情報いただきます
フラウが交わる町を巡回していると、ちょうどライブハウスから這い出してくるらーちんを見つけた。フラウはらーちんに小走りに駆け寄る。
「どうなさいました、らーちんさま」
「らーちんでいいよフラウ。中でやってる演物がつまらんから、エリスちんたちを置いて出てきた。ちょうど良い。このままティールームに連れて行ってくれるか?」
「スチームキッチンまで巡回してからでもよろしいですか? らーちん」
「いいよ。抱っこを頼むよ」
こうしてフラウは守護竜さまを抱っこしながら、ブティックとスチームキッチンを巡回し、何のトラブルもないことを確認してから、宝石箱のティールームに戻る。
「あ、いらっしゃいませ、守護竜さま、フラウさま」
今日お店で出迎えてくれたのはクレディア。
「クレディア、らーちんにはいつもの。私にはセットを下さるかしら」
「かしこまりました」
フラウはいつもの注文を済ませ、らーちんお気に入りの中庭奥の席に向かう。するとそこには、見知った顔の男が座っていた。
フラウは考える。この男とは絡みたくないと。なので、らーちんをいつもと違う席のテーブルに置く。
「フラウ、ここじゃないぞ」
「先約さまがいらっしゃいますよ」
「構わん、俺はあそこが良い」
「相席になりますよ」
「一向に構わん」
ため息をつくフラウ。彼女はもう一度らーちんを抱え、いつもの席に赴く。そして見知った男に挨拶を送る。
「ギースさまでいらっしゃいますよね? 私はフラウ。以前ワイトのダンジョンでお会いした者です」
これにはギースが驚いた。アイフルが外出中だと知り、彼女が戻ってくるまでここで粘ってやろうと思っていたら、まさかの宝石箱メンバーが自分に話しかけてきた。どういうことかとギースは訝る。
その表情に構わず、フラウは続けた。
「突然申し訳ございません。実はこのテーブル、守護竜さまのお気に入りなんです。申し訳ございませんが、相席よろしいでしょうか?」
更に大混乱のギース。守護竜? お気に入り? 相席? 何が何だか分からない。
何とかギースは声を絞り出す。
「あ、ああ、構いませんが、守護竜さまとは?」
「俺だ、矮小なる人間よ」
フラウにそっとテーブルの上に置かれたらーちんが答える。ちなみに意識に直接話しかけられるとびっくりするというアイフル&クレディアの申し入れから、らーちんは声を出すようにしていた。目の前のトカゲをまじまじと見つめるギース。そんな彼に一切構わず、テーブルの上で木漏れ日が通る場所に移動し、南向きのポジションで陣取るらーちん。
「お待たせいたしました」
クレディアがらーちんのお茶と、フラウのセットを運んできた。今日のセットは蒸しケーキに木の実を練り込んだケンオリジナルのもの。
「それでは失礼致しますね」
微笑みながらフラウはらーちんの方にイスを向け、お茶を楽しみ始める。らーちんはいつものように湯気の中に鼻先を向け、そのまま動かなくなる。
ここでやっとギースは我に返る。
「守護竜さま、よろしければ守護竜さまについてお教え下さいませ」
ギースが頼むも、らーちんは無反応。ギースはイスから降り、床に跪く。
「何卒、何卒お教えくだされ!」
それでも無反応ならーちん。 ギースは焦った。そして疑った。目の前のトカゲは本当に守護竜なのかと。
「ギースさま、イスにお掛けください」
いつのまにかギースの後ろに立ったフラウが彼の肩に手をかけ、立ち上がるように促す。
「らーちんさまは、その状態になったらお茶が冷めるまでは誰にも耳を貸しませんわ」
フラウは、守護竜に関する最小限の情報をギースに与えることにより、勇者たちの竜に関する動向を探ることを選んだ。
「つまり、全ては竜の意思によるものということか」
「はい、ギースさま」
フラウはギースに、大地竜らーちんが守護竜になった、「嘘の方」の経緯を語った。全ては偶然だと。
「竜と契約する条件とは?」
「女性、名付け、くちづけだと思われます」
ここもフラウはあえて「乙女」と言わず、「女性」と言葉を変える。
ギースは考える。それならば、今のメンバーでも、竜を見つけ次第屈服させ、契約を結ぶことは可能だと。
「ところでギースさま、どこかでドラゴンが暴れているのですか?」
フラウのブラフに、つい油断してしまったギースが漏らしてしまう。
「ああ、東の陶芸都市に、そんな伝説があるらしくてね」
情報ゲット。
フラウは微笑みながらギースをねぎらう。
「世界を救うためとはいえ、あまりご無理はなさらないでくださいね」
その笑顔に少し赤面してしまったギース。
「あら、いらっしゃいませ、ギースさま、フラウさま、そして守護竜さま」
このタイミングでアイフルが帰ってきた。フラウに赤面してしまった自分を責めるギース。
「俺は何なんだ?」
そんなギースに気づかず、アイフルはらーちんを優しく撫でる。
