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あざとい混沌竜

 我に返ったクレアは周りを見渡した。そこにはぴーたんの姿に驚きを隠せない人々。そして人型となっている4柱の竜は、それぞれの乙女を守るようにしながら、こちらを向いて身構えている。

「ぴーたん、なんだか空気が重くないかな」

 すると漆黒の竜はその両腕を組み、小首をかしげる。これははっきり言ってこわ可愛い。

「クレアたん、とりあえず体長変化許可パーミッションチェンジサイズを解放してくれない?」

 クレアは意識に浮かんだ術式の一つを解放した。すると、ぴーたんの身体が小さくなっていく。

「見よ! これがオレのファンシーサイズだ!」

 あっという間に小さくなった漆黒の竜は、ぱたぱたと羽ばたき、すとんとクレアの頭上に乗っかった。そして広場内に見得みえを切る。

「こんにちは皆さん。オレはぴーたん。クレアたんともどもよろしくね」

と、丁寧なあいさつをクレアの頭上で皆に行う竜。それを見てあっけにとられる群衆。特に4柱の竜は、あいた口がふさがらない様子。

 そこで真っ先に我に返ったエリスは盗賊ギルドマスター、バルティスと冒険者ギルドマスター、テセウスのところに駆けより、事態の収拾について相談を始める。

「とりあえず皆が知っているぴーたんだということで押し切るしかないな」

 テセウスはそう2人に告げると、彼は群集に向かって方便ほうべんを叫び出した。

「みんな、ぴーたん捜索に協力してくれてありがとう。どうやらぴーたんは成長したようだ、そうだなクレア!」

 突然話を振られて動揺するクレアは助けを求めるようにエリスに目をやる。すると彼女はクレアにウインクをしてくれた。

「マスターが仰る通りなんだ。このこはぴーたんに間違いないよ! みんな、一緒に探してくれてありがとう!」

 クレアがお辞儀をすると、その頭から離れて彼女の横に降り立ち、一緒にお辞儀をする漆黒のチビ竜。この姿に群衆、特に女性陣は見事にやられてしまった。これはマジ可愛い。

 そこにテセウスが続ける。

「皆、ご苦労だった。事件は無事解決だ。各々仕事に戻ってほしい」

 すると群衆はクレアとぴーたんのところにわっと集まった。再びクレアの頭上に戻り、皆に愛想を振りまくぴーたん。

 ぴーたんを発見したバズさんとダグさんがまず口火を切る。

「ようぴーたん、喋れるようになったんだな」

「ありがとうバズさん、そうみたいだ」

「飛べるようになったのか、すげえなぴーたん」

「ありがとうダグさん、まだまだよたよただけどね、練習してもっと早く飛べるように頑張るよ」

 一方、エリスたち4人と4柱の竜は隅でごそごそやっている。

「らーちん、混沌竜ピカレスクドラゴンって何者よ」

 4人を代表してエリスが自身の竜に尋ねる。

「エリスちん、混沌竜ってのはな……」

 らーちんたちの説明はエリスたち4人を十分びびらせるものだった。

 大地竜、暴風竜、氷雪竜、鳳凰竜が魔子ましと日光やその他元素を糧にしているのに対し、混沌竜は魔子そのものの塊といえる。そしてその性格は無頼一筋。とにかく気に入らないものには問答無用で喧嘩を吹っ掛ける。その暴れっぷりはまさに破壊の権化。

「東に大きな湖があるやろ、あれ、あいつがぶち切れてやらかした穴やねん」と、氷雪竜が恐ろしいことをさらっと付け加える。

「でも、神魔戦争のときにはもういなかったよね、混沌竜の奴」と、暴風竜が結構重要な情報を提供する。

「もしかしたら誰かに封印でもされたのかしらね」と、鳳凰竜が的確な分析力を見せる。

「あいつ、転生封印を受けたのかもな」と、大地竜が面白そうなことを言い始めた。

「らーちん、転生封印ってなんのこと?」

「エリスちん、前に俺たちは浄化されない限り身体を失っても復活するという話はしたよな。転生封印はそれをさせないためにあえて他の魔獣に転生させてしまうものなんだよ。俺たちにとっては浄化の次にやばい術法だ」

