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ベルルナルVS魔王さま

 泣きじゃくるベルルナルと、彼女を慰める碧の麗人レディ・ブルーグリーンとやらの端正な顔立ちの娘がトールチェアに腰掛けている。

 魔王は状況が飲み込めなかった。

麦わら帽子(ストローハット)さま、お連れさまがお待ちです」

 魔王はやけに冷たい声で店内の女性から声を掛けられた。お連れさまというのはベルルナルのことだろうな。と、理解できたが、言葉の冷たさが理解できない。そこでまずはベルルナルに声をかけるべきかと魔王は判断する。

「どうしたベルルナル、何を泣いている。そしてそこの美しいお嬢さん、よかったらこの娘が泣いている理由を教えてもらえないか? 私はこの娘の保護者だ」

 麦わら帽子が魔王だろうということはワーランの宝石箱ジュエルボックスオブワーランだけの秘密。だからレーヴェは特に魔王の素性を聞こうともせず、事実を淡々と説明し始めた。

 この娘がVIPルームで大負けし、一旦部屋を飛び出していったこと。その後嬉々としてVIPルームに戻ってきたこと。そして半刻ほどで、さらに大負けしたこと。呆然とし、その後大泣きを始めた薔薇色姫ローゼンプリンセスを、まずはVIPルームから連れだし、落ち着かせようとしたこと。そして今は泣きじゃくり、何を問うても「ご主人様に叱られます」としか答えないことを。これが店内の女性たちの視線が冷たい理由。

 魔王は考える。明らかにベルルエルはベルルナルという女性の姿になってから、おかしくなったと。少なくとも以前はこんなふうに泣きじゃくるような奴ではなかった。

「ありがとな美しい娘よ。私はベルルデウス。差し支えなければ君の名前を教えてくれるか?」

「私はレーヴェ。この街に住んでいる。ところで、この娘が失ったリルは正当な勝負の結果ゆえ、返金することはできない。それは納得していただけるか? ベルルデウス殿」

「ああ、博打ですった金を返せなぞみっともなくて言えねえな。まあ、こいつと遊んでくれてありがとな」

 泣きじゃくるベルルナルの髪を撫でるようにかきむしりながら、豪快に答える魔王の姿にレーヴェは感心した。180万リルをすった部下を、さりげなくかばう魔王に。

「よし、ベルルナル、オレも一文無しだから、今日は帰るぞ」

「ご主人様、ごめんなさい、ごめんなさい」

 魔王は謝り続けるベルルナルの肩を抱き、もう片手で彼女を立たせる。そしてレーヴェに頭を下げた。

「こいつが干上がってからオレが来るまで、君が面倒を見ていてくれたんだろ。ありがとう」

 レーヴェは再び感心した。先ほどから「ありがとう」と自然に言える眼の前の男に。

 そうして魔王はベルルナルを優しく抱きかかえながら店を出て行った。

 その姿は、店の女性たち全員が見惚れるほどの堂々とした振る舞いだった。

 