「今日もありがとうございます、守護竜さま」
それはちょうどお茶が冷めたタイミング。
らーちんは目を開けた。そして伸びをしながら続ける。
「うむ、今日も堪能した。それではクレディア、今日も俺とお茶を届けてくれるか?」
これがギースには、アイフルが守護竜を起こしたように見えてしまった。そして誤解する。ドラゴンは熟女もばっちこいだと。
「らーちん、今日は私と一緒に帰りましょう」
お茶とお菓子を楽しんだフラウがらーちんに話しかける。
「お、まだいたのかフラウ。では頼む。クレアが俺専用のお茶のお持ち帰り容器を作ってくれるそうだから、それができたら一人で帰るようにする」
そうしてフラウは、らーちんを右手に、お茶を左手に立ち上がり、ギースにおいとまの挨拶をする。
「それではお先に失礼しますね」
「ああ、ありがとう」
すでにギースの視線はアイフルに捉えられており、その挨拶は上の空であった。
さて、一方こちらはウィートグレイス。
レーヴェはすーちゃんの高速飛翔で実家に帰宅した。目的はフェルディナンド爺さんからの情報。
「あら、レーヴェおかえりなさい、今日は他の皆様は?」
いつものようにお花畑なルクス母さま。
「あ、レーヴェ姉! お帰り!」
いつの間にか生意気な口を利くようになったヒュンメル。
「ああ、ただいま。ところで早速だが、フェル爺さまはいるかい?」
「爺さまはお茶の工場に行ってるよ。もうすぐ帰ってくるんじゃないかな」
しばらくするとフェルディナンドが帰宅した。
「ようレー坊。今日は一人か?」
「ああ、爺さまに尋ねたいことがあってな」
レーヴェの目的は、フェル爺さまから、各地に伝わる竜の伝説を教えてもらうこと。
「そうじゃな、わしが聞いたことがあるのは……」
フェル爺さまが、いくつかの情報をレーヴェに話始める。
一つめ。ワーラン西で旅人を襲う竜について。これは多分らーちんのこと。
二つめ。南端に潜むといわれる竜について。これはすーちゃん。
三つめ。勇者の守護者として戦い、消えていった竜について。これはあーにゃん。
四つめ。東の街に時折姿を現しては、何もせずに消えていく竜について。
五つめ。世の混沌をつかさどる恐怖の竜について。
四つめと五つめが、レーヴェ達にとっては新たな情報であった。
「フェル爺さま、ありがとう。参考になった」
「今日は泊っていくじゃろ?」
「いや、急いでいるのでこのまま帰る」
「そんなに急いでも2日はかかるじゃろ?」
「実はな、爺さま」
レーヴェが自分の胸元を指さした。そこにあるのは群青色の変わった形をしたブレストアーマー。
「すーちゃん、そろそろ帰るぞ」
するとブレストアーマーが動き出し、翼の下からひょっこりと頭を出した。
「うお!」
「ええ?」
これには腰を抜かさんばかりに驚いたフェルディナンドとヒュンメル。すると頭がフェル爺たちの方を向き直り、いきなり喋り始める。
「やあ、ぼくはレーヴェちゃんの契約竜すーちゃんだ。レーヴェちゃんの祖父殿、弟殿、これからもよろしくな!」
口をパクパクさせる2人。
「この竜は暴風竜のすーちゃん。先ほどフェル爺さまの話に出てきた、南端に潜んでいた竜だ。今日はすーちゃんに乗って空を飛んできたのだ」
今度は空いた口がふさがらなくなる2人。
「あらあらどうしました皆さま」
ルクス母さまがキッチンからひょこっと顔を出すと、フェル爺さまとヒュンメルが真っ青な顔でレーヴェを指差す。不思議そうな顔をして、レーヴェに歩み寄り、2人が指差す方向に目を向けるルクス。
「やあ、レーヴェちゃんの母さま。ぼくはすーちゃん。レーヴェちゃんの契約竜だ、よろしくな」
「あらあら、こちらこそよろしくお願いしますね」
ニコニコしながら挨拶を返すルクス母さま。こういう場合、女性の方が圧倒的に順応性が高いことを彼女は示した。
「それじゃ、今日は失礼する。またいつでもワーランに遊びに来てくれ」
そうして帰ろうとするレーヴェの後をフェル爺さまとヒュンメルが追う。レーヴェは屋外に出て、人目の付かない裏庭に回る。そして元の大きさに戻るすーちゃん。
「うお!」
「ひゃあ!」
その姿に驚く2人。そしてその姿にちょっとだけ気を良くしたすーちゃん。
「なあレーヴェちゃん、よかったら祖父殿と弟殿、乗っけてやろうか? 高速飛翔は無理だけど、館の上空を回るくらいなら大丈夫だろ」
これは嬉しい申し出だった。
「わかった、頼む」
そしてレーヴェは2人を手招きし、前にヒュンメルを抱き、後ろにフェルディナンドを掴まらせた。
「じゃあいくよ」
ゆっくりと上昇するすーちゃん。そして3人はしばしの空中散歩を楽しんだ。
2人を降ろした後、高速飛翔でワーランへと飛ぶ暴風竜すーちゃん。レーヴェが帰宅したのは、まだ日が落ちる前であった。




