
と、エリスはおんぶ紐で背負った竜を降ろし、両手で大地竜を衛兵に捧げた。しかしそれでも衛兵長には冗談にしか思えない。このトカゲのぬいぐるみが守護竜だと?
「守護竜さまなら、それなりとお力をお持ちのはず。差し支えなければ見せてはいただけぬか?」
この衛兵長の申し出に喜んだのはエリス&大地竜、舌打ちしたのはキャティ&氷雪竜とクレア&混沌竜。ちなみに公と卿は大慌てでエリスに頼むからお手やわらかになと頼み込んでいる。
「それじゃらーちん、あれ、試してみましょうか」
「そうだなエリスちん。目標はあれでいいか」
2人は会話の後、目の前にそそり立つ巨大な城門に向かった。大地竜を城門に向け、息吹解放を行うエリス。
『皇帝水の息吹』!
同時に大地竜の口腔から煙を伴う霧が吐きだされた。それはあらゆるものを溶かす息吹。
あわれ、巨大な城門は白煙とともに、その中央に巨大な穴をあけた。
「あ、白煙は猛毒だそうですから、吸わないでくださいね」
エリスが恐ろしいことをしれっと衛兵長に申し出た。その説明に城門前から逃げまどう衛兵たち。
「なあなあ、わいらにもやらしてくれんか?」と、氷雪竜がキャティの首から顔を出して衛兵長に話しかけた。
「ねえねえ、オレたちにもやらせてくれない?」と、混沌竜がクレアの頭上から衛兵長に話しかけた。
硬直して何も言えない衛兵長に一喝を入れるマルスフィールド公。
「どあほう、このままだと城門ごと破壊されてしまうぞ、さっさと通行を認めろ!」
その言葉に我に返った衛兵長は姿勢をただし、改めてエリスたちに敬礼をした。
「ようこそお越しくださいました! 守護竜さま!」
衛兵長の後ろには、同じように最敬礼を取る衛兵たちが横一列に並ぶ。こうしてエリスたちのド派手な謁見は口火を切った。
アルメリアン大陸の覇者であり、王を名乗るジョー・J・スカイキャッスル8世は悩んでいた。
スカイキャッスル王家は先の神魔戦争における勇者の血筋と伝えられている。ならば、もし勇者と魔王がアルメリアン大陸で覇権を争うようになった場合、それを放置すれば、どちらが勝利するにしても、スカイキャッスル家は放逐されてしまうのではないかと恐れた。なので、王は勇者を名乗る人物を王家で囲い込み、王の命により勇者は魔王を討つと喧伝した。が、どうも思い通りにならない。
勇者が連れているパーティは王の目から見ても、エリート盗賊ギース以外は役立たずだとわかる。
一方、魔王の動向も不明。というか、全国放送の後、魔王そのものの動きは全くと言っていいほど見られず、ワーラン大襲撃以外の大規模な戦闘も発生していない。
さらになぜかワーランに5柱の竜が集結しているという。
王は悩んだ。悩んだ末に、とりあえず守護竜と謁見してみることにした。もし竜がスカイキャッスルを気に入ったのならば、そのまま守護竜としての滞在を認めるつもりで。
衛兵長自らがエリスたちを案内し、彼女たちは王城内にしつらえてある謁見控えの間に案内された。
「ほう、この部屋を用意したか。王もそれなりに竜に敬意を表しているということか」と、マルスフィールド公がつぶやいた。その部屋は豪奢で埋め尽くされた部屋だった。床には長毛の絨毯が敷き詰められ、獣革で覆われたソファと、白亜の一枚岩で誂えられたローテーブル。そこには様々なフルーツが飾られている。調度品も派手ではないが奥行きを感じさせるものが飾られている。
「マルスフィールドさま、ここはそんなに良いお部屋なのですか?」
竜たちを絨毯の上に解放した乙女たちを代表してエリスが公に尋ねると、公は笑いながら答えた。
「この部屋はこれまで王族しか招かれたことがないはずじゃよ。普段は王のリビングだからな」
へえ、と感心するエリス。その横ではテーブルに置かれた果物にキャティとクレアが遠慮無くかぶりついている。フラウはサイドボードに並べられた酒の香りを確かめ、レーヴェは部屋の隅に飾られたカタナブレードの身を抜き、眺めている。
竜たちは絨毯の上で、子供がぬいぐるみをまき散らしたような様子で、それぞれころけている。
その姿にチャーフィー卿とマルスフィールド公は互いに耳打ちをした。
「いやはや、物おじしない乙女どもですな」
「そうでなければ竜戦乙女などにはならんだろうよ」
「違いないですな」
「我らが幸運なのは、この娘たちが我らに友好的なこと、この一点じゃよ」
「まさか義妹がその一翼におるとは驚きでした。私は妻に今後頭が上がりませぬわ」
「気にめさるな、卿の今は卿の働きによるものじゃよ。ビゾン殿も卿に遠慮は望んでおるまい」
と、おっさんどももリラックスしたところで扉がノックされた。
「失礼致します。まもなく謁見となりますが、ご準備はよろしいでしょうか」
ここで空気を読まないツートップが喧嘩を始める。
「クレア、悪いことは言わにゃいから、そのフルーツから手を離すにゃ」
「キャティ、これは僕のものだよ。というか、こればかり食べ過ぎだろ」
「なんじゃいクレア、勝負すんのかい」
「ちょうどいいやあーにゃん、ここで決着を付けてやるよ」
「すいませんちょっと扉を一旦閉じてくださいますか」
金髪の少女に促され、慌てて扉を閉じる呼び出し役人。続けて響く鈍い音。ごいーん。ごいーん。
「お待たせいたしました」
次に役人が扉を開けた時、そこには5人の乙女が吸い込まれるような美貌を纏って並んでいた。役人は気づかない。漆黒の乙女の頭上で頭を抱えて突っ伏している混沌竜と、純白の娘の胸元で大きなたんこぶをこしらえている氷雪竜には。
「それではご案内いたします」
エリスたちが王都デビューとなる時が来た。




