Go East!-東に行くぜ!-
キャティと、人体変化でキャティの姿を模したあーにゃんが浴場に立つ。
「なあなあ、キャティにゃん、ちょいと聞いておくんなはれ」
「なんにゃい? あーにゃん」
「実はわい、こないだスカイキャッスルに行ってきたんや」
「ほうほう、それは大変だったにゃん」
「そしたらわい、急にゲロ吐きたくなりましてんねん」
「またそれは、いったいどういうことにゃん」
「つまりは、王都で嘔吐でんがな」
にゃんにゃん!
「ぶわっはっはっは!」
「うひゃひゃひゃひゃ!」
自分たちのネタで大爆笑の2人。
……。
くそつまんねえ。なにがにゃんにゃんだよ。
エリス-エージはらーちんをごしごしこすりながら、パインバンブー一座の公演を見に行ったことを激しく後悔していた。
クレアもぴーたんを洗いながら、ジト目で2人を見つめている。が、妙な反応をしているのが1人。
「だめ、勘弁して」
そこには顔を真っ赤にしてひーひー笑っているフラウ。どうもこうしたオヤジギャグが彼女のツボらしい。
その姿を発見したキャティとあーにゃんの2人は、フラウを挟み込むようにして彼女の両脇に移動した。そして2人でお尻を突き出し、しっぽを振り振りさせながらフラウの耳元で歌う。
「すーちゃんが 屁をこいた ぼぅふぅ!」
「もう駄目……許して……」
体をよじらせて悶えるフラウ。
すると相変わらず人の話を聞かずに暴風竜のすーちゃんをもみ洗いしていたレーヴェが立ち上がった。
「終わったみたいだな、それでは次は私が歌おう」
それまでアヘアヘしていたすーちゃんも、自分がネタにされたとは気づいていない。
こうしていつものお風呂タイムが過ぎていく。
夕食を皆で囲みながら、フラウとレーヴェが順番に竜の噂について皆に報告を行った。
フラウ情報によれば、勇者一行が東の陶芸都市周辺で竜の探索を始めるということ。
レーヴェ情報でも、東方に竜がいるのではないかと推測される。もう一つの恐怖をつかさどる竜については情報が足りない。
「これは陶芸都市に行ってみるしかないかしら」
エリスはつぶやく。
フェル爺さまの話の通りであれば、竜は陶芸都市にときどき姿を現すらしい。また、竜の近くまでくれば、大地竜らーちんがその存在を察知できる。
勇者たちはリープシティの魔法を使えるので、既に陶芸都市にも到達している可能性は十分にある。
一方、エリスたちは暴風竜すーちゃんの高速飛翔であればワーランから数刻もかからずに陶芸都市に到達できるだろうが、竜戦乙女であるエリス、レーヴェ、キャティはともかく、フラウとクレアの体力が持たない。途中の魔道都市で1泊するのが賢明か。
「よし決まり。皆で東に向かいましょう。念のためらーちん、すーちゃんとあーにゃんがチェンジヒューマンしたときの衣類一式もブティックで用意しましょう」
さて翌日。
朝食を取りながら、エリスたちは旅程と、旅行中のらーちんたちについて打ち合わせを始めた。結論として、氷雪竜の迷宮でダミーのパーティを組んだ時のように、らーちんたちは男性型で統一することにする。
5人は食事を済ませると、竜のコーディネートを始める。
大地竜らーちんは、金髪を短く刈り上げた精悍な身長18ビートの重戦士。名前は「エリソン」。以前幹部悪魔が身につけていたフルプレートアーマーに合わせ、フラウからモーニングスターとカイトシールドを譲ってもらう。
暴風竜すーちゃんは、碧の髪を伸ばし、後ろで結んだ身長18ビートの軽戦士。名前は「レーヴァテイン」。レーヴェのお古である皮鎧とブルーのサーベルを装備する。
氷雪竜あーにゃんは、体毛全体を短くした身長18ビートの猫戦士。名前は「キャティス」。こちらもキャティのお古である白銀のガントレット&レガースクロウ。衣類は白のシャツとスリムロングパンツ。
「まあこんなもんね」 エリスはつぶやいた。
