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フリーダムプロムナード 夕方の部

 ここは午後のティールーム。エリスとうろつくのに飽きて、エリソンの姿からラブリースタイルに戻った大地竜らーちんが、いつもの指定席でお茶の香りを堪能している、そしてその隣席には、無言で茶をすする盗賊ギース。

 ギースは嫉妬していた。午前中に見かけた女装のバケモノ2人の前に置かれたカップは、明らかに特別なもの。しかし自分の前に置かれたカップはいつもと同じもの。

「どうしたギース」

 先ほど合流した、相変わらず空気の読めない勇者グレイがギースに問いただす。

「何でもないよグレイ。お前こそ、予約が取れなくて残念だったな」

「ああ、でも夕刻からご主人さまの隠れ家マスターズハイダウェイでイベントがあるとマリリンさんに教えてもらったから、オレはそっちに行ってみる。ギースはこれからどうするんだ?」

「とりあえず今日の宿にもう一泊でいいか? 俺はもう少しここで自分を納得させたい」

「ああ、わかった。俺もしばらくしたら街に向かうとするよ。そこで宿をもう一泊押さえておく」

「すまんなグレイ」

「気にするな、ギース」

 勇者グレイと盗賊ギースは、こうして今日も勇者パーティーとして無駄な一日を過ごす。


 一方こちらは魔王とベルルナル。

 2人は以前碧の麗人レディ・ブルーグリーンに紹介されたブティックに向かった。魔王は相変わらずの麦わら帽子に農夫の姿。ベルルナルはベルルエルのときに買い込んでおいた空色のチュニックと白い膝丈のフレアスカート姿。

「ご主人さま、このお店ですよ」

 ベルルナルは魔王をブティック・マスカレードに案内した。彼女は魔王の左腕に右腕を通し、魔王を店内に誘導していく。

「へえ」

 魔王が足を止め、見つめたのは、ブラックレザーのブラトップとコルセット、ガーターベルトにレースストッキングのセット。

「ベルルナル、これを着てみないか?」

「ご主人さまはこういうのが趣味なのですね。着たらお小遣いくれます?」

「だからそういうことを言わないの。気分が冷めちゃうでしょ」

 すると店主らしき美しい女性が魔王たちに声を掛けた。

「レンタルも行っていますから、一度この街でお試しいただくこともできますよ」

 店主は続ける。

「そちらさまには、このようなご衣装はいかがですか?」

 それは黒の詰め襟に金のモールで彩られた礼服。合わせてベルルナル用には、ブラトップ、コルセット&ガーターベルトの上から羽織る純白のジャケットと同じく純白のタイトスカート。魔王とベルルナルは、女主人に言われるがままに衣装を身につけてみた。

「うん、気に入った。これはもらっていこう」

主にベルルナルの姿が気に入った魔王は、2人分の衣装を購入することにする。農夫ウエアとベルルナルの衣装は、ベルルナルが持つ冒険者のかばんにしまっておく。

 その後、フリーダムプロムナードではため息が続く。そこを歩むのは、黒に金のモールで飾られた礼服を着こなす端正な男性。麦わら帽子は彼の代名詞。そして彼の左腕には、漆黒の髪と瞳、陶器を思わせる乳白色の肌を持つ女性。彼女は純白のジャケットとタイトスカートを纏い、漆黒のインナーを見せ付ける。ガーターベルトでレースのストッキングは留められ、絶妙の絶対領域を演出している。そして足には漆黒のピンヒール。

 魔王は周りのため息を一切気にせず、ベルルナルに囁いた。

「俺、そろそろお風呂に行くから、お前は隠れ家で良いね」

「はい、私はゲームをしたいです」

「無駄使いするなよ」

「はい、ご主人さま」

 2人は急ぎ隠れ家に向かう。

「あれ?」

 ご主人さまの隠れ家に到着した魔王とベルルナルは素っ頓狂な声を上げた。なぜなら、そこは全くの別の店になっていたから。

 魔王は受付嬢に尋ねる。ゲームルームはどこにいっちゃったの? と。

 受付嬢は答える。ゲームルームは自由の遊歩道フリーダムプロムナードに引っ越しましたよ。と。

 魔王はさらに尋ねる。そこは女性1人での入店はできないか? と。

 受付嬢は笑顔で答える。カジノ「リルラッシュ」は老若男女皆さんが自由に入店できますよ。と。

「ということでベルルナルさん、ここから一人でカジノまで行けますか?」

「行けません、ご主人さま」

 ああ面倒くせえ。と思いながらも仕方がないのでカジノまで付き添う魔王なのであった。

 

 到着したカジノ「リルラッシュ」は、明るく広い店内が印象的だった。テーブルの数も以前の隠れ家の倍ほどもある。魔王はベルルナルに引きずられるように店内に入店した。すると奥のテーブルで見知った乙女が笑顔でアシスタントと談笑している。魔王とベルルナルはそちらに向かった。

