王都にまいります
「おう、よく来たな」
ご機嫌なマルスフィールド公に対し、いまいち気が乗らないワーランの宝石箱の面々。
ここは城砦都市マルスフィールド。都市名を名乗る者は王都スカイキャッスルの王家と城砦都市のマルスフィールド公の2名のみ。それがこの貴族の位を端的に示しているのだが、エリスたちにとっては、既に公は気のいい絶倫なおっさんという認識となっている。
ちなみに勇者に飽きたマリリン姐さんは、現在マルスフィールド公から定期的に精力とリルを絞り取っているらしいが、それは5人には関係のない話なので、あえて詮索はしない。
「マルスフィールドさま、こちらから王都まではどのような手段で向かわれますか?」
エリスの問いに、公は予想通りの答えを返す。
「なあ、儂も竜に乗せてくれないか?」
……。
ここでわざとらしくフラウが鳳凰竜のご機嫌を伺う。
「鳳凰竜さま、私どものお願いを叶えていただけますでしょうか」
それにフラウの肩からわざとらしく答えるふぇーりん。
「うむ、但し人間がわらわの飛行に耐えるのは無理なのじゃ。ということで、わらわの結界を受け入れてもらうぞよ」
「おお、ありがたい! ぜひともよろしくお願いいたします」
ということで、公に釘を刺せたので、一行は早速王都へと出かける準備を始めた。
王都は城砦都市以上に入場、退場のチェックが厳しく、一般人には南側の門1か所しか解放されていない。そしてここでは厳しい査証チェックが行われる。そのため王都に到着してから王都内に歩を進めるまでに半日近くかかってしまうというものである。
が、マルスフィールド公の同行であれば貴族専用の入退門を使用できる。また、公がエリスたち5名分の査証を公の名義で既に発行してくれてあった。
また、公の同行が可能であれば、デモンストレーションとして、あえて竜に搭乗したままで、門まで飛来することにしたとのこと。この辺は遠吠えの人形でチャーフィー卿とマルスフィールド公が綿密に下打合せを済ませている様子だった。
「公、我々の護衛は必要ありませんか?」
心配そうな表情で護衛長が念を押すも、公が豪快に笑い飛ばした。
「これ以上の護衛はおらんよ。美しさも、強さも、だ」
さすがにお世辞がうまいヒヒジジイ。ちょっと気分がよくなった5人は公と中庭に出て、飛行の準備を行う。
暴風竜にはレーヴェと、氷雪竜を首に巻いたキャティ、混沌竜にはクレア、そして鳳凰竜には、前からエリス、マルスフィールド公、フラウの順。ただしエリスは背中におんぶ紐で大地竜を背負っており、フラウはわざわざハーフプレートアーマーを着込んだ。
「何か、前後の感触が固いのう」
前後からの感触を期待していた絶倫貴族がぽろりと本音を漏らす。
「おじさま、呑気なことを仰っていると振り落とされますわよ」
フラウの突き放すような言葉と同時に、鳳凰竜が一気に羽ばたいた。そしてその衝撃で、マルスフィールド公は気を失った。
「おじさま、間もなく到着ですよ。ゆっくりお休みいただけましたか?」
マルスフィールド公が目覚めたのは、間もなく王都スカイキャッスルという場所。念のためエリスは改めて公に、南の門付近に降り立っても問題ないかどうか公に確認する。
「なんじゃ、もう到着してしまったのか。お前たちは意地悪だのう。ああ、降り立つ場所は問題ない。せいぜい驚かしてやってくれ」
「それじゃ、降りましょうか」
エリスの指示で、鳳凰竜を先頭に、暴風竜、混沌竜と順番にゆっくりと王都南門の街道付近に降り立っていく。当然一般市民はパニックとなるが、衛兵たちは事前にこの事態を聞かされていたのだろう。恐怖と闘いながらも秩序だった動きを見せ、住民たちを落ち着かせる。
3柱の竜を遠巻きにしている群衆の中から、2人の人物が現れた。それはチャーフィー卿とロバート徴税官。
マルスフィールド公もフラウのサポートを受けて、鳳凰竜から降り立った。続けてエリスが鳳凰竜、キャティが暴風竜から降りたち、各々の竜を解放する。飛竜たちに並ぶように姿を表す大地竜と氷雪竜。そしてその竜の横には5色の少女たち。