エリスたちは精悍な3匹の姿に満足する。ちなみにらーちんを盗賊型にしなかったのは、単純にらーちんに「盗賊の技能」がないため。盗賊の姿をさせておいて、万一罠解除などの場面になったら目も当てられない。
一行はその姿のまま、交わる町へと出かけ、ブティックで竜達の普段着を買い求めた後、盗賊ギルドに向かった。
「カレン、こんにちは。マスターはいらっしゃるかしら」
「あらエリスさまと皆さま、いらっしゃいませ。ところで後ろの方々は?」
精悍な3人の男性?の姿に、少しだけ頬を赤らめたカレン。
「その説明に来たのよ。マスターをお願いね」
すぐに奥に案内される5人と3人? そこでエリスは改めて盗賊ギルドマスターバルティスに、3人を紹介する。あっけにとられるバルティス。
「お前ら、3匹目の竜もナンパしてきたのか……」
「何調子こいてんじゃいクソオヤジ!、文句あるなら勝負したるさかい、表に出んかい!」
相変わらず喧嘩っ早い「キャティス」ことあーにゃんが、灰色の眼差しをいきり立てさせながらマスターに啖呵を切る。それを慌てて止めるキャティ。
「待つにゃ、あーにゃん! この方は私のボスにゃ!」
「キャティにゃんのボスはエリス社長とちゃいまっか?」
「違うにゃ、この方は私の所属する盗賊ギルドのマスターだにゃ!」
「つーことは、このクソオヤジをぶち殺せばキャティにゃんが盗賊ギルドのボスってことでんな! よっしゃ、ぶっ殺したる!」
猫族の大男が撒き散らす剣幕に呆気にとられるバルティス。しかしちょっとムカついたので勝負したろかと席を立とうとする。
「面白い、返り討ちにしてやる」
「ちょっと待つにゃー! リセットボディ! チェンジサイズ!」
しゅるしゅるしゅる……。
キャティのコマンドで、人間型を解除され、強制的に白いマフラー状態となるあーにゃん。
再び呆気にとられるバルティス。
「許してほしいにゃ。後で折檻しておきますにゃ」
あーにゃんの尻尾を摘んで、ぶらぶらさせながらバルティスに詫びるキャティ。さすがのバルティスも、ここは頷くしかなかった。ここで騒ぎも一段落したので、エリスたちはバルティスにしばらく留守にすることを伝え、他のマスターには上手く言っておいてくれと頼む。
「本当にお前らは面白いな。わかった、留守は守っておく。ただな、スカイキャッスルの動きも気になるから、あまり長い間の留守は勘弁してくれよ」
「ありがとう、おじさま」
こうして段取りを終えたエリスたちは、すーちゃんの高速飛行でまずは魔導都市ウィズダムへと向かった。
ウィズダム近郊で着地した一行は、竜の3人が人間型を取り、あくまでも馬車の定期便でやってきたという様相で街に足を踏み入れる。ぴーたんはクレアが抱えている。
まず彼らが向かったのは大学校。目的はクレアの両親。だが、あれだけ街中で暴れた彼女たちを覚えているものはこの街には多かった。
「よう、久しぶり」
現れたのは魔術師ギルドマスターのアルフォンス。
「なんだ、人数が増えているな」
「ええ、それぞれの身内、護衛みたいなものです」
エリスが適当に回答するも、そんなのを素直に信じるようなタマではないアルフォンス。
「ふーん。ところで君ら、目的はアレスたちのところかい? なら俺も一緒にいくよ」
嫌なやつに絡まれたが、まあ仕方がない。アルフォンスがいれば、こないだの一件で絡んでくる者達もいないだろう。エリス-エージは返事をせずに、アルフォンスを受け流すことにする。
そして大学校に到着。エリスたちは門番さんにアレスとイゼリナとの面会を求める。彼女たちを覚えていた門番さんは、すぐにアレスたちの確認をとってくれた。
「よう、エリスちゃんたち、久しいな。元気だったか? クレアも元気そうでなによりだ。」
さすが大人。自分の娘よりも先に友人たちをねぎらう気遣いを持っている。
エリスがアレスたちを尋ねた目的は2つ。ワーランで使用された魔法の解析と、竜の情報収集である。
「いらっしゃい、皆さま」
