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お遊びの時間

 ここはワーラン評議会の会議室。室内にいるのはマルスフィールド公、チャーフィー卿、レオパルド公、フェルディナンド先公、マリア評議会議長、そしてなぜかエリス準会員。

 議題はアルメリアン大陸の情勢と、ワーランに集まった5柱の竜の影響に関する情報交換。守護竜が関わる議題のため、エリスは代表としてこの席に呼ばれたのであった。

「実は、各地から魔王勢力と思われる悪魔どもからの襲来が報告されているのだ」

 マルスフィールド公が続けた。これまで大きな襲来ものはワーランへの大侵攻。これは謎の存在が駆逐した。そしてウィートグレイスで起きた旧領主と悪魔との契約、これは勇者が駆逐した。

「実は、マルスフィールドでも魔族や悪魔の潜伏が確認されておる」

 公は続ける。主な都市に対する魔族や悪魔の侵攻はこの程度だが、周辺の農村や漁村、宿場町などで魔族や悪魔による侵攻や略奪が散発している。特に南方ではいくつかの村が住民ごとさらわれているような状況だという。

 エリスはケンやシン達のことを思い出したが、余計なことを喋って彼らが罰せられるのもつまらない。マリアもエリスに目配せをする。彼女も同じ考えのようだ。

「そこで、王都では魔導都市の成果の一つをここで使用することにした」

 公が合図をすると、彼の部下がクマのぬいぐるみのようなものをいくつか運んできた。

「これは『遠吠えのぬいぐるみ』と言ってな、念じることにより、対となっているぬいぐるみ周辺のものとしばらくの間会話ができるという魔道具だ。ただ、1対1でしか会話ができないのが難点だがな。ついては、このぬいぐるみを各都市に配置し、緊急の場合に使用することとしたい」

 これまでであれば、声だけが届いても各都市間は2日から3日かかるため、突然の悪魔襲来などには無意味であった。しかし今は勇者が各都市間を一瞬で移動できる。また、ワーランに飛竜が2柱いる。ならば今後、この仕組みは有効であろうと。

「ところで、なぜぬいぐるみなのですか?」

 マリアの質問に、公はエリスのほうに視線を送りながら答えた。

「開発リーダーの趣味じゃよ。どこぞの竜戦乙女の母親らしいが」

「イゼリナさんね!」

「そうじゃ。この功績とアレスの結界魔法の功績で、あの夫婦は自由に大陸を移動できる立場になっておる。そのうちここにも顔を出すじゃろ」

 そっか、これはクレアにすぐ教えてあげなきゃね。とエリスは嬉しくなった。

 ぬいぐるみはウィートグレイス-ワーランで1組 ワーラン-マルスフィールドで1組とした。ウィートグレイスではレオパルド公、ワーランではマリア議長が各々ぬいぐるみを管理する。

「これから忙しくなりそうね」

 エリスは中二ちっくな竜たちの息吹ブレスを思い出し、一人ほくそ笑んだ。

 

 さてこちらはお久しぶりの魔王城。

「なあ、ベルルナルさんよ」

「……」

「なあ、ベルルナルさんよ」

「……」

「いい加減ご機嫌を直してくれないかなあ」

「……。肝心な時に役に立たない魔王さまなど存じ上げません」

 ベルルナルはワーランのご主人様の隠れ家マスターズハイダウェイで受付から、女性一人の入店は認められませんと追い返された時、いいことを思いついた。それは魔王さまに同伴してもらうこと。ベルルナルはいそいそと伊達者の楽園ダンディーズシャングリラに向かい、ベルルデウスの呼び出しを願った。が、いつまでたっても魔王さまは出てこなかった。そしてベルルナルは2刻のときを楽園の店先で待たされることになったのである。ベルルナルはむかついた。2刻を待たされた後に出てきた魔王さまの満足そうな表情を見て。そしてその隣で魔王さまを見送る、満足気な表情の女性を見て。しかも魔王さまはベルルナルに気付かず、1人で居城に帰ってしまった。これが彼女が怒っている理由。

 不機嫌なベルルナルは幹部悪魔どもに八つ当たりをした。さっさと爪を探して来いと。このところ悪魔が精力的に略奪をおこなっているのはこれが原因。

「よし、いいこと思いついた」

「……」

「ベルルナルさんよ、今からワーランに行こうか?」

「……」

「今日は予約を取っていないからさ、俺はおとなしくしているよ」

「……。2刻はお店にいたいんですけど」

「わかっているさ、ちゃんと送り迎えはしてやるって」

「……。そこまでおっしゃるのでしたら、仕方がありませんね。それでは衣装を選んでまいります」

 と、冷静を装う口ぶりとは裏腹に、スキップをしながら自室に戻るベルルナルさん。どうもベルルナルさん、女性型になったときに意識の再構成を一部失敗したらしく、普段の冷静さが失われている模様であった。