「あの馬鹿竜、もしかしたら神か何かに喧嘩を吹っ掛けたかもしれないね。で、転生封印されて、よりによってメタルイーターにされちゃったと」

「そないなことされたら敵わんな。いっそのこと浄化された方が、まだましや」

「もしかしたら記憶がメタルイーター時代のものに上書きされてしまったのかもしれませんね。それならあの愛想のよい姿も納得できます」

  腕組みする4人と4柱。

 とりあえず、場が落ち着くのを待ってから、クレアと混沌竜を一旦家に連れて帰ることにした。


「で、何が起きたの?」

 ここはエリスたちの家。リビングで竜達は各々の可愛いスタイルに戻り、それぞれの乙女たちのところにくっついている。

 注目の的はクレアの頭上に鎮座する漆黒の竜。

 クレアとぴーたんは自身たちに起きたことを素直に説明する。クレアがぴーたんの名前を呼びながらメタルイーターに文句を言おうとしたら、ぴーたんの鼻先にキスしちゃったことを、そしたらぴーたんが漆黒の竜になっちゃったことを。クレアはエリスたちに続ける。

「エリス、ボクの唇がぴーたんに触れた直後に、彼は『危ないからオレを投げろ』って言ってくれたんだ」

「ようするに、メタルイーターのぴーたんが、クレアのくちづけをきっかけに、今の姿になったということね。ところでぴーたん、あなたは何者?」

 この質問に困ったのはクレアとぴーたん。

「エリス、ぴーたんは記憶がないみたいなんだ」

「ごめんよエリス、オレは迷宮の隅でじっとしていた記憶しかないや」

 そこで調子こいたのが、話に絡みたくてウズウズしていたお調子者の暴風竜すーちゃん。

「そこの黒いの! お前、混沌竜ピカレスクドラゴンだろ!」

 この挑発に対し、ため息をつく大地竜のらーちん。臨戦態勢を取る氷雪竜のあーにゃん。すぐにでも逃げ出す体制を取る鳳凰竜のふぇーりん。

 ところが当の漆黒ドラゴンがよくわかってないらしい。

「なんだそのセンスのない名前は?」これはぴーたん。

「そのセンスのない名前がお前だよざまあ」これはすーちゃん。

……。

……。

「ちょっとそこの碧いの、表に出ろ」

『上等だ真っ黒けが」

……。

……。

「レーヴェ、ごめんね」

「こちらこそすまん、クレア」

 そこにいるのはクレアに頭を脇の下で締め付けられてぴーぴーうめいているぴーたんと、レーヴェに喉元の逆鱗へピンポイントで親指プレスを食らって痙攣しているすーちゃん。

 結局その晩は、ぴーたんは記憶喪失の混沌竜として片付けられた。


 リビングには寝床が5つ。

 右から混沌竜、大地竜、暴風竜、氷雪竜、鳳凰竜の順。

「おやすみぴーたん」

「らーちん、今日もありがとね」

「また明日な、すーちゃん」

「明日もネタ合わせするにゃん、あーにゃん」

「ふぇーりん、お休みなさい」


 そして始まるブヒヒヒヒ


「クレア、ぴーたんの究極解放アルティメットリリースはどんなのかしら?」

「ごめんよエリス、ボクにもわからないや」

「じゃ、じっくり思い出してもらいましょう。クレアもじっくりね」

 だめ……エリス、そこはだめ……、胸を、お願い……、エリス……。


 その後順当にエリスに蹂躙される3名。


 夜の部デビューのぴーたんが、なんの気なしに4柱の竜に話しかける。

「オレのクレアたんが最高だよね」

 すぐに反応する他の4柱。

「俺のエリスちんが最高にして至高に決まっているだろ馬鹿野郎」

「ぼくのレーヴェちゃんが究極に決まっているだろいい加減にしないと切り刻むぞクソボケ」

「わいのキャティにゃんで決定や! われどこに目をつけてんねん!」

「あたしのフラウりんに決まってるでしょ! これだから視野の狭いクソ竜どもは!」


 こうして、エリスが4部屋を回る間、5柱の竜たちはどうでもいいけど、でもムキになる話題で一夜を過ごした。


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