部屋ではイゼリナも出迎えてくれた。心なしか前回よりもふっくらしたような印象を受ける。
「これはまた人数が増えたな。8人パーティか。この頼もしい男性陣は、エリスちゃんたちの身内かい?」
そこで目配せをする5人。今後クレアが竜戦乙女となる可能性があることを考えると、アレスとイゼリナには事実を伝えておいた方がいい。問題はアルフォンス。
「アルフォンスさま、内緒の話をここで聞くのと、おとなしく外に出るの、どちらがよろしいですか?」
エリスの問いに、当然興味を持つアルフォンス。
「それなら、口外無用に願いますね」
そしてエリスたちはアレスとイゼリナに向かい合い、自分たちの秘密を披露した。チャンジヒューマンを解かれ、竜の姿に戻った3匹は、それぞれエリスの膝上、レーヴェの胸、キャティの首といういつものポジションに張り付く。
当然にわかには信じられないアレスたち3人も、エリスの説明を聞いて納得するしかなかった。まさかここで竜を巨大化させるわけにも行かない。続けてエリスは、魔王がこれ以上強大な力を持たないようにするため、できうるならば、竜を人間の味方につけておきたいこと、クレアにもその資質があることをアレスたちに説明した。
その上で、何か竜について情報を持っていないか尋ねる。するとアレスたちは落ち着きを取り戻し、神魔戦争の研究成果について進捗を説明し始めた。
まず、ワーランでの魔法だが、炎弾は多分ほぼ無限の精神力で打ち出されたもの。これの威力はクレアのホーミングミサイルと同様だろうということ。次にノーマルデーモンとハイデーモンを消滅させたのは、術法のひとつ。負傷箇所から浄化エネルギーを注入するもの。空からの光はコールコメットに間違いない。その後の次元固定魔法と召喚魔法は未だ不明。現在は、前者については対抗魔法の研究、後者については引き続き分析を続けているとのこと。
そして竜について。
神魔戦争では、勇者と魔王にそれぞれ1体ずつ竜が味方についたとの記録がある。また、勇者の説得により、勇者の味方はしないが敵対もしないと誓った竜の存在も記録されていた。
「勇者の味方はあーにゃん、魔王の味方はらーちんね。勇者に説得されたのはすーちゃん?」
このエリスの問いに、すーちゃんはひょっこりと顔を出す。
「違うよエリス。ぼくは勇者とも魔王とも出会っていないよ」
ということは、フェル爺さまの話に出てきた東の竜もしくは恐怖の竜かどちらかということか。
「ありがとうございます。アレスさま」
「ああ、ワーランの守護竜についての噂はウィズダムにも届いていたが、まさか本当だとは思っていなかった」
アレス、イゼリナ、アルフォンスが互いに顔を見合わせ、再びエリスたちに目線を送る。
「今日は宿に一泊し、明日早朝に陶芸都市に出発します。よろしかったら、そこで守護竜さまたちの本当の姿をお見せしますよ」
「それなら大学校に泊まっていけ。早朝ならば人気のないところはいくらでもあるからな」
「お言葉に甘えます」
こうしてエリスたちは大学校で一泊し、翌朝を迎えた。
ここは大学校裏の空地。
「俺がエリスちんとの契約竜、大地竜のらーちんだ」
そこに現れたのは淡く黄金に輝く鱗に覆われた蜥蜴竜。
「ぼくがレーヴェちゃんとの契約竜、暴風竜のすーちゃんだ」
そこに現れたのは群青色の翼竜。
「わいがキャティにゃんとの契約竜、氷雪竜のあーにゃんじゃい」
そこに現れたのは、純白の毛に覆われた蛇竜。
ただただ驚くしかないアレス、イゼリナ、アルフォンスたちに、再度他言無用を確認した後、蜥蜴竜が丸まり、その中に絨毯を敷くように蛇竜が身体を横倒す。そこに乗り込むエリス、フラウ、クレア、キャティとぴーたん。レーヴェはすーちゃんの背にまたがる。
「それでは父さま、母さま、アルフォンスさん、行ってくるね!」
クレアの別れとともに、すーちゃんは蜥蜴竜を両足で掴み、高く舞い上がった。
アレスたちはそれ口を開けたまま見送るしかなかった。