マルスフィールド公は、5柱の竜と5人の少女を背に従え王都民の前に立つという、最高のパフォーマンスを行った。
「わっはっは、気分がいいのう!」
「これはまたド派手な登場ですな、マルスフィールド公、そして守護竜さまたちよ、よくぞお越しくださった。ワーランの宝石箱の面々もご苦労であった」
チャーフィー卿のあいさつに王都民たちがどよめく。しかしその多少慇懃無礼な卿の態度に、再び大地竜がかみつく。
「そこの矮小なる人間よ。我は貴様の招きに応じたわけではない。ゆえに礼など無用」
他の竜たちも同様に文句を言い出した。
「大体僕を呼びだそうとするとはどういうことかな? もしかしたら八つ裂きになりたいかなこのクソボケは」
「城門の前で待たせるとは失礼よね。ここ最近の人間どもは礼儀も知らないのかしら」
「あー、もう面倒くさいから帰ろうよクレアたん」
「わいは暴れたくなったでえ! おう、ちょっとそこの兵どもかかってこいや。ど突いたるさかいに」
こうして収拾がつかなくなる城門前。今にもブレスを吐いて暴れそうな竜ども。混乱し、恐怖する人々。マルスフィールド公たちもさすがになす術がない。と、そこに突然の威圧感が襲った。
「真打登場ね」
エリスがほくそ笑む。そう、そこに登場したのは真面目モードの勇者パーティ。
「竜たちよ、落ち着いてくれ!」
勇者グレイはエリスたちの思惑通りのセリフを吐いてくれた。
「ここはそう言うしかないよな」と、笑いを噛み殺すエリスたち。そしてここで大地竜が打ち合わせ通りの言葉を綴る。
「ほう、人間の中にも出来るものがおるということか。貴様の威圧感は大したものだな」
続けて因縁のある鳳凰竜が勇者に文句を言い始めた。
「これはこれは勇者さま、先日はあたしに乱暴を働いてくださいましたね。それについて何か釈明はございませんか?」
一瞬黙るグレイ。一方後ろで、何であの真紅の竜がここにいるのだとがなりたてるダムズ、ピーチ、クリフの3人。
「思い出していただけないようでしたら、こちらからごあいさついたしましょう。フラウりん、お願い」
「わかったわ、ふぇーりん。勇者さま、これが鳳凰竜からのごあいさつです」
『超高熱の息吹』!
フラウの雄叫びと同時に、ふぇーりんのブレスが城門横の岩を一瞬で蒸発させた。
石の蒸発した異臭と異音の恐怖に静まる群衆。
身構える勇者。
他の勇者パーティーメンバーはぴくりとも動けない。
睨み合う勇者と鳳凰竜。
……。
と、そこにエリス登場。
「勇者さま、ご無沙汰しております!」
それと同時に他の3人も勇者パーティに、とってもフレンドリーな態度で声をかけた。
「やあ、ギースどの、元気にされているようだな」
「マリオネッタ、勇者さまにちゃんと可愛がってもらっているかい?」
「ピーチさまもダムズさまもクリフさまもご無沙汰だにゃ」
彼らのあいさつと同時にわざとらしく機嫌を直すフラウと鳳凰竜。
「これで貸し借りなしですよ。勇者さま」
鳳凰竜の言葉と同時に竜たちはしゅるしゅるとミニサイズに戻り、各々の乙女に張り付いた。そしてエリスが大地竜をおんぶしながら勇者に続けた。
「勇者さま、本日は王都からのお誘いでこちらに参りました。これからもよろしくお願いしますね」
突然の変化に勇者グレイは笑顔を無理に作るしかなかった。そこにあざとく勇者の腕に自らの腕を通したマリオネッタが、笑顔で5人にもう一方の手を振ってきた。
敵対から友好への雰囲気の変化に戸惑う群衆。彼らは勇者と竜たちが友好な存在であると思い込むことにした。エリスたちは一言もそんなことは言っていないけど。
「とりあえず王都民には勇者を通じて媚を売っておけ」これがエリスの決めた基本方針。で、何か起きたら勇者に押しつけて逃げだすと。その方針にまんまとはまってしまった勇者一行。これでエリスたちが王都で危険に晒されることはなくなった。
「それではチャーフィーさま、ロバートさま、よろしくお願いいたします」
それまで唖然としていた2人は我に返り、彼らを貴族専用の門に案内していった。その間、群衆は歓声をあげながら勇者パーティと宝石箱たちを見送った。