「あの姿で俺を踏んでくれねえかなあ」

 魔王はその後ろ姿に、独り言を漏らした。


 舞台は再びワーランの街。

 ご一行はもう一泊していく様子。というのは、昨夜は男性陣、互いをけん制して結局は最後まで宴席で過ごしたらしい。で、伊達者の楽園ダンディーズシャングリラで気持ち良くなりたいマルスフィールド公一派と、ご主人様の隠れ家マスターズハイダウェイで博打を打ちたいフェルディナンド先公一派が共闘して、もう1日日程を伸ばしたとのこと。影では蘇民屋やマーキュリーズバーの噂を聞きつけて、密かに訪れる決意をしたものも何名かいるらしいが。

 ちなみにまじめなレオパルド公夫妻はフラウがウィートグレイスに送って行ったので既に不在。ということで

 マグロさんチーム:マルスフィールド公、城砦都市諸ギルドマスター他。

 カモさんチーム:フェルディナンド先公、チャーフィー卿その他。ちなみにチャーフィー卿は、次回は家族連れではなく、1人でワーランを訪問すると決意したらしい。

 と、綺麗にチーム分けがなされた。マグロさんチームはマリリンに任せ、エリスたちはカモさんチームと、女性陣のアテンドをすることとなる。

「さて、どうしましょうかね」

 カモさんチームはレーヴェをくっつけておけば問題ない。あとはビゾンさまとメベット、そして1人残されたヒュンメルのアテンドをどうするか。

 するとキャティと人型あーにゃんがビゾン、メベット、ヒュンメルの前で小ネタを始めた。

「なあ、キャティにゃん、謎掛けって知っとるか?」

「にゃんとかとかけてニャンとかととくやつにゃ?」

「そうや、でな、ファザコンの娘とかけて」

「ファザコンの娘とかけて」

「マザコンの息子ととく」

「その心は?」

「チチが大好きじゃい!」

「にゃんにゃん」

 ここで吹き出したのはビゾンとフラウ。メベットとヒュンメルはあっけにとられている。エリスとクレアは恥ずかしくて怒りに震えている。

「なにがにゃんにゃんだよ面白くねえ! クレア、メベット、ヒュンメルさま、工房ギルドに行ってモゲモゲくんで遊ぶわよ!」


 ということで、半ギレエリスとクレア、メベット、ヒュンメルで工房ギルド行き、ビゾンさま、フラウ、キャティでライブハウス行きと決め、それぞれ移動を開始する。

 キャティたちは無事ライブハウスのパインバンブーロングラン公演に到着。エリスたちも工房ギルドの一画で、クレアが試験用においておいた手乗りサイズのモゲモゲくん4台で、仲良くバトルロイヤルを始めた。実はこれ、意外と面白くて工房ギルド若手のお昼休みの賭け事になっている。ルールは簡単。おけの上に張った布の上で互いに身体をぶつけあい、ひっくり返るか場外に落ちたら負け。8本足なので動きが変則的で、意外と身体の向きや進行方向が重要となる、アクティブかつ戦略的な遊びなのだ。

 もともとモゲモゲくんは発動体の指輪を通じて意識下でコントロールする仕組みだったが、現場で操作者が意識を集中するのは危険だった。なのでクレアは発動体を指輪から前後左右に動く2本の棒を取り付けた箱にした。これならば起動時に箱に精神力を注げば、以降は棒で操作できるので、操作者は周辺に注意を払いながらTSくんを操作できる。これがTSくん改の特徴。で、事前にレバー操作に慣れるためにクレアが用意したシミュレーターがミニモゲモゲくん1号から4号。

 箱の起動に精神力を消費するので、工房ギルドの若手はそんなに長いことは遊べないが、エリスはしれっとメベットとヒュンメルに精神の指輪を貸し与えていた。ゴーレム起動の仕組みも知らない2人が指輪に何の疑いを持たないのは当たり前。さらにエリスという急速充精神力器付き。

「よし、次はチーム戦よ! まずはヒュンメルさまと私、クレアとメベットね!」

「望むところだエリス! 今日こそ一泡食わせてやるよ!」

 こうして、エリス、クレア、メベット、ヒュンメルは男の子のようにバトルゲームに興じながら、大人たちがワーランにお金を落とす時間を過ごすのであった。

 あ、すいません、ヒュンメルは男の子でした。


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