 ベルルナルを抱えて居城に戻った魔王さま。

 椅子に座った魔王さまの前に立つベルルナル。

「なあ、ベルルナルさんよ」

「……。はい、ご主人さま」

 ありゃ、ここでもご主人と来ちゃったよこの娘。調子狂うな。と思いながらも魔王は続ける。

「なんであそこで泣いてたの?」

 びくっとするベルルナル。そして俯いた顔から上目遣いで魔王を見つめる。でも言葉は出ない。

「いいから、正直に言ってみな。怒らないから」

 その言葉にベルルナルは続けた。

「ご主人さまからお借りした80万リルを半刻で溶かしちゃったからです」

 多分そんなところだろうなと魔王は思った。ベルルナルはベルルエルに比べ、明らかに感情の起伏が激しい。これでは対人博打などでは良いカモなんだろうと思う。

「で、何でお前は碧の麗人レディ・ブルーグリーンと一緒にいたの?」

 するとベルルナルは鼻をすんすんとすすりながら答えた。

「私をあの猛獣の巣から連れだしてくれたのです。そして私を慰めてくださったのです。正直に話せば、ご主人さまも許してくださるから、安心しなさいと」

 ふーん。あの娘、結構やさしいじゃねえかと、魔王は感心した。

 その間も深紅のドレスに包まれながら泣きじゃくるベルルナル。

「次は勝ってまいりますから、勝ってまいりますから、何卒お許し下さいご主人さま……」

 あー、こいつ、自分で勝手に目標作っちゃっているなと魔王は理解した。別に勝ってこなくても、すった金を取り戻してこなくてもいいのに。これはちょっといじめてみよう。

「おい、ベルルナルさんよ」

「はい、ご主人さま」

「お前、オレから借金したよな」

「……」

「おい、お前、オレから借金したよな」

「……。はい」

「さってと、どうやって返してもらおうかな」

 顔色が変わるベルルナル。

「近隣の村を略奪してまいります」

「馬鹿かお前、略奪した獲物は最初から俺のものだ」

「それでは、勝負で勝ってまいります」

「勝負の元手はどうするの?」

「……」

「ベルルナル、勝負の元手はどうするの?」

「……」

「ベルルナル、お前の時間を買ってやろうか?」

???

「ベルルナルさんよ、オレを踏んでみないか?」

「嫌です」

「踏んだら180万リルをチャラにしてやるけど」

 黙りこむベルルナル。

 ……。

「2回踏んだら180万リルをいただけるのですか?」

 とんでもないことを言い出すベルルナル。だが、この言葉で魔王は確信した。こいつは女性型になったときに、頭のネジを何本かどこかに置き忘れてきたと。だからギャンブル中毒の女のような、価値観が狂ったようなことを平気で口走るのだ。

 同時に魔王の中にベルルナルに対して何かおかしな感情が湧き上がる。

 それはマルゲリータに対してのものとは全く異なる、ザラザラとした甘い感情。

 改めて魔王はベルルナルの表情を窺う。

 泣きじゃくりながらも、その場に立ち尽くす黒髪と陶器の肌。黒い瞳は涙で周りを紅く腫らせている。ドレスはすっかり着崩れ、右の胸は今にも桃色の先端が晒されてしまうだろう。ドレスの裾もはたげ、美しい両足首があらわになっている。何より愛らしいのが、何かを我慢するように握りしめた両の拳。

 ふーん。

「ベルルナル、ちょっと来い」

 魔王に呼ばれたベルルナルは命令されるがまま、魔王のそばまで歩んでいく。

 ふーん。

「ベルルナル、ここに座れ」

 魔王の命令に従い、魔王が指さした魔王の膝の上におずおずと腰を落とすベルルナル。

 ふーん。

「ベルルナル、こっちを見てみろ」

 泣きはらした顔を、命じられるがままに魔王に向けるベルルナル。紅く腫れた黒の瞳を魔王に向け、鼻先には泣きじゃくったであろう結果の透明の水が滴り、普段は透きとおるような淡い口元は紅潮し、紅に染まっている。

 美しい。

 魔王は思わずその紅の唇に自らの唇を重ね、彼女を堪能した。触れ、差し込み、吸い、絡めて。

 しばらくのくちづけの後、魔王は無言でベルルナルを両腕に抱き、自らの寝室に連れて行く。

 そして寝所にベルルナルを横たえる。

「抵抗したら殺すよ、ベルルナル」

「はい、ご主人さま」

 魔王はベルルナルのドレスをゆっくりと引き裂いていく。そしてベルルナルは魔王に身を任せた。


 魔王は思うがままにベルルナルを蹂躙した。そしてベルルナルは魔王の全てを自らの悲鳴とともに受け入れた。

 互いが果てた時、ベルルナルは魔王の背中に爪痕を残し、魔王はベルルナルの中に自身の分身を残した。


「あーあ、ベルルデウスさまが魔王とやらにやられちゃったよ」

「俺ら、これからどうすりゃいいんだろ」

「爪も見つからんしな」

「魔王とやらもまるっきり勇者と勝負するつもりがないしな」

「俺は人間を食いたい」

「オレは人間のメスを犯して晒したい」

「おれはオスを拷問したい」

「やっちゃ悪いとは言われてないよな」

「ああ、勇者に負けるなと言われているだけだ」

「リルだけ略奪しておきゃ文句は言われないだろ」

「そんならここはエンジョイハッピーライフかな」

「ああ、軍団で行くとザブナートみたいな目に遭うかもしれん。ここは小出しに遊ぶのが吉だな」

「よっしゃ、とりあえず細かく襲って拷問して犯して殺して食うでいいな」

「ばれると面倒だから目立たないようにな」

「俺はちょっと権力をちょろまかしてくるわ。お前らも来るか?」

「そうだな、なり済まし最高だしな」

「おう、それじゃ、それぞれエキサイティングライフを満喫すっか」


この日は悪魔どもが、ベルルナルの束縛から解放された日となった。


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