「こんにちはレディ・ブルーグリーン。先日はこいつが世話になった。また置いていくので遊んでやってくれ」

 魔王は丁寧にレーヴェに向かいあいさつを行った。横では、そのセクシーななりに似合わないしぐさで、ぺこりとお辞儀をするベルルナル。

「ああ、ちょうど今このテーブルは休憩中だから、少し待てば最初から遊べるだろう。ベルルナルさんとか言ったか? 今日はディーラーはやらないで遊ぶといい」

 すると横から、これも見知った顔のアシスタント、マチルダがやってきた。

「こんにちはベルルナルさま、これからもよろしくお願いいたします」

「兄さまはもうここに来ることはありませんが、その分、私が参りますのでよろしくお願いいたしますね」

丁寧なマチルダのあいさつにベルルナルも笑顔で答えた。

 そうしているうちに、テーブルには休憩を終えたメンバーが続々と戻ってくる。おっさんどもの視線はベルルナルの胸元と太ももにくぎ付け。何とかお近づきになりたいおっさんどもは、しきりにベルルナルに愛想を振りまく。やれ美しいだの、やれ薔薇色姫ローゼンプリンセスの異名は伊達じゃないとかなどと。

 こうしてベルルナルはリルラッシュに馴染んでしまうのであった。

「じゃ、適当に遊んでもらえ、2刻後に迎えに来るからな」

 そう言い残すと、魔王はベルルナルの返事も待たずに、いそいそと伊達者の楽園ダンディーズシャングリラへと足を運んだ。

 

「魔王とベルルデウスさまが向かったのはワーランの街だ」

 密かに二人を追跡した影に潜む者(シャドウストーカー)が魔王の城に巣食う悪魔どもに念を送る。

「そうか、2人は一体何をやっているのだ」

「知るかそんなの。街中に入るのは勘弁してくれよ。ザブナートみたいな目にあったら目も当てられん。もう俺は帰るからな」

「もう少し根性見せろやシャドウストーカーさんよ」

「うるさい黙れ、人ごとだからって無責任な事を言うんじゃないよ。俺は途中の村で適当に略奪してから帰るぞ。街中に入りたきゃお前が入れ」

 と、ここでシャドウストーカーは何かの気配に気づいた、が、すでに後の祭りだった。

「ふぇーりん、息吹解放ブレスリリースよ」

「行くわよフラウりん、『超高熱の息吹スーパーハイヒートブレス』!」

 鳳凰竜がその優雅な姿に似合わぬ牙が並ぶ口腔を開く。そして哀れな獲物に向けて何かを浴びせた。それは光も風も伴わない、単純な、そして純粋な熱。

ジュッ!

 哀れシャドウストーカーは、自分自身に何が起きたのかも気付かないまま、灼熱の中、蒸発していった。

 「超高熱の息吹スーパーハイヒートブレス」とは超超高温を目標に浴びせるブレス。目標は蒸発し、あるいは炭化する。抵抗しても高熱による火傷が体力を徐々に奪うブレス。

 突然シャドウストーカーからの連絡が途切れた幹部悪魔どもは状況を訝しむ。まさか、またよくわからんとんでもなく強い奴が現れたのかと。


「こりゃ、ワーランの街には近寄らないほうがいいかな」

「いや、何匹か潜伏させておいたほうがいいだろ。これじゃいつまでたっても何も始まらん」

「確かに逃げ惑うだけの連中を追っかけるのも飽きたしなあ」

「ドッペルの連中を何匹か送っておくかね」

「そうしておいてくれ。適当なやつに変装しておけばいいだろ」

「ところであっちからも連絡が来たぞ」

「ああ、あれも面白そうだな。だが、いまいち決め手にかけているらしいぞ」

「今流行のネタを使えないもんかね」

「ちょっと楽しくなってきたぞ」

 悪魔どももエンジョイをし始めた。


「油断も隙もないね」

「ふぇーりんの探査能力がなかったら街の中に紛れ込まれるところでしたわ」

「そうだねフラウりん。しばらくはパトロールも必要かな」

 大地竜に次ぐ探査能力を持つ鳳凰竜は、魔王と魔王の部下らしき存在を追っていた悪魔を、こうして始末した。なお、魔王と魔王の部下の存在は5柱の竜もきっちり把握しているが、エリスの指示で、あえて見て見ぬふりをしている。 

 今ここで魔王の部下かもしれない悪魔を倒した。それに対し魔王と魔王の部下はどう対処するか? フラウとフェーりんは街に戻ると、エリスたちと盗賊ギルドのマルゲリータらに魔王たちの様子を窺うように伝えて回った。

「ふーん」

 大地竜らーちんを迎えに行ったエリスはフラウの報告を聞き、中二ブレスを試したフラウとふぇーりんの機会をうらやみながらも、念のため魔王とベルルナルの様子を窺いに行く。魔王は伊達者の楽園待合室、ベルルナルは無邪気にレーヴェの横で遊んでいる。その様子からは、悪魔が一瞬で蒸発したことに対する何らの動きもみてとれない。

「悪魔が独断で行動していると判断したほうがよさそうね。らーちん」

「ああ、今のところ街に悪魔の気配は無いからな。フラウたちが仕留めたのは、もしかしたら魔王たちと敵対する悪魔なのかもしれないしな。このまま気配は探っておくよ」

「そうだとしたら面白いわね。一度悪魔を生け捕りにしてみましょうか」

 薄ら笑いを浮かべるエリスとらーちん。彼女はらーちんをおんぶして街で遊びながら、チャンスを窺うこととした。


 フリーダムプロムナードの夕方は、何やらきな臭くなってまいりました